ジョブ理論を実際に活用する際のステップを紹介します。
ジョブ理論とは、市場ニーズを適切に満たす製品/サービスを提供するために、ニーズを正しく把握する方法を説いた理論です。
ジョブ理論について基本的な理解がないと難しい内容となっているため、”ジョブ理論とは何か”を知りたい方は、以下リンクをご参照ください。
今回は、そんなジョブ理論を実際に利用して、ヒットする製品/サービスを提供するプロセスを詳しく解説していきます。
ジョブ理論の活用10ステップ
ジョブ理論を実践する8つのステップがを紹介。
この10ステップを通じて、潜在顧客やニーズの特定から製品戦略の立案までを実現します。
実は、この10ステップはジョブ理論そのものではなく、実践の部分は Outcome Driven Innovation (ODI)と呼ばれる手法です。ジョブ理論はあくまでも理論であり、ODIは実際のプロセスということですね。
ODIは、企業が新しいソリューションを開発し、顧客のジョブをより早く・効率的に完了させるためのイノベーション戦略とプロセスです。
Anthony W. Ulwick著の「JOBS TO BE DONE: Theory to Practice」にて詳しく書かれており、本記事もこちらの本の内容を基にしております。(※英語版のみ)
では、次から具体的なステップの解説です。
ステップ1:顧客を特定する
顧客ニーズを特定するには、どの顧客にアプローチすべきかを見定める必要があります。
顧客とは、ジョブをより早く・効率的に完了させるために、どんなプロダクトやサービスが必要になるのか、インサイトを与えてくれる存在です。
そのため、「顧客が誰か」=「これらのインサイトを持つのは誰か」と考える方がわかりやすいでしょう」。
通常、顧客には3つの重要なタイプがあります。
- エンドユーザー:
コア機能的ジョブ*を実行する人 - プロダクトライフサイクルのサポートチーム:
保守運用者。インストール・設定・メンテナンス・修理・破棄などを行う人。 - 購入意思決定者:
製品を探し、比較し、購入するかどうかの決定権のある人。
※コア機能的ジョブについてはこちらをご覧ください。
ステップ2:ジョブを特定する
ここでは、顧客のコア機能的なジョブを正しく特定します。
この時、ジョブの範囲を狭すぎると限定的な解決策しか生み出せず、逆に広すぎると顧客にとって使い方が難しくなるため、適切な範囲で定義することが重要です。
ジョブを定義するときにいくつか重要なポイントがあります。
- 顧客視点で考える
- 複雑にしすぎない:
ジョブ理論のフレームワークを利用しましょう。この時、複雑なジョブを一つの文章にまとめるのではなく、複数の文章に分けて整理することが重要です。 - 感情ジョブや他のニーズは一旦除外する
- 状況ではなく、ジョブ自体を定義する
- ジョブは正しいフォーマットで記載する:
動詞+目的語+文脈 Ex. 「通勤中に朝食を食べる」
ここで特定されたジョブこそが、企業が取り組むべきマーケットとなります。
ステップ3:ジョブ完了後の理想的な結果を明らかにする
ジョブ理論のフレームワークの記事でも解説した通り、顧客はジョブ完了でもたらされる理想の結果を期待します。この結果は一つではなく、50〜150の結果が一般的です。
ステップ3では、2で特定したコア機能的ジョブの達成によって求められる結果を定義します。
このプロセスでは、量ではなく質的/定性的調査を使ったジョブマップの作成が有効な手段です。
ジョブマップとは、コア機能的ジョブを完了するプロセスを視覚的に表したマップです。
これは、ソリューション視点から顧客が何をしているのかを表すのではなく(カスタマージャーニーなど)、顧客視点から、何をしようとしているのかを表すマップです。
例えば、ソリューション視点では「麻酔医がディスプレイを見ている」と表しますが、顧客視点からは「麻酔医が患者のバイタルサインを見ようとしている」と表現します。
ここで特定された結果は、顧客のニーズそのものと言っても良いでしょう。
ステップ4:アウトカムベースセグメントの発見
マーケットセグメンテーションは企業が製品/サービスに価値を見出す顧客グループを特定するのに使われています。
ペルソナの作成などが代表的なセグメンテーション手法ですが、ジョブ理論において活用するメソッドは、”満たされていないニーズ”によるセグメンテーションです。
このメソッドは下記4ステップで完了します。
- ステップ3で特定した理想の結果からニーズを洗い出す
- 顧客に対して量的/定量的調査を行い、どのニーズが満たされていないのかを特定
- 特定のニーズが満たされていないと回答した顧客の共通点などを調査し、顧客をグループ化する
- 顧客のプロフィールから、ニーズが満たされていない原因を調査する
この過程によって、特定した顧客ニーズの中から満たされているニーズと満たされていないニーズを分け、それぞれの顧客グループ(セグメント)を絞ることができます。
ここで特定されたセグメントを、アウトカムベースセグメントと呼びます。
ステップ5:バリュープロポジションを定める
アウトカムベースセグメントによって、満たされていない顧客ニーズとその顧客グループ、そして満たされていない原因を明らかにしました。
実は、この結果自体が将来のバリュープロポジション(顧客に提供する価値)となります。
企業は、この結果に従って製品の開発や改良を行い、また顧客に対して積極的にアピールをすると効果的です。
例えば、既存プロダクトを持つ企業は、ジョブ理論を適応し、満たされていないニーズと顧客グループに対して既存プロダクトのマーケティングを注力するだけで結果はかわるでしょう。もちろん、製品/サービスがすでにニーズを満たせる価値を持つ場合に限りますが。
ステップ6:競合分析を行う
ジョブ理論においての競合分析の目的は、競合製品の機能を比較して、より良いものを作ることではなく、競合製品から顧客のジョブをより早く・効率的に完了させるためのインサイトを得て、自社製品に活かすためです。
そのため、競合分析においては顧客に対して調査を行い、彼らのジョブを達成するために競合製品のどこに価値を見出し、どこに不満を持っているのかを洗い出します。
これにより、企業は自社製品を、顧客がジョブをよりうまく達成できるよう改良することに繋げられます。
ステップ7:イノベーション戦略を立てる
イノベーション戦略とは、企業がターゲットとしているアウトカムベースセグメントと、セグメントの中にある満たされていないニーズを、企業がどのように特定し、それに対してどのようなアクションを取るのかを具体化した計画のことです。
ジョブ理論においては、量的調査や質的調査や多様な分析手法を用いて、セグメントを調査し、狙うべきニーズとそれに対するソリューション開発を行います。
イノベーション戦略では、これらをまとめて、一貫性のある計画を作ります。
ステップ8:隠れた成長機会を見つける
ステップ2で調査した、理想の結果リストの中で満たされていない結果(ニーズ)は複数存在し、どのニーズにターゲットを定めるかは非常に重要な決断です。
この意思決定をするために、ステップ4のセグメンテーションで利用した顧客への量的調査を再び活用します。
一度アウトカムベースセグメントが洗い出され、どのセグメントに狙いを定めるか決めたら、次は「JOBS TO BE DONE: Theory to Practice」にて定義されている以下のアルゴリズムを使い、セグメントの中のどのニーズに絞るかを決めます。
例えば、270人調査対象者のうち200人(74%=7.4)が「操作エラーが出る可能性を最小化する」というジョブ完了結果についての満足度を1〜5(1<5)で評価し、たった75人(28%=2.8)が4or5の回答をしたとします。
この場合、Opportunityスコアは上記のアルゴリズムを使って(7.4) + (7.4 – 2.8) = 12.0となります。
このスコアが10以上の場合は、結果に対する満足度が低い、つまり見たさていないニーズという判断になります。
また、Opportunityランドスケープを使うと、視覚的にどのニーズが満たされていないか見ることができます。
Opportunityランドスケープでは全ニーズを3つにカテゴライズします。
- 満たされていないニーズ
- 適切に満たされているニーズ
- 過剰に満たされているニーズ
満たされていないニーズに対しては、ジョブをよりうまく・早く完了するソリューションの提供が必要です。
逆に、過剰に満たされているニーズは既存プロダクトで満たされており、類似のプロダクトでも確実にニーズを満たすことが可能となるため、ここは低価格なプロダクトへのニーズがあるエリアとなります。
ステップ9:マーケット戦略を立てる
ジョブ理論において、マーケット戦略を立てる際に重要なのは、ここまでのステップで集めた顧客ニーズに関するデータをマーケティング戦略にしっかりと落とし込むことです。
ステップ8で明らかになった「満たされていないニーズ」に対して、プロダクトのどの強みがいかにそのニーズを満たすのかを明示することで、マーケティングコミュ人ケーションは非常に効果的になります。
一方、「過剰に満たされているニーズ」に対しては類似他社プロダクトよりコストメリットが高いことを戦略の主軸に持ってくるとうまくいく可能性が高いです。
具体的には、次の6つのステップでマーケティングアクティビティを進めるのがオススメです。
- どのプロダクトを各アウトカムベースセグメントに当てはめるか決める
- プロダクト/サービスの強みを目標のセグメントの顧客に伝える
- 2を行う際にステップ5で明らかにしたバリュープロポジションを含める
- 満たされていないニーズに対してデジタルマーケティング戦略を立てる
- マーケティングから生まれた新規リードを、ニーズの種類ごとに適切な担当者に割り当てる
- セールスチームを効果的なセールスツールで武装する
ステップ10:プロダクト戦略を立てる
最後のステップをジョブ理論を活用したプロダクト戦略です。
効果的なプロダクト戦略があると、企業は次の2点を実現することが可能です。
- プロダクトの向上・改善
- 1つのプラットフォームでジョブ全体を完了できるソリューションの提供
一度、満たされていないアウトカムベースセグメントとその中で優先すべきものが明らかになると、企業は次の7つのアクションを取ることで上記2点を実現できます。
- 他社プロダクトの特徴を取り込む
- R&D・サプライチェーンの見直し
- 他社とパートナーシップを組む/製品販売ライセンスを取得する
- 企業を買収してギャップを埋める
- 新たな機能を開発する
- サブシステムや補助システムを開発する
- 最終的なソリューションのコンセプトを考える(1つのプラットフォームなど)
ジョブ理論の活用事例
上記のジョブ理論の実践ステップの実際の事例を下記記事に2つ掲載しています。
ジョブ理論実践ステップまとめ
いかがだったでしょうか。
ジョブ理論というコンセプトを実際のマーケティングやプロダクト開発に繋げる為のステップを紹介してきました。
最も重要なのは、適切な調査を適切なステップで行い、正しいデータを洗い出すことです。
コア機能的ジョブの特定や期待される理想の結果は、定性的な調査が有効で、アウトカムベースセグメンテーションやセグメント内のニーズの仕分けに関しては定量的な調査が適切です。
それぞれのデータを使って、どの顧客セグメントで満たされていないニーズを洗い出し、優先順位をつけ、それに合わせて既存プロダクトの改善/新規プロダクトの開発を行いましょう。
では、今回は以上になります。