性善説とは?性悪説との違いをわかりやすく解説|ビジネスでの使い方



清水直樹
性善説とは人の本性は善だとする考え、性悪説とは人の本性は悪だとする考えです。唱えたのは前者が孟子、後者が荀子です。本記事では両者の違いをわかりやすく整理したうえで、経営者がどちらに立つかによって会社に作られる仕組みがどう変わるのかを考えてみましょう。

性善説と性悪説

性善説の孟子と性悪説の荀子
性善説とは、人間の本性は善であるという考え方です。中国の古代哲学者である孟子(もうし)が唱えました。
一方の性悪説は、人間の本性は悪であるという考え方です。唱えたのは、同じく古代中国の荀子(じゅんし)とされています。
両者を並べると、次のように整理できます。
特徴 性善説 性悪説
基本的な考え方 人々は本質的に善であり、善意を持って行動する傾向があるとする。 人々は本質的に悪であり、自己中心的な欲望や悪意を持って行動する傾向があるとする。
唱えた人 孟子(紀元前4世紀ごろの儒家) 荀子(紀元前3世紀ごろの儒家)
リーダーシップスタイル 自己実現や成長を促し、自己管理や自己統制を重視する。 厳格な統制や報酬に頼り、組織を管理・統制する。
個人への期待 自主性や創造性を重視し、個人の能力を最大限に引き出すことを期待する。 指示に従い、組織の目標達成に従事することを期待する。
組織内の雰囲気 自己成長や協力を重視し、信頼と協調の雰囲気が根付く。 厳格な評価や競争が求められ、緊張感のある雰囲気になることがある。
メリット 従業員のモチベーションや創造性を高め、組織の活性化やイノベーションを促進する可能性がある。 組織の効率性や生産性を向上させる可能性がある。
デメリット 十分な指導やサポートがない場合、能力やモチベーションに欠ける可能性がある。 従業員のモチベーションや創造性が低下する可能性がある。

性善説・性悪説は誰が唱えたのか

どちらも古代中国の儒家の思想です。対立する学派どうしの争いではなく、同じ儒教の中での立場の違いだという点が大切です。

  • 性善説=孟子(もうし)。紀元前4世紀ごろに活動した儒家です。孔子の教えを受け継ぎ、人には生まれつき善の芽が備わっていると説きました
  • 性悪説=荀子(じゅんし)。孟子より後、紀元前3世紀ごろの儒家です。人の本性は放っておくと欲に流れるため、教育と礼によって整える必要があると説きました

二人とも「人は善くなれる」という点では一致しています。分かれるのは、その善がどこから来るのかという一点です。孟子は生まれつき内にあると考え、荀子は後から身につけるものだと考えました。孟子の四端は、後に仁・義・礼・智・信の五常として整理されていきます。

性善説とは

性善説とは、人間の本性が善であるという考え方です。

性善説の起源は、中国の古代哲学者である孟子(もうし)によって提唱されました。孟子は、紀元前4世紀に活動した儒家の思想家です。仁・義・礼・智といった四端の心を基盤とする人間の本性や倫理について著作を残しました。彼は人間の本性が善であるとし、他人の苦しみや困難に共感し助ける心を持つことの重要性を強調しました。そのため、孟子は性善説の代表的な思想家として知られています。

性善説の起源、孟子の四端の心とは?

孟子の四端の心とは以下の4つを言います。

  1. 惻隠の心(そくいんのこころ)……………「仁」
  2. 羞悪の心(しゅうおのこころ)……………「義」
  3. 辞譲の心(じじょうのこころ)……………「禮」
  4. 是非の心(ぜひのこころ)……………「智」

この4つは『孟子』公孫丑上の、次のよく知られた一節から来ています。

いま、幼い子どもが井戸に落ちようとしているのを見かけたとする。誰もがはっとして、いたたまれない気持ちになる。その子の親と親しくなりたいからではない。近所の人や友人からほめられたいからでもない。助けなかったという評判を嫌ってでもない。

いたたまれないと思う心が「仁」の芽である。自分の悪を恥じ、他人の悪を憎む心が「義」の芽である。譲る心が「礼」の芽である。善悪を見分ける心が「智」の芽である。(『孟子』公孫丑上より要約)

ここで孟子が言う「端」とはのことです。生まれつき備わっているのは完成した徳ではありません。あくまで芽であり、育てなければ育たない。この点が、性善説を「人は放っておいても善い」という意味に読み違えないための鍵になります。

性善説で行われるビジネスはどうなるか?

性善説の立場から考えると、経営者は社員一人ひとりの善性を信じ、彼らが持つ潜在能力を最大限に引き出す仕組みを作ります。ルールや規則は緩めにし、人々がお互いに協力し合える組織文化を築くことで、成長と発展を促していきます。

具体的には、権限を現場に渡す、経費の使い道を細かく縛らない、勤務時間や場所を本人に任せる、といった運用になります。前提になるのは、判断の基準が社内で共有されていることです。基準がないまま自由だけを渡すと、組織はばらばらになります。信頼を前提にした組織づくりについては心理的安全性の作り方もご覧ください。

 

性悪説とは?

一方の性悪説は、人間の本性が悪であるという考え方です。唱えたのは、同じく古代中国の荀子とされています。荀子の性悪説によれば、人は放っておくと自分の欲に従って動き、争いが起こるとされます。だからこそ人は一層、善につとめなければならないというのが荀子の主張です。

性悪説の起源、荀子の言葉とは

『荀子』性悪篇は、次の一文から始まります。

人の性は悪なり。その善なるものは偽なり。(『荀子』性悪篇 冒頭)

ここで注意したいのが「偽」という字です。現代の日本語では「にせもの」と読みたくなりますが、ここでは違います。「偽」は「人」と「為」から成る字で、後天的な作為、つまり人が手をかけて行うことを指します。

ですから、この一文の意味はこうなります。人の本性は悪である。その人が善くあるのは、生まれつきではなく後から身につけたものである。

荀子はこれを、曲がった木と刃物の関係で説明しました。曲がった木はそのままでは真っすぐになりません。あて木をして矯め、刃物で削ってはじめて真っすぐになります。鈍い刃物も、砥石にかけてはじめて切れるようになります。人も同じで、師や法や礼という外からの働きかけによって整うのだ、という考え方です。

荀子は人間を見放してはいません。むしろ、教育と仕組みがあれば誰でも善くなれると考えました。性悪説を「人は信用できない」という意味だけで受け取ると、荀子の主張の半分を落とすことになります。

性悪説で行われるビジネスはどうなるか?

性悪説の立場から考えると、経営者は組織のコントロールや規律を重視する仕組みを作ることが重要とされます。欲に流れやすい人間の本性を前提に、問題が起きない形をあらかじめ用意しておくわけです。つまり、社員に悪をさせない仕組みを作るということになります。

具体的には、承認の段階を設ける、金銭を扱う担当を複数にする、記録が残る形にする、といった運用です。就業規則や人事評価制度も、この系統の仕組みにあたります。

性善説と性悪説の使い方と例文

日常やビジネスの会話では、思想としてよりも「どちらの前提に立つか」という意味で使われます。使い方を場面別に見てみましょう。

ビジネスでの使い方と例文

  • 「うちの経費精算は性善説で運用しているので、領収書の提出は求めていません」
  • 「セキュリティは性悪説で設計してください。誰でも触れる状態にはしないように」
  • 性善説に立つのはいいのですが、判断の基準だけは決めておきましょう」
  • 「この規程は性悪説に寄りすぎていて、現場が動きづらくなっています」

気をつけたいのは、ビジネスの場での「性悪説」がしばしば相手を疑うという意味に響くことです。人ではなく仕組みの話をしているのだと分かる言い方にしてください。「性悪説で設計する」ではなく「事故が起きない前提で設計する」と言い換えると、角が立ちません。

日常会話での使い方と例文

  • 「彼は性善説の人だから、誰の話でもまず信じてしまう」
  • 「あの契約書は性悪説で書かれているね」

なお、日常会話での「性善説」は、本来の孟子の主張よりも軽い意味で使われています。「人を疑わない」「お人好し」というニュアンスです。厳密な思想の話をしているわけではない、と理解しておくと会話がかみ合います。

現代の日本ではどちらが多いのか

どちらが多いかを示す統計はありません。ただし、制度と現場では傾向が分かれます。

制度は性悪説で作られていることがほとんどです。就業規則、稟議、承認フロー、監査。これらは「そうしないと問題が起こる」という前提で組まれています。一方で現場の運用は性善説に寄りがちです。「あの人なら大丈夫だろう」と手続きを飛ばす場面は、どの会社にもあります。


この二重構造が、実は多くのトラブルの温床になっています。規程は厳しいのに運用は緩い。だから問題が起きたときに「規程違反」として個人が責められる。責められた人からすれば、みんなやっていたことになります。

 

性善説と性悪説のどちらを採用するか?

以下では、経営者が性善説と性悪説を採用した際のそれぞれのメリットとデメリットについて考察します。

性善説を採用するとどうなるか?

性善説は、人間の本性が善であるという考え方です。経営者が性善説を採用することにより、以下のメリットが生じる可能性があります。

性善説を採用した場合のメリット

  1. 共感と協力: 性善説に基づく経営は、社員に対して信頼と尊重を示し、共感的な関係を築くことができます。これにより、従業員は自己実現を追求し、組織の目標に対して積極的に協力する可能性が高まります。
  2. 個人の成長: 性善説は、人々が自己成長を求める傾向があるという信念に基づいています。経営者が個々の社員の成長をサポートし、能力を引き出す環境を提供することで、組織全体のパフォーマンスを向上させることができます。

しかしながら、性善説の採用には以下のデメリットも考慮する必要があります。

性善説を採用した場合のデメリット

  1. 方向がそろわない: 判断を各自に委ねるため、基準が共有されていないと、良かれと思った行動どうしがぶつかります。全員が善意で動いていても、会社としての方向は定まりません。
  2. 問題が見つかるのが遅れる: 記録や確認の手順を省くと、うまくいっていないことに気づく時期が遅くなります。悪意がなくても、単純な間違いは起こります。

 

性悪説を採用するとどうなるか?

性悪説は、人間の本性が悪であるという考え方です。経営者が性悪説を採用することにより、以下のメリットが生じる可能性があります。

性悪説を採用した場合のメリット

  1. 効率的な統制: 性悪説に基づく経営では、明確なルールと確認の手順によって社員の行動を管理できます。これにより、組織の目標の達成や業績の向上を安定して実現しやすくなります。
  2. 事故が起きにくい: 金銭や情報を扱う場面で、一人に権限が集中しない形を作れます。結果として、社員を疑わずに済む状態を保てます。

しかしながら、性悪説の採用には以下のデメリットも考慮する必要があります。

性悪説を採用した場合のデメリット

  1. やる気が下がる: 疑われていると感じた社員は、決められたこと以外をやらなくなります。工夫や提案が出てこなくなり、改善が止まります。
  2. 手続きが増え続ける: 問題が起きるたびにルールを足していくと、確認のための確認が生まれます。本来の仕事に使える時間が減っていきます。

結論:どちらかを選ぶ問題ではない

ここまで読んで、答えが出ないと感じられたかもしれません。それで正しいのです。この問いは、どちらかを選べば解決するようにはできていません。

理由は単純です。同じ人が、環境によって善くも悪くも動くからです。現金を一人で扱う仕組みにしておいて、問題が起きてから「あの人は悪い人だった」と結論づける。これは会社でよく起こることですが、順序が逆です。一人に任せた仕組みのほうに原因があります。

ですから、経営者が置くべき問いは「社員は善か悪か」ではありません。「善い行動が自然に取れる形になっているか」です。この問いに変えると、やることがはっきりします。

  • 判断の基準を先に共有する。何を大事にする会社なのかを言葉にしておきます。コアバリューがその役割を果たします
  • 基準に合う人を入口で選ぶ。入社後に人を変えようとするより確実です。カルチャーフィット採用の考え方が使えます
  • 事故が起きる形を残さない。権限を分け、記録が残るようにします。これは疑うためではなく、疑わずに済ませるための設計です

この3つがそろうと、性善説か性悪説かという問いは消えます。人を信じるか疑うかではなく、善い行動が続く形を用意できているかどうかが論点になるからです。

 

性善説と性悪説についてよくある質問

性善説と性悪説、どちらが正しいのですか?

どちらか一方が正しいという決着はついていません。2000年以上議論が続いていること自体が、その証拠です。経営の場面では、どちらが正しいかを決めるより、どちらの前提でどの仕組みを作るかを場面ごとに選ぶほうが実用的です。

「性善説に立つ」とはどういう意味ですか?

相手が善意で行動すると前提を置く、という意味です。「経費精算は性善説に立つ」と言えば、不正はしない前提で運用するということになります。思想としての性善説とは少しずれた、日常的な使い方です。

性善説と性悪説は対立する考えですか?

学派としては対立していません。孟子も荀子も儒家であり、どちらも「人は善くなれる」と考えています。違うのは、その善が生まれつき内にあるのか、後から身につけるものなのかという点です。

採用面接では性善説と性悪説のどちらで臨むべきですか?

どちらでもありません。相手の善悪を見抜こうとすると、面接官の主観に左右されます。見るべきは、自社が大事にしている価値観と本人の行動が合っているかどうかです。過去の具体的な行動を聞くと判断できます。

就業規則やルールは性悪説にあたりますか?

形としてはそうなりますが、目的は別のところにあります。ルールは社員を縛るためではなく、判断に迷わせないためのものです。「これは決まっているから考えなくていい」という範囲を作ると、社員は本来考えるべきことに時間を使えます。

まとめ:社長の価値観に合う仕組みを作る

以上、性善説と性悪説を比較し、それぞれを採用した場合のメリット、デメリットを見てきました。

どちらを採用するにしろ、人が善の行動を取れるように会社の仕組みを作る必要があることには変わりがありません。自身の組織や状況に応じて適切なバランスを見極める必要があるでしょう。

言い換えれば、社員の性質を見極めることに時間を使うより、会社の仕組みを整えるほうが、経営者の時間の使い方としては確実です。

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