技能伝承の仕組み

技能継承とは?技能伝承の仕組みと進め方6ステップ・事例



清水直樹
技能を伝承(技能継承)する仕組みは作れるのでしょうか?仕組み化Q&Aシリーズ、今回のご質問は「社長やベテラン社員の技能を伝承する仕組みは、どう創ればいいか?」です。取り組み事例もご紹介していきます。技能・技術というと「ものづくり(製造業)」を思い浮かべる方が多いと思います。本記事では、高度なスキルを必要とするサービス業も対象に入れています。

仕組み化すれば、ベテランの技術や技能を他の人でもすぐにできるようになる。これは大きな幻想です。ただし、仕組みづくりをしなければ技能の伝承が難しいのも事実です。では、どのような仕組みづくりをしていけば良いのでしょうか?

※ポッドキャストでも解説しています。

 

技能伝承とは何か?

技能伝承(技能継承)とは、ベテランの持つ技能や技術を、新人・若手に受け継いでいくことです。ただし時代のニーズや技術は変わり続けています。そのため、これまでの技能をそのまま受け渡すだけでなく、進化させながら受け継いでいくことが求められています。

「今ある技術・技能を現代化し、状況に合わせた技術・技能」へと変化しなければならないことは多い。技術・技能に含まれる暗黙知を明確化し、背景にある原理原則、科学を明らかにして今日の時代に合った現代的な技術・技能にリファインすることが大事になる。これはとりもなおさず、次代の技術・技能を創造することに連なっている。技術・技能伝承とは技術・技能創造でもある。 – 森和夫氏

そう考えると、技能伝承は新しい時代に対応できる人材を育てることでもあります。それは、会社の事業モデルを時代に合わせて変えていくことにもつながります。

技能伝承と技能継承の違い

2つの言葉は、実務ではほぼ同じ意味で使われています。国の調査では「技能継承」、現場や書籍では「技能伝承」と書かれることが多い、という程度の違いです。

あえて言葉の成り立ちで分けると、次のようになります。

  • 伝承(でんしょう)……技や言い伝えを、人から人へ伝えて受け継ぐこと。伝える側に重心がある
  • 継承(けいしょう)……地位・財産・技術などを受け継ぐこと。受け継ぐ側に重心がある

社内で使うときは、どちらかに統一しておけば十分です。ただ、この違いは実務上の注意点を示しています。「伝える」だけで終わって「受け継がれたか」を確認していない会社が多いということです。教えた時間ではなく、受け継いだ人が一人でできるようになったかどうかで進み具合を測ります。

なお、「技術伝承」という言い方もあります。技能伝承が手や体で覚える技を指すことが多いのに対し、技術伝承は知識や設計・判断の方法まで含めて使われる傾向があります。判断の中身を言葉にする方法は、暗黙知を形式知に変える方法で詳しく解説しています。

 

技能伝承における課題と取り組み状況

技能伝承の課題

独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると、技能伝承を重要と考えている企業は多いものの、実現には不安を感じています。成果が上がっていない企業の割合のほうが上回っています。

技能継承の成果の状況
JILPT「ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査」(2018年)

 

技能伝承がうまく行っている会社の取り組み

では技能伝承がうまく行っている会社においてはどのような取り組みがされているのでしょうか。こちらもデータを見てみましょう。

技能継承の成果につながる理由
技能継承の成果につながる理由(JILPT「ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査」(2018年))
技能継承を進めるための取組
技能継承を進めるための取組(JILPT「ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査」(2018年))

これらのデータから技能伝承がうまくいっている会社のポイントは以下の通りです。

  • 当面の仕事に必要な能力だけでなく、もう一段上の能力を身につけられるよう能力開発を行っている。数年先の事業展開を考慮し、そのとき必要となる人材を想定している。
  • 将来を見据えた育成や能力開発を行う目標を立てている
  • 計画的にOJTを実施している。
  • 指導者と指導を受ける側とのコミュニケーションがよく図られている。
  • 技能継承を受ける側の社員の新しい技能や知識を身につけようとする意欲が高い。
  • 継承すべき技能の見える化(テキスト化・マニュアル化・IT化)を図っている。
  • 技能の指導者に対して「教える」ことに関する訓練を実施している。
  • 会社内外を問わず熟練技能者を講師として勉強会を開催している。
  • 専任の指導者を選抜している。
  • 技能を教えていくために必要なツールやノウハウ、体制の整備等について、きめ細やかな取組みをより多く行っている。

 

これらの実態を踏まえて、技能伝承のためにどんな仕組みを創ればよいのかを考えていきましょう。

技能伝承がうまくいかない3つの原因

その前に、技能伝承が進まない会社に共通する原因を整理しておきます。3つとも、若手のやる気やベテランの人柄の問題ではありません。

  • 教える時間が、仕事として確保されていない……ベテランは現場でもいちばん忙しい人です。教える時間が業務の外に置かれていると、繁忙期から順に教育が止まります
  • 判断の基準が言葉になっていない……手順は見せられても「なぜそこで止めたのか」は本人も説明できないことが多く、見て覚えるしかなくなります(参考:「仕事は見て覚えろ」は時代遅れ?)
  • 教えた人が評価されない……自分の技を渡しても評価が変わらないなら、教える理由がありません。むしろ「自分しかできない」状態のほうが立場は守られます

以下のステップは、この3つを順に埋めていく流れになっています。

 

技能伝承のステップ①現状と目標

まず自社の技能や技術についての現状を把握してみましょう。

自社の技能・技術とは何か?

自社の技能・技術は自社の強みにつながるものである必要があります。どの技能や技術が自社の強みになっているのかを把握するところからスタートしましょう。

自社の技能・技術は将来の事業環境の変化に耐えうるか?

では、それらの技能や技術は事業環境の変化にも対応できるでしょうか?技能伝承とは何か?のところで述べた通り、いままでの技能や技術を守り続けるだけでは足りません。将来にわたって必要とされるものにするには、どう進化させればよいでしょうか。

誰がどの技能・技術をどれだけ身に付けているか?

各社員の技能や技術を見える化できていますか?この現状把握は、後の育成計画に役立ちます。

見える化には「スキルマップ(技能マップ)」を使うのが一般的です。縦に社員の名前、横に自社の技能を並べ、それぞれの習熟度を「一人でできる」「指導を受ければできる」「まだできない」などの段階で書き込みます。このとき、ある技能の欄に「一人でできる」が1人しか付いていなければ、そこが最優先で伝承すべき技能です。その人が休んだり辞めたりした時点で、その仕事は止まるからです(参考:属人化とは?)。

技能伝承の目標は?

冒頭で申し上げた通り、仕組み化すればベテランの技能・技術を即身に付けられるわけではありません。仕組み化は、人材育成のスピードを上げるものとして考えるのが正解です。たとえば、いま新人を一人前に育てるのに10年かかっているとします。それを5年に短縮することを、仕組み化の目標として設定します。このように、目標を設定することで、「ではどうしたら5年で一人前にすることができるのか?」と計画を立てることができます。

 

技能伝承のステップ②技能者、技術者としてのキャリアを明確化する

現状を把握し、目標を設定したら、技能者・技術者としてのキャリアを明確化しましょう。経営者として大切なのは、技能を伝承させるだけでなく、彼らがキャリアと人生で成功するのを手助けすることです。そのために、将来の見通しを示します。「入社3年でこの技能が身につく」「10年でこういうキャリアが得られる」という形です。

簡単に言えば、入社希望者からの

「御社に入社して20年経ったら、私はどうなっていますか?」

という質問に答えられるようにしていくことです。


 

フリーメイソンの技能伝承とは?

技能者・技術者のキャリア形成については、フリーメイソンの3段階説が参考になるでしょう。これは私の師匠であるマイケルE.ガーバー氏から教えてもらったものです。フリーメイソンというと秘密結社というイメージですが、実はその起源は、宗教施設などを作る石工職人たちの職業組合だったとされています。彼らが仕事をするにあたって、秩序を保てるよう、職人たちの成長システムが作られたそうです。

それが徒弟(見習い)、匠(熟練工)、棟梁(真の熟練工)の3段階です。

一段階目は、徒弟。彼らに求められることは、会社のビジョンに誠実であること、仕事の内容に誠実であること、会社のルールに誠実であること。彼らはまず”自分の夢”を実現するために働きます。

二段階目は、匠。匠に求められることは、更に上の段階に成長するという「希望」で仕事をすること。彼らは周りに影響を与え、”私たちの夢”を実現するために働きます。

三段階目は、棟梁。棟梁に求められることは、仕事の技術を慈愛の心で他の者たちに教えるために仕事をすること。彼らは後継者を育て、”次世代のための夢”を実現するために働きます。自分がこうなりたいということではなく、次世代へ託したい夢、これを志と言います。

図にまとめるとこんな感じです。

徒弟・匠・棟梁の3段階

このように、役職が上になればなるほど、他の人や社会のために働くことが求められるのです。

社内で技能伝承を進めていくためには、自分が成長すれば成長するほど、後輩に対して自分の持っている技能・技術を伝承していくことが推奨されるという文化を形成していくことが大切です。そのために、上記のようなキャリアを明示します。そのうえで、教えることがその人の評価につながる仕組みを設計する必要があります。具体的には、「後輩を何人、一人でできる段階まで育てたか」を人事評価の項目に入れるのが効果的です。

評価の設計については以下の記事で解説していますので、あわせてご参照ください。

▶人事制度とは?3つの柱と目的、設計5ステップの作り方

 

技能伝承の方法③標準化する

次に、伝承すべき技能や技術を標準化します。標準化とは、各技能者・技術者が独自のやり方でやっている仕事を統一することです。自社内においてはこの仕事はこのようにやる、と全員が認識合わせするのです。このステップがないと、伝承の方法が教え手の勘や感覚に依存したままになります。

たとえば私たちは、仕組み経営コーチという、ある意味での「技能者」を育てる活動をしています。以下の図のように、仕組み経営コーチに求められる知識や能力を定義し、そのやり方を標準化しています。

仕組み経営コーチトレーニングのカリキュラム
仕組み経営コーチトレーニングのカリキュラムの一部

 

技能伝承の方法④マニュアル作り

次に、標準化された技能や技術を文書や動画で記録します。文書がいいか動画がいいかは、対象の技能・技術によります。

選ぶ目安は、「その技能の難しさが、手の動きにあるのか、判断にあるのか」です。手の動きにあるなら動画、どこで止めるか・何を見て決めるかという判断にあるなら文書やチェックリストが向いています。

▶マニュアル作りの詳細はこちらから

 

技能伝承の方法⑤教え方を教える

ここまで来ると、技能・技術を伝承するツールや文化が整ってきます。そこで今度は教え方を教えます。ベテラン社員でも、人に教えることに慣れていない人は多いものです。彼らが新人に技能・技術を教える方法を教えるのです(参考:職人教育・職人育成の仕組み)。

ここでは、先ほど作ったマニュアルが役立ちます。マニュアルとは作業する人が参照するものというイメージがあると思いますが、教えるときのテキストとしても活用できます。マニュアルがテキストとしてあれば、教え手に左右されずに、決まった順番で決まった内容を教えられます。

 

技能伝承の方法⑥育成の計画を立てる

最後に育成の計画を立てましょう。ステップ①で作ったスキルマップを使い、各社員をいつまでに、どのレベルまで育成するかを計画します。

技能伝承計画に書く項目は、次の5つで足ります。

  • 伝承する技能(スキルマップで「一人でできる」が少ないものから)
  • 教える人と受け継ぐ人
  • いつまでに、どの段階まで到達するか
  • 使う教材(マニュアル・動画・チェックリスト)
  • 到達したかどうかを、誰がどう確かめるか

いちばん抜けやすいのは最後の項目です。確かめる方法が決まっていないと、「教えた」という事実だけが残り、受け継がれたかどうかは分からないままになります。

育成計画についてはこちらの記事もご参照ください。

▶人を育てるとは?人の育て方と育てる仕組みの作り方4ステップ

 

技能伝承の取り組み事例

株式会社濱崎組

建築業の株式会社濱崎組では、非常に体系的な教育体制が整えられており、技能伝承が行われているそうです。

参考:株式会社濱崎組の教育体制


原田左官工業所

原田左官工業所では先輩左官の作業と新人の左官の作業の両方を動画で取り、新人が自分と先輩のどこが違うのかを自分で確かめられるような仕組みを作っています。この会社ではこの仕組みによって、一人前に育つ期間が10年から4年に短縮されたそうです。

 

技能を伝承(技能継承)する仕組み化なら仕組み経営へ

以上、技能を伝承(技能継承)する仕組みについてご紹介してきました。

技能伝承に関するよくある質問

Q. 技能伝承は、何から始めればいいですか?

スキルマップを作ることです。社員と技能の一覧表を作り、「一人でできる人」が1人しかいない技能を探します。そこが最優先です。いきなりマニュアル作りから始めると、急がない技能から書き始めてしまうことがあります。

Q. ベテランが教えたがらないときは、どうすればいいですか?

頼み方を変えるより、評価の形を変えるほうが確実です。教えても評価が変わらない、あるいは教えると自分の立場が弱くなると感じているなら、教えないのは自然な判断です。育てた人数を評価に入れ、教える時間を業務時間として認めます。

Q. 技能継承の支援制度はありますか?

国や自治体、業界団体が、技能者の育成や指導者の派遣などの支援を行っています。ただし内容や対象は年度によって変わるため、最新の情報は厚生労働省や都道府県の窓口、所属する業界団体に確認してください。

Q. 製造業以外でも技能伝承は必要ですか?

必要です。美容、飲食、介護、設計、営業など、ベテランの判断に頼っている仕事は、どの業種にもあります。手の技だけでなく「このお客様にはこう対応する」という判断も、伝承の対象です(参考:ベテラン社員のノウハウを伝承するためのチェックリスト)。

仕組み経営では、ものづくりだけでなく、多くのサービス業の仕組み化もご支援しています。
詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。
 

 

 


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