オーナーズトラップと対処法

オーナーズトラップにはまった社長へ。抜け出し方はコレ。



清水直樹
オーナーズトラップは多くの中小企業経営者が陥りやすい状況です。この概念を正しく理解することで、自社の現状を客観的に評価し、必要な対策を講じることができます。ここでは、オーナーズトラップの定義と、それに陥りやすい企業の特徴について詳しく説明します。

オーナーズトラップとは?

オーナーズトラップ(Owner’s Trap)とは、事業の成功が事業主(オーナー)自身に過度に依存する状況を指します。このトラップに陥ると、事業の成長やスケールアップが難しくなり、オーナーが常に事業運営に深く関与しなければならないため、事業の継続性やオーナー自身の生活の質に悪影響を及ぼす可能性があります。

オーナーズトラップの第一段階

オーナーズトラップの第一段階

 

上の画像は、オーナーズトラップの典型的な特徴を示しています。それぞれの要素を解説します。

0.  職人技で起業

会社のオーナーは自分の会社員時代に培った職人技(技術力や営業力、サービス力)を武器に起業します。大半の会社はこのようにして設立されますので、これ自体が悪いわけではありません。

1. 職人技を磨く

オーナーが特定の技術やスキルに精通し、その技術を磨くことに重点を置くことで、事業がその技術に依存する状態です。この場合、オーナー自身が業務の中心人物となり、その技術を持つ他の人を育成することが疎かになりがちです。

2. 高度で多様なサービスを提供

オーナーが多様なサービスを高いレベルで提供することに注力することで、事業が複雑化します。この複雑さが、他の従業員や外部の支援者にとって理解しにくくなり、オーナー自身が事業の中心人物であり続ける状況を生み出します。

3. 自分にしか出来ない業務が増加

オーナーが業務の多くを自分でこなさなければならない状況です。これは、特定の業務が他の従業員に任せられない、もしくは任せることができる体制が整っていないことを意味します。

4. 事業が自分に依存

結果として、事業の運営や成長がオーナー個人のスキルや知識に大きく依存している状態です。オーナーがいなければ事業が正常に機能しないため、オーナーは休暇を取ったり、病気になったりすることが難しくなります。

5.「1.職人技を磨く」に戻る

事業が自分に依存すると、自分の経験値が高まり、職人技を磨くことにつながります。そうなると、ますますお客さんは高度で多様なサービスを望むようになり、オーナーズトラップのサイクルが回ってしまうことになります。

オーナーズトラップの第二段階

さらに悪いことに、オーナーズトラップには第二段階があります。これは社員を雇うことから始まります。

オーナーズトラップの第二段階

 

1.人を雇う

業務が自分に依存し、忙しくなると、人を雇い入れるようになります。

2.育成の暇がない

しかし、自分は既に多忙状態です。そのため、入ってきた人を面倒見ている暇がありません。育成は放ったらかしになり、背中を見て育て、という状態になります。

3.人が辞める

その環境に耐えられず、新入社員が辞めていきます。この会社にいても自分は成長できない、居場所がない、と感じて辞めてしまうのです。

4.自分に依存

結果として、採用コストはかかったものの、すぐに人が辞めてしまい、また自分に依存する状態になってしまいます。

このようなツインサイクルのオーナーズトラップから抜け出せずに、多くの会社は小さいままで終わるか、社長が働けなくなると同時に、廃業の道を進んでしまいます。

オーナーズトラップにはまった社長の結末

オーナーズトラップにはまったままの社長は、いずれ次のような状態に陥ってしまいます。

1. 売上に限界が来る

オーナーが事業の中心となりすぎると、オーナーの時間やエネルギーが限界に達し、売上の成長が頭打ちになります。オーナーがすべての重要な業務を担当することで、事業の拡大が困難となり、結果として売上の限界が訪れます。

2. 超多忙で経営の仕事が出来ない

オーナーが日常業務に追われすぎると、経営に必要な戦略的な仕事に時間を割くことができなくなります。経営計画の策定、事業の方向性の決定、新規事業の開拓など、長期的な視点での経営活動が疎かになり、事業の持続可能性が危ぶまれます。

3. ストレスで健康被害

オーナーが多忙な業務をこなすことで、過度のストレスがかかり、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。長時間労働や精神的なプレッシャーは、肉体的・精神的な健康被害を引き起こし、最悪の場合、仕事を続けることができなくなるリスクがあります。

4. 社員の面倒を見れず、辞めていく

オーナーが業務に追われるあまり、従業員の教育やサポートに時間を割くことができなくなります。従業員が適切な指導を受けられず、成長の機会を失うことで、モチベーションが低下し、最終的には離職する可能性が高まります。これは事業の安定性に悪影響を及ぼします。

5. 体力の限界とともに会社が衰退

オーナーの体力が限界に達すると、会社の運営にも支障が生じます。オーナーが健康を害し、仕事を続けることが難しくなると、事業運営が滞り、会社全体のパフォーマンスが低下します。これにより、会社が衰退し、最終的には存続が危ぶまれる可能性があります。

6.後継者不在問題に直面

オーナーズトラップによって後継者が育たず、知識や権限がオーナーに集中することで、オーナーの退任や不在時に事業が不安定化し、事業の継続性や価値が損なわれる問題が生じます。

オーナーズトラップにはまる原因と対処策

次にオーナーズトラップにはまる原因とその対処法についてみていきましょう。

原因①3つの人格のアンバランス

社長は、3つの人格をコントロールすることが必要になります。
3つの人格とは、
  • 職人の人格・・・目の前の仕事に取り組む
  • マネージャーの人格・・・人と仕組みを使って仕事を進める
  • 起業家・・・会社の未来を創造し、導く
です。
オーナーズトラップにはまっている社長は、その多くの時間を職人の人格で過ごしています。
例えば、大工さんが独立して工務店を始め、ただひたすら仕事に追われることになったり、美容師さんが独立して美容院を開業し、同様に仕事に追われることになったり、弁護士さんが独立して法律事務所を立ち上げ、それもまた同じく仕事に追われることになります。
職人上がりの経営者の多くは、共通して致命的な思い込みに陥っています。それは、「自分の職人としてのスキルや技術があれば、その分野の事業を成功させることができる」というものです。
残念ながら、多くの経営者は、「事業を構築する方法」と「職人としての仕事をこなす方法」が同じだと信じ込んでいます。
こうした思い込みが原因で、大半の会社が5年以内に失敗してしまうのです。経営者が職人の人格で商品を作り、売り、届けることに徹するだけでは、いつか事業が衰退してしまう可能性が高いのです。
持続成長を遂げる会社の社長は、3つの人格のバランスがが取れています。したがって、まず自分が日々、どの人格で仕事をしているのかを意識しながら過ごすことが大切になります。
3つの人格の詳細

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原因②過度な自尊心で権限移譲の欠如

過度な自尊心とは、オーナーが自分の能力や判断力を過信し、他人に業務を任せることに抵抗を感じる状態です。この状態では、オーナーは自分が最も優れた判断を下せると信じ、自分以外の人間に重要な業務を任せたくないと考えます。

これによって、権限移譲の欠如が起こります。この状態から抜け出すためには、自分のリーダーシップスタイルを見直すことが必要です。また、自社の組織戦略を作り、経営が過度に自分に依存しないよう役割分担を明確にすることが大切です。



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原因③仕組み化思考の欠如

会社はどこかのタイミングで、人(社長)に依存する状態から仕組みに依存する状態へと変革しなければなりません。

会社がまだ小さいうちは創業メンバーの職人技で会社が成長していきます。創業メンバーの営業力、人脈、技術力など属人的な能力で成長していくことができるのです。

しかし、成長につれ組織人数が増えてくると、今度は属人的な能力がかえって仇となり、社員が育たなかったり、離反が生じたり、いつまでも創業メンバーに仕事が依存したり、などさまざまな問題が出来てます。

ここから抜け出すために、会社を仕組み化思考で経営していなかければ、社長はいつまでも忙しい状態になり、先述したオーナーズトラップによる結末を迎えることになります。

仕組み化思考については、以下のガイドブックに詳しく載せておりますので、ぜひダウンロードされてください。

▶仕組み化ガイドブック

原因④明確な顧客像の欠如

自社が対象としたい顧客像が明確でないと、オーナーズトラップに陥りやすくなります。なぜならば、あらゆるタイプの顧客に対処するために、どんどんサービスを拡張していかなければならないからです。すると、それらサービスを提供できるのが、社長だけ、という状態になり、業務が社長に集中してしまうわけです。

まずやらないといけないのは、顧客像の明確化、そして、その顧客のニーズにピンポイントで答えるサービスを明確にすることです。そして、そのサービスを仕組み化し、他の社員でも提供できるようにします。

 

事例:オーナーズトラップから抜け出す

では、実際にオーナーズトラップにはまり、そこから抜け出した事例をご紹介しましょう。

小濱さんは、美容師としてのキャリアを積み重ねる中で、独立を果たし、フリーランスからスタートしました。最初はメンバーがやりたいことを支援する形で進めていましたが、実際にお店を開くと、自分のビジョンが求められるようになりました。すべての仕事が自分に集中し、メンバーからの質問が絶えない状況が続きましたが、2店舗目を開店する戦略を進めました。

しかし、メンバーの退職や産休が重なり、スタッフが減少したことで、業務が過度に集中し、小濱さんはオーナーズトラップに陥りました。この状況を打破するため、仕組み経営の講座を受講し、理念とビジョンの文書化に取り組みました。

その後、経営者としての意識改革が進み、雑誌の歴史を調査するなど、美容業界の未来を見据える努力をしました。最終的に、理念とビジョンを共有し、組織図と職務契約書を作成、商品・集客・営業の基本に基づく体制を整えました。これにより、スタッフの自主性が高まり、組織全体が一丸となって目標に向かう姿勢が確立されました。

今後は、美容室業界の働き方改革やインバウンド事業の展開、他業種との提携を通じて「人生に特別をつくる会社」を目指しています。小濱さんの経営理念とビジョンは、顧客だけでなく、社員や自分自身にとっても特別な価値を提供することを目指しています。

インタビュー全文

今回のインタビューは、小濱格さんです。 小濱さんは3店舗を構える美容室「STORIA」のオーナーで、仕組み化に取り組み始めてからわずか1年で職人型ビジネスから抜けだすことに成功されました。 HP:http://www.hairb[…]

仕組み化事例③

 

まとめ

以上、今回はオーナーズトラップとは何か?はまる原因と抜け出し方などについてご紹介してきました。ご自身がオーナーズトラップにはまっており、抜け出したいという方は、以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードいただき、仕組み化思考を身に付けるところから始めてみてください。

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