経営方針の例や考え方、発表会の方法について解説



清水直樹
今日は経営方針の例や考え方、発表会の方法について解説していきます。

 

経営方針とは?

経営方針とは、自社の目指すビジョンにどのように到達するかという方向性を示したものになります。多くの会社では経営方針を掲げていますが、理念に近い抽象度の高いものもあれば、業務の具体的なやり方を示したものもあり、内容は各社それぞれ幅広くなっています。

 経営理念との違い

経営方針とよく混同される言葉として、経営(企業)理念があります。両者は関連性がありますが、通常は経営理念のほうが上位概念となります。まず経営理念があり、それをどう実現するかが経営方針である、とも言えます。経営理念は長年にわたって変更されることはありませんが、経営方針は時代の変化によって、より短期間で変更されることがあります。

 

経営方針の例

先ほど、経営方針とは「自社の目指すビジョンにどのように到達するかという方向性を示したもの」と書きましたが、実際のところ、その定義は各社それぞれと言えます。いくつか例を見てみましょう。

トヨタの経営方針

日本を代表する企業であるトヨタでは、会社の理念や長期目標などを包含する意味合いで、経営方針という言葉を使っています。以下、トヨタのホームページより。

トヨタが経営方針・計画を立案し、それに基づいて事業を遂行するようになったのは、1963(昭和38)年からである。その際、基本方針や長期目標、長期方策は、1935年制定の「豊田綱領」をベースに時代に沿った形で策定してきた。これらの長期方針は年度目標、年度方針、全社重点施策、年度スローガンという体系にブレークダウンして実行にあたり、経営トップによる点検も実施してきた。

 

任天堂の経営方針

一方、同じく日本を代表する企業である任天堂では、明確に経営方針という言葉を使っています。任天堂のホームページによると、経営方針は以下のとおりです。

当社グループは、ホームエンターテインメントの分野で、健全な企業経営を維持しつつ新しい娯楽の創造を目指しています。事業の展開においては、世界のユーザーへ、かつて経験したことのない楽しさ、面白さを持った娯楽を提供することを最も重視しています。

個人的な意見になりますが、この任天堂の経営方針に同社の強さが込められていると思います。もともと任天堂はカードゲームの開発から始まり、ファミリーコンピュータ(ファミコン)で世界的に大ブレイク、その後、様々な形態のゲーム機本体とゲームソフトをヒットさせ続けています。経営方針にある通り、任天堂は、自社の事業をホームエンターテインメントと定義し、時代の環境に合わせて自社が開発するものを変化させ続けているのです。もし同社が、自社の経営方針はカードゲームを開発することである、と考えていたら、いまの任天堂は無かったでしょう。

ユニクロの経営方針

もう一社ご紹介しましょう。日本を代表するアパレル会社、ユニクロ(ファーストリテイリング)です。ユニクロのホームページを見ると、「FAST RETAILING WAY (FRグループ企業理念)」という形で会社の「ステートメント」「ミッション」「バリュー」「プリンシパル」を定めています。

一方、株主・投資家向けには、「経営方針」という言葉を使って、自社の方向性を示すページがあります。この中には、

  • トップメッセージ
  • トップインタビュー
  • 業界でのポジション
  • 配当政策
  • 事業リスク

という項目で、自社の考え方を載せています。

以上のように、経営方針という言葉の使い方やその内容は、各社それぞれです。もし、経営方針を作りたいと思っているのであれば、自社なりに、その位置づけを考えれば良いでしょう。

 

経営方針の考え方

経営方針の作り方を見ていく前に、考え方を見ていきましょう。仕事柄、様々な会社の経営計画や指針を拝見したり、ご相談を受けることが多いのですが、いつも社長が悩むのが、”経営方針”の扱いだと感じています。

先ほど申し上げた通り、経営方針は、理念と実行計画の間に来るものとされています。つまり、「理念策定⇒経営方針策定⇒実行計画策定」という順番で計画を立てます。理念だけでは抽象的で、社内的にも方向性を示せないので、理念の次に、方針を入れよう、というわけです。

その意図はとてもわかるのですが、方針とは何かという定義をしっかりしておかないと、余計な混乱の元にもなってしまいます。

「混乱をもたらす方針」には次のような特徴があります。御社に当てはまっていないか、ぜひチェックしてみてください。

1.経営方針が理念と似通っている

経営理念の次に、経営方針を打ち立てているのにも関わらず、その内容がほとんど理念と変わらないパターンです。理念がまったく具体化されていないというわけです。

2.方針が多すぎる

勉強熱心な社長ほど、方針が多くなりすぎる傾向にあります。様々な書籍を読んだり、他社を研究して、学んだことをすべて自社の方針に取り込もうとするため、方針が分厚くなります。方針が多すぎると、覚えることも、実行することも難しくなります。

「法律の多い国は無能な法律家の国である」という言葉があります。あらゆる問題をすべて特殊な問題として解決しようとするために、どんどん法律が増えてしまうのです。本来は、様々な問題をカバーできる原則的な法律をつくり、シンプルに運用すべきなのです。

法律を”会社のルールや方針”に置き換えてみれば、ルールや方針が多い会社の社長は無能、と言えます。

また、「トムソーヤーの冒険」で有名なマーク・トウェインは、知人に手紙を送った際、最後に次のように付け加えたと言われています。

「手紙が長くて申し訳ない。 短い手紙を書く時間が無かった」

普通に考えれば、時間が無ければ手紙は短くなるのですが、超一流の作家である彼の考え方は逆なのです。

じっくり考えれば、伝えたいことは短い文章で収まるはず。だらだらと書き連ねるのは、十分に考え切れていない証拠、だというのです。これは社長が”方針”を書く際にも当てはまると思います。



3.方針の内容にダブりが多い

前項の続きで、方針が多くなると、必然的に似通った方針が多くなります。お客様第一、品質重視などの言葉が経営方針に頻出すると、読み手にとってはそれが”良くある風景”となります。近所にある電信柱の数を覚えていないのと同様、頭に入らなくなります。

4.方針が実行計画とつながっていない

方針は、実行計画(誰がいつ、何をやるか)とつながっていないと意味がありません。良くあるパターンは、理念、方針までは美辞麗句が続き、実行計画は全くそれとは関係のない利益計画のみになっていることです。

5.方針が社員一人一人の目標とつながっていない

さらに方針は、社員一人一人の目標とつながっていることが大切です。ここのつながりが無い限り、方針は実行されることがありません。

 

経営方針の作り方とひな形

次に経営方針の作り方とひな形をご紹介していきます。先ほど挙げたように、社内を混乱させる方針を避けるためには、

  • まず、概念的、抽象的な方針(一般的には基本方針といわれるもの)は、理念体系に含めてしまい、シンプルにすること。
  • より具体的な業務に関する方針(たとえば、お客様や社員、商品に対する方針)は、可能な限り、数値に換算して、個人の目標にまで落とし込むこと。または、仕組みとして業務のプロセスに落とし込むことです。これによって、方針は非常に洗練されたシンプルなものになるはずです。

たとえば、理念に仕組み至上主義を掲げるアイリスオーヤマには、ロングセラーに頼らない、という考えがあります。これはいわゆる”方針”ですが、これだけでは、どう実行されるのかわかりません。

そこで、同社では、ロングセラーに頼らないために、”新商品の売上比率”を目標として掲げ、かつ、「プレゼン会議」という仕組みに落とし込んでいます。ここまで落とし込まれることで始めて、社長の考えが社内で共有された状態となると思います。

基本方針

ここには社長としての姿勢を書きます。基本的に箇条書きでシンプルに書くのが良いでしょう。特に、どのようなお客様(市場)に対して、どのような商品を提供していくのか?どのような強み(選ばれる理由)を持っていくのか?等の事業モデルについての記述を書くと良いでしょう。

商品に関する方針

商品に関する方針とは、どのような商品ラインナップにしていくか、どんな商品を開発していくかという方針です。基本方針と異なり、より具体的な内容になってきます。

  • 重点的に販売していく商品はどれか?
  • 現状維持のまま販売していく商品はどれか?
  • 販売を徐々に止めていく商品はどれか?
  • 改善する商品はどれか?
  • 新しく開発する商品は何か?

などを記載します。

顧客に関する方針

顧客に関しても同じように記載します。

  • 重点的に攻める顧客は誰か?
  • 現状維持の顧客は誰か?
  • 徐々に対象から外していく顧客は誰か?
  • 新しく開拓する顧客は誰か?

販売・営業の方針

どのように販売していくか、営業していくかを記載します。

  • どのような販売網で売っていくか?(直販か?代理店か?オンラインか?オフラインか?等)
  • どのような広告宣伝を行うか?(どのメディアか?予算は?切り口は?等)

新規事業に関する方針

どんな事業であっても、時代の要請でニーズが無くなっていくことがあります。そのため、社長は常に新規事業を企画検討する必要があります。ここには、新規事業に関する考え方を記載します。

  • 短期的(1年程度)に行う新規事業は何か?
  • 中長期(3年~)で考える新規事業は何か?

組織体制の方針

どのような組織で事業を行うかを記載します。

  • 人件費率をどれくらいにするか?
  • どのような組織にするか?
  • 採用をどのように行っていくか?

 

経営方針発表会の方法

経営方針は社長が作るものであり、その行為だけでも考えを整理するうえで非常に有効と言えます。ただし、方針を実現するには、社長だけが方針を知っているだけではダメです。社内、場合によっては重要な社外関係者にも共有し、皆で実現をしていくことが大切です。そのために、経営方針発表会(経営計画発表会、経営指針発表会と呼ぶこともある)を開催することが多いです。

その名の通り、経営方針発表会とは、全社員、社外関係者向けに経営方針を発表し、皆に理解してもらう、そして日々の仕事で実践、実現していくためのものです。通常は1年に一度行いますが、私の知っている会社では、四半期に1度開催しているところもあります。

経営方針発表会のポイント

1. 経営方針を明文化し、冊子にする

経営方針は必ず文章として明文化しておきましょう。言葉で語るだけではすぐに忘れられてしまいます。多くの会社では、経営方針を含めた理念や計画を冊子にして、社員に配布しています。

2. 上等な会場を確保する

発表会の会場を確保しましょう。何かを伝える場合には、伝える内容と同じくらい、伝え方も大事だと言われています。つまり、大切なことは“それが大切であるかのように伝える”ということです。そのため、費用が掛かっても、社外の上等な会議室を借りて行うのがお勧めです。それによって、“この発表会は大切なことなんだ“というメッセージを参加者に伝えることが出来ます。

3. アジェンダを決める

アジェンダ(議題)をよく考えて決めましょう。通常は最初に社長が経営方針を発表する時間を設けます。会社の規模によりますが、その後、部門ごとに方針に基づく計画を発表することが多いです。これは各部門の代表者が行います。また、会の後半に社員の表彰式(MVP等)を同時に開催することもあります。

 

経営方針を浸透させるには?

最後に経営方針を浸透させる方法についてみていきましょう。

各方針を具体的な計画にする

先ほどのひな形で挙げた、商品、顧客、販売・営業などの方針それぞれについて、より具体的な計画に落とし込みましょう。これは社長が行う場合もありますし、部門長が行う場合もあります。

方針と個人の目標を連動させる

人事評価の一環として、個人個人の目標管理を行っている会社も多いと思います(MBO、OKR等)。大切なのは、それら個人の目標が経営方針と連動しているかどうか?です。目標の設定を各社員に任せると、その連動性が無くなる可能性があるため、上司は常に方針と部下の目標がどうかかわっているかを確認し、部下の目標設定をサポートすることが大切です。

発表会後のフォローをする

経営方針発表会で伝えたからと言って、“これでみんなは理解してくれたはずだ”と思ってはいけません。正直、一回伝えただけでは、ほぼ頭を素通りしている、と考えたほうが良いでしょう。そのため、発表会後にフォローする必要があります。これも各社それぞれのやり方がありますが、経営方針をもとに、部門ごとに自部門の方針や計画を検討する会議などを設定することがあります。

 

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以上、経営方針について解説していきました。仕組み経営では、理念の明確化から方針の決定、また、それを実現していくための計画と仕組みづくりまでを一貫してご支援しています。以下から「仕組み化ガイドブック」をダウンロードしてご覧ください。

 

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