性善説と性悪説、経営者はどちらを採用すべきか?孟子の四端の心、荀子の性悪説を含めて解説



清水直樹
リーダーの考え方は会社の仕組みにも大きな影響を与えます。本記事では、経営者が性善説と性悪説のどちらを採用するかによって会社に作られる仕組みが変わることについて考えてみましょう。

性善説と性悪説

性善説の孟子と性悪説の荀子
性善説とは、人間の本性が善であるという考え方です。性善説の起源は、中国の古代哲学者である孟子(もうし)によって提唱されました。
一方の性悪説は、人間の本性が悪であるという考え方です。唱えたのは、同じく古代中国の荀子(じゅんし)とされています。
性善説と性悪説を簡単に比較すると以下のようになります。両者のより詳しい解説は後述します。
特徴 性善説 性悪説
基本的な考え方 人々は本質的に善であり、善意を持って行動する傾向があるとする。 人々は本質的に悪であり、自己中心的な欲望や悪意を持って行動する傾向があるとする。
リーダーシップスタイル 自己実現や成長を促し、自己管理や自己統制を重視する。 厳格な統制や報酬に頼り、組織を管理・統制する。
個人への期待 自主性や創造性を重視し、個人の能力を最大限に引き出すことを期待する。 指示に従い、組織の目標達成に従事することを期待する。
組織内の雰囲気 自己成長や協力を重視し、信頼と協調の雰囲気が根付く。 厳格な評価や競争が求められ、緊張感のある雰囲気になることがある。
メリット 従業員のモチベーションや創造性を高め、組織の活性化やイノベーションを促進する可能性がある。 組織の効率性や生産性を向上させる可能性がある。
デメリット 十分な指導やサポートがない場合、能力やモチベーションに欠ける可能性がある。 従業員のモチベーションや創造性が低下する可能性がある。

性善説とは

性善説とは、人間の本性が善であるという考え方です。

性善説の起源は、中国の古代哲学者である孟子(もうし)によって提唱されました。孟子は、紀元前4世紀に活動した儒家の思想家であり、仁・義・礼・智といった四端の心を基盤とする人間の本性や倫理について著作を残しました。彼は人間の本性が善であるとし、他人の苦しみや困難に共感し助ける心を持つことの重要性を強調しました。そのため、孟子は性善説の代表的な思想家として知られています。

性善説の起源、孟子の四端の心とは?

孟子の四端の心とは以下の4つを言います。

  1. 惻隠の心……………「仁」
  2. 羞悪の心……………「義」
  3. 辞譲の心……………「禮」
  4. 是非の心……………「智」

この言葉は、孟子の中に登場する以下の文が起源になっています。

孟子は言いました。「人は皆、他人を傷つけたり苦しめたりすることを忍ぶ心を持っています。 先の王たちは他人を傷つけたり苦しめたりすることを忍ぶ心を持っていたので、他人を傷つけたり苦しめたりする政治を行いました。 他人を傷つけたり苦しめたりすることを忍ぶ心を持ち、他人を傷つけたり苦しめたりする政治を行えば、世の中を円滑に運営することができるでしょう。 私が人々が他人を傷つけたり苦しめたりすることを忍ぶ心を持つ理由として言っているのは、例えば幼い子供が井戸に落ちそうになっているのを見た場合、私たちは驚きや同情を抱き、助けようとするのです。その行動の背後には、その子供の両親になりたいわけでも、村人や友人から称賛されたいわけでもありません。他人から非難されることを避けたいという動機もありません。単純に、他人を傷つけたり苦しめたりすることを忍ぶ心があるからです。他人を傷つけたり苦しめたりすることを忍ぶ心がない人は、本当の意味で人とは言えません。自らの過ちを恥じ、他人の過ちを嫌う心がない人も人とは言えません。相手に譲り合う心がない人も人とは言えません。善悪を判断する心がない人も人とは言えません。他人を傷つけたり苦しめたりすることを忍ぶ心は、思いやりの根源です。自らの過ちを恥じ、他人の過ちを嫌う心は、正義の根源です。相手に譲り合う心は、礼の根源です。善悪を判断する心は、知恵の根源です。人はこれらの根源を持つことができるのは、まるで四肢を持つのと同じです。」

この文では、人にはそもそも備わっている四つ心があり、自己修養を重ねることによって、それらの心が育っていくということが書かれています。

性善説で行われるビジネスはどうなるか?

性善説の立場から考えると、経営者は社員一人ひとりの善性を信じ、彼らが持つ潜在能力を最大限に引き出す仕組みを作ります。ルールや規則は緩く、人々がお互いに協力し合い、共感し合える組織文化を築くことで、成長と発展を促進することができるのです。孟子の四端の心(仁・義・礼・智)を基盤にした価値観を取り入れることで、社員のモチベーションやパフォーマンスが向上し、組織全体の健全な成長を実現することができます。

 

性悪説とは?

一方の性悪説は、人間の本性が悪であるという考え方です。唱えたのは、同じく古代中国の荀子とされています。荀子の性悪説によれば、人々は自己中心的で欲望に支配され、悪い行動をする傾向があるとされます。荀子の主張は、人の性は悪であるから、 人は一層、善につとめなければならないというものです。

性悪説の起源、荀子の言葉とは

以下は荀子に書かれている性悪説の起源となった文章です。

人の性は悪であり、善を行う者は偽者であるという考えがあります。現代の人々の性質を見ると、利益を追求する傾向があり、そのために争いが生じて妥協が失われています。また、悪を行うことにも傾向があり、そのために不正な行動や忠義を欠く行為が生じています。さらに、耳目の欲望があり、快楽や感覚的な刺激を好む傾向もあります。このような欲望に従うことで、不道徳な行動や淫乱が生じ、礼儀や道徳の原則が失われてしまうのです。

そこで、人の性に従い、人の感情に合わせると必ず争いが生じ、秩序や正義が乱れ、乱暴な行動に陥ります。そのために、必ず師法としての教化や礼儀の道が必要であり、それに従って妥協が生じ、道徳的な秩序が回復するのです。これによって、人の性が悪であることが明らかになり、善を行う者は偽者であるとされます。したがって、枸木は必ず斧や鉞を待ち、それから直すことができます。鈍い金も必ず砥石を待ち、それから利益を得ることができます。同様に、現代の人々の悪い性質も、師法を待ち、正しい行動を取り、礼儀を身につけることで治めることができるのです。もし現代の人々が師法を持たなければ、偏った行動を取り、正しくなく、礼儀を持たなければ、秩序を乱し続けることになります。

古代の聖王たちは、人の性が悪いという理由から、偏った行動を正すことができず、秩序を乱してしまうので、礼儀と道徳を確立し、法律を制定することで人々の性質を正すことができました。人々は師法に従い、学問を積み、礼儀に従うことで君子とされ、自分の性質を放任し、道徳に反する行動をする者は小人とされました。これによって、人の性が悪いことが明らかになり、善を行う者は偽者であるとされます。

このように見ると、人の性が悪いことが明らかであり、善を行う者は偽者であることが分かります。

性悪説で行われるビジネスはどうなるか?

性悪説の立場から考えると、経営者は人々の自己中心的な行動に対処するための組織のコントロールや規律を重視する仕組みを作ることが重要とされます。欲望に支配される傾向がある人間の本性を考慮し、組織内の問題に対処するための対策を講じる必要があります。つまり、社員に悪をさせない仕組みを作るということになります。

性善説と性悪説のどちらを採用するか?

以下では、経営者が性善説と性悪説を採用した際のそれぞれのメリットとデメリットについて考察します。

性善説を採用するとどうなるか?

性善説は、人間の本性が善であるという考え方です。経営者が性善説を採用することにより、以下のメリットが生じる可能性があります。

性善説を採用した場合のメリット

  1. 共感と協力: 性善説に基づく経営は、社員に対して信頼と尊重を示し、共感的な関係を築くことができます。これにより、従業員は自己実現を追求し、組織の目標に対して積極的に協力する可能性が高まります。
  2. 個人の成長: 性善説は、人々が自己成長を求める傾向があるという信念に基づいています。経営者が個々の社員の成長をサポートし、能力を引き出す環境を提供することで、組織全体のパフォーマンスを向上させることができます。

しかしながら、性善説の採用には以下のデメリットも考慮する必要があります。

性善説を採用した場合のデメリット

  1. 組織の混乱: 性善説の採用により、組織内での意思決定や行動の統一が難しくなる場合があります。個々の社員が自己の欲求や利益を追求する傾向が強まるため、組織全体の方向性や統制が失われる可能性があります。
  2. モラルの低下: 性善説に基づく経営では、社員が善意を持って行動することを前提としています。しかし、一部の社員がこの善意を悪用する可能性もあるため、モラルの低下や倫理的な問題が生じることも考えられます。

 

性悪説を採用するとどうなるか?

性悪説は、人間の本性が悪であるという考え方です。経営者が性悪説を採用することにより、以下のメリットが生じる可能性があります。

性悪説を採用した場合のメリット

  1. 効率的な統制: 性悪説に基づく経営では、厳格な統制と報酬を通じて社員の行動を管理することができます。これにより、組織の目標の達成や業績の向上を効率的に実現することができます。
  2. 利己主義と競争心: 性悪説の採用により、社員は自己の利益追求や競争心を高める傾向があります。これにより、業績や生産性の向上が期待できる一方で、組織内の協力関係や共感の欠如といった問題も生じる可能性があります。

しかしながら、性悪説の採用には以下のデメリットも考慮する必要があります。

性悪説を採用した場合のデメリット

  1. モラルの低下: 性悪説に基づく経営は、社員の自己利益追求を重視する傾向があります。この結果、モラルの低下や倫理的な問題が発生する可能性があります。
  2. 組織の健全な成長の妨げ: 性悪説の採用により、組織内の協力関係や信頼が損なわれることがあります。これにより、長期的な成長や持続可能な成功を妨げる可能性があります。

 

まとめ:社長の価値観に合う仕組みを作る

以上、性善説と性悪説を比較し、それぞれを採用した場合のメリット、デメリットを見てきました。

どちらを採用するにしろ、人が善の行動を取れるように会社の仕組みを作る必要があることには変わりがありません。自身の組織や状況に応じて適切なバランスを見極める必要があるでしょう。

なお、仕組み経営では、経営者の持つ価値観に基づいて、会社を持続成長させるための仕組みづくりをご支援しております。詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。

 



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