古参社員の対策とは?クビや退職以外の選択肢。



清水直樹
よく経営者の方から、古参社員に関する悩みについてご質問をいただきます。これは創業社長だけではなく、事業を継いだ2代目、あるいは3代目の社長にとっても悩みの種となっているようです。今回は、古参社員のパターン別に、それぞれの対応策についてご説明していきます。
動画でも解説しています。

古参社員とは?

まず、「古参社員」というのは、どういう人かという定義をしておきます。これには大きく2つのパターンがあって、1つ目が創業メンバーです。そしてもう1つが、先代から働き続けている「番頭さん」や、勤続年数の長いベテラン社員です。

古参社員のパターン①創業メンバー

創業して10年くらい経てば、新しい人が入ってくる中で、創業メンバーは古参社員扱いされることになります。創業メンバーは会社の成長とともに昇進していき、幹部になるケースが多いです。しかし中には、会社の成長についていけず、後から入ってきた社員に追い越され、”社歴だけ長い古参社員”という扱いを受けることがあります。

古参社員のパターン②先代からの番頭さん、ベテラン社員

「番頭さん」というのは、要するに社長のサポート役を担っている人のことです。例えば皆さんが2代目社長だとして、創業者が頑張って会社を大きくしていった時代に貢献してくれていた人がいるわけです。その人が、社長の代が変わってもずっと居続けるというケースがあります。

日本の場合、なかなか解雇ということをやりにくい環境ですので、本人が先代社長と一緒に辞めない限り、先代から頑張ってきた社員が社内に残るということになります。番頭レベルまでいかなくても、先代から働き続けてきたベテラン社員もいて、そういう人たちも古参社員ということになります。

古参社員についてよくある悩みと根本原因

では古参社員について社長からよく相談を受ける悩みを挙げてみましょう。

①会社は成長したが、創業メンバーが成長しない

例えば、3人のメンバーで創業し、ご自身が社長という場合、創業メンバーとして他の2人がいます。だんだん会社が成長してきて、社員数が30人〜50人ぐらいの規模になってくると、創業メンバーの誰かが、会社の成長についていけなくなるということが起こります。

創業時には、営業ができて非常に活躍してきた人であっても、今度は自分自身が直接営業するという立場から離れて、他のメンバーをマネジメントし、リーダーシップを発揮して営業部隊を作っていくという立場に変わるわけです。ところが、こういったキャリアの変更についていけなくなるというケースがしばしばあるのです。

これは、創業時に必要とされる能力と、社員数が30人〜50人になった時に必要とされる能力が変化するために起こる問題です。

②創業メンバーの方向性の違いが明らかになる

創業メンバーである古参社員に関する悩みのもう1つが、方向性が合わなくなってきたというものです。これは正確に言うと、そもそも方向性が合っていなかったことが露見するということで、これもよくある悩みです。

創業時には少人数なので頻繁に顔を合わせて「将来こうしていこう」とコミュニケーションを密に取ることができます。さらに仕事自体も忙しいので、とにかく目の前のことを一生懸命こなすということになります。

ところが社員数が30人〜50人になってくると、組織づくりが必要になってきますので、その前提として会社の理念、つまりミッションやビジョン、バリューというものをつくっていこうということになるわけです。その時に、かつては寝食を共にしていた創業メンバーが、実は自分と考えが違っていたということが分かるということが結構あるのです。

つまり、理念を明確にすればするほど、そこで合わない人があぶり出されるということがあるのです。そして、残念なことにそれが創業メンバーであるというケースを頻繁に耳にします。

③番頭さん、ベテラン社員が改革に抵抗する

多くの会社では、社長が代替わりすると何かしらの改革を行います。例えば、新しい組織をつくる、新しい事業を始める、新商品の開発に取り組む、業務のプロセスを変えるというものがあります。社長の交代というのは、そのように会社を変えるためには良いタイミングでもあるわけです。

ところが、その時にほぼ確実と言っていいほど、古参社員から反対意見が挙がるのです。やはり、人というのは慣れ親しんだ環境が変わっていくことに抵抗しがちなのです。人間の本能からいっても、こういう人はどうしても出てくるわけです。

④番頭さん、ベテラン社員の生産性が上がらない

地位と給与だけが高く、あまり仕事をしないベテラン社員が存在するというケースもあります。先代社長の時には頑張って働き、地位と給料も高くなっていったけれども、だんだん年を取ってきて、仕事のパフォーマンスが悪くなるわけです。最近であれば、IT化の波についていけなくなって、生産性が上がらないという人も出てきています。

根本的な原因は仕組みの欠如

社長がこのような古参社員の対応に悩む根本的な原因は何かというと、人を評価する仕組みが欠けているからです。ここで言う仕組みというのは、基準と手順のことです。要するに、人を評価する時の基準がないということ、そして人を評価するための手順がないということです。この仕組みが欠けているために、こういった社員に対応することができないのです。

古参社員対策の原則

この仕組みをつくるために必要なものが評価の原則です。人に対して評価をして、その人の貢献に報いる方法には、地位とお金の2つの方法があります。どういう場合に地位で報いるのか、あるいはお金で報いるのかという原則を社長の頭の中、もしくは会社の仕組みとしてつくっておくことが非常に大切になります。

古参社員を評価する際の原則
古参社員を評価する際の原則

①人徳がある古参社員には地位で報いる

人間味があって、非常に人ができている人には、「頑張ってくれたので、ポジションを上げましょう」ということで、課長から部長に、部長から事業部長にするという感じで地位を上げていくことで報います。当事者は自尊心が高まります。

人徳があっても能力がない場合には、その人の周りに優れた若手や次世代のリーダークラスを置いてあげれば仕事は回るので、特に問題はありません。むしろ、人徳がある人であれば、若手の活用などには長けているので、いいチームをつくってくれるわけです。

②実績を出した古参社員にはお金で報いる

例えば売上を上げたとか、プロジェクトを成功させた人には、「頑張ってくれたので、給与を上げましょう、ボーナスを出しましょう」とお金で報いてあげます。実績を上げたからといって、人徳のない人に地位を上げてしまうと組織が崩壊してしまうため、地位で報いるということはしません。

よく言われるように、実績がある、要するに能力があって、かつ会社の方向性と合わない人や人徳がない人が組織の中で一番困るのです。なぜかというと、そういう人は会社の悪口を言ったり、社員に当たり散らしたり、自分の権力を使ってコントロールしようとしたりすることが多いからです。そういう意味で、実績があるからといって、人徳がない人に地位を与えるのは非常に危険なのです。

クビや退職を迫るだけではない、古参社員への具体策

社長としては、問題のある古参社員にはできれば辞めてほしいわけですが、日本の場合、それほど簡単に首を切ることはできません。これまでの貢献には感謝はするけれども、将来を見据えた場合、このままでは困るのです。その時にどうするか、具体例を挙げて説明していきます。

ケース①会社の成長についていけなくなった創業メンバー

これは先ほども言った通り、その人に人徳があるかどうかがポイントになります。

人徳がない場合

人徳がない、つまり社員からの尊敬がない人の地位を上げるわけにはいきません。これから会社が成長していこうという時に、そういう人の地位を上げてしまうと、非常にリスクが大きいのです。

ですから、これはお金で報いるしかありません。例えばボーナスを出す、退職金を上積みして辞職を促す、あるいは上場を目指している会社であればストックオプションを渡すということも考えられます。



成果を出せなくなり、人徳もない古参社員

また、成果を出していないし、人徳もないために、給料も地位も上がらない人が会社にいると非常に悪影響が出てしまいます。こういう場合には、本人と交渉し業務委託契約にするというやりかたが考えられます。こうして他の社員の報酬体系とは切り離してお金を提供するというやり方です。

ほとんど会社の社員と同じように働いているけれども、業務委託ですから、その人の報酬は会社の評価制度に則らせる必要がありません。そういうやり方が成功している会社もあります。

人徳がある場合

一方、人徳はあるけれども能力がついていかない人はどうするかというと、こういう人を辞めさせるのはもったいないですし、社長としても言いづらいわけです。そういう場合には、その人がきちんと活躍できるような、優れたチームを周りにつくってあげるということが考えられます。このようにして、組織としてパフォーマンスを保つことができるのです。

会社の成長についていけなくなった創業メンバーに対して、お金でも地位でも報いないということになると、会社の雰囲気的にあまり良い結果にならないことが多いのです。「あの人って前からいるけど、全然報われてないよね」と他の社員も感じてしまいます。ですから、このような方法で報いてあげるということが大切になるわけです。

ケース②方向性が合わなくなった創業メンバー

これは正対して話すしかありません。合わなければ辞めてもらうし、場合によっては勝手に辞めていくということもあります。正対して話すというのはどういうことかというと、まず社長自ら「うちの会社はこのようにこれからしていきたい」ということを改めて伝えるということです。

「創業メンバーだから、お互い分かっているだろう」と思うのですが、これが伝わっていないからこういう問題が出てきているわけです。ですから、そこを解決するために本人と正対して話す必要があるのです。それでお互い合意できれば何も問題がありません。しかし、そこに相違があるのであれば、自主的に辞めてもらう、もしくは勝手に辞めていくという形で解決してくのが最善だと考えられます。

ケース③改革に反対する番頭やベテラン社員

これも、社長が覚悟を決め、正対して話すしかありません。それで「分かりました。協力します」ということであれば問題はありませんが、合意できなかった場合、創業メンバーとは違って辞めるということはなかなか難しくなります。年齢も相当高くなっているわけですし、転職市場において不利になってしまうからです。

改革の震源地にあえて入れる

辞めるという選択肢がないということであれば、改革の震源地に入れる、つまり改革のプロジェクトメンバーに入れて、強制的に活躍してもらうというパターンを取ります。

こういう人は非常に声が大きくて、仕事もできるので、他のメンバーからの信頼も厚いわけです。ですから、改革の震源地に入れて協力を仰ぐことで、何だかんだと文句は言うけれども活躍してもらえる状態にするのです。

ケース④地位と給与だけが高い番頭やベテラン社員

2代目、3代目社長の悩みとして、これが結構多いと思います。先ほどの原則に則って考えると、地位と給与が高くて仕事ができない、さらに人徳がないという場合に困るわけです。これは、基本的にお金で報いるという方向性になります。

ボーナスや退職金などを多くしたうえで、次世代メンバーを彼らの上位へと昇格させるということになります。こういった人たちは、残念ながらこれまでの経験や実績によって、地位が高いわけです。しかも先代社長が決めたことですから、2代目、3代目社長にとっては降格させるという選択肢はなかなか難しいのです。

ですから、降格させるのではなく、他のメンバーを彼らのより上位、もしくは同じぐらいのランクに昇格させるという方向で組織づくりをしていくわけです。この点については同意をしてもらわないといけないので、やはり社長が正対して話す必要があります。

人徳がある古参社員にはチームを任せる

一方の、地位と給与が高くて能力はないけれども、人徳があるという人の場合、この人はチームや組織をまとめるために非常に貢献してくれるケースがあります。あるいは社長に対して良いアドバイスを提供してくれることもあります。ですから、先ほどの創業メンバーの場合と同じで、優れたチームを作ってあげて、彼らがパフォーマンスを出せるようにしてあげるということになります。

大切なのは原則に基づく仕組み

重要なのは、個別の悩みへの対応ではなく原則を定めることです。その原則に基づいて仕組みをつくっていくことが大切なのです。

「仕組み経営」では、経営者の方を悩ませる、古参社員問題を解消するための仕組みづくりもサポートしておりますので、詳しくは以下のガイドブックからご覧ください。

 

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