自走型組織とは?
自走型組織とは、社長や一部のキーマンが逐一指示や判断を下さなくても、社員一人ひとりが会社のビジョンと価値観に沿って自ら考え、動き、成果を出し続ける組織のことです。
ここで誤解されやすいのですが、自走型組織は「指示待ちしない社員が多い会社」といった曖昧なものではありません。私たち仕組み経営が定義する自走型組織は、もっと具体的です。それは、仕組み(システム)と文化(価値観)の両輪によって、成果と行動が一貫して・予測可能に再現される状態を指します。
言い換えれば、あなたが2週間、あるいは2ヶ月現場を離れても、会社の数字(売上・利益・成長)と会社の空気(社員の判断や顧客への接し方)が、あなたがいるときと変わらず保たれる。これが自走型組織です。
多くの中小企業では、その逆のことが起きています。社長がいないと重要な判断が止まり、顧客対応の質が落ち、社員のやり方は人によってバラバラ。つまり会社が「社長という人」に依存している状態です。私たちはこれを人依存の経営と呼んでいます。自走型組織づくりとは、この人依存を脱し、仕組み依存の経営へとシフトさせていく取り組みそのものです。
自走型組織は「社長のため」に働く会社である
自走型組織を考えるうえで、視点を一段上げておきたいことがあります。それは「あなたがいるから機能するビジネス」ではなく、「あなたのために機能するビジネス」をつくる、という発想です。
前者は、社長が現場に張り付き、自分の馬力で回している会社です。売上は上がるかもしれませんが、社長の人生はビジネスに消費されていきます。後者は、社長がいなくても回るからこそ、社長が次の戦略や自分の人生に時間を使える会社です。自走型組織を目指すというのは、この後者を選ぶという意思決定に他なりません。
自走型組織と自律型組織・ティール・ホラクラシーの違い
「自走型組織」を調べていると、必ず「自律型組織」「ティール組織」「ホラクラシー」といった言葉に行き当たります。似ているようで力点が違うので、ここで整理しておきます。
自律型組織との違い
自律型組織は「各メンバーが自分で判断して動く」ことに重心が置かれた言葉です。方向性としては自走型組織と重なりますが、自律だけを強調すると「各自が自由に判断する」ことが先に立ち、会社としての一貫性や予測可能性が置き去りになりがちです。
自走型組織が違うのは、自由の前に「土台となる仕組み」を置く点です。社員が自ら動けるのは、判断の拠り所となる価値観と、成果を生むための業務プロセスが共有されているからです。土台のない自律は、ただのバラバラな組織になってしまいます。自走型組織は、自律 × 再現性の両方が揃っている状態だと考えてください。
ティール組織・ホラクラシーとの違い
ティール組織やホラクラシーは、どちらかというと組織構造の話です。階層をフラットにする、意思決定の権限を分散する、役割を細かく定義する——そうした「構造をどう変えるか」に議論が向かいやすい概念です。
一方、自走型組織は構造そのものよりも、「社長依存からどう抜け出すか」という経営者視点の目的が起点にあります。フラットにすること自体が目的ではありません。あなたが安心して現場を離れられる状態をつくることが目的であり、そのために仕組みと文化を整えていきます。
なお、ティールやホラクラシーには魅力的な面もありますが、構造だけを先に変えて失敗するケースも少なくありません。この点は【自律型組織の闇】ティールやホラクラシーを目指す前に知るべきことで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
自走型組織をつくるメリットとデメリット
自走型組織づくりは魅力的に見えますが、正直に言えば楽な道ではありません。メリットとあわせて、覚悟しておくべき点もお伝えします。
自走型組織をつくるメリット
最大のメリットは、社長が時間と選択肢を取り戻せることです。冒頭で紹介する女性経営者は、自走型組織を築いた結果、年に2か月をスペインの別荘で過ごせるようになりました。これは極端な例ですが、「自分がいないと会社が回らない」という縛りから解放される価値は計り知れません。
加えて、成果の再現性が上がります。人によって品質がばらつかなくなり、採用した人材も早く戦力化できるようになります。社長が現場対応から離れられるぶん、本来やるべき長期戦略に頭を使えるようになる。これも大きな効果です。
自走型組織をつくるデメリット・注意点
一方で、自走型組織は「今日始めて来月完成する」ものではありません。多くの時間、エネルギー、ノウハウを必要とし、やり方がわからないことを実行し続ける覚悟が要ります。信頼してきた社員に失望する場面が来ることもあります。
また、標準化を進めすぎると現場の柔軟性が損なわれる、という副作用にも注意が必要です。型を作ることと、現場が動ける余地を残すこと。このバランスを取り続けることが、自走型組織づくりの難しさでもあります。仕組みは一度作って終わりではなく、一貫した成果が出るまで継続的に改善していくものだと考えてください。
【事例】29歳の女性が実現した自走型組織
ここからは、実際に自走型組織を築き上げた一人の女性経営者の言葉を引用しながら、その道のりを追っていきます。
彼女の名前は、アイリーン・フラームさん。実はこのサイト「仕組み経営」のベースになっている書籍「はじめの一歩を踏み出そう」の著者、マイケル・E・ガーバー氏の元奥さんです。ガーバー氏は1977年に会社を創業し、2005年頃には別の会社を立ち上げてそちらで活動しています。
アイリーンさんは29歳のときに平社員として入社し、その後、会社の成長に大きく貢献して社長に就任。自走型組織を築くことに成功し、46歳のときには社長も他の人に任せて会長職に退きました。いまでは経営陣へのアドバイス役を務めながら、年に2か月は夫とスペインの別荘で休暇を取っているそうです。
以下、彼女自身の言葉です。
自走型組織を作ることで直面する「アイデンティティの喪失」
この20年間、オーナーに依存しないビジネスの作り方について多くのことを学びました。理論がいくら素晴らしくても、それを実行することはまったく別です。1999年に別の社長にバトンを渡す前、自分の中で葛藤がありました。
私はリーダーとしての地位を失うことに抵抗し、自分のアイデンティティがどれほど自分の会社と結びついているかに直面することになったのです。
そして途中で多くの間違いを犯しました。たとえば、新しいCEOに対してしなければならない知識の移転を、私は過小評価していました。
これから話を進める前に、次の質問を考えてみてください。
- あなたが2週間放置した場合、ビジネスと社員はどうなりますか? 一か月、6か月、1年の場合には?
- あなたが組織を離れることができないのは、何が欠けているからですか?
- 自走型組織(ビジネスがあなた無しで運営される状態)を本当に望んでいますか?
- 自走型組織を作るメリットは何ですか?
- 組織があなたに依存し続けるために、あなたが支払っている対価は何ですか?
自走型組織を作るかどうかは、あなた次第
正直に言えば、自走型組織、すなわち社長に依存しないビジネスを構築することは容易ではありません。多くの時間、エネルギー、ノウハウを必要とします。やり方がわからないことを実行しなければなりません。信頼してきた人に失望することもあるでしょう。
しかし、“あなたがいるから機能するビジネス”ではなく、“あなたのために機能するビジネス”を構築できたら、文字通り人生が変わります。それは、自由と、縛られていることの違いです。
そしてその仕事は、あなたから始まります。自走型組織を作ることは選択肢のひとつです。いまはどうすればよいかわからなくても大丈夫。まずすべきなのは、その方法を発見しようとコミットすることです。
「職人型」から「起業家型」へ視点をシフトさせる
ビジネスがあなたに依存しているなら、それには理由があります。あなたのビジネスに対する視点と関係しているのです。
会社を「自分が一番うまくできることをやる場所」と考え、売っているものを商品と考えるなら、あなたに依存するビジネスになります。これを職人型の視点と呼んでいます。
しかし、ビジネス自体を商品として考え、一貫性のある予測可能な結果を生み出すシステムだと考えるなら、あなた無しで働くビジネスを創ることになるでしょう。これを起業家型の視点と呼んでいます。
自分を起業家として考えているオーナーは、ビジネスと自分との間に十分な距離を置くことができます。一方、ほとんどのオーナーは職人であり、自分で製品やサービスの開発・販売・提供をしています。そういう人には、視点の大きな変化が必要です。
職人的な視点とは、いわば信念です。その信念にとらわれているために、自由が制限され、非生産的になっていきます。たとえば、次のような信念です。
- 私以上に、販売・顧客対応・見積りの仕事をうまくできる人はいない。
- 私以上に、私のビジネスを気にかけてくれる人はいない。
- 私の[ビジネス/社員/顧客]は、私を必要としている。
- パートナーが失望するので、私は自分のビジネスから離れられない。
- いまは、私の代わりをやってくれる人を雇うタイミングではない。
- やりたいことをやる自由を得ながら、ビジネスを成長させることなど不可能だ。
- 私のビジネス(業界)はユニークなので、私の代わりは見つからない。
これらの信念のいずれかを持っていて、考え方を変えたいなら、その非生産的な信念に疑問を投げかけてください。「その信念が、私を制限しているのでは?」と。
自走型組織に向けた準備
自走型組織を実現するための効果的な方法のひとつは、個人的なビジョンやライフプランを作成することです。
- 私の人生の目的は何か?
- 何が私を最も生き生きと感じさせるのか?
- 私にとって本当に重要な価値は何か?
目標や目的を書き留めると、それを達成する可能性がはるかに高まるという証拠が数多くあります。カリフォルニア州北部のドミニカン大学の心理学教授が267人の男女を対象に行った調査によれば、目標と夢を定期的に書き留める人は、そうでない人より達成率が42%高いという結果が出ています。
書き留めるときは、できるだけ具体的にしてください。たとえば「1年後には週に2日しか働かないが、会社は年間15%の成長を続けている」、あるいは「◯年末までには、ビジネスが私の基準に従ってスムーズに動いているので、6週間の休暇を取る」といった具合です。
現状より大きく飛躍する目標を設定するときは、それを人に話すことが達成の助けになります。話すことで目標に慣れ、自分自身を成長させられるからです。夫や妻、友人、パートナー、子ども、家族、チームのメンバーなど、大きな夢を共有しやすい相手から始めましょう。
ビジネスは、それに関わる人々の人生に役立つものであるべきです。そうでなければ、あなたの人生のほうがビジネスに消費されてしまいます。ビジネスのビジョンをあなたの人生のビジョンと一致させ、ビジネスを自分の人生に役立つものへ変えていくのです。
ビジョンと価値観を反映した文化を創造する
社長がビジネスから安全に離れるには、チームの全員が、お互いに対しても、社外の人(顧客・見込み客・取引先・パートナー・銀行など)に対しても、あなたが望むやり方でコミュニケーションできる必要があります。そして、彼らがそうできると、あなたが信頼できる必要があります。
チームとの信頼関係は、彼らがビジョンに積極的に取り組み、価値観を体現する文化を築くことから始まります。あなたの価値観が、彼らの行動基準になるからです。
そのためには、あなたの価値観を明確にし、自ら体現し、メンタリングを通じて伝え、それに基づいて採用することが必要です。それによって、あなたが社内にいるかどうかに関わらず、確固たる文化が築かれます。
私たちの例でいえば、価値観は「本物になる」「共に創り上げる」「実現させる」の3つです。これらをリーダーシップチームや社員と頻繁に交わし、社内で本当に生きているかどうかを(自分がその場にいるかどうかに関わらず)確認し続けます。
自走型組織を作るという選択をしたなら、業界の性質も、いまのビジネスの状況も、今日のあなたの職人的能力も、障害にはなりません。すべては、その選択肢を持つかどうかなのです。
自走型組織を支える「仕組み」と「文化」
2週間、2か月、あるいは2年間、自信を持ってビジネスから離れたいなら、ビジネスの2つの重要な要素が、一貫して・予測可能に動作する必要があります。
ひとつ目は、会社が生み出す数字的な結果です。収入、利益、成長、報酬など、あなたにとって意味のある財務目標を達成できること。
ふたつ目は、会社の文化です。社員がビジョンに向かい、中核となる価値観に沿って行動し、顧客や見込み客に対して文化を反映した接し方ができること。

この2つの成果こそが、自走型組織の基盤になります。「自分の働きによって運営される会社」から「自分のために運営される会社」へ変身する選択をしたら、あとの作業は、この成果と文化の一貫性・予測可能性を確保していくことに尽きます。
自社独自のやり方をつくる
自社独自のやり方を作り出すには、時間の使い方をシフトする必要があります。販売、コピーライティング、トレーニングなど、あなた自身がやりたい機能もあるでしょう。しかし、それを一度にひとつずつ他の人に委任していくことで、ビジネスの「中」ではなく「外」から働けるようになります。
そうなれば、思考はより起業家的になり、これまで想像していなかった機会が見え始めます。
自走型組織の作り方【2ステップ】
ここからが、自走型組織づくりの核心です。仕組みと文化を、具体的にどう構築していくのかを2つのステップで見ていきます。
ステップ1:望む結果を得るためのシステム(仕組み)を構築する
システム(仕組み)は、あなたのために働くビジネスに欠かせないものです。あなたの経験を社員に教え、それを時間をかけて洗練させ、あなたと同等かそれ以上の結果が出せるようになるまで、ステップ・バイ・ステップのプロセスへ落とし込んでいきます。そうすることで、会社はあなた無しでも一貫性のある予測可能な結果を作り出します。
たとえば私たちの会社には、私が開発した販売プロセスを使う50人以上のコーチと営業担当がいます。これは私が1982年に入社して以来、個人的に進化させてきたプロセスです。入社後の5年間でコーチングの売り方を学び、それ以来、自分の知っているすべてを他の人が学べるようにプロセスを調整し続けました。いまではトレーナーがそれを教えられます。私もまだ営業社員のトレーニングをすることがありますが、それは「やらなければならない」からではなく「やりたい」からであり、直接の販売はもう一件もしていません。
このような販売システムは、あらゆるビジネス・業界でシステム化できる7つの重要な機能のひとつにすぎません。残りの6つは、リーダーシップ、マーケティング、財務、マネジメント、集客、フルフィルメント(価値提供)です。
望む結果のための「基準」を設定する
プロセスの手順(1番目、2番目、3番目……)は、システムを構成するものの半分にすぎません。残りの半分は、そのステップをどうコントロールするか。これを基準と呼びます。
基準は、社員が自走的に働き、組織の目標を達成するために重要な役割を果たします。基準があることで期待が明確になり、社員はより良い業績を、より高い満足感とともに達成できるようになります。基準は、マニュアルのほか、職務契約書にも記載されます。
基準は「定性的」と「定量的」の両方で持つ
基準には定性的なものと定量的なものがあります。たとえば営業担当の定性的な基準は、「マネージャーの求めに応じて販売プロセスの定期トレーニングに参加する」「見込み客とのすべての会話で自社の販売プロセスに従う」といったものです。
一方、定量的な基準は最低限のパフォーマンスを示します。データを分析し、新規顧客獲得数や成約数など、チームメンバーの業績を数字で把握したうえで設定します。
自走型組織を作りたいなら、こうした数字志向のビジネスにならなければなりません。プロセス、チーム、個々の社員の業績を、密に理解できるビジネスにするのです。たとえば小売業なら、「営業担当が顧客と話をする割合」「話をした顧客が購入する割合」「売上の平均単価」などを知りたくなるはずです。全員が同じ販売プロセスに従えば、これらの数字を標準へ近づけ、最低限の結果を期待できるようになります。その予測可能性こそが、自由を手に入れる鍵です。
ステップ2:あなたに依存しない「文化」を創造する
価値観を会社の文化に移す作業は、仕組みづくりほど単純ではありません。リーダーシップ、マーケティング、財務、マネジメント、集客、営業、価値提供——できる限りあらゆる業務に、あなたの価値観を反映させる必要があります。
ここで鍵になるのが採用システムです。採用システムの主な目的は、あなたのビジョンに興奮し、あなたの価値観に共鳴する候補者を引き付けること。そのためには、自社が何をしているのかを明確に伝える手段と、文化に合う候補者を見極める方法が必要です。「自社の価値を反映した求人情報とはどんなものか」「候補者と自社のビジョンの整合性を測るために、どんな面接の質問をするか」を考えてみてください。
望む文化のための「基準」を設定する
明確な基準があれば、社員は最善を尽くして文化に沿って行動するようになります。逆に、文化に適合しなくなった社員も識別できるようになります。それは短期的には痛みを伴うかもしれませんが、システムと価値観をベースにした企業を築くうえで避けられないステップです。あなたに依存しないビジネスを創るには、一貫した文化が必要なのです。
たとえば私たちの価値観「本物になる」に対する全社基準は、「顧客・見込み客との書面によるすべての連絡で、自社の音声・トーンのガイドラインに従い、マーケティングディレクターの承認を受ける」「顧客・見込み客からの苦情に共感を示し、過度な弁解を避ける」といったものです。
価値観が仕組みに浸透するほど、それを作る楽しみも増し、企業文化があなた個人の価値観を反映する度合いも高まります。あなた無しでビジネスを運営させたいと本気で考えるなら、このステップは必ず完了させる必要があります。時間はかかりますが、その報酬には本当に価値があります。
自走型組織をつくり、社長を交代する
自走型組織を構築するために必要なすべての手順を実行したとしましょう。
明確な決定を下し、人生の夢を描いた。非生産的な信念を手放し、起業家のように考えている。個人的な労働に依存しないビジネスを構想し、ビジョンを書き留めた。ビジネスのあらゆる領域にシステムを構築し、一貫した予測可能な結果が出るまで改善を重ねてきた。チーム全員が仕事をする基準も設定した——言い換えれば、自分無しで動く世界を作り上げたのです。それは信じられないほどの成果です。
しかし、それで終わりでしょうか。答えは「場合による」です。
数日から数週間の休みを取り、自分の不在でも物事が円滑に回ることを確かめたいだけなら、あなたは一定のゴールに達したと言えます。しかし、何か月も休んで会社のリーダーシップから完全に離れたいなら、誰かがあなたに代わって会社を将来へ導かなければなりません。これはプロセスの中で最も困難な部分かもしれません。少なくとも、私にとってはそうでした。
新しいリーダーを探す(そして失敗する)
私は1999年に社長を退任し、2004年頃に、経験豊富なリーダーを外から採用すべき時だと認識しました。経営幹部を社外から招くのは初めてだったので、不確実性がありました。成功した投資銀行家でありビジネスコンサルタントでもある友人に、このプロセスの支援を依頼しました。
地元のサーチファーム(採用支援会社)を雇い、ブランドとシステム指向の価値観に基づいて、ビジネス成長の実績を持つリーダー候補を探したいと正確に伝えました。
このとき友人が繰り返し伝えてきたのが「手放すことの重要性」でした。新しいリーダーが自分のチームを創る余地を与えること。自社ブランドの未来をコントロールしたいと願う私にとって、それは不安なメッセージでした。
最終的に選んだ候補者は、必要な資格をすべて備えていました。中小企業の家族で育ち、この市場に貢献することを熱望していて、リーダーの立場にぴったりに見えました。ところが、私の新婚旅行から戻ると、会社は非常に困難な状況になっていました。彼は年間収益をかつてないほど成長させた一方で、戦略レベルでは絶え間ない衝突が生じていたのです。結果として4年後、私たちは彼に去ってもらいました。
当時の私は、間違った人物を選んだのだと思っていました。彼は単に私たちのビジネスを理解していなかったのだ、と。実際のところはわかりません。しかし私は、オーナーと新任CEOの間にも、承継を成功させるための仕組みやプロセスが必要なのだと理解するようになりました。そして、そのプロセスこそ、当時の私が理解していなかったものでした。
自走型組織で最も大事なのは「承継のプロセス」
リーダーは重要です。しかし、承継のプロセスも同じくらい重要です。
私は、適切な人材を見つけること以上に、リーダーのポジションを移行させていく仕組みのほうが重要だと、もっと早く知っておきたかったと思います。あなたの価値観や夢を分かち合える、実績のある人が欲しい——その気持ちはよくわかります。しかし、その人物があなたの娘であれ、息子であれ、既存のチームメンバーであれ、あなたから彼らへリーダーシップの機能を移行するプロセスこそが、すべての違いを生みます。
このプロセスは、注意深く設計し、会社のビジョンに合わせなければなりません。そのために、新任リーダーは「自分の目的はビジネスオーナーのビジョンを達成することだ」と認識し、受け入れる必要があります。ビジョンには、ビジネスが存在する理由、目指す結果、文化、顧客の属性、顧客体験、プロセスなどが含まれます。
もちろん、ビジョンが変化しないとは限りません。しかし、ビジョンのどの側面が「交渉不可能」なのかを明確にしておくことです。新任CEOは、あなたとまったく同じように考えたり行動したりする必要はありません。ただ、たとえば手頃な価格の住宅を建てることがあなたのビジネスの魂であるなら、新任CEOは「高価格帯市場を開拓するようオーナーを説得するのは時間の無駄だ」と理解している必要があります。
次に、ビジネスオーナーの膨大な知識を新任CEOに移転します。この知識移転は通常、毎週会合し、9〜12か月(時にはさらに長く)かけて行うプロセスです。私は最初の年、新任CEOと週に4時間半を過ごしました。互いの判断に信頼を築き、自分がどう考え、どう問題にアプローチし、どう結果を生み出すかを共有する——そのための絶好の機会でした。
社内で判断が食い違う場合は、誰が最終決定を下すかを明示しておく必要があります。主要な戦略的決定は、オーナーが取締役会に残る限り、取締役会レベルで行います。しかしオペレーションレベルでは、新任CEOのやり方を信頼できるなら、より多くの柔軟性を与えます。
そしてある時点で、オーナーは手放す必要があります。それはまずビジネスのある領域で起こり、その後、次々に別の領域へと自然に広がっていきます。オーナーは、新任CEOが創り出したものを信頼し、もはや自分が管理する必要のあることは何も残っていないと気づくようになります。
より多くのオーナーが、この承継プロセスをより効果的に行う方法があると知っていれば、「ビジネスを失う」という恐れは減るはずです。そうすれば、自分無しで会社を運営するために他の人へ喜んでビジネスを任せることが、より現実的な選択肢になるでしょう。
【事例】社員1人で年商1億円、働く時間を3分の1にした自走型組織
海外の事例だけでは、「うちのような規模の会社で本当にできるのか」と感じる方もいるでしょう。そこで、日本の中小企業の事例をひとつご紹介します。
株式会社エグゼサポート代表の勝亦徹さんは、一人ビジネスやスタッフ数名のスモールビジネス経営者を支援する会社を経営しています。仕組み経営の導入パッケージに取り組み始めてから、わずか1年で働く時間を「少なくとも3分の1」に減らしながら、社員一人で年商1億円を実現しました。まさに、社長が現場作業を手放しても回る自走型組織を、小さな会社で体現した事例です。
最初に取り組んだのは「マニュアル」ではなく「価値観」だった
興味深いのは、勝亦さんが最初に取り組んだのがマニュアルづくりではなかった点です。本サイトで繰り返しお伝えしている通り、自走型組織の土台は仕組みと文化の両輪です。勝亦さんもまた、「自分の価値観は何か」「人生の目的は何か」という問いの深掘りから入り、2泊3日の一人合宿までして、会社のブランドコミットメント(提供したい価値の核)をたった一言で定義することに時間をかけました。
この上位概念が定まったことで、最前線で顧客対応をする外注メンバーも、その想いをわかったうえで動けるようになりました。結果、勝亦さんが一挙手一投足を指示する必要がなくなった——これはまさに、この記事で述べてきた「価値観が仕組みに浸透し、あなたがいなくても文化が保たれる」状態です。勝亦さん自身、「マニュアルと価値観がようやくつながった。それがなければマニュアルは意味がない」と振り返っています。「マニュアルを作って魂入れず」に陥らないための、核心を突いた言葉だと思います。
「こだわりの範囲」にグラデーションをつけて手放す
もうひとつ、自走型組織づくりのヒントになるのが、勝亦さんの手放し方です。仕事を細分化し、「ここは自分がこだわるべき」「ここは任せてよい」とグラデーションで切り分ける。品質的に致命的なミスには気を配る一方、細かい失敗は織り込み済みとして気にせず手放す。外注化や仕組み化がうまくいかない社長ほど「これは自分がやらないといけない」という思い込みが強く、こだわりの範囲が広すぎる、というのが勝亦さんの見立てです。
そしてもう一点。ブランドコミットメントを一言で定義できたのは、清水とのミーティングで「それじゃないですか?」という第三者の一言がきっかけでした。自分一人では盲点になりやすい価値観の言語化は、見てくれる相手がいてこそ進む、という点も、自走型組織づくりの大切な教訓です。
インタビューの全文は、こちらの事例記事でご覧いただけます。 → 【仕組み化の成功事例】社員一人で年商1億円・働く時間を3分の1にした方法(株式会社エグゼサポート 勝亦徹さん)
自走型組織に関するよくある質問
Q. 自走型組織と自律型組織は何が違いますか?
自律型組織は「各メンバーが自分で判断して動く」ことに重心があります。自走型組織はそれに加えて、判断の拠り所となる価値観と、成果を生む業務プロセス(仕組み)が土台にあり、自律と再現性の両方が揃っている点が違います。土台のない自律は、ただバラバラな組織になってしまいます。
Q. ティール組織やホラクラシーとは違うのですか?
ティールやホラクラシーは主に「組織構造をどう変えるか」の話です。一方、自走型組織は「社長依存からどう抜け出すか」という経営者視点の目的が起点にあります。構造をフラットにすること自体が目的ではなく、あなたが安心して現場を離れられる状態をつくることが目的です。
Q. 中小企業でも自走型組織はつくれますか?
つくれます。むしろ、社長一人に判断や顧客対応が集中しやすい中小企業ほど、自走型組織づくりの効果は大きく出ます。ここで紹介した経営者の事例も、大企業ではなく、社長依存の状態から出発しています。会社の規模や業界の性質は障害になりません。
Q. 自走型組織をつくるのにどれくらいの期間がかかりますか?
仕組みと文化を整え、さらに承継まで完了させるには相応の時間が必要です。参考までに、事例の会社では新任CEOへの知識移転だけで9〜12か月をかけています。「今日始めて来月完成する」ものではなく、一貫した成果が出るまで継続的に改善していく取り組みだと考えてください。
Q. 自走型組織ができたら、社長は何をすればいいのですか?
現場対応から解放されたぶん、本来やるべき長期戦略や、自分の人生のビジョンに時間を使えるようになります。事例の経営者は会長職に退き、経営陣へのアドバイス役を務めながら、年に2か月の休暇を取っています。「やらなければならない仕事」ではなく「やりたい仕事」を選べる状態になるのが、自走型組織のゴールです。
自走型組織を作るなら仕組み経営にご相談ください
いかがでしたでしょうか。少し長くなりましたが、実体験に基づいた示唆深いストーリーだったと思います。
このサイト「仕組み経営」でご提供している仕組みづくりは、彼女が実践してきたプロセスとまったく同じです。経営者個人の人生の目的や計画からスタートし、それを反映した仕組みづくり・文化づくりに取り組んでいきます。このプロセスによって自走型組織へと変革させた事例が、私たちには多数あります。
詳しくは、以下の仕組み化ガイドブックでご紹介していますので、ぜひご覧ください。
関連記事:【自律型組織の闇】ティールやホラクラシーを目指す前に知るべきこと
関連記事:【仕組み化の成功事例】社員一人で年商1億円・働く時間を3分の1にした方法(株式会社エグゼサポート 勝亦徹さん)


