パーソナルトレーニングジム(フィットネス)倒産最多

パーソナルジムの倒産が過去最多ペース|腕のいい人ほど潰れる「職人型ビジネスの罠」



パーソナルジムの倒産が、過去最多ペースで増えている

フィットネス市場は伸びています。2024年度の市場規模は7,100億円前後と過去最高を更新し、大手15社の店舗数はこの10年で約2.3倍、6,500店前後まで増えました。健康志向は広がり、トレーニングを習慣にする人の割合も全年代で上がっています。

にもかかわらず、倒産は増え続けています。帝国データバンクの調査では、2026年1〜7月のフィットネスクラブ事業者の倒産は23件。前年同期の19件を上回り、年間で初めて40件台に届く可能性が指摘されています。東京商工リサーチの調査でも、2023年度の倒産件数は28件と、1998年の統計開始以来で最多を記録しました。

調査機関 期間 倒産件数 内訳の特徴
帝国データバンク 2026年1〜7月 23件 設立10年未満が65.2%、うちパーソナル業態が6件
帝国データバンク 2025年通期 32件 2024年(30件)から増加
東京商工リサーチ 2023年度 28件 倒産企業の100%が資本金1億円未満

ここでいう倒産は、負債1,000万円以上を抱えて破産などの法的整理に至ったケースだけを指します。法的手続きを踏まない自主廃業や店舗閉鎖まで含めれば、実際に市場から消えた数はこの何倍にもなります。パーソナルジムは開業から3年以内に約7割が閉店するとも言われる世界です。

そして倒産した企業の顔ぶれには、はっきりした共通点があります。全社が資本金1億円未満の小規模事業者で、設立10年未満の新しい会社が3分の2を占める。つまり、健康ブームに乗って独立したトレーナーが、数年で退場を余儀なくされているということです。

市場が伸びているのに倒産が増える、直接の理由

参入障壁が低いから、供給が需要を追い越した

パーソナルジムは、他の業種と比べて開業のハードルが極端に低い業態です。総合フィットネスクラブなら数億円かかるところ、マンションの一室にパワーラックを入れる程度なら、内装と機器と保証金を合わせて400万〜500万円で始められます。しかも日本では「パーソナルトレーナー」に国家資格の要件がなく、無資格・未経験でも名乗って開業できます。

入りやすい市場は、必ず飽和します。大手ジムで数年経験を積んだトレーナーが次々と独立し、同じ商圏に似たコンセプトの店が並ぶ。コロナ禍の事業再構築補助金が、ノウハウのない異業種の参入をさらに後押ししました。商圏分析をせずに開業し、補助金が入金された後に運転資金がショートして倒産する、という流れが各地で起きています。

大手が「面」を押さえ、価格競争になった

chocoZAPに代表される24時間・無人・超低価格のジムが、駅前を面で押さえました。これまでパーソナルジムの入口となっていた運動初心者やダイエット目的の層が、そのまま低価格帯に流れています。東京商工リサーチによれば、2023年度の倒産28件のうち71.4%は「販売不振」が直接の原因でした。

価格競争になったとき、耐えられるのは資本体力のあるところだけです。値段を上げるにはサービスの質やコミュニティで差をつけるしかありませんが、それを実行できる組織を作るにも、やはり体力がいります。個室型か大型かという業態の違いではなく、資本と組織の厚みで勝敗が決まる局面に入っています。

集客コストが、利益を食い尽くす

パーソナルジムは通りすがりの客を取り込みにくく、Web集客への依存度が高い業態です。ところが競合が乱立した結果、リスティング広告の入札単価が高騰しました。恵比寿や中目黒のような激戦区では、顧客1人あたりの獲得単価が8万〜9万円に達する事例もあります。顧客生涯価値を計算しないまま代理店任せで出稿を続ければ、集客はできても手元に何も残りません。

1対1のモデルには、売上の天井がある

トレーナー1人が顧客1人に付きっきりで指導する構造上、1日に売れるセッション数には物理的な上限があります。単価を上げれば低価格ジムに客を取られ、単価を下げれば稼働率を限界まで上げても利益が残らない。さらに「2〜3ヶ月で大幅減量」という短期集中型のモデルは、顧客が目標を達成した瞬間に卒業してしまうという自己矛盾を抱えています。解約率が構造的に高いので、常に新規を追い続ける自転車操業から抜け出せません。

本当の原因は「職人型ビジネスの罠」にある

ここまで挙げた要因は、どれも事実です。ただ、これらはすべて外側で起きていることの説明にすぎません。同じ市場、同じ価格競争、同じ広告費の中で、伸びているジムも確かに存在します。何が分かれ目なのか。

私たちが中小企業の支援で繰り返し見てきたのは、腕のいい職人ほど自分の会社で苦しむ、という現象です。世界的なスモールビジネスの権威マイケル・E・ガーバーは、これを「起業家神話(E-Myth)」と呼びました。会社を潰すのは、能力の低い人ではありません。むしろその分野の技術が高い人ほど、独立した瞬間に同じ罠にはまります。

「起業家的発作」から始まる

ガーバーの言う起業家的発作とは、こういう瞬間です。「これだけ結果を出せるなら、雇われている必要はない。自分でやったほうがいい」。トレーニングの技術があり、大会で結果を出し、クライアントに感謝された。だから自分のジムを持とう。美容師が自分の店を持ちたいと言って独立するのと、まったく同じ構造です。

ここに致命的な思い違いがあります。技術が高いことと、その技術を提供する事業を経営できることは、まったく別の能力です。独立した瞬間、その人は「技術を提供する仕事」に加えて、集客も、価格設計も、資金繰りも、採用も、教育も、契約管理も、全部を抱えることになります。得意なのは技術だけなのに、苦手な仕事が9割を占める日常が始まる。

職人・マネージャー・起業家という三つの役割

ガーバーは、事業には三つの役割が必要だと言います。目の前の仕事を手で片付ける職人、仕組みと秩序をつくるマネージャー、事業の将来像を描く起業家。多くの独立開業者はこのうち職人の比重が圧倒的に高く、残りの二つがほぼゼロのまま船出します。

職人型のジムが倒産する理由

結果どうなるか。朝から晩までセッションに入り、空き時間に広告の管理をし、夜に請求書を作る。売上は自分の稼働時間に完全に比例するので、休めば売上が止まる。人を雇っても、自分と同じ品質で教えられないので任せられない。教える時間を作るために、また自分がセッションに入って稼ぐ。この循環に入った会社は、外部環境が少し悪化しただけで倒れます。

「自分が商品」であることの限界

倒産事例を見ると、この構造がはっきり出ています。有名インフルエンサーを代表に据えたBVEATSは、ピーク時に売上約4億円、会員1,000名まで急成長しましたが、大手の低価格攻勢で売上が落ち、赤字が常態化。2026年6月に負債約2億3,000万円を抱えて破産しました。個人の影響力で人を集めた事業は、その影響力が相対的に弱まったときに、代わりに人を集める仕組みを持っていません。

大会のチャンピオンが差別化にならなくなったのも同じ話です。チャンピオンはもう業界に大勢いて、資格や実績は薄まりました。「自分という人間の腕」を売っている限り、代替可能な誰かが現れた時点で価格勝負になります。

これはジム業界だけの問題ではない

この構造は、専門技術を持った人が独立するあらゆる業種で繰り返されています。美容室、整体院、士業事務所、工務店、設計事務所、料理人の店。どれも「腕がいいから独立し、腕以外のことで苦しむ」という同じ道をたどります。

共通しているのは、創業者の頭と手に会社が依存していることです。判断はすべて社長を通り、品質は社長の技術に紐づき、顧客は社長個人についている。社員が増えても社長の負荷は減らず、むしろ管理の手間だけが増えていく。私たちはこれを「ハブ型組織」と呼んでいます。社長が中心のハブで、社員はスポーク。すべての情報と判断が中心を通るので、中心が回転を止めれば全体が止まります。

フィットネス業界で今起きているのは、この構造の弱さが、市場の飽和によって一気に表面化したということです。市場が広がっている間はハブ型でも売上は伸びます。飽和した瞬間に、仕組みを持っている会社と持っていない会社の差が、そのまま生死の差になります。

職人型から抜け出すために、順番に何を変えるか

ここで「経営者としての覚悟を持て」と言うつもりはありません。覚悟や才能の問題ではなく、順番の問題です。以下は、業種を問わず私たちが伴走の初期に必ず扱う論点です。

自分がやっている仕事を、一度全部外に出す

最初にやるのは、社長の頭の中にある判断基準を外に出すことです。どの顧客にどう提案するか、どこで負荷を落とすか、どういう場合に断るか。技術者はこれを言語化しないまま「感覚」として持っています。書き出してみると、意外と再現できる形になっているものが多い。ここを出さない限り、誰にも任せられません。

誰がやっても一定の成果が出る形にする

マニュアル化のことではありません。マニュアルは仕組みの一部でしかない。私たちが言う仕組み化は、自社独自の再現性のある仕事のやり方を作ることです。テンプレートを買ってきて当てはめるのではなく、その会社が実際に成果を出してきたやり方を、他の人が実行できる形に組み直す。作るのは現場の社員で、社長は起点になる。上から降ってきた型は、まず定着しません。


売上が稼働時間に比例しない形を混ぜる

1対1のセッションだけで構成された事業は、必ず天井にぶつかります。セミパーソナル化、月額での継続支援、オンラインでの併走、教材化。どれが正解かは商圏と顧客層によりますが、共通する狙いは「社長の時間と売上を切り離す」ことです。

短期成果型から、関係が続く形に変える

目標を達成したら卒業する設計は、顧客にとっては誠実でも、事業としては毎月ゼロから積み直すことを意味します。運動習慣の定着や体型維持といった、終わりのないテーマに軸足を移せるかどうかが、収益の安定を左右します。これは「顧客の何を引き受ける会社なのか」という定義の話であり、価格や広告の話より前に決めるべきことです。

よくある質問

パーソナルジムの倒産はいつまで増えますか

供給過剰の解消には時間がかかります。参入障壁が低いままである以上、淘汰されても新規開業が続くため、しばらくは高い水準で推移すると見るのが自然です。ただしこれは市場の縮小ではなく、構造的な弱さを持つ事業モデルが入れ替わっていく過程です。

小さいジムに勝ち目はないのですか

規模の問題ではありません。倒産しているのは「小さい会社」ではなく「社長個人に全依存している会社」です。小さくても、判断基準が共有され、社長がいなくても品質が保たれ、顧客との関係が続く設計になっていれば十分に残ります。

まず何から手を付ければいいですか

いま自分が一週間に使っている時間を、技術提供・集客・管理・育成に分けて記録することです。多くの場合、社長にしかできない仕事は思っているより少なく、社長がやらなくていい仕事に時間の大半が消えています。ここが見えると、次に外すべきものが決まります。

まとめ

フィットネスジムの倒産が過去最多ペースで増えている背景には、オーバーストア、大手の価格攻勢、集客コストの高騰、労働集約モデルの限界といった複数の要因があります。ただ、それらに耐えられるかどうかを分けているのは、事業が社長個人の腕に依存しているか、仕組みに支えられているかという一点です。

腕がいいから独立し、腕以外のすべてに追われて潰れる。この職人型ビジネスの罠は、ジムに限らず、専門技術を持つ人が始めたあらゆる小さな会社に共通します。逆に言えば、この構造を先に組み替えておけば、市場が厳しくなってからでも打ち手は残ります。



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