AIを使うと、業務フロー図やマニュアルを作る時間は大きく縮められます。話した内容を文字にする、ばらばらのメモを手順に並べる、手順を図の形に直す。こうした作業はAIの得意分野です。
一方で、AIに「〇〇業務のマニュアルを作って」とだけ頼んでも、現場で使えるものはできません。出てくるのは、どの会社にも当てはまる一般的な手順です。あなたの会社のやり方、つまり「どこで迷い、何を基準に決めているか」は、その仕事を知っている人の頭の中にしかないからです。
この記事では、AIに任せる部分と人が書く部分を分けたうえで、業務フロー図とマニュアルを作る5つの手順を解説します。そのまま使える指示の例と、AIに入力してはいけない情報の注意点もまとめました。
1. AIで業務フロー図・マニュアルは作れるのか?
結論から言うと、作れます。ただし、AIが作れるのは「形」までです。中身はその仕事を知っている人から引き出す必要があります。
AIが速くしてくれる3つの作業
マニュアルづくりで時間がかかるのは、実は考える作業よりも、書いて整える作業です。AIはこの部分を大きく短くしてくれます。
- 書き出す……担当者が口で説明した内容を文字にする。録音を文字に起こし、話し言葉を読める文章に直す
- 整える……思いついた順に話した内容を、作業の順番に並べ替える。抜けている手順や、重複している説明を指摘させる
- 図にする……手順を「誰が・何をして・誰に渡すか」の形に分け、業務フロー図の下書きにする
これまでマニュアルづくりが進まなかった会社の多くは、書く時間が取れずに止まっていました。書く手間をAIに肩代わりしてもらえば、担当者は話すだけで済みます。ここが、AIを使ういちばん大きな利点です。
AIでは作れないもの|判断の基準と理由
著書『仕組み化の経営術』では、業務の仕組み化の状態を4段階で評価しています。
- 段階1……その人しかできないブラックボックスの状態
- 段階2……業務が文章になっている。ただし担当者の知識を書き出しただけの状態
- 段階3……目的に沿って書かれ、コツや判断基準まで含まれていて、引き継ぎができる状態
- 段階4……業務を改善する場が定期的に用意されている状態
AIが速くしてくれるのは、段階1から段階2への移動です。話した内容を文章にし、手順に並べる作業だからです。
しかし、現場で使われるマニュアルになるのは段階3からです。「この場合はAを選ぶ。理由はこうだから」という判断の基準と理由は、AIには分かりません。AIに書かせると、もっともらしい一般論で埋めてしまいます。段階2から段階3へ上げる作業だけは、その仕事を知っている人が担います。
暗黙のコツを言葉にする方法は、暗黙知を形式知に変える方法で詳しく解説しています。
2. AIに任せる部分と、人が書く部分
作業を分けると、次のようになります。
- AIに任せる……文字起こし、話し言葉の整理、手順の並べ替え、表現の統一、業務フロー図の下書き、抜けや矛盾の指摘
- 人が書く……この業務の目的、できあがりの基準、迷う場面での判断基準とその理由、例外の扱い、やってはいけないこと
- 人が確かめる……AIが書いた手順が実際のやり方と合っているか、数字や社内ルールが正しいか
ここで大事なのは、「人が書く」部分を担うのは誰かです。社長が全部を書く必要はありません。その仕事をいちばんよくやり込んでいて、お客様の声を直に聞いている人が書き手になります。
マニュアルづくりは、上から入れるのではなく、現場が作るものです。現場の人が自分の仕事を説明し、AIがそれを文章にする。この分担なら、現場に「書かされている」という負担感も生まれにくくなります。自分たちの仕事のやり方を自分たちで書いたマニュアルは、そのあとも自分たちで直していけます。
3. AIで業務フロー図・マニュアルを作る5つの手順
ここからは、実際の進め方を5つの手順で紹介します。
手順1. 対象の業務を一つだけ選ぶ
最初から全部の業務をマニュアルにしようとすると、まず止まります。一つだけ選んでください。選ぶときは、次のどれかに当てはまる業務から始めるのが近道です。
- ミスやトラブルが何度も起きている業務
- 一人しかやり方を知らず、その人が休むと止まる業務
- 近いうちに誰かに引き継ぐ予定がある業務
- 人によってやり方がばらばらで、仕上がりに差が出ている業務
まずは目の前の火を消す業務を選ぶ、と考えると決めやすくなります。
手順2. その仕事を知っている人に話してもらう
次に、その業務をいちばんよく知っている人に、やり方を説明してもらいます。書いてもらう必要はありません。話してもらい、録音しておけば十分です。
漫然と話してもらうと、いつもうまくいく流れだけが語られます。次のような問いを投げると、マニュアルに必要な中身が出てきます。
- この仕事は、何をきっかけに始まりますか?
- どうなったら「終わった」と言えますか?
- 途中で迷うのは、どの場面ですか? そのとき何を見て決めていますか?
- 新しく入った人が、よく間違えるのはどこですか?
- これだけはやってはいけない、ということはありますか?
特に3つ目の問いへの答えが、あとで段階3の中身になります。ここは聞き流さず、「なぜそうするのか」まで聞いておきます。
手順3. AIで手順書と業務フローの下書きを作る
録音を文字に起こしたら、AIに手順書の形へ整えてもらいます。指示の例は次の章でまとめて紹介します。
業務フロー図を作るときは、いきなり図を描かせないのがコツです。まず「担当者・作業・次に渡す相手・使う書類やツール」の4つに分けた一覧にしてもらいます。一覧の形で中身を確かめてから図にすると、手戻りが少なくなります。
一覧ができたら、作図ツールやエクセルで図に描き起こします。AIによっては、図を描くための書式で出力し、そのまま図にできるものもあります。ただ、どの方法でも、担当者の切り分けと受け渡しの順番が正しいかは人の目で確かめてください。業務フロー図の記号や書き方の基本は、業務フロー図とは?書き方5ステップと記号・テンプレートにまとめています。
手順4. 迷う箇所に「基準」と「理由」を書き足す
AIが作った下書きは、段階2の状態です。ここから段階3へ上げます。
すべての手順に説明を足す必要はありません。迷いやすい箇所と、間違えると困る箇所にだけ、判断の基準と理由を書き足します。手順2で聞いた「迷う場面」の答えを、ここに入れていきます。
このとき、AIを相談相手として使うこともできます。下書きを渡して「この手順書を初めて読む人が迷いそうな箇所を挙げてください」と頼むと、基準が抜けている箇所の候補を出してくれます。ただし、その基準を決めるのは人です。AIが出した答えをそのまま基準にしないでください。
一つの作業を細かく書く場合の項目や書き方は、SOP(作業手順書)の書き方が参考になります。
手順5. 初めての人に使ってもらい、直す
できたマニュアルは、その業務をやったことのない人に渡し、手順のとおりにやってもらいます。つまずいた箇所、意味が分からなかった言葉に印を付けてもらい、書き直します。
書いた本人が読んで分かるかどうかは、判断の基準になりません。初めての人が読んで迷わないかで判断します。
最後に、このマニュアルを誰がいつ更新するかを決めておきます。やり方が変わったのにマニュアルが古いままだと、すぐに使われなくなります。形骸化を防ぐ方法は、マニュアルが活用されない3つの理由で解説しています。
4. そのまま使えるAIへの指示の例
AIへの指示は、具体的なほど使える答えが返ってきます。ここでは、手順3と手順4で使える指示の例を3つ紹介します。〔 〕の中は自社の内容に置き換えてください。
例1. 話した内容を手順書にする
「以下は、〔請求書の発行〕業務の担当者が、やり方を口で説明した内容の文字起こしです。この内容を、初めてこの業務を担当する人向けの手順書に整えてください。手順には番号を付け、一つの手順には一つの作業だけを書いてください。文字起こしに出てこない手順は、勝手に足さないでください。説明が足りないと思う箇所は、手順書とは別に質問として一覧にしてください。」
「勝手に足さないで」「足りない箇所は質問にして」の2つが要です。これを入れないと、AIは一般的な手順で空白を埋めてしまいます。
例2. 手順書から業務フローの一覧を作る
「以下の手順書をもとに、業務フロー図を作るための一覧を作ってください。列は『番号・担当者・作業・次に渡す相手・使う書類やツール』の5つにしてください。担当者がはっきりしない手順には、担当者の欄に『要確認』と書いてください。」
担当者が書かれていない手順は、実際の現場でも担当があいまいになっていることがよくあります。「要確認」の欄が、業務を見直す手がかりになります。
例3. 抜けと迷う箇所を指摘してもらう
「以下の手順書を、この業務を初めて担当する人の立場で読んでください。そのうえで、①手順が抜けていそうな箇所、②判断の基準が書かれておらず迷いそうな箇所、③社内でしか通じない言葉、の3つを挙げてください。答えを考える必要はありません。箇所の指摘だけをしてください。」
ここでも「答えは考えなくてよい」と伝えるのがコツです。AIには迷う箇所を見つけてもらい、基準は現場の人が決めます。
5. AIでマニュアルを作るときの注意点
AIに入力してはいけない情報を先に決める
いちばん大切な注意点です。お客様の氏名や連絡先、社員の個人情報、取引先との契約条件、公表していない数字などは、AIに入力しないでください。
AIのサービスには、入力した内容の扱いについて設定や利用条件が定められています。ただ、設定に頼るよりも、「何を入力しないか」を社内で決めておくほうが確実です。文字起こしの段階で、固有名詞を「A社」「担当者B」のように置き換えてから渡す方法もあります。
AIは知らないことも、もっともらしく書く
AIは、分からない部分を一般的な内容で補って、自然な文章にしてしまいます。数字、期限、金額、社内の決まりごとは、必ず元の説明や社内資料と突き合わせて確かめます。
表現のルールをそろえておく
マニュアルを何本も作るなら、表現をそろえておくと読みやすくなります。たとえば「作業する人を主語にする」「ですます調で書く」「〜してくださいではなく〜しますと言い切る」といったルールです。こうしたルールをAIへの指示に毎回含めておくと、書き手が違っても仕上がりがそろいます。
作って終わりにしない
AIを使うと、マニュアルは短い時間で何本も作れます。そのぶん、作ったまま誰も更新しないマニュアルが増えやすくなります。本数を増やすより、一本ずつ「使われている」状態にすることを優先してください。マニュアル全体の体系や種類については、マニュアルの作り方7ステップで整理しています。
6. AIで業務フロー図・マニュアルを作るときのよくある質問
どのAIを使えばいいですか?
会社として使ってよいと決めたものを使ってください。文章を整える、手順に並べるといった作業は、対話型のAIであれば一通りこなせます。どのAIを使うかより、何を入力し、どう指示するかのほうが仕上がりを左右します。マニュアル以外の業務でのAIの使いどころは、生成AIのビジネス活用事例6選で紹介しています。
AIで作ったマニュアルは、現場で使われますか?
AIが作った下書きのままでは、使われにくいのが実情です。どの会社にも当てはまる一般論になりがちだからです。手順4で、迷う箇所に自社の基準と理由を書き足して、はじめて現場で使えるものになります。
マニュアル作成をAIや外部に丸ごと任せられますか?
文章を整える作業は任せられます。しかし、自社の判断基準を決める作業は任せられません。手順に分けにくい仕事の扱い方は、マニュアル化できない仕事の任せ方で解説しています。
業務フロー図とマニュアルは、どちらから作るべきですか?
人から人へ仕事が渡る業務なら、業務フロー図から作ると全体がつかめます。一人で完結する作業なら、手順書から作れば十分です。業務の全体像を整理したいときは、業務プロセスとは?もあわせてご覧ください。
まとめ
AIを使えば、業務フロー図やマニュアルを作る時間は大きく縮められます。AIが得意なのは、話した内容を文字にし、手順に並べ、図の形に整える作業です。
ただし、現場で使えるマニュアルに欠かせない「迷う場面での判断基準とその理由」は、その仕事を知っている人からしか出てきません。形はAIに任せ、中身は現場の人が書く。この分担が、AIでマニュアルを作るときのいちばんの要です。
作った業務フロー図とマニュアルは、そのあとAIで業務を回していくときの土台にもなります。やり方が言葉になっていない業務は、人にもAIにも任せられないからです。社長がいなくても回る会社へ近づける考え方は、自分がいなくても回る仕組みの作り方でまとめています。
まず一つ、書き出してみましょう。いちばんミスが多い業務を一つ選び、担当者に10分だけ話してもらうところからで十分です。
詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。


