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会社を売るのを止めて年商12倍。スモールビジネスからスタートアップへ。KEAP(Infusionsoft)社創業者クレート・マスク氏インタビュー

このレポートでは、アリゾナ州に本社を構えるIT企業、KEAP(旧名Infusionsoft)社の創業者、クレートマスク氏のインタビューをご紹介させていただきます。

KEAPは、中小企業向けのCRM(顧客管理)システムを提供している会社です。彼らはマイケルE.ガーバーのプログラム、ドリーミングルームに参加し、5年で年商12倍、業界でトップの地位に上り詰めました。

マイケルE.ガーバー氏をご存じない方へ:マイケルE.ガーバー氏は、世界No.1のスモールビジネスアドバイザー(米INC誌による)として知られ、世界700万部のベストセラー/ロングセラー「はじめの一歩を踏み出そう」の著者です。

いまでは、世界中のスモールビジネスが彼らのシステムを使っています。また、その将来性を買われ、ゴールドマンサックスが彼らに54億円もの投資を決めました。彼らのオフィスはアリゾナ州にあり、広大な建物の中に、ユニークな経営を反映した工夫が随所に見られます。

このインタビューは2013年、マイケルE.ガーバー氏に紹介されて創業者を約10名の日本の経営者の方々と訪問し、貴重な時間をいただいてインタビューさせていただいたものです。

インタビュー動画には、逐次通訳が入っていますが、以下に全翻訳文を掲載しますのでどうぞご覧ください。

※ドリーミングルームとは、マイケルE.ガーバー氏が開発した起業家プログラムですが、現在は提供中止となっています。

 

 

10億円で会社を売る計画

(インタビュー実施日:2013年)

翻訳者

それではインタビューを始めます。皆さんすでにご存知だと思いますが、もう一度、ご自分の会社を立ち上げた時のことを教えてください。ビジネスを立ち上げるにおいて、どんなことが大変でしたか?また、おそらくマイケル・ガーバー氏との出会いに関連すると思いますが、ビジネスを広げる機会は何だったのかを教えてください。

マスク氏

もちろんです。仲間たちと一緒に3人で創業しましたが、当時、私たちはとにかく生き抜くことだけを考えなければなりませんでした。起業してからの3年間は、とても大変な日々が続きました。私は結婚していて、子供が4人いましたし、学生ローンの支払いもあったので、とにかく日々の生活が大変でした。

当時の私たちは、単純にスモールビジネスをサポートするソフトウェアを作ろうとつくろうとしていました。将来どのように成功したいかといった大きなビジョンもなく、スモールビジネスの営業やマーケティングといった分野を効率的に行えるようなソフトウェアの開発にとにかく集中していました。

そんな厳しい3年を乗り越え、ようやく軌道に乗ってきましたが、その時点でもまだ、明確なビジョンというものはなく、それどころか、売上が1千万ドル(約10億円)を越えたら会社を売却しようと考えていました。2001年に起業して、2005年までになんとか成功へ道が切り開けたわけですが、それ以降の目標がありませんでした。なんせ、1千万ドルを達成できたら売ってしまおうと考えていましたから。

1千万ドルに到達したところで売却できたらどんなに素晴らしいか。当時は、そのくらいに思っていました。

2005年、2006年、2007年と良い業績が続きました。自分たちがどのように成功したかをまとめて『Conquer the Chaos」という本まで出版しました。とてもいい時代でした。2007年には収入額が500万ドルに達していましたが、私たちはそれでもまだ、成功したらビジネスを売却しようと考えていました。

そして同じ2007年に、共同創業者のスコット・マルティノーと他のメンバー数人が、マイケル・ガーバー氏の「ドリーミングルーム」に参加しました。

2005年から2007年まで成功した私たちは、目標値のハードルを上げたところでした。1千万ドルではなく2500万ドルを達成して、1億ドルで売却しようと考え直しました。とても大きな目標でした。しかしマイケル・ガーバー氏の「ドリーミングルーム」に参加した私たちの考え方を覆しました。

まずはスコット、デイビッド、マークが「ドリーミングルーム」に参加しました。マイケル・ガーバー氏は「なぜこのビジネスをしているのか?」「あなたにとってビジネスとはどんな意味があるのか?」と繰り返し質問しました。

正直なところ、「自分たちはスモールビジネスで十分満足している。軌道に乗ったら会社を売って、お金を稼ぐことが目標」としか返せませんでした。しかしガーバー氏は、お金よりも大切なこと、本来のビジネスの目的は楽しむことであるということに気づかせてくれました。「ドリーミングルーム」では「なぜ?その意味は、なぜ、なぜ、なぜ?」の繰り返しでした。私よりも先に、スコットとマークとデイビッドが参加したわけですが、ドリーミングルームから帰ってきた彼らはすぐに私に「プランを変える必要がある」といいました。

会社を売るよりも大切なことに気が付く

「プランを変える必要なんてない。このままでいいじゃないか。」と返した私に、スコットは「ドリーミングルーム」に行く必要があるといいました。のちに私も「ドリーミングルーム」で何度も問いただされました。「なぜだ?目的は?お金を稼ぐことも大切だが、本来の目的は?」「貴重な時間を割いてこの仕事をする意味は?」と。

ドリーミングルームから帰った私にスコットは言いました。「自分たちはなぜ、更に上を目指さないのか。なぜ、マーケティングソフトウェア界のQuickBooks(大手の会計ソフトウェア会社)になろうとしないのか。なぜ会社をもっと大きくしようとしないのか」。私は「単純に怖いからだ。それが本当の理由だ」と答えました。

今の仕事には満足しているし、このまま売ってしまってはもったいない。その時点でやっと、これは自分たちだけの問題ではない。社員でも収入のことだけでもなく、それは何かもっと大きなものだということに気づきました。

会社を売る計画を止め、ビジョンを創りなおす

「ドリーミングルーム」に参加し背中を押された私たちは、あと数年で売却するのではなく、会社の明確なビジョンを築き上げよう、会社を長く存続させるビジョンを作ろうと一致しました。そして私たちはビジョン構築に取り掛かりました。

私たちのミッションは、スモールビジネスを対象に、彼らの成功を支援する強力なセールスとマーケティングソフトウェアを開発すること。自分たちの思いは分かっているつもりでしたが、それを実際に明確にする必要がありました。そしてついに「スモールビジネス発展のための革命を起こす」という大きな目標にたどり着きました。自分たちが、セールスとマーケティングのソフトウェア界の第一人者になるというビジョン。人生を犠牲にすることなくビジネスを楽しめるよう、スモールビジネスと起業家をサポートするというビジョンです。

現段階の目標は、顧客数10万に到達することです。現在1万5千ですから、私たちのビジネスは本当に始まったばかりです。

明確なミッションとビジョンが会社を変える

マイケル・ガーバー氏が教えてくれたことがあります。

1つは、自分たちが何をしているのか、なぜそうするのかを明確にすること。

2つめは、これまでに描いてきたビジョンよりも、はるか上を目指すことが可能だということです。以前は会社が1億ドルで売れたら大したものだと思っていたくらいですが、この時ガーバー氏は、スモールビジネスが成功するにはインフージョンのソフトウェアが不可欠だと、私たちの視野を広げてくれました。

そして3つめは「自分たちの力を信じること」です。心のどこかで、「自分たちがスモールビジネスをサポートするソフトウェア界の第一人者になるなんてあり得ない」と思っていました。「自分たちはビル・ゲイツでもなく、スティーブ・ジョブズでもない。ラリー・ペイジでもセルゲイ・ブリンでもない。アリゾナ州の一般人にそんな大きなことができるわけがない」としか考えていませんでした。マイケル・ガーバー氏は、情熱をもって仕事をするということの大切さを教えてくれました。

マイケル・ガーバー氏の言葉で印象に残っているものがあります。「君がやらなければ、誰がやる?」そして「成功者は初めから成功したわけではない。成功する以前の功績なんてものはない」ということです。ビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズも、グーグルの創業者もそうです。これから偉業を成し遂げようとする時に、過去の功績は必要ではないということでした。私たちはその言葉を受けて、「誰もやらないのなら、自分たちがやってしまおう。やったことがないからと言って、成功しないとは限らない」というように、気持ちを切り替えることができました。

2007年に自分たちがスモールビジネスの世界を変えるという新しいビジョンを掲げたあとは、もう会社を売却するなんてことは考えなくなりました。当時の私たちは確かに経験不足でした。収入500万ドルの会社が、スモールビジネスの世界を変えようなんて考えていましたから。でも私たちには情熱と明確なビジョン、そして原動力がありました。他の誰も私たちのようにはスモールビジネスを視野に入れていませんでしたし、スモールビジネス界は自分たちを必要としている、情熱も原動力もある自分たちは必ず成功するという信念がありました。

エベレストを越え、火星へ

2007年に構築した新しいビジョンは今でも変わっていません。今年の収入は6千万ドルでしたが、今でも自分たちは始まったばかりと考えています。元の目標はすでに達成していても、まだまだ先は長いと感じるからです。しかし今でも自分たちはスモールビジネスを成功に導く、他に類のない大きな会社、数十億ドル規模の会社に成長していけると信じています。

現在私たちは成功しています。将来的なチャンスにも恵まれていると思います。マイケル・ガーバー氏は今でも良き友ですし、私たちを導いてくれるアドバイザーでもあります。大切なのは、周りからの意見に惑わされることなく、信念を貫き、大きなビジョンを見つめ続けることです。

現在の目標は、2016までに顧客数10万、2億ドルを達成することです。5年計画で進めていますが、すでに1年半が過ぎました。社内で「エベレスト・ミッション」を目にしたかもしれませんが、あれが今の私たちのミッションです。もちろんその先には更なるミッションがあって、現在のミッションは前段階にすぎません。エベレストの後は火星というように、ミッションは延々と続くわけです。(2020年1月現在、彼らのオフィスにはエベレストミッションではなく、マーズミッションが掲げられている)

何か質問があればお答えしたいと思います。

 

質問者

経営者が「ドリーミングルーム」の影響をうけて帰ってきた時、社員は戸惑いませんでしたか?そうであれば、社員の戸惑いにどう対応しましたか?

 

マスク氏

社員は会社を大きくしようという新しいビジョンを喜んでくれました。もっとも、経営者が会社を売れば、職を失うわけですから。社員に対しての説明は簡単でした。難しかったのは、ビジネスを大きくして売却するという以前の計画を支持していた投資家への説明です。投資家の皆さんには「グッドニュース(良い知らせ)」と「(バッドニュース)悪い知らせ」があると切り出しました。「グッドニュース(良い知らせ)」は、会社が大きくなることで皆さんの懐が更に潤うということ。「(バッドニュース)悪い知らせ」とは、そこに到達するまでに長い年月が必要になるかもしれないということでした。

 

質問者

スモールビジネスのサポートに焦点を当てて今後のビジョンを掲げたわけですが、どのようにしてライバル他社との差別化を図ったのですか。

 

マスク氏

まずは実際に私たち自身が「スモールビジネス」であったということです。私たちも創業してから3年間は、資金面で大変苦労しました。私には4人の子供もいましたし、妻にも「お金がない」と咎められました。私たちも辛く苦しい経験をしながら、なんとか会社をここまで築き上げてきたので、スモールビジネスの苦しみを理解できるのです。

大きな会社にはきっとわからないでしょう。失礼に当たるといけませんが、大企業にはスモールジネスの苦しみがわからないのです。私も辛かった日々を忘れることはありませんし、仲間たちの間で今でも語り草になっています。私たちはスモールビジネスとして壁を乗り越えてきた経験があり、その情熱を理解している。そこが他社とは異なる点だろうと思います。

 

質問者

「ドリームマネージャー」というシステムを取り入れようとしたのはなぜですか?マイケル・ガーバー氏の「ドリーミングルーム」影響があったのでしょうか?

 

マスク氏

「ドリームマネジャー」とは社員たちの夢を叶えようという自社のプロジェクトです。確かに「ドリーミングルーム」と「ドリームマネージャー」と名称は似ていますが、直接的な関係はありません。私たち経営者は社員の夢というものに大きな価値があると信じています。社員が彼らの夢を達成することは、私たちにとって実に大切なことなのです。

「ドリームマネージャー」は夢を叶えたい社員とミーティングを行います。例えば、ある社員が「ヨーロッパに2週間旅をしたい」という夢を持ち出してきたとします。私たちは旅行資金を提供するのではなく、ではどうしたらヨーロッパ旅行を達成できるかということを具体的に話し合います。どのように資金を貯めるか、それには何をすればいいのか。例えばそれは、仕事の量を増やしてボーナスをもらうということなのか。ドリームマネージャーは社員に夢をシェアしてもらい、明確にして、実現に向けてのお手伝いをします。そして夢を達成した時には、皆で喜びを分かち合います。

例をひとつ挙げましょう。社員にシンガーソングライターになりたいという夢を持つ方がいました。初めの一歩を踏み出す自信がなかった彼女は、それまで誰にも自分の夢を語ったことがありませんでした。しかしある日「ドリームマネージャー」に夢を打ち明け、会社は彼女を応援することにしました。彼女は最近『アメリカン・アイドル』のオーディションをパスしました。長年の夢を「ドリームマネージャー」に相談し、それが現実になったのです。どこまで勝ち進めるかはわかりませんが、最初の段階はパスしました。

私たち経営者が社員の夢を大切に思い、それをぜひ叶えて欲しいと願っていることを伝えられたらと思います。資金を提供したり、夢を叶えさせてあげるのではなく、社員に夢を明確にする機会を与えて、現実化するお手伝いをするということです。夢を叶えるのは他の誰でもなく彼ら自身です。

 

質問者5

日本のスモールビジネス経営者、またはこれから起業しようとしている人たちに、何かアドバイスをいただけますか?

 

マスク氏

もしあなたが起業したいと考えているのなら、まずは、心の準備をしてください。それは決して簡単ではないということを知り、覚悟をして欲しいと思います。そして、資本(キャピタル)を考えてください。キャピタルといってみなさんが思うのは「資金」だと思いますが、それだけではありません。精神的なキャピタル、すなわち信念の強さ、自分は苦しい状況を乗り越えるだけの精神的な強さがあるか、厳しい中を生き抜いていけるのかということをよく考えてください。みなさん、資本金などお金の準備に集中しすぎて、精神的な準備を怠ってしまいがちですが、自分が逆境にも耐えうる精神力があるかを考えることは、実はもっと大切なことです。

しかし、私の経験から言うと、スモールビジネスを立ち上げて成功させることほど面白いことはありません。

自分のしたい仕事をしながら人生をたのしむことは可能です。仕事だけに集中するあまり、子供たちに嫌われたり、妻と不仲になったり、友人におかしくなったと思われたとしたら、それは本望ではありません。私はビジネスでも成功したいし、家族と幸せな人生を送りたいと思います。そしてスモールビジネスは、それを可能にします。簡単ではありませんが、不可能ではありません。

ありがとうございます。

 

会社を売るかどうかは人生の選択

以上、クレートマスク氏のインタビューをお届けしました。ご覧になったとおり、彼らはスモールビジネスから一転、急成長するスタートアップ企業として大変身しました。そのカギとなったのは、ビジョンとミッションの再構築でした。ビジョンとミッションを創りなおしたことで、会社を運営する方法がガラッと変わり、まったく違う会社へと変貌を遂げました。

クレートマスク氏も最初は10億円で会社を売却する予定でした。「仕組み経営」でも、高値で売却できる会社を創りましょう、というメッセージを経営者の方にお伝えしています。しかしこれは、会社を売却しなくてはいけない、ということではなく、”いつでも売れる状態にしておく”ということが大切だ、ということなのです。

永遠に所有していけるように、しかし、明日にでも売却できるように今日のビジネス構築に励め。

これが仕組み経営が提唱しているメッセージです。会社が高値で売れる、ということは誰から見ても、その会社は魅力的である、ということです。実際に会社を売るかどうかは別にして、そのような会社を創るというプロセスに大きな意義があるのです。

会社を売るかどうかはビジネスオーナーがどのような人生を生きたいか?によります。クレート氏のように、内省した結果、やはり自分のビジネスを続けることが自分にとって大切なことなんだ、ということであればそれも良いでしょうし、情熱を失ってしまった、ということであれば会社を売って別の人生を歩むことも良いでしょう。このインタビューをもとに、ご自身がどのような人生を送りたいか、ぜひ考えてみてください。

なお、会社を売る、ということに関しては以下にも記事を掲載していますのでぜひご覧ください。

会社売却を創業後2年で実現した方法とは?

【会社売却事例】自社3件の会社売却に成功した方法 – 2019年2月インタビューレポート 新部勝美様

どんな会社も高く売れる! 会社売却の相場を7倍に増やすには

会社(事業)売却と社長の出口戦略【仕組み化の原則】

 

 

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