人依存の7つのパターン

人依存で会社が停滞する?7つのパターンを解説。


清水直樹

会社が成長するにつれ、仕事が社長自身や特定の社員に集中してしまう傾向があります。そうなると、その人がいなくなったらビジネスが回らなくなってしまう危険性があります。

このような状態を「人依存」の経営と呼んでいます。人依存の経営では、その人がいないと業務が回らないというリスクがあるだけではなく、その人がボトルネックとなり業務が滞ったり、技術やノウハウの伝承が行われなかったりします。そうなると結果的に会社の成長を止めてしまいます。

本記事では、人材依存によってよく見られる7つの典型的な経営パターンをご紹介します。自社がどれかに当てはまっていないかどうかをチェックしてみてくださいね。

成長に連れて発生する人依存の壁

会社は最初は創業メンバーの職人技によって成長します。例えば、営業系の社長であれば自ら営業力や人脈を活かして独立し、商品やサービスを売り出すことになります。技術系の場合は、自らの専門的な能力や開発力を活かして案件を獲得し、売り上げを伸ばしていくのです。これは会社の幼少期であり、創業メンバーの職人技による成長の段階です。

次に、売り上げが上がってくると、職人技が逆に仇となり、成長が停滞することがあります。これが社長依存の壁と呼ばれるものです。他の社員が同じように仕事をこなせないと、会社の成長に限界が生じてしまうのです。社長以外にそのサービスを提供できる人材が不足している状況がこの壁の特徴です。これが会社が停滞する一つのパターンです。

この壁を乗り越えれば、青年期へと進むことができますが、次に社員依存の壁というものが現れます。これは、社長が仕事を社員に任せるものの、社員の力量にバラつきがあり、特定の社員に依存している状況が生じることです。これもまた、人の依存によって起こる壁です。この二つの壁を突破しない限り、成熟期に到達することはできません。

「人依存」経営の7つのパターン

さらに細かく分類すると、以下の七つのパターンに分けることができます。それについて見ていきましょう。

1.職人型経営

職人型経営

社長の個人的な職人技に依存しているビジネスを指しています。特に、手に職をつけて起業した社長の場合には、このスタイルに当てはまりやすいですね。他の誰も自分の代わりをすることができず、多忙極まると、そして自分の体力と時間の限界が事業の限界になります。

まさに私が最初に起業したときに、当てはまったパターンですね。この「職人型経営」に当てはまっていると、起こる現象としては、社長は超多忙であったり、社長は別にしかできない仕事が多かったり、そして時間の限界が売上限界、あと経営の仕事をしていないということが起こり得ます。

これによって見逃している利益やコストがあります。例えば、社長が超多忙であることによって新しいアイディアを考えたり、会社の戦略が検討できないと、それによって成長機会ロスが起こっていたり、あと場合によっては社長が過労やストレスによって健康被害が起こることもあるわけですね。これによって直接的な金銭的なコストが発生することもあるでしょう。そして、社長はベテランしかできない仕事が多数あると、その人は欠席したり、場合によって高齢化して離脱してしまったときに、その案件を受けることができなかったり、業務が停滞するわけです。これも直接的なコストになってくるということです。

また、売上の限界が時間の限界ということで顧客を待たせることになってしまって、他社に流出してしまえば、これも直接的なコストになりますね。

最近では、インターネット上で口コミなどが広がる時代となり、顧客を待たせることで顧客の不満が溜まり、それが口コミとなって新規顧客を獲得できなくなったり、リピート率が低下し業績が低下することもあります。また、職人型の社長にありがちなパターンとして、経営にかかる時間が不足していることが挙げられます。これにより、社員とのコミュニケーション不足から生産性が低下し、離職率が上昇することもあります。さらに、計画作りに時間を割けないため、投資家や銀行からの資金調達が難しくなります。他社への対応が遅れることで市場シェアを失う可能性もあります。そして、会社のビジョンや計画がない状態では、時代の変化に対応できず、方向性を見失うことで業績が低下する可能性もあります。こういった状況に陥っている会社は、日本全国に多く存在するでしょう。

 

2.ハブ型経営

ハブ型経営

社長が中心にいて全ての意思決定が社長を経由しないと決まらない状態です。組織図上では管理職が存在しているものの、実際のオペレーションでは全ての決定が社長の権限下で行われることになります。この状態では社長がボトルネックとなり、管理職はプレイヤーとして働くことがほとんどです。その結果、将来のリーダー候補の育成が滞り、後継者不在という状態に陥る可能性があります。さらに、管理職が社長の方針に基づいた仕組み作りを行えない場合、会社の方針や理念、価値観の徹底が難しくなります。これにより、社長の時間と労力が取られ、指示待ち社員が増えることで意思決定に時間がかかり、業務スピードが低下します。社長が雑多な判断に追われることで本来重要な決断を行えない状態となり、社長の時給も低下していくことになります。このような状況は非常に深刻な問題であり、会社全体の生産性や業績に影響を及ぼす可能性があります。

3.他責型経営

他責型経営

社員の悪口を言う社長は、大抵他責型経営になっています。仕事の結果やミスがその個人に起因すると考えられ、人を責める文化が生まれて生産性が低下することが特徴です。

他責型経営の特徴として、以下の点が挙げられます。まず、悪口が多く、離職率が高いです。会社の文化や雰囲気が悪化し、離職が増えることで利益やコストが見逃される可能性があります。また、派閥が形成されたり共有が妨げられたりし、顧客からのクレームや不満が増加することもあります。派閥ができるのは自然なことですが、その派閥同士が協力できなくなると問題が生じます。派閥同士の不和があるとコミュニケーションがうまくいかず、業務が滞ることがあります。これは大きなコストとなります。

さらに、離職が多いと直接的なコストが生じます。採用費用や教育費用が増加し、1人が離職することによって発生するコストは年収以上になることがあります。例えば、1人年収が400万円の人が辞めれば、採用費用や教育のコストを含めると2億万円以上かかることになります。さらに、離職が多いとその影響で残留する社員のモラルが低下し、生産性が低下します。また、担当者が頻繁に辞める会社は信頼性が損なわれ、顧客からの信頼も失われる可能性があります。これらは見逃しがちなコストであり、会社全体の業績に影響を及ぼします。

4.三者三様型経営

三者三様型経営

顧客対応がその日の社員個人個人に依存しており、結果としてバラバラな対応となることを指します。この状態では、顧客への提供価値が一定でないため、リピート率が低下しやすくなります。顧客が一度良い対応を受けたとしても、次回には違う人や対応が悪かった場合、リピートは期待できません。そのため、リピート率が減少し、常に新規顧客を獲得しなければならないという状況に陥ります。新規顧客を獲得する際のコストは、既存顧客に販売する際の約7倍とも言われています。例えば、既存顧客に対しての費用が100円なら、新規顧客を獲得する際には約700円かかるということです。このような状況では、生産性が低下し、会社全体の業績に悪影響を与える可能性があります。

また、サービス業で特に見られるのが、社員が顧客と共に離脱するという状況です。三者三様型の場合、社員は個性やスキルが異なるため、自分で独立した方が良いと感じることがあります。その結果、元の会社から離れて自身の店を開いたり、競合する場合もあります。これは離職によるコストだけでなく、組織内でのノウハウや情報の喪失といった影響も考えられます。口コミの影響も大きく、ネット上での口コミは非常に広がりやすいため、悪評が広まりやすいです。例えば、近くのコンビニで「昼間の女性の対応は良いけれど、夕方のおじさんの対応が悪い」といった口コミが広まると、その店舗の評判は急速に下がります。

5.偽委譲型経営

偽移譲型経営

社内に社長の意向に合う優秀な人材がいる場合に起きやすいパターンです。「No.2」と呼ばれる社長の右腕とも言える人物に、会社の運営を任せているつもりでも、実際には放任状態になっているということです。つまり、委任しているように見えますが、実際には放任されています。そのため、最も大きなトラブルに発展しやすい状態と言えます。



社長が現場から離れてNo.2に任せる状態になると、社長の思惑とは異なる顧客対応やサービス提供が行われる可能性があります。当然のことながら、No.2に業務を任せる場合でも、十分な仕組みや体制が整っていないと、品質が維持されないことが起こり得ます。No.2に依存しているように見えて実際は人依存状態である場合、No.2が離脱してしまうと組織は混乱し、社長は再び職人的な仕事に戻る可能性が高くなります。

偽・委譲状態を放置していくと、最終的には社員の離職や組織の混乱、会社の文化の崩壊といった事態につながる可能性があります。このような状況を回避するためには、No.2との関係を見直したり、場合によってはNo.2に対する措置を検討する必要がありますが、それらは非常に難しい決断や交渉が必要となります。したがって、偽委譲状態を放置することは非常に危険であり、早急に対処する必要があります。

例:ナンバー2にかき乱された会社

事例として、ある研修会社の場合を挙げてみます。この会社は創業メンバーの中に、非常に優れた人材がいたため、社長は社外活動や他社との交流に時間を割き、経営の一部をNo.2に任せていたと思われます。しかし、徐々に離職や顧客のリピート率が減少していることに気づき始めたとき、社長は問題意識を持ちました。ある時、辞めたいと言ってきた社員からの話を詳しく聞いたところ、実はNo.2のマネジメントスタイルが社員に受け入れられず、不満が募っていたことが判明しました。

このような状況に直面した会社は、組織戦略の見直しが求められます。具体的には、No.2の立場をどう処理するかが重要です。この事例では、No.2を完全にやめさせるのではなく、別のポジションに移動させることになりました。ただし、これは非常に難しい決断であり、交渉も困難を極めました。No.2が今まで仕切ってきた部分を突然別のポジションに移動させることは、いわば「左遷」とも言える行為です。

結果として、この会社ではNo.2の人材を別のポジションに移動させることで問題を解決しました。No.2が会社を離れることになったため、今は経営が順調に進んでいるとのことです。このような状況では、早期の対応と組織戦略の見直しが重要であり、難しい決断を下すことが必要となります。

6.ハローグッバイ型経営

ハローグッバイ型経営

新入社員が「ハロー」と言って入社し、間もなくして「グッバイ」となってしまうというパターンを指します。これは、会社が「いい人さえいればうちの会社は良くなる」と考えている場合に起こりやすい傾向です。新入社員が早期離職したとき「あいつは根性がなかったな」といった考え方が生まれる場合、このタイプの経営になっています。

本来、その人が活躍できるかどうかを、その人次第にするべきではありません。会社としては、彼らが十分に活躍できるような環境や仕組みを整えておく必要があります。もちろん、人それぞれのタイプや価値観が異なるため、辞めていく社員もいます。しかし、会社としてはできる限りの対策を講じる必要があります。しかし、実際にはこのような対策が怠られている会社が多く、結果としてハローグッバイ型経営に陥るケースが多いです。

このパターンはコストがかかる面も大きいです。早期離職が多いため、採用コストや研修費などの無駄な出費が発生します。また、人材の入れ替わりが激しくなり、業務の効率化も困難になります。さらに、道連れ離職も発生しやすく、これは大きなコストとなります。さらに、社長や管理職が業務に後ろ向きになることもあります。辞める社員との相談に時間を割く必要が生じるため、これも大きなコストとなります。一人が辞めるだけでも、年収以上のコストがかかると言われる中で、これらのコストが見えにくいケースが多いのが実情です。

7.烏合の衆型経営

烏合の衆型経営

最近では、自主性を引き出させ、自発的な働き方を促したいと考える社長が増えていますが、会社の仕組みが整っていないまま、社員にやりたいようにさせるとこのような状態になります。外部から見れば、社員が活気づいているように見えるかもしれませんが、会社全体としての一貫性や方向性が定まっていないため、結局は成果を挙げることが難しいケースが多く見られます。

また、「会社の目標は常に未達」になりがちです。社員が自分のやりたいことをやっている一方で、会社全体の目標が達成されない状態が続くと、負けぐせがついてしまいます。これは、まず直接的な利益を見逃すだけでなく、社長にとってもストレスの原因となります。社員に自由にやってもらうことはいいことですが、会社の目標が未達のままだと、社長としては非常にストレスが溜まることでしょう。この問題も大きな課題です。

ミスやルール違反が多発したり、前向きに辞めていく社員が増えるというケースも多く見られます。 なぜこうなるかというと、社員を引き留めるための大きな目標や方向性が欠如しているためです。人は自分の存在よりも大きな目標や意義がある場所に集まりたいという傾向があります。しかし、烏合の衆型経営では、こうした方向性が欠如していることが多いのです。その結果、社員が自分のやりたいことを見つけたら、前向きに会社を去っていくケースが多いです。これも当然、非常に大きなコストにつながります。

例:一見良い会社が崩壊寸前

実際の事例として、ある不動産会社のケースを挙げてみます。この会社は社員約100人ほどで、社長は非常にやり手で業界でも有名でした。特徴としては、社員を育てるために積極的に社長を作っていきたいという思いがありました。そのため、新規事業を社員に立ち上げさせ、それを子会社化してグループ会社化するという展開を行っていました。初めて訪れた時には、社内が明るく、皆が活気づいて働いているように見えました。

しかし、この会社は烏合の衆型経営に陥っていました。会社全体としての本筋の方向性が欠如しており、単に社長を作りたいという思いだけで、本業の不動産業の方向性が見えていませんでした。社員は自分のやりたいことに没頭し、結果として本業の不動産業は不調に陥っていきました。社長も次第に社員に当たり散らすようになり、多くの社員が辞めていきました。

この会社は、私の知り合いが紹介してくれた不動産会社でした。何度か見学に行った際は、良い会社だと感じていたのですが、実際にはこんな状況だったということで驚きました。その後、私に相談があり、この会社の理念とビジョンを見直し、本業に原点回帰することを提案しました。社員の一部は辞めてしまいましたが、不動産業に特化し、会社の方向性を明確にした結果、業績は回復しました。

人依存から仕組み依存へ

人依存から仕組み依存へ

人依存の経営から仕組み依存への転換は、考え方の出発点が全く異なるものです。人依存の経営をしている社長は、まず人を変えようと考えます。つまり、社員を変えれば会社が良くなるという発想です。そのために研修やトレーニング、コンサルティングなどを導入することがあります。しかし、皆さんもご自身の経験からわかるように、人を変えることは非常に難しいです。その人に対して何を言っても、簡単には変わらないものです。

ここで私たちが提唱しているのは、仕組み依存の視点に変えることです。これは出発点が異なります。まず、仕組みを変えることで自動的に人が変わることを目指すのです。その結果、会社全体が良くなるという考え方です。人を変えようとするのと、人が変わることは全く異なるのです。先ほど私がご紹介した営業の仕組みを変えることで、自動的に私自身も変わり、会社全体が良くなった例があります。このようなアプローチが仕組み依存の経営スタイルです。

仕組みを作るだけではなく、視点を変え、文化を変える

ですので、仕組み化は単に業務マニュアルを作ったり、ルールを作ったりするだけではありません。それよりも、社長の経営に対する視点を変えることが大切です。この視点を変えずに、仕組み化に取り組んでも、形骸化した仕組みができるだけで、社員の反発が起こる可能性が高くなります。

結論として、人依存の経営から仕組み依存への転換は、単に仕組みを作るだけではなく、経営の視点を変えることが必要です。これによって、自動的に社員も変化し、会社全体が良くなる方向に進むことができるのです。

仕組み依存へ変えるなら仕組み化ガイドブック

以上、本記事では人依存のパターンとその危険性をご紹介しました。これらの解決策は、会社を仕組み依存に変えていくことです。より詳しいことは以下の仕組み化ガイドブックにて解説しております。ぜひダウンロードされてください。

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