分業化とは

分業とは?分業化・分業制の意味とメリット・デメリット



清水直樹
今日は分業のデメリットとその対処法をご紹介していきます。人を増やしたのに以前より会社が回らなくなった、という感覚がある社長はぜひご覧ください。

分業とは、ひとりが担っていた仕事を工程や機能ごとに切り分け、複数の担当者に割り当てることです。これを制度として組織に組み込んだ状態を分業制、その徹底した形を完全分業制と呼びます。

分業は組織づくりの出発点です。しかし、単に業務を切り分けただけの分業は、生産性を上げるどころか、社員のモチベーションを下げ、かえって会社全体のパフォーマンスを落とします。ここでは分業の意味と種類を整理したうえで、中小企業が実際にぶつかる4つのデメリットと、その克服方法を解説していきます。

分業とは?分業化の意味

分業とは、その名の通り、業務を複数人で分担して行うことです。ひとりの人間が最初から最後まで担っていた仕事を、工程や機能ごとに切り分け、それぞれを別の担当者に割り当てる。これが分業化です。

分業は組織創りの基本中の基本であり、”組織創り=いかに分業するか?”と言い換えてもいいほどです。逆に言えば、分業されていない集団は、人数が何人いようと組織とは呼べません。

中小企業においては多くの業務を社長がこなしています。たとえば時に営業、時に開発、時に人事、時に財務、そしてたまに経営の仕事、というようにとにかく現場の仕事を回すのに忙しいのが中小企業の社長です。私たちはこのように社長の職人技で成り立っている会社を職人型ビジネスと呼んでいます。

忙しくしていれば仕事をした気になり、満足感も得られるわけですが、そのままでそれ以上に成長できません。社長があらゆることに足を突っ込んでいるようでは個人事業の延長線上に過ぎず、”会社”とは言えない状態です。職人型ビジネスのままでは社長の時間と体力の限界=会社の限界となり、いずれ破綻する時が来てしまいます。

職人型ビジネスから抜けだしたかったら、社長が行っていることを分業化し、組織作りをしていく必要があります。

分業制・完全分業制とは

分業制とは、分業を一時的なやり方ではなく制度として組織に組み込んだ状態です。誰がどの工程を担当するかが決まっていて、担当者が変わっても同じ形で仕事が回る。ここまで来て初めて分業制と呼べます。手が空いている人がそのつど引き受けているだけなら、それはまだ分業制ではありません。分業体制もほぼ同じ意味で使われる言い方です。

完全分業制は、その徹底した形です。ひとりがひとつの工程だけを担当し、他の工程には手を出しません。美容室でカット・カラー・シャンプーを別の担当者が行う形、飲食店で仕込み・調理・接客を分ける形、医療機関で受付・会計・診療補助を分ける形などが該当します。

完全分業制の利点は3つあります。同じ作業を繰り返すので習熟がもっとも早いこと。覚える範囲が狭いので採用と教育がしやすいこと。工程ごとに成果を測れるので改善の的が絞れることです。

一方で弱点も3つあります。ひとり休むとその工程が丸ごと止まること。工程と工程の間で情報が落ちること。自分の担当の外に関心が向かなくなることです。

完全分業制がうまく回らないとき、原因は社員の協調性ではありません。工程と工程の間を誰が見るのかが、どこにも決まっていないだけです。担当を割り当てるときは、必ず同時に「工程のつなぎ目を誰が見るか」を決めてください。ここが空欄のまま人を増やすと、引き継ぎの漏れが増えていきます。

なお、完全分業制の反対側にあるのが多能工化です。ひとりが複数の工程をこなせるようにする考え方で、休みや繁閑の波に強くなります。どちらが正しいという話ではなく、自社の仕事量の波と人数によって、どのあたりで折り合いをつけるかを決めることになります。

水平的分業と垂直的分業

ひとくちに分業といっても、切り方は大きく二種類あります。

垂直分業と水平分業

水平的分業は、同じ階層の中で仕事の内容によって分ける切り方です。営業、製造、経理、カスタマーサポートというように機能で分けるのが典型で、機能別分業とも呼ばれます。専門性を高めやすい反面、部門同士の連携が切れやすいという性質を持っています。直接売上を生む部門と、それを支える部門をどう分けるかについてはライン部門とスタッフ部門の違いで詳しく扱っています。

垂直的分業は、意思決定と実行を階層で分ける切り方です。計画を立てる人と、実行する人を分ける。社長・部門長・現場担当という指揮系統をつくるのがこれにあたります。中小企業でボトルネックになりやすいのは、実はこちらです。作業は分けたのに、判断だけは全部社長に上がってくる。この状態は水平的分業だけが進み、垂直的分業が進んでいない典型例といえます。

アダム・スミスのピン工場が示したこと

分業の効果を最初に体系的に説明したのは、経済学者アダム・スミスです。『国富論』の冒頭で紹介されるピン工場の例では、ひとりの職人がピンを最初から最後まで作ると1日に数十本がやっとなのに対し、針金を伸ばす・切る・尖らせる・頭をつけるといった工程に分けて分担すると、ひとりあたりの生産量が桁違いに増えたとされています。

理由は三つで、同じ作業の繰り返しによって習熟が早まること、工程間の切り替えにかかる時間が消えること、そして工程が単純化されることで機械化や道具の工夫が可能になることです。この三つは、200年以上経った今の会社でもそのまま当てはまります。

分業化のメリット

分業を進めることで得られるメリットを整理しておきましょう。

生産性が上がる——ひとつの業務に集中することで習熟が早まり、同じ時間でこなせる量が増えます。あれもこれもと切り替えながら働く状態では、切り替えのたびに集中力が失われています。

専門性が育つ——特定領域を担い続けることで、その分野の知識と判断力が蓄積されます。社長がすべてを浅く広くやっている状態からは、決して生まれない深さです。

標準化・仕組み化がしやすくなる——業務が切り分けられて初めて、その業務の手順を書き出すことができます。分業は、マニュアル化や業務標準化の前提条件でもあります。

採用と教育がしやすくなる——担当する範囲が決まっていれば、募集要件を書けます。何でもできる人を探す採用は、いつまでも決まりません。教える側も、教える範囲が決まっていれば準備ができます。

改善する場所を特定できる——工程が分かれて初めて、どこで時間がかかっているのかを測れます。ひとりが全部を抱えている状態では、遅い原因がどこにあるのかを誰も言えません。


社長が経営の仕事に戻れる——これが中小企業にとって最大のメリットです。現場業務を分業できれば、社長は本来やるべき経営の仕事、つまり会社の方向性を決める仕事に時間を使えるようになります。具体的な渡し方は仕事を任せる仕組みで解説しています。

分業化のデメリットと弊害

会社を成長させるには分業しなくてはいけない。しかし一方で分業化のデメリットもあります。私たちが支援の現場で目にする弊害は、主に次の四つです。

1. 仕事の全体像が見えなくなり、モチベーションが下がる

分業されたことで仕事の全体像がわからなくなり、仕事が単純な作業になってしまい、社員のモチベーションが下がることがあります。自分がやっていることが何につながっているのかわからないまま、目の前の処理だけを繰り返す状態です。仕事へのモチベーションが下がるとミスが増えたり、仕事の遅延が起こったりします。

厄介なのは、この症状が「やる気の問題」として個人に帰せられがちなことです。実際には設計の問題であり、担当者を入れ替えても同じことが起こります。

2. 部門間・担当者間の関係が悪くなる

他の人の仕事内容が見えなくなることで、「私はこんなに頑張っているのに、彼らの仕事が遅いから・・」というような人間関係の悪化が起こります。相手の仕事の中身が見えないと、人は相手を軽く見積もります。

これが部門単位で起きたものが、いわゆるセクショナリズムです。それぞれの部門が自部門の最適化だけを追いかけ、会社全体としての優先順位が曖昧になっていきます。分業が進んだ会社ほど、部門をまたいだ調整に時間を取られるようになるのは、このためです。分業と調整をひとつの流れとして設計する考え方は組織づくり完全ガイドにまとめてあります。

3. 属人化し、誰かが抜けるとカバーできない

分業を進めた結果、その業務を知っているのがひとりだけ、という状態が生まれます。誰かが休んだり辞めた時に、他の人がカバーできない。分業したはずが、実は依存先が社長から特定の社員に移っただけだった、というケースは非常に多いです。

分業とマニュアル化はセットで進めなければならない、というのはこの理由からです。切り分けただけで手順が言語化されていない分業は、属人化を増やす行為でしかありません。

4. 行き過ぎた分業は調整の手間を増やす

分業は細かくすればするほど良いものではありません。工程を細かく割るほど、工程と工程の受け渡しの回数が増えます。受け渡しが増えれば、そのたびに確認と待ち時間が発生します。

現場で起きるのは、たとえばこうしたことです。ひとつの依頼が3人の手を経由するようになり、途中で止まっていても誰も気づかない。担当の境目にある仕事を、両方が相手の担当だと思って放置する。会議の出席者が増え、決めるまでの日数が伸びる。

切る前より遅くなったなら、それは分業のやり方ではなく、切る細かさが行き過ぎたサインです。目安は、その仕事がひとつのまとまりとして意味を持つかどうかです。意味のまとまりを割ってしまうと、担当者は自分が何を達成したのかを言えなくなります。

分業化のデメリットを克服するには?

ではそのようなデメリットをどう克服すればいいのでしょうか?

カギとなるのは、”仕事の有意性”というキーワードです。これを説明するのにひとつエピソードをご紹介します。

パラシュートの落下事故が多いのはなぜか?

分業のデメリットと仕事の有意性

話は遡り、第二次世界大戦中のこと。

空軍は地上に降り立つために、パラシュートを使っていました。

そのパラシュートを梱包し、バックパックの中に詰めるのは、女性の仕事でした。これも一つの分業です。

”ミッションの成功”を目的として、

パラシュートを梱包するのは女性

パラシュートを使って地上に降り立つのは兵士

というように業務を分業していたわけです。

この時、ひとつ問題がありました。それは、パラシュートが開かず、落下してしまう事故が頻繁に起こっていたことです。

パラシュートが開かないのは、梱包の仕方に誤りがあったことが原因です。つまり女性側の作業に問題が多く起こっていたのです。先ほど言った通り、分業したことで仕事にミスが増えていたのです。

ミスを減らすためにやったことは?

そこで、この分業のデメリットを克服するために何をしたか?

普通なら女性側の作業を厳しくチェックする体制を作りそうなものです。


しかし、この時行われたのは、パラシュートを梱包する女性たちと、それを使う兵隊を定期的に交流させ、仲良くさせたことです。

そうすると、開かないパラシュートの数が大幅に減少したそうです。

これは何を意味するのか?

それまで女性たちは、自分たちが梱包しているパラシュートが実際にどんなふうに使われているのかを知らなかったのです。

誰が使うのか、どれだけそれが重要なのか、こういったことを知らずに、ただ目の前にある梱包という仕事を行っているだけでした。

しかし、兵隊と交流することで、自分たちが梱包するパラシュートを使っているのが、若い兵隊であり、梱包に失敗すれば、その命が失われてしまうということを知ったのです。

これを仕事の”有意性”と言います。

自分の仕事がいかに重要であり、意味のあるものであるかを知ることで、仕事の成果やモチベーションが大きく変わるというわけです。

分業をすると、兵隊と交流する前の女性たちのように、自分たちの仕事に有意性を見出せなくなります。

その結果、生産性を上げるために分業したはずなのに、組織全体としてのパフォーマンスが落ちてしまうのです。

分業をする際には、この点に気をつけなくてはいけません。

分業のデメリットを克服するには仕事の有意性がカギを握る

というわけで、この例からも分かる通り、分業のデメリットを克服するには仕事の有意性を感じてもらうことが大切なのです。

そして、有意性を感じてもらうためには、その仕事内容が以下のような特徴を持つことが必要です(ハックマン=オルダム・モデル)。

  • 技能多様性・・・単調な仕事ではなく、自分が持つ多様なスキルや才能を活かせる仕事である
  • タスク完結性・・・始めから終わり(完結)までの全体を理解した上で、関われる仕事である
  • タスク重要性・・・他者の生活や社会にインパクトをもたらす重要な仕事である
  • 自律性・・・進め方やスケジュールを、ある程度自分の裁量で決められる仕事である
  • フィードバック・・・自分の仕事の結果がどうだったかを、直接知ることができる仕事である

前の三つが「仕事の意味」を、四つ目が「結果への責任」を、五つ目が「結果の実感」をつくります。分業化する際には、各業務がこのような特性を持つように設計することが大切になります。

切り分けた後に、つなぎ直す

実務的に言えば、やるべきことは「切り分けたものを、意味の面でつなぎ直す」ことです。パラシュートの例で行われたのが、まさにこれでした。

たとえば、担当者が自社の顧客と直接会う機会をつくる。他部門の仕事を見学する日を設ける。自分の工程のアウトプットが、次の工程でどう使われているかを説明する。お客様の声を、加工せずそのまま現場に流す。どれも大掛かりな制度ではありませんが、有意性を回復させる効果があります。

会社の理念やビジョンが必要になるのも同じ理由です。分業が進むほど、社員一人ひとりが見ている景色はバラバラになります。全員が同じ方向を向くための共通言語がなければ、分業した組織はただ分断された組織になります。

中小企業が分業を進める4つのステップ

最後に、実際に分業化を進める手順を整理しておきます。

ステップ1:現在の業務をすべて書き出す——まずは社長自身が抱えている業務を、大小問わず棚卸しします。ここで多くの社長が、自分がいかに現場に張り付いているかを自覚することになります。自分でやった方が早いと感じている業務ほど、先に書き出してください。

ステップ2:機能で分類し、組織図に落とす——書き出した業務を、営業・マーケティング・製造・管理といった機能ごとにまとめます。今の人数ではなく、会社があるべき姿になったときの機能で描くのがポイントです。人に合わせて組織図を描くと、いつまでも属人的な会社から抜け出せません。

ステップ3:各機能の目的と成果指標を決める——「何をやるか」ではなく「何のためにあり、何が達成されたら成功か」を先に決めます。これが決まっていないと、担当者はタスク完結性も自律性も持てません。

ステップ4:手順を言語化し、引き継げる状態にする——分業と同時にマニュアル化を進めます。ここまでやって初めて、属人化を増やさない分業になります。

分業に関するよくある質問

Q. 分業制と分業化はどう違いますか?

分業化は仕事を切り分けていく動きのこと、分業制はそれが制度として定着した状態のことです。担当が決まっていて、その人が休んでも同じ形で回るなら分業制です。手が空いている人がそのつど引き受けている状態は、まだ分業化の途中と考えてください。

Q. 完全分業制は中小企業に向いていますか?

人数が少ない会社ほど、完全分業制にすると休みや退職に弱くなります。ひとり抜けただけで工程が止まるためです。まずは担当を決めたうえで、主担当と副担当を置く形をおすすめします。そのうえで手順を書き残しておけば、完全分業制の利点である習熟の早さを取りながら、止まるリスクを下げられます。

Q. 社員数が少なくても分業は必要ですか?

必要です。ただし「ひとり一機能」である必要はありません。社員が3人なら、ひとりが複数の機能を兼任する形で構いません。大切なのは、兼任していても、どの機能をどの立場で担っているかが明確になっていることです。役割の境界が曖昧なまま兼任している状態と、明確に定義された複数の役割を兼任している状態は、まったく違います。


Q. 分業を進めたら社員から不満が出ました。どうすればいいですか?

不満の中身を確認してください。「仕事がつまらなくなった」なら有意性の問題であり、本記事で述べた五つの特性のどれかが欠けています。「負担が偏っている」なら業務量の設計の問題です。「何をすればいいかわからない」なら、機能の目的と成果指標が定義されていません。原因によって打ち手が変わります。

Q. 分業とマニュアル化はどちらを先にやるべきですか?

分業が先です。業務が切り分けられていないと、何のマニュアルを作ればよいのかが決まりません。ただし、分業だけで止めると属人化が進むため、必ずセットで進めてください。

Q. 分業しすぎるとどうなりますか?

仕事が細切れになり、技能多様性とタスク完結性が失われます。また、工程間の受け渡しが増えるほど調整コストが膨らみます。分業は細かくすればするほど良いものではなく、その業務が一つのまとまりとして意味を持つ単位で切ることが重要です。

まとめ

まとめますと、

  • 組織作りには、分業が欠かせません。社長依存から抜け出す唯一の道です。
  • 分業を制度として定着させたものが分業制、ひとり一工程まで徹底したものが完全分業制です。
  • しかし、分業すると同時に、各仕事に有意性が見いだせるようにしなくてはいけません。
  • そのためには、各業務に技能多様性、タスク完結性、タスク重要性、自律性、フィードバックという特徴を持たせることが大切です。
  • 分業とマニュアル化はセットで進めなければ、依存先が社長から特定社員に移るだけになります。

ぜひあなたの会社も、上記の条件を満たしているか?という視点で見直してみてください。

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