「社長は忙しいのが当たり前」——そう思っていませんか。実は、業績を伸ばし続けている社長ほど、時間にゆとりがあります。しかも、それは性格でも能力でもなく、会社の仕組みの違いから生まれています。
この記事では、社長が忙しい理由を10個に分解したうえで、それぞれの「症状」と「打ち手」、そして忙しさから抜け出すための着手順まで整理しました。後半では、1日8〜9人の施術に追われていた社長が、年間36時間の労働で売上を5倍にするまでに何をどの順番でやったのか、実例もご紹介します。セルフチェックとよくある質問も用意していますので、自社がどのパターンに当てはまるのかを確かめながら読んでみてください。

- 1 「社長=忙しい」は幻想である
- 2 社長は些末な仕事をしてはいけない
- 3 社長が忙しい理由①基本スキルの欠如
- 4 社長が忙しい理由②現場仕事に入りすぎ
- 5 社長が忙しい理由③自分の時給を知らない
- 6 社長が忙しい理由④マイクロマネジメント
- 7 社長が忙しい理由⑤過剰な人員
- 8 社長が忙しい理由⑥委任システムの欠如
- 9 社長が忙しい理由⑦単価が安い
- 10 社長が忙しい理由⑧ビジョンの欠如
- 11 社長が忙しい理由⑨雑多な環境
- 12 社長が忙しい理由⑩IT化の欠如
- 13 【事例】年間36時間の労働で、売上を5倍にした社長
- 14 【セルフチェック】あなたの忙しさはどのタイプか
- 15 忙しさから抜け出す順番
- 16 よくある質問
- 17 忙しい社長は、仕組み化で解決する
「社長=忙しい」は幻想である
一般的には、社長であるならば時間がないとか忙しいのは当たり前だと思われているんじゃないかと思います。皆さんの中にも忙しく働いている方はいらっしゃると思うんですけれども、経営者なんだからこのくらいの忙しさは当然だろう、と思っている人は多いんじゃないでしょうか。
でも私たちの周りにいる、業績を上げている社長の多くは、実はあまり忙しそうに見えません。時間がなさそうに見えない社長のほうが圧倒的に多いんですね。
なので本当は「経営者=忙しい、時間がない」というのは幻想なんです。できる経営者ほど、実は時間にゆとりがある。以前の動画でもお話ししたんですけれども、自力で1000億円以上稼いだ人たちの特徴をまとめた本があるんですね。その中で共通している特徴として挙げられているのが、彼らが全く忙しそうに見えないということなんです。
もちろん1000億円稼いでリタイアした人に時間があるのは当たり前です。でも彼らは現役なのに、まったく忙しそうに見えない。なぜかという話は後でしますが、とにかく忙しい、時間がないというのは実は幻想である、ということなんですね。
私たちも日頃、多くの社長とお話しするんですけれども、忙しい、時間がないとおっしゃっている社長の会社は、なかなか成長が難しいというのが実感としてあります。そういう点から考えても、まずは「社長なんだから忙しくて当たり前」という前提を一度取っ払ってみていただくといいのかなと思います。
忙しい社長と、余裕のある社長は何が違うのか
両者の違いは、能力でも体力でも、まして根性でもありません。会社の中で「誰が何をやるか」が決まっているかどうか、その一点です。
| 比較項目 | 忙しい社長の会社 | 余裕のある社長の会社 |
|---|---|---|
| 判断の集中度 | ほぼすべての判断が社長に上がってくる | 判断基準が共有され、現場で判断が完結する |
| 社長の主な業務 | 営業・開発・納品などの現場仕事 | ビジョン策定、仕組みづくり、人材育成 |
| 人が増えたときの変化 | 管理対象が増え、社長がさらに忙しくなる | 実行力が増え、社長の時間はむしろ増える |
| 社長が1週間不在にすると | 業務が止まり、戻ってから対応に追われる | 大きな問題なく回り、報告だけが上がる |
| 成長の限界 | 社長の処理能力=会社の上限 | 仕組みの数と質=会社の上限 |
この表を見ていただくと分かる通り、忙しさというのは個人の問題ではなく、構造の問題なんですね。だから精神論や時間術だけでは解決しません。
社長は些末な仕事をしてはいけない
忙しい、時間がないというのは、要するに社長が些末な仕事に追われているということです。些末な仕事、つまり重要でない仕事ですね。社長が重要ではない仕事に追われていると、会社は当然ながら成長していきません。
少なくとも会社がまだそんなに大きくないときには、一番の資源は何かというと、やっぱり社長の時間なんですね。社長がどう時間を使うかで、会社が成長するかしないかが決まってしまう。ここが他の社員の時間の使い方とは決定的に違うところです。
私たちは、この「社長がやるべきでない仕事」に費やしている時間を コスト ではなく 機会損失 として捉えています。社長が1時間、伝票整理をしたとします。その1時間で失われたのは人件費相当額ではなく、その1時間をビジョン設計や新規事業の構想に使っていたら生まれたはずの利益なんですね。ここの感覚が変わると、行動が変わります。
では、その些末な仕事はどこから流れ込んでくるのか。ここからが本題です。社長が忙しい、時間がないと感じる10個の理由を、それぞれの打ち手とセットでご紹介します。
社長が忙しい理由①基本スキルの欠如
まず一つ目、基本スキルの欠如です。基本スキルというのは、タスクをこなしていくスキルのことを指しています。もしくは時間管理の基本スキルも、ここに当てはまります。
たとえば、一度に一つのことをちゃんとやる。緊急な仕事よりも重要な仕事を優先させる。まとまった時間をとって集中して仕事をやる。こういった基本的なスキルですね。世間的によく言われている時間管理とか仕事管理のスキルのことです。これが欠如していると、どうしても忙しい、時間がないとなってしまいます。
自力で1000億円稼いだ人が忙しく見えない理由
先ほど、自力で1000億円稼いだ人の特徴として忙しく見えないという話をしたんですけれども、なぜ忙しく見えないかというと、彼らは一度に一つのことにしか取り組まないからです。本当はいろいろやらないといけないことがあるんだけれども、その時々では一つのことにしか集中していないので、まったく忙しそうに見えないというわけなんですね。
逆に、いつも忙しいとか時間がないと言っている人は、いろんなことを同時にやってしまっている。たとえば動画を見ながら何か作業をしているというのは、要はマルチタスクですよね。そうすると忙しそうに見えるわけです。でも本当は、一度に一つのことに集中したほうが効果的な仕事になると言われています。
基本スキルを身につけるには
基本的なスキルは、学べば身につきます。本を読めば時間管理とか仕事の進め方のノウハウはいくらでもありますので、自分にも使えそうだなと思うものを一つ一つピックアップして、実践していくということですね。
ここで注意点があります。一気に全部やろうとしないことです。いきなり仕事のスタイルを変えるのは難しいので、「この1週間はこれを試してみよう」という感じで、一個一個自分の身にしていく。これが結局いちばん早いです。
ただし、正直に申し上げておくと、時間術だけで社長の忙しさが解決することはほとんどありません。ここは入口にすぎず、本丸は②以降にあります。
社長が忙しい理由②現場仕事に入りすぎ
二つ目です。現場仕事に入りすぎ。社長が現場に入って忙しく働いている会社のことを、私たちは職人型ビジネスと呼んでいます。現場仕事は日々回っていますので、そこに自分が入り込んでしまうと、当然ながら忙しくなりますよね。
現場仕事とは何かというと、商品をつくる、売る、届ける、この三つの作業のことを指しています。業務的にいうと開発、営業、納品ですね。
社長がこういう現場仕事に入ってしまうと、本来社長がやるべき仕事に集中できなくなります。これは会社として非常にまずい状況です。開発は開発の担当がやる、営業は営業の担当がやる、納品は納品の担当がやる。組織として動いているので当たり前ですよね。では社長は何をやるかというと、社長の仕事をするのが担当なので、社長の仕事をしないといけないんです。
だけども多くの社長は、今まで自分が現場仕事をやってきたので、この仕事は自分でやらないといけないと思い込んでしまっている。それで結局、人は増えても現場仕事に自分がどっぷりはまっているので、経営する仕事ができない。だから忙しい、時間がない、となっているわけですね。
職人・マネージャー・起業家という三つの人格
ここは少し補足しておきます。私たちは、経営者の中には三つの人格が同居していると考えています。手を動かして価値を生む「職人」、秩序をつくり管理する「マネージャー」、未来を描き変化を起こす「起業家」の三つです。
創業社長の多くは職人としてスタートします。腕がいいから独立したわけですから、これは自然なことです。問題は、会社が大きくなっても職人の比率が下がらないことなんですね。職人の人格が強いままだと、現場が気になって仕方がない。品質も自分がいちばん高い。だから手を出す。そして忙しくなる。
会社の成長段階に応じて、この三つのバランスを意図的に組み替えていく。これが現場から抜けるということの本質です。単に「現場に行かない」と決めるだけでは、たいてい元に戻ります。
現場から抜ければ、社長は驚くほど暇になる
実際に現場仕事から抜けることができれば、社長の時間はめちゃくちゃ増えます。もし今、現場の仕事に入り込んでしまっているという方がいらっしゃったら、試しでいいので、1日だけ、もしくは3日だけ、あるいは1週間だけ現場仕事をやらないという決断をしてみてほしいんですね。
そうすると、今まで忙しい、時間がないと思っていたんだけれども、めちゃくちゃ時間が余るということに気づくと思います。これはうちのお客さまでも同じです。現場仕事を仕組み化して他の人に任せられるようになると、本当に時間が増える。
そうすると今度は、逆に社長として何をすればいいのか分からない、というご相談をいただくこともあるくらいです。それくらい、忙しい、時間がないというのは幻想なんですね。自分が現場仕事に入りすぎているから、そうなってしまっているだけなんです。
実際に、1日8〜9人のパーソナルトレーニングをこなしながら土日は協会運営に走り回っていた社長が、そこから抜けて年間36時間の労働で売上を5倍にした事例があります。記事の後半で詳しくご紹介しますので、そちらもぜひ読んでみてください。
現場仕事から抜けるには
これを解決するには現場仕事に入らないということなんですけれども、やり方はいろいろあります。もちろん現場仕事を仕組み化して誰かに任せられるようにしないといけませんし、社長の心理的な面もあります。人に任せるのが怖いとか、現場仕事をやっていないと仕事をしている気にならないとか、そういうメンタル的なところもあるので、一概にこれをやればいいとは言えません。
ただ、さっき言った通り、1週間のうち1日は現場に行かない、次は3日行かない、というように少しずつ進めていただくと、どうすれば自分が現場に入らなくても回るようになるのかが見えてきます。「完璧に仕組みができてから抜ける」ではなく、「抜けてみることで、どこに仕組みが必要かが分かる」という順番のほうが、実際にはうまくいきます。
社長が忙しい理由③自分の時給を知らない
次は、時給を知らないということですね。社長はもちろん時給制で働いているわけではありません。役員報酬を年間でもらっているわけなので時給制ではないんですけれども、とはいえ社長としての時給を計算するというのは、結構役に立つ考え方です。
分かりやすい例でいうと、たとえば自分の年収を1億円にしたいと思ったら、社長は最低でも時給を5万円にしないといけません。なぜ5万円かと言いますと、月間の稼働時間を160時間と仮定します。そうすると160×5で800万円になりますね。それを×12すると、だいたい年収で1億円くらいになるわけです。
つまり1億円稼ごうと思ったら、毎時間毎時間、5万円分の仕事をしないと絶対そこには到達しないという話になってきます。
| 目指す年収 | 社長として必要な時給の目安 | この金額以下の仕事は |
|---|---|---|
| 1,000万円 | 約5,000円 | 外注・任せるを検討 |
| 3,000万円 | 約15,000円 | 迷わず手放す |
| 1億円 | 約50,000円 | そもそも視界に入れない |
※月間稼働160時間で試算
皆さんが取りたい収入や実現したい売上があると思うんですけれども、そこから逆算すると、自分はいくら分の働きをしないといけないのかが見えてきます。それ以下で他の人に任せられるような仕事は、自分の手からどんどん手放さないといけない。逆にこれができると、些末な仕事がどんどん手離れしていきますので、忙しい、時間がないという状況から抜け出せるんじゃないかなと思います。
社長が忙しい理由④マイクロマネジメント
次はマイクロマネジメントですね。これは救いがたいマネジメントのスタイルだと私は考えているんですけれども、部下のやった仕事を細かくチェックする、もしくは部下の働きぶりを細かく監視するマネジメントの仕方のことを指しています。
これをやっていると、社員が増えれば増えるほど社長は忙しくなります。当然、監視対象が増えますからね。そうすると自分の仕事をする余裕もなくて、とにかく部下のやってきた仕事をチェックする、部下の仕事ぶりを監視することに時間を取られて、忙しい、時間がないという状況になっていきます。
うちのお客さまでも、たまにいらっしゃるんですね、マイクロマネジメントをしている社長が。会社の仕組みづくりをお手伝いするんですけれども、マイクロマネジメントをしている社長の会社の仕組み化をお手伝いするのは、正直かなり難しいです。どんな仕組みをつくっても、結局社長が全部口出しして直接管理しようとするので、仕組みが機能しないんですね。
なので、まず社長の考え方を変えないと、いくら仕組みを導入しても難しいという話になります。ここでポイントになるのは、監視をやめる代わりに「判断基準」を渡すということです。人を見張るのではなく、判断のものさしを共有する。これができると、チェックの回数は自然に減っていきます。
社長が忙しい理由⑤過剰な人員
次は過剰な人員ですね。会社の中に人が多すぎるということです。社長としては、そもそも自分の仕事や会社の中の業務が増えてきたので、人を雇ってもっと楽になろうという話になるわけですね。
でも一方で、人が増えれば増えるほど、社長が見ないといけない人が増える。管理しないといけない人が増えるので、余計忙しくなるというパターンがあります。当然、人が多ければ多いほど管理工数が増えますので、そこに社長の時間が取られてしまうんですね。
管理する仕事というのは、社長の仕事の中では3分の1くらいしかありません。本当は3分の1以下に抑えるべきなんです。管理する仕事は中間管理職の仕事であって、本来は社長の仕事ではないんですね。そこに社長が時間を取られると、これはまた問題であるということになってきます。
昔は、人を増やせば増やすほどいい、雇用を増やせば増やすほど偉い社長だ、みたいな価値観がありました。でも今はそうじゃないので、少人数でいかに大きなインパクトのある仕事をするか、いかに大きな価値を世の中に提供するかということのほうが大切です。そこの考え方を改めていくということかなと思いますね。
社長が忙しい理由⑥委任システムの欠如
六つ目、委任システムの欠如です。自分の仕事を社員に委任するための仕組みがないので、結局自分でやってしまう。任せたんだけれども正しい委任の仕方をしていないので、その尻拭いを社長がしてしまうというケースですね。
最近はあまりないですけれども、昔はよく勉強会やセミナーのあとに懇親会という名の飲み会をやるわけですね。その飲み会の場で、しょっちゅう社員から電話がかかってくる社長がいるんですよ。だいたい決まった社長なんですけれども、そういう社長は、社員に仕事を振ってはいるんだけれども、そのフォローアップで忙しいということなんですね。この件どうしましょうか、この件どうしますか、という問い合わせが頻繁にかかってくる。だから飲み会に行っても、その場に集中できない。これも忙しい、時間がないの理由になります。
「任せる」と「丸投げ」の分かれ目
委任がうまくいかない会社の共通点は、仕事を渡すときに 結果の定義 と 判断できる範囲 と 報告のタイミング の三つが決まっていないことです。この三つが曖昧なまま渡すと、社員は不安なのでいちいち聞いてくる。それを社長は「うちの社員は主体性がない」と受け取ってしまう。でも実際には、主体性の問題ではなく、渡し方の問題であることがほとんどなんですね。
だから、会社の中で仕事を誰かに振る場合には、どこまでやってもらうのか、どういうフォーマットで進めるのか、報告はいつどうやるのか、これをちゃんと決めておく。委任の仕組みをつくりましょう、ということです。
社長が忙しい理由⑦単価が安い
次は、安い単価ということですね。単価が安いので、より多くのお客さまに対応しないといけない。だから忙しくなるわけです。
売上を上げるには、単価を上げるか顧客数を増やすか、基本的にはこの二つしかありません。少数のお客さまから高単価、かつ高利益率の商品を買っていただいている場合には、比較的社長の時間にゆとりが生まれます。一人のお客さまからいただく金額が大きいので、その分そのお客さまに集中できるということですね。
一方で安い単価でより多くのお客さまに対応しようとすると、いろんなお客さまへの対応が必要になりますし、問い合わせも増えますので、その分忙しくなる。これは社長に限らず社員も同じで、安い単価でやっていると非常に忙しくなる傾向にあります。
つまり、社長の忙しさは商品設計や価格設計の問題でもあるということです。時間管理の話だと思っていたものが、実はビジネスモデルの話だった、というのはよくあることなんですね。
社長が忙しい理由⑧ビジョンの欠如
次はビジョンの欠如。実はこれが結構大きいと私は思っています。ビジョンというのは、要するに会社の青写真ですね。自分の会社は将来こうなっていくんだという道筋、長期的な展望のことを指しています。このビジョンがないと、社長として何をすべきかが分からないんですね。
なのでビジョンがない会社は、冒頭に申し上げた通り、些末な仕事にみんなが忙しくしているという状況になります。ビジョンがないと、どの仕事が重要でどの仕事が重要じゃないのかが分からない。だから重要じゃない仕事も重要な仕事もごちゃ混ぜで日々やっているので、忙しさがずっと続いていくわけです。
一方でビジョンがちゃんとある会社は、「今はうちには必要のないことだな」と明確に判断できます。そうすると、本当に重要な仕事にその場で集中できる。だから8番目のビジョンの欠如というのは、めちゃくちゃ大事なんですね。これがないと、いつまでたっても忙しい、時間がないという状況になります。
ビジョンを描く時間がないのではなく、ビジョンがないから時間がない
一方で、忙しくてビジョンを考えている余裕がない、という社長もいると思います。でもこれは考え方が逆なんですね。忙しいからビジョンが描けないのではなくて、ビジョンがないから日々の仕事が忙しくなってしまう。
なのでビジョンをつくるというのは最優先にしていただいて、取り組んでいただくといいのかなと思います。半日でも一日でも、会社から離れて考える時間を確保する。ここに投資できるかどうかが、その後の何年かを決めてしまうくらい大きな分岐点になります。
社長が忙しい理由⑨雑多な環境
次は雑多な環境ですね。物理的な環境が雑多であるということもあるし、デジタル空間、つまりフォルダやファイルが整理されておらず、ごちゃ混ぜになっているということもあります。
なぜ雑多な環境だと忙しくなるのかというと、物を探すのに時間がかかるからです。何かの調査で見たんですけれども、私たちは結構な割合の時間を、必要なデータや必要な情報を探すことに使っているんですね。デジタル空間や仕事の物理的な環境が雑多だと、探すのに時間がかかる。その分、無駄な時間になりますし、重要な仕事はできなくなります。
実は仕事環境の整理整頓というのは、社長の忙しさや時間のなさを解決する大きな要因の一つなんですね。しかもこれは、10個の理由の中でいちばん今日から着手できるものでもあります。
社長が忙しい理由⑩IT化の欠如
最後10番目、IT化の欠如です。いまだにかなりアナログなやり方で時間を浪費している会社は多いと思います。今はいろんなクラウドのツールがありますので、相当な部分をオートメーションできてしまうんですね。それをやらずに人を介してやっているというのは、まさに時間の無駄です。
IT化の欠如によって起こるデメリットは、忙しい・時間がないだけではありません。もう一つは、若手が離職していくということです。若い人はITに慣れていますので、入った会社が非常にアナログなやり方をしていると、非効率さに嫌気がさしてしまう。そうすると、こんな古臭い会社にはいられない、と辞めていってしまう。人材確保の面でもIT化は結構大事なんですね。
調べればいろいろありますので、今自分がやっている業務の中で、特にルーチン化できるものから探してみてください。そういう業務はIT化できる可能性がかなり高いので、どんどん導入していくということですね。
ただし注意点もあります。仕組みが整理されていない状態のままツールだけを入れると、混乱をデジタル化するだけになってしまいます。順番としては、業務の流れを整理してからツールを選ぶ。ここは逆にしないほうがいいです。
【事例】年間36時間の労働で、売上を5倍にした社長
ここまでの話が机上の空論ではないことを示すために、実際のお客さまの例をご紹介します。
株式会社CODE7代表取締役で、PHIピラティスジャパンのディレクターを務める桑原匠司さんです。ピラティスのインストラクターを全国に育成する事業をされていて、私たちが活動を始めた初期の頃からのお付き合いになります。
「まさにサラ状態でした」——出会った頃の忙しさ
桑原さんとお会いした当時の状況は、この記事の理由②そのものでした。ご本人の言葉を借りると、平日は1人で1日8人か9人のパーソナルトレーニングを見て、それに加えて土日を使って協会の活動を広げていた。体がもたないうえに、自分がいなくなったら誰がどうやってこの事業を広げるのかも分からない。
そして、まさにその頃にクレームが出始めたそうです。「あれはどうなってますか」「この前の問い合わせの返事が全然こないんですけれど」。回らなくなっていたんですね。
桑原さんご自身が「まさにサラ状態でした」とおっしゃっていました。サラというのは、マイケル・E・ガーバーの『はじめの一歩を踏み出そう』に出てくる主人公で、パイ屋を開業したものの職人的な仕事に追われる日々を送っていた人物です。
興味深いのは、独立して時間ができれば解決すると思っていたのに、そうならなかったという点です。パーソナルトレーニングの時間がごそっと空いて、普及活動をする時間はできた。ところが結果はあまり変わらなかった。広告を打っても反応がなく、問い合わせも思ったほど来ない。「自分の時間は関係なかったんだ」と気づいた、とおっしゃっています。
ここは非常に大事なところです。忙しさの正体は時間の量ではなく、会社の構造だった。だから時間だけを空けても何も変わらなかったんですね。
取り組んだ順番
帰国後、桑原さんが何をどういう順番でやったかを伺うと、この記事でご紹介した着手順とほぼ重なります。
まず取り組んだのは、大きなビジョンを描くことでした。しかも「ピラティスを広げる」といった事業レベルの話ではなく、その先です。本田宗一郎や松下幸之助が、バイクや電球そのものにこだわっていたわけではなかったという話をされていて、松下幸之助が電球をつくったのは、夜が暗いと人の気持ちも暗くなるし勉強も仕事もできないから。つまり人間の暮らしを豊かにしたかったからだ、と。
そこから桑原さんは「よいものを後世に残す」というコンセプトに行き着きました。PHIピラティスは医療従事者にも支持されていて、原因不明と言われた症状や繰り返す怪我を改善できる。だからこれは後世に残すべきものだろう、という発想ですね。この軸ができると、何をやって何をやらないかの判断ができるようになります。
次にやったのが、自己分析にもとづく採用です。ドリーマー、シンカー、ストーリーテラー、リーダーという起業家が担うべき4つの人格で自分を分析したところ、ドリーマーとストーリーテラーが強く、シンカーが極端に少なかった。そこで、まずシンカーの役割を担う人を1人雇いました。
この採用の基準が具体的で参考になります。桑原さんが探したのは、単純作業が好きで、現実味にあふれていて、「これでお金が儲かるんですか?」と冷静に聞いてくるタイプの人でした。レシートを月に1回、費目ごとに分類して入力する。これは仕組みさえ分かっていれば自分でなくてもできる作業なのに、やりたくないから自分がやると異様に時間がかかる。そういう仕事を手放したわけですね。
空いた時間を何に使ったか
苦手な部分がなくなると、気持ちにも時間にも余裕が生まれます。そこで桑原さんは、自分の強みであるストーリーテラーの役割に集中しました。
ただし、そのやり方が独特です。自分が前に出るのではなく、2番手3番手を思い切り前に出したんですね。自分に来たメディアの話を「自分は忙しいので」と言いながら弟子に回していく。代表はほんの少ししか表に出ず、2番手3番手がものすごく活躍しているように見える状態を意図的につくっていった。
しかもこの人たちは社員ではなく、外部の資格保有者です。彼らに稼げるシステムを渡し、業界のスターにすることで、彼らも潤い、会社も潤う構造をつくった。神田昌典さんや本田健さんのような「1人カリスマ」を目指すのをやめた、という言い方をされていました。カリスマ型は、その人が退いた瞬間に誰も継げなくなるからです。
結果として何が起きたか
| 項目 | 取り組み前 | 取り組み後 |
|---|---|---|
| 社長の労働時間 | 平日は終日パーソナル対応+土日も稼働 | この事業に関して年間36時間 |
| 売上 | — | 5倍 |
| 認定インストラクター | 約200名 | 1,537名(うち959名が資格更新) |
| 資格発行できる人 | 桑原さん1人 | 1段階目で約30名、2段階目で10名超 |
年間36時間というのは、6時間の仕事を年6回という意味です。サラリーマン時代の労働時間から、この水準まで下がった。それでいて売上は5倍になっています。
ご本人も「こんなに変わるとは」とおっしゃっていましたが、よく考えれば当然でもあります。自分の分身が全国に散らばり、それぞれが別のマーケットから顧客を連れてくる構造になったわけですから。ただし、実際にやるまでは「自分じゃない人にやらせて、ちゃんと人が集まるんだろうか」と思っていた、とも正直に話されています。この不安を越えられるかどうかが、やはり分かれ目なんですね。
▶桑原さんの忙しさから抜け出した事例インタビュー記事はこちら
この事例から読み取れること
桑原さんのケースで注目していただきたいのは、順番です。時間術から入っていません。ビジョンを描き、自分の役割を定義し、足りない機能を人で埋め、空いた時間を自分の強みに再投資する。この順番だからうまくいっています。
もう一つ、10年目に成長が鈍化したときの打ち手も示唆的です。プロダクトのライフサイクルは10年と言われているのを踏まえて、上位資格の門を開き、既存の資格保有者が次に目指す先をつくった。資格を発行できる人にとっては新しい収入源になり、その人が教えた生徒にも「私も5年かけてやっとできるようになった」と伝わることで、熟成された価値として次の受講につながっていく。仕組みは一度つくって終わりではなく、循環させるものだということがよく分かる例だと思います。
【セルフチェック】あなたの忙しさはどのタイプか
ここまで読んで、自社がどれに当てはまるか分からないという方のために、簡単なチェックリストを用意しました。当てはまるものを数えてみてください。
- 今週、複数の仕事を同時進行で処理している時間が多かった
- 営業・開発・納品のいずれかに、自分が日常的に関わっている
- 自分の時給を計算したことがない
- 部下の仕事の進捗を、自分から細かく確認しに行っている
- 人を増やしたのに、自分の忙しさは変わっていない
- 任せた仕事について、社員から頻繁に確認の連絡が来る
- 主力商品の単価を、この3年間変えていない
- 3年後の会社の姿を、社員に言葉で説明できない
- 探しものに時間を取られている自覚がある
- 紙・手入力・転記が残っている業務がある
0〜2個/すでにかなり仕組みで回っている状態です。ビジョンの解像度を上げる段階に進めます。
3〜5個/構造的な忙しさが始まっています。②現場仕事と⑥委任から手をつけてください。
6個以上/社長の処理能力が会社の上限になっています。⑧ビジョンから着手し、順に整えていく必要があります。
忙しさから抜け出す順番
10個の理由をご紹介しましたが、全部を同時にやろうとすると、たいてい何も変わりません。実際にお手伝いしていて効果が出やすい順番は、だいたい決まっています。
まず最初にやるのは、時間の棚卸しです。1週間、自分が何に何時間使ったかを記録する。ここを飛ばして次に進む方が非常に多いんですけれども、現状が見えていないと、何を手放すべきかも決まりません。だいたいの社長が、この時点で「思っていたより現場仕事をしていた」と驚かれます。
次に ビジョンを言葉にする。これが判断のものさしになります。ものさしがないまま業務削減をすると、削ってはいけないものを削ってしまうんですね。
三番目に 現場仕事を一つだけ手放す。全部ではなく一つです。そして手放したときに何が起きるかを観察する。止まった箇所が、仕組みをつくるべき場所です。
四番目に 委任の型をつくる。結果の定義、判断できる範囲、報告のタイミング。この三点セットを一枚の紙にする。ここまで来ると、社員からの問い合わせが目に見えて減ります。
そして最後に IT化と環境整備。順番を最後にしているのは、業務が整理される前にツールを入れても定着しないからです。
この順番で進めていただくと、多くの場合、3か月ほどで社長の可処分時間に変化が出てきます。
よくある質問
忙しいのは会社が成長している証拠では?
売上が伸びていて忙しいのであれば、一時的には健全です。問題は、売上の伸び以上に社長の忙しさが増えている場合ですね。売上が2倍になったときに社長の労働時間も2倍になっているなら、それは成長ではなく、社長の消耗を燃料にした拡大です。この状態は必ずどこかで頭打ちになります。
社員が育っていないので任せられません。どうすればいいですか?
順番が逆になっているケースがほとんどです。育ってから任せるのではなく、任せる範囲を決めて渡すから育つんですね。もちろん最初は品質が落ちます。そこを織り込んだうえで、判断基準と報告の型を渡す。社長が求める80点の水準を言語化できていないまま任せると、たいてい失敗します。
一人社長・少人数の会社でも仕組み化はできますか?
できます。むしろ人数が少ないうちのほうが取り組みやすいです。人が増えてからだと、既存のやり方が固まっていて変更コストが高くなります。一人であっても、自分の仕事の手順を書き出しておけば、それは将来の採用時の教育資料になりますし、外注に出す際の指示書にもなります。
現場から抜けたら、社長として何をすればいいのか分かりません
これは実際によくいただくご相談です。社長にしかできない仕事は、ビジョンを描くこと、事業をつくること、仕組みをつくること、そして人を育てること。この四つです。現場から抜けた直後は手持ち無沙汰に感じますが、それは今までこの四つに時間を使えていなかったという証拠でもあるんですね。
忙しさを減らすと、売上が落ちませんか?
短期的には落ちることがあります。社長が現場から抜ければ、営業力も納品品質も一時的には下がるからです。ここを乗り越えられるかどうかが分かれ目で、多くの会社は下がった瞬間に社長が戻ってしまい、元の構造に戻ります。この落ち込みの期間をどう設計するかが、実務上いちばん重要なポイントです。
忙しい社長は、仕組み化で解決する
今日は、社長が忙しい、時間がない理由を10個ご紹介しました。
改めて振り返ると、基本スキルの欠如、現場仕事に入りすぎ、時給を知らない、マイクロマネジメント、過剰な人員、委任システムの欠如、安い単価、ビジョンの欠如、雑多な環境、IT化の欠如。この10個です。
そして共通しているのは、どれも社長の努力不足ではなく、会社の構造の問題だということですね。頑張って忙しさを乗り切ろうとするほど、構造は温存されて、忙しさは続いていきます。
私たちが日頃お手伝いしている仕組み化というのは、経営者の自由時間と会社の成長を両立させようという考え方です。今日の10個の中から、自分に当てはまっているものは何かなということで、働き方や環境を見直していただいて、自由時間と会社の成長、これを両立していただければと思います。


