AIで業務を自動化するとは、これまで人が手を動かしていた仕事の一部を、AIが決まった手順と基準に沿って処理する状態をつくることです。問い合わせへの返信の下書き、会議の要約、日報の集計などが代表的な例です。
ところが、AIを契約して社員に使わせてみても、自動化まで進む会社は多くありません。個人が調べものに使う段階で止まり、会社の仕事の流れは何も変わらないままになりがちです。
自動化が止まる原因は、AIの性能よりも「業務が書き出されていない」ことにあります。やり方が担当者の頭の中にしかない仕事は、社員にも任せられませんし、AIにも渡せません。
この記事では、AIに任せる仕事の見分け方と自動化を進める5つのステップを解説します。人が確認する箇所の決め方もあわせてお伝えします。
1. AIによる業務自動化とは?業務改善・効率化との違い
自動化・効率化・業務改善はそれぞれ別のもの
似た言葉ですが、目指すところが違います。
- 効率化……同じ仕事を、より短い時間や少ない手間で終わらせること
- 自動化……人が手を動かさなくても、仕事が決まった手順で進むようにすること
- 業務改善……仕事のやり方そのものを、よりよい結果が出る形に変えること
AIが得意なのは、決まったやり方を速く、繰り返し回すことです。やり方そのものがよいかどうかは判断してくれません。ムダの多い手順をそのままAIに渡すと、ムダが速く回るだけです。だからAIでの自動化は、業務改善とセットで考える必要があります。
これまでの自動化とAIの違い
これまでの自動化の道具は、決められた操作を順番どおりに繰り返すものでした。入力欄の位置が一つ変わるだけで止まってしまうこともあります。
AIは文章を読み、文章を書けます。問い合わせを読んで種類を分ける。要点をまとめる。返信の下書きを作る。こうした、ある程度の判断を伴う仕事まで担えるようになりました。
ただし、何を基準に判断するかは、人が言葉にして渡す必要があります。「いい感じに対応しておいて」では、AIも新人社員と同じように迷います。ここが、自動化が止まるいちばんの分かれ目です。
2. AIで業務の自動化が止まる会社の共通点
社員に任せられない仕事は、AIにも任せられない
AIに仕事を渡すことは、新しく入った人に仕事を任せることとよく似ています。仕事の目的と手順、できあがりの基準、迷ったときの判断の仕方。これらが伝わらなければ、人でもAIでも期待どおりの結果は出ません。
社長しかやり方を知らない仕事は、社員に任せようとしても「自分でやったほうが早い」で終わりがちです。同じ仕事をAIに渡そうとしても、結局は社長が全部の出力を確認して直すことになります。自動化したつもりが、確認の仕事が一つ増えただけ、という状態です。
業務の状態は4段階に分けられる
『仕組み化の経営術』(清水直樹 著)では、いま行っている業務を次の4段階で評価することを勧めています。この段階は、そのままAIに渡せるかどうかの目安になります。
- 段階1:その人しかできないブラックボックスの状態……AIに渡す材料がない
- 段階2:担当者の知識を書き出しただけの状態……手順はあっても判断の基準がなく、AIは迷う箇所で誤る
- 段階3:目的に沿って書かれ、コツや判断基準まで含めて引き継げる状態……AIに渡せる
- 段階4:業務を改善する場が定期的にある状態……AIの出力のずれを、やり方の改善につなげられる
多くの会社で、AIに渡そうとしている仕事は段階1か段階2にあります。自動化の前に必要なのは、AIの選び方ではなく、業務を段階3まで書き上げることです。
原因は社員の力量ではなく、書く工程がないこと
業務が書き出されていないのは、社員の怠慢でも社長の能力不足でもありません。忙しい会社ほど目の前の仕事で手一杯になり、やり方を書き残す時間が業務のなかに組み込まれていません。
人が少ないうちは、書かなくても回ります。しかし人が増えると、社長に確認が集まり、社長の手が空かなくなります。AIの導入は、この「書く工程」を会社に組み込むきっかけとして使うのがいちばん効果的です。業務を手順にしていく進め方は、業務標準化とは?進め方5ステップと進まない5つの理由でも詳しく解説しています。
3. AIに任せる仕事・任せない仕事の見分け方
見分けるための3つの問い
どの仕事をAIに任せるかは、次の3つの問いで見分けます。
- 判断の基準が言葉になっているか……「この場合はこうする」を文章で書けるか。書けない仕事は、先に基準を言葉にする
- 間違えたときの影響を、確認で止められるか……外に出る前に人が見られるか。取り返しのつかない仕事は、最後の判断を人に残す
- 繰り返し発生するか……月に1回しかない仕事は、手順を整える手間のほうが大きいことがある
3つとも当てはまる仕事から始めると、失敗が小さく、効果が見えやすくなります。
AIに任せやすい仕事の例
- よくある問い合わせへの返信の下書き
- 会議の記録の要約と、決まったことの一覧づくり
- 日報や週報の集計と、気になる記述の抜き出し
- 社内規程や手順書についての質問への一次回答
- 求人票、案内文、お知らせの下書き
- 見積もりや提案書のひな形への入力
共通しているのは、「下書き」「集計」「一次回答」までをAIが担い、最後に人が確かめる形にできることです。
人に残す仕事
- 採用の可否、値引き、契約条件など、会社として責任を負う最終判断
- クレームへの最終回答など、相手との関係で中身が変わる仕事
- 前例がなく、判断の基準がまだ決まっていない仕事
- 会社が何を大切にし、お客様に何を約束するかを決める仕事
最後の一つは社長の仕事です。AIは決まった基準で回すのは得意ですが、基準そのものを決めることはできません。社長が意思決定の基準を言葉にする考え方は、AI社長とは?作り方5ステップと導入事例、メリット・リスクで紹介しています。
AIに仕事を任せるデメリットと注意点
AIに任せることには、次のようなデメリットもあります。
- 誤りをもっともらしく書く……数字、日付、社名、法律の条文などを、それらしく間違えることがある
- 情報が外に出るおそれがある……入力した内容の扱いはサービスや設定によって違う
- 判断の理由が残らない……なぜその結論になったのかを、あとから確かめにくい
- 仕事の中身が分かる人がいなくなる……AIに任せきりにすると、やり方を知る人が社内から消える
とくに見落とされやすいのが4つ目です。ベテランの頭の中にあったブラックボックスが、AIの中に移っただけという状態になりかねません。これを防ぐ方法は一つで、手順と基準を人が読める文書として残し、AIにはその文書に沿って動いてもらうことです。
4. AIで業務を自動化する5ステップ
ステップ1:いま行っている業務を洗い出す
まず、会社でいま行われている業務をすべて書き出します。社長が一人で書くのではなく、各メンバーに自分の担当業務を書き出してもらい、それを突き合わせるのが近道です。
洗い出すときは、業務を次の3つの箱に分けると漏れが減ります。
- マネジメント……会議、計画、お金の管理など、会社全体を運営する仕事
- 価値提供……集客、営業、サービスの提供など、お客様に価値を届ける仕事
- サポート……採用、総務、人事など、社員が働く環境を整える仕事
洗い出した業務は、先ほどの4段階で評価しておきます。仕事の流れを人から人へ追うと、ブラックボックスになっている箇所が見つけやすくなります。流れの描き方は業務フロー図とは?書き方5ステップと記号・テンプレートを参考にしてください。
ステップ2:自動化する業務を一つ選ぶ
洗い出した業務のなかから、前の章の3つの問いに当てはまるものを選びます。迷ったら、ミスが多い仕事、社長や特定の人の手が止まると流れ全体が止まる仕事から手を付けます。
最初は一つに絞ります。いくつも同時に始めると、どこで何がずれたのかが分からなくなります。一つ回ったら、その経験を次に使えます。
ステップ3:手順と判断の基準を書く
選んだ業務の手順を、AIに渡せる段階3まで書き上げます。書くのは社長ではなく、その仕事をいちばんよく知っている人です。社長が書くと、現場のやり方とずれることがあります。
書く内容は次のとおりです。
- 目的……この仕事は何のためにあるのか
- できあがりの基準……どうなっていれば完了か
- 手順……何をどの順番でするか
- 迷う箇所の基準と理由……「この場合はこうする。なぜなら」
- 使ってはいけない情報と、人に回す条件……どんなときはAIで処理せず人に渡すか
ここで書いた文書が、そのままAIへの指示の土台になります。手順書の書き方はSOPとは?作業手順書の書き方とテンプレートで、ベテランの判断を言葉にするコツは暗黙知を形式知に変える方法で解説しています。
ステップ4:一部で試し、人が確認する
いきなりすべてをAIに任せず、一部の案件や一部の期間で試します。この段階では、AIが出したものを外に出す前に、必ず人が確認します。
確認する人と、確認する箇所をあらかじめ決めておきます。確認した人は、直した箇所とその理由を記録しておきます。この記録が次のステップの材料になります。
ステップ5:ずれを直して、任せる範囲を広げる
AIの出力と、人が期待した結果のずれを見直します。ずれの多くは、手順書に書かれていなかった判断から生まれます。
ここで大事なのは、AIへの指示だけを直すのではなく、手順書のほうを直すことです。指示だけを書き換えていくと、AIへの指示と人が読む手順書が別物になり、やり方が再びブラックボックスになります。手順書を直し、その手順書をAIに渡す、という順番を守ります。
ずれが減ってきたら、確認の範囲を少しずつ狭め、任せる範囲を広げます。処理にかかる時間や手直しの件数を、始める前と比べて記録しておくと、次にどの業務へ広げるかを判断しやすくなります。仕事を任せる段階の考え方は、人への任せ方と同じです(参考:仕事の任せ方|部下に仕事を任せる5ステップと権限委譲のコツ)。
5. 人が確認する箇所と、AIに入れない情報を決める
人が確認する箇所
自動化が進んでも、次の箇所は人が確認する形を残しておきます。
- お客様や取引先など、社外に出る前
- 金額、日付、社名、法律や規程の条文が含まれるとき
- 送信や支払いなど、取り消しにくい操作の前
確認する人を一人に固定すると、その人が新しいボトルネックになります。誰が何を確認するかも手順書に書き、交代できるようにしておきます。
AIに入れない情報
会社として、AIに入力しない情報を決めて文書にしておきます。たとえば、お客様の個人情報、公表前の数字、取引先との契約で秘密とされている情報などです。
入力した情報がどう扱われるかは、使うサービスや契約、設定によって変わります。設定に頼るより、「入れないもの」を先に決めておくほうが確実です。決めたことは手順書の一項目として書き、AIに渡す仕事の手順にも含めておきます。
6. AIの業務代行サービスと、自社で作る自動化の違い
AIを使った業務代行サービスに、仕事ごと任せるという方法もあります。立ち上がりは速く、社内に詳しい人がいなくても始められます。
一方で、仕事のやり方は会社の外にあることになります。サービスをやめたとき、担当者が替わったときに、やり方が会社に残りません。
自社で書いた手順でAIを回す形は、時間がかかります。そのかわり、やり方が会社の財産として残ります。使うAIを替えても、手順書があれば移し替えられます。外から入れた型は、外からの支えがなくなると元に戻ります。自分たちで作ったやり方は、自分たちで守ります。
仕組み経営が、AIの活用でも「導入ではなく、作る」ことを大切にしているのはこのためです。上から入れるのではなく、その仕事を知っている現場の人が手順を作る。作った仕組みを、AIで回す。この順番が、自動化を長続きさせます。
7. AIによる業務自動化についてよくある質問
何から始めればいいですか?
社長や特定の社員のところで止まりがちな、繰り返し発生する仕事を一つ選んでください。その仕事の目的と、できあがりの基準を書くところから始めます。AIのサービス選びは、そのあとで十分です。
社員から「仕事を奪われる」と反発されませんか?
手順を書くのをその仕事の担当者にお願いし、AIに任せて空いた時間を何に使うかを先に話し合っておくと、反発はおきにくくなります。担当者が自分のやり方を自分で整える作業なので、押しつけにはなりません。
AIに詳しい専任の担当者が必要ですか?
中小企業では、専任のチームを先に作るより、その仕事をしている人が手順を書くほうが進みます。導入そのものが目的になってしまうのを防げます。
どのAIツールを使えばいいですか?
ツールより先に手順です。手順と基準が書かれていれば、どのツールでも渡せますし、あとから替えることもできます。生成AIを業務で使った例は、生成AIのビジネス活用事例6選にまとめています。
判断が必要で、手順にできない仕事はどうすればいいですか?
仕事をいくつかの部分に分けてみてください。判断が必要な部分は人に残します。その前後の調べものや集計、下書きはAIに任せられます。手順にしにくい仕事の扱い方は、マニュアル化できない仕事の任せ方で解説しています。
まとめ
AIで業務の自動化が止まる原因は、AIの性能よりも、業務が書き出されていないことにあります。社員に任せられない仕事は、AIにも任せられません。
進め方は5ステップです。業務を洗い出し、任せる仕事を一つ選び、手順と判断の基準を書きます。一部で試して人が確認し、ずれを手順書に戻しながら範囲を広げます。
手順として書かれた仕事は、担当者が替わっても、使うAIが替わっても会社に残ります。社長が現場を離れても回る会社は、社長がいつか引退したあとも続いていく会社です。
まず一つ、書き出してみましょう。
詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。


