「ミッション、ビジョン、バリュー」の違い
まず、ミッション、ビジョン、バリューのそれぞれの違いについて見てみましょう。簡単に言うと以下のとおりとなります。
- ミッションとは、会社が果たすべき使命や存在意義、存在目的のことを指しています。
- ビジョンとは、会社の将来的なあるべき姿、ありたい姿のことを指しています。
- (コア)バリューとは、組織の核となる価値観のことを指しています。
「仕組み経営」では、この3つを合わせて”理念体系”と呼んでいます。
会社のメンバーが増えてきて、さらなる成長を目指そうとすると、この理念体系の整備が不可欠になります。私たちが企業様をご支援する場合には、まずミッション、ビジョン、バリューの文書化からスタートします。これらが文書化されていない場合はもちろん、既に存在する場合も、再構築を行うことが多いです。
「ミッション、ビジョン、バリュー」の例
次に、ミッション・ビジョン・バリューの例を2つほどご紹介します。
一般財団法人日本アントレプレナー学会の「ミッション、ビジョン、バリュー」の例
まず、お前のミッション、ビジョン、バリューは何なんだ?と聞かれそうなので、私たち、一般財団法人日本アントレプレナー学会のをご紹介しておきます。なお、私たちはミッションの代わりに”ドリーム”という言葉を使っています。これは私たちのコアバリューに”起業家としての夢を大切する”というものがあるため、ドリームにしています。意味合い的にはミッションと同義になります。
私たちのドリーム(ミッション)
人々の内なる起業家精神を呼び起こす。
私たちは起業家こそが世界をより良い場所(Better Place to Live)にすると信じています。そして、起業家精神とは地球上すべての人が持っている人格のことを指します。人々の内なる起業家精神を呼び起こすことによって、世界をより良い場所へしていくことが出来ます。
私たちのビジョン
世界中の優れたアイデア、人、資本を結びつけるプラットフォーム
世の中を良くするためには優れたアイデア、人、資本が必要です。これら3つが同時に同じ場所に存在することは稀であり、アイデアはあるが一緒に活動する仲間がいない、資本が無い場合もあります。一方で、資本はあるが良いアイデアや人がいない、という場合もあります。私たちはこれら3つを結びつけるプラットフォームになることにより、優れたアイデアを世界中に広がるビジネスへと進化させます。
私たちの(コア)バリュー
自由:人間らしく生きること
- 立場や役職に関わらず、他者に何かを強要しないこと。
- 人に人として対応すること。逆は人をモノとして扱うことであり、自分の都合のみで相手と接することを意味する。
夢:夢を持ち、夢を応援すること
- 自分の夢(自分のための夢と他人のための夢)を持ち、毎日の行動計画をそこに向けること。
- 他人の夢を否定せず、自分のリソースで可能なことについては応援すること。
- 自分により多くを期待し、大きな夢を持つこと。
誠実:裏表のない人間関係(ビジネスフレンドシップ)
- 人の陰口をたたかないこと。
- 全ての利害関係者に対して等しく感謝と透明性をもって対応すること。
- 全ての利害関係者と単なるお金と対価の取引を超えた関係性(ビジネスフレンドシップ)を築くこと。また、そうなれる関係者とだけ付き合うこと。
好奇心:好奇心を持って新しいことにトライする
- 新しい情報や知識を定期的に吸収する時間を取ること。
- やるリスクとやらないリスク(機会ロス)を比較し、意思決定を行うこと。
- 他人に対して興味を持つこと。
智慧:智慧を求める智慧を持つこと
- 初心者の心(Beginner’s mind)で情報に接すること。
- 人から聞いた話、本で読んだ話、一般的な通説に自分なりの一工夫を加え、独自の物として発信すること。
三井物産の「ミッション、ビジョン、バリュー」の例
より汎用的な例として、三井物産の「ミッション、ビジョン、バリュー」の例を見てみましょう。
こちらの場合にも、先述したミッション、ビジョン、バリューの定義に沿っていることがわかりますね。
桃太郎の「ミッション、ビジョン、バリュー」の例
ミッション、ビジョン、バリューの違いを分かりやすくするために良く使われるのが、桃太郎の例です。ご存知の通り、桃太郎は桃から生まれた桃太郎がサル、キジ、イヌを伴って鬼退治に向かう物語です。
桃太郎のミッション、ビジョン、バリューは次の通りになります。
桃太郎のミッション
桃太郎のミッションは「村を平和にすること」です。
桃太郎のビジョン
桃太郎のビジョンは「鬼が島の鬼を退治すること」です。
桃太郎のバリュー
桃太郎の物語にはバリューらしきフレーズは書かれていません。ただ、桃太郎、サル、キジ、イヌの一行の行動を見てみると、以下のような価値観が共有されていると考えられます。
- 「それぞれの強み(個性)を活かす」
- 「チームワーク」
(サルは門に登り鍵を開けた、キジは鬼の目をつついた、イヌは鬼ケ島を見つけた、などのエピソードから)
「ミッション、ビジョン、バリュー」と経営理念やクレドなどとの違い
世の中の企業サイトを見ると、たいてい、様々な”理念らしきもの”が並んでいます。企業理念、経営理念、クレド、社是、社訓、経営方針、行動基準などなど。会社ごとに項目も違うので、一体これらの違いは何なのか?と思われることも多いでしょう。
これらの各項目は、一応、それぞれの定義はあるようですが、一般にはその違いは曖昧で、会社ごとに独自に決めていると言っていいでしょう。
ちなみに私が昔所属していた会社では、経営理念や社是や社訓など、”理念らしきもの”がたくさん掲げられており、頻繁に唱和していました。ただ、私も含め、ほとんどの社員はそれら各項目の違いを理解していませんでした。だから何遍唱和したところで全く頭に入りませんし、行動も伴ってきません。これは悪い例です。
大切なのは、”自社なりの理念体系”を決めることです。自社の理念はこれだ、というように社内で統一されていればいいのです。社長はもちろんのこと、社員全員が各項目の定義とその内容を理解してさえいれば、他社との違いを気にする必要はありません。
ミッション・ビジョン・バリューの順番
次にミッション、ビジョン、バリューの順番を見てみましょう。これには二通りあります。
ミッション、ビジョン、バリューの中で揺るがしてはいけない順番
これもいろんな説があります。仕組み経営の中では、一番揺るがしてはいけないのは、(コア)バリューとしています。バリューは企業文化の根幹であり、ここが崩れると組織が崩壊してしまうからです。
次に揺るがしてはいけないはミッションです。ミッションは存在意義なので、バリューよりこっちのほうが揺るがしてはいけないんじゃないの?と思われるかも知れません。それも一理あります。しかし一方、会社の存在意義というのは時代の流れとともに変わってくるものでもあります。会社が時流についていけなくなったとき、自社の存在意義を問い直した結果、第二創業期を迎えることが出来た会社もあります。
たとえば自動車メーカーを見てみましょう。自動車メーカーは、かつては自動車を生産することが存在意義でしたが、いまは様相が変わってきています。ライドシェアや電気自動車、自動運転などが普及し、自動車を生産しているだけでは10年後、20年後の未来が見えない時代になっています。そのため各社は自社の存在意義、つまりミッションを考え直す必要に迫られているのではないでしょうか。
とはいえ、この辺はミッションをどの程度の抽象度で策定しているか?によって変わると思います。京セラ稲盛さんの有名な理念「全社員の物心両面の幸福を追求する」というのであれば非常に抽象度が高いので、時代が変わっても揺るがない理念だといえるでしょう。
そして最後がビジョンです。ビジョンは自社の将来ありたい姿であり、10年か15年くらいで変えていくことがあります。たとえば、マイクロソフトは創業当初、「すべてのデスクにコンピューターを」というのがビジョンがでしたが、それが実現されると新しいビジョンを策定しなおしました。こんな感じで、ビジョンは自社の状況や時勢によって作り変えることがあります。
ミッション、ビジョン、バリューを作る順番
次に創る順番です。仕組み経営の中では、まず優先されるのがやはり(コア)バリューです。(コア)バリューはできれば最初の一人目を雇う前に文書化します。
中には、バリューを創るのはある程度人数が増えてから、と書かれている書籍などもあります。”バリューは行動基準”であると勘違いしているとそうなります。
バリューは行動基準などよりももっと深いところにあるものであり、企業文化を決定づけるとても大切な項目です。企業文化は最初の十数人に誰を入れるかで決まってしまいます。そして、バリューが合わない人が一人でも入社してくると、社内は混乱します。だから最初の一人目を雇う前にバリューを文書化します。コアバリューは採用の基準でもあるので、そもそも文書化されていないと、その人を採用していいのかどうかもわかりません。
ミッションとビジョンに関しては会社の状況にもよります。最初から明確なミッションを持って操業している会社もありますし、逆にビジョンだけは明確な社長もいらっしゃいます。なので、その会社の状況に合わせて明文化をしていきます。
ミッション・ビジョン・バリューの作り方
次にミッション・ビジョン・バリューの作り方です。
詳しい説明は、別の記事にしていますので、ここでは概要だけ解説していきます。
ミッションの作り方
ミッションは会社の”存在意義”なので、そう簡単に思いつくようなものではありません。
ミッションを作るには、「自分はなぜこのビジネスをやっているのか?」を自分の問い続けるしかありません。
偉大なビジネスとなる会社のミッションは経営者の個人的な夢ではなく、顧客や他人のための夢、つまり何かを得ることではなく、何かに貢献することに焦点を当てた夢であることが特徴です。
このような観点から、世の中のどんな問題を解決したいのか、何に貢献し、どんな結果を残したいのかを考えることから始めてみましょう。
詳しくは、下記をご覧ください。
ビジョンの作り方
多くの中小企業のビジョン作りを支援してきた私たち「仕組み経営」では大きく5ステップのビジョンの作り方を提唱しています。
- 社長の人生計画を立てる
- 事業環境の変化を知る
- 社員、顧客、取引先が望むことを認識する
- ビジョンのドラフトをA4一枚に文書化する
- 最終版を完成させる
より詳しくは、下記記事に記載しています。
バリューの作り方
バリューの決まった作り方は存在しませんが、原則的なステップは存在します。
- 経営者個人の価値観を明確化する
- それぞれの価値観の定義をする
- 行動を振り返る
- 個人の価値観から会社の価値観へ
- 話し合いながら必要であれば修正していく
- オフィシャルな書類にする
- コアバリューに基づいて生きる
より詳しくは、下記記事に記載しています。
ミッション、ビジョン、バリューは浸透させるものなのか?
最後に、ミッション、ビジョン、バリューの浸透についてみていきましょう。
日本企業では、”理念を浸透させる”という言葉が非常に頻繁に使われます。正直言って、私はこの言葉が好きではありません。
浸透させるというと、上層部から下層部に思想を植え付ける、というような意味合いに思えてしまいます。
理念は浸透させるものではなく、共有するものです。リーダーが行うべきことは、いまから採用しようとしている人が、自分たちの理念を共有してくれるかどうかを見極めることです。採用してから理念を浸透させようとすると失敗します。
ましてこれからの時代、生き方が多様化したり、会社に所属することがマストではなくなるでしょう。そんな時代に、会社の理念を強制することはできません。
人はそれぞれ人生の目的や計画や価値観、すなわち個人としての理念を持っています。本人が意識しているかどうかに関わらず。そして、会社とは、同じような理念を持った人たちの集まりであると考えたほうが良いでしょう。
ミッション、ビジョン、バリューを浸透させるのではなく、共有していくためには次のような方法が考えられます。
策定プロセスに社員を参加させる
まずミッション、ビジョン、バリューに策定プロセスに社員を参加させることが大切です。社員数が多い場合には、幹部社員や核となる社員を選出(または立候補)し、プロジェクトを走らせます。上が決められたものではなく、自分たちで決めたものであれば、より理解が深まります。
採用プロセスで共有できるかどうかを見極める
人の価値観はそう簡単に変わるものではありません。多くの場合、15歳くらいまでの子供時代に親や周りからの影響を受けて、価値観や人格が形成されていきます。そのため、採用してからその人の価値観を変えるのはなかなか難しいです。ミッション、ビジョン、バリューを共有しようと思ったら、採用の時点でそれらを共有できるかどうかを見極めることが必要です。
人事評価に組み込む
人事評価の項目は、会社からの暗黙のメッセージと言えます。したがって、ミッション、ビジョン、バリューを共有したいと思ったら、それに沿った行動が評価されるようにすることが欠かせません。
現場業務に組み込む
何より大切なのが、ミッション、ビジョン、バリューを日々の仕事で体現することです。そのために、現場業務の仕組みを作り上げることが大切です。
ミッション、ビジョン、バリューを語らせる
多くの会社では、社長が理念を語り、社員に理解してもらおうとしますが、これだけではなかなか共有できません。人は人から話を聞いて理解するよりも、自分で話したときにより理解が深まるからです。そのため、新入社員研修などのイベントで既存社員が自社のミッション、ビジョン、バリューを語る機会を増やしていくことが大切です。
ミッション、ビジョン、バリューを軸にして会社の仕組みを作りましょう
以上、ミッション、ビジョン、バリューについて解説をしてきました。「仕組み経営」ではミッション、ビジョン、バリューの策定から、それを軸にした会社の仕組みづくりまでを一貫してご支援しています。
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