
有意注意の意味とは?
有意注意(ゆういちゅうい)とは、目的をもって、自分から意識を向けて集中させることです。ぼんやりと物事に反応するのではなく、「何のためにこれをしているのか」を分かったうえで注意を注ぐ状態を指します。
経営の場面では、「どんなささいな仕事でも、漫然とこなさずに気を込めて取り組む」という意味で使われることが多い言葉です。
なお、「優位注意」と書かれることがありますが、これは変換の誤りです。正しくは「有意注意」と書きます。
無意注意と有意注意
有意注意は、もともと中村天風氏が説いた考え方です。同氏によれば、注意には二通りあるとして、次のように語られています。
注意というものには、
(1)無意注意と
(2)有意注意
という二つの区別がある。
第一の無意注意とは、特に意識を用いて注意を振り向けようとしないでも、自然的に注意の注がれる心的状態のことなのである。
第二の有意注意というのはこれと全く反対なので、すなわち特に意識を用いて自己の特定した事物に向って注意を振り向けるという、言い換えると能動的の注意状態をいうのである。
われわれの訓練を現実に必要とするのは第二の有意注意なのである。
つまり、音がしたから振り向く、目に入ったから見る、というのが無意注意です。自分で対象を決めて、そこに意識を向け続けるのが有意注意です。「有意無意」「有意的・無意的」という言い方も、この区別から来ています。
無意注意そのものが悪いわけではありません。危険にすぐ気づけるのは無意注意のおかげです。問題になるのは、仕事のほとんどを無意注意のまま、目の前に来たものに反応するだけでこなしてしまうことです。
中村天風とはどんな人か
中村天風(1876〜1968年)は、日本の思想家です。自身が大病を患った経験をもとに「心身統一法」を説き、その普及のために天風会を創始しました。心の持ち方と体の使い方を一体のものとして鍛えるという教えは、多くの経営者やスポーツ選手に影響を与えています。
稲盛和夫氏もその一人で、有意注意が経営者のあいだで広く知られるようになったのは、次に紹介する京セラフィロソフィを通じてです。
有意注意で判断力を磨く by 稲盛和夫氏・京セラフィロソフィー
その後、稲盛和夫氏が京セラフィロソフィーに有意注意を取り入れたことで、多くの経営者が知る言葉になりました。京セラフィロソフィーには次のように語られています。
私たちはどんなときでも、どんな環境でも、どんなささいなことであっても気を込めて取り組まなければなりません。最初は非常に難しいことのように見えますが、日頃、意識的にこれを続けていると、この有意注意が習慣になってきます。そうなれば、あらゆる状況下で気を込めて現象を見つめるという基本ができていますから、何か問題が起きても、すぐにその核心をつかみ、解決ができるようになります。
ものごとをただ漫然とやるのではなく、私たちは、日常どんなささいなことにでも真剣に注意を向ける習慣を身につけなければなりません。
有意注意で仕事にあたる
ちなみに、稲盛氏によって再建されたJALでも、有意注意を理念に入れています。京セラフィロソフィーでは「有意注意で判断力を磨く」ですが、JALでは「有意注意で仕事にあたる」という表現が使われています。
稲盛氏の考え方をまとめたものとしては、経営12カ条もあわせて読むと理解が深まります。
有意注意の使い方と例文
有意注意は、次のように使います。
- 「単純な作業ほど、有意注意で取り組もう。慣れたころにミスが出る」
- 「有意注意で数字を見ていれば、先月との小さな違いに気づけたはずだ」
- 「会議中にスマートフォンを触っていては、有意注意で話を聞いているとは言えない」
- 「有意注意を習慣にしたことで、問題が大きくなる前に手を打てるようになった」
- 「新人のうちから有意注意で仕事にあたる姿勢を身につけてほしい」
うまい使い方には、「何に注意を向けるのか」が入っています。「有意注意でいこう」とだけ言っても、聞いた人は何に意識を向ければよいのか分かりません。
経営リーダーにとっての最重要スキルのひとつが有意注意
私の師匠であり、このサイト「仕組み経営」の考え方の原点になっているマイケルE.ガーバー氏という人物がいます。彼は40年以上にわたる経営指導の経験から、中村天風氏や稲盛和夫氏と同じような結論に至っています。ガーバー氏は、経営リーダーにとって最重要のスキルのひとつが集中力だと語っています。言葉は違っても、ほぼ同じ意味合いと考えてよいと思います。
以下にいくつか、ガーバー氏が語る集中力についてご紹介させていただきます。
集中することほど重要なスキルは無い
最初の重要な技術は、すべての根幹にあるもので、これほど重要な技術は他にない。毎日多くのビジネスや生活を行う中で、人々に最も欠けているのは、集中する技術である。常に何かに、次々と気を取られてしまうという方はいないだろうか。これをやっていて、突然あれをやれと言われる。そしてあれをやれと言われる。あなたは1つのことだけ考えてそこに座っているが、突然別のことが頭に浮かび、気が散ってしまう。4週間、あなたは迷子になってしまう。そしてあなたは元に戻ってくる。
さて、どうだろう?ここで疑問が生じる。意識が別の場所に飛んで戻ってくるということを何度繰り返すのか。そして一体何に意識をそらされているのか。人間の自然な状態というのは、眠ることだ。つまり、人間の自然な状態は、意識的になる状態を避けることなのである。信じられないなら、このひどい世界を見て欲しい。人間の自然な状態は、意識的になる状態を避けることなのだ。
では私たちが常に無意識状態にあるということは、どういう意味を持つのか?人に何か言ったけれども、相手は別のことを考えていて、会話にならなかったという体験はないだろうか?そうなるとあなたは彼らの注意を引きつけて、こう言うだろう。
「ちょっと少しだけ聞いてくれるかしら。」と。
誰かの注意を引こうとすれば、注意を引くことと、注意を引き続けることとの違いに気づくだろう。
一流の起業家や経営者に共通することが集中すること
以下のインタビュー動画は、私たちがガーバー氏のご自宅にお邪魔して撮影したものになります。
書き起こし:
私の知り合いにヨガのインストラクターがいます。
また、世界的に有名な格闘家もいます。起業家やテクノロジーの世界にも一流の知人がたくさんいます。
よく聞かれるのは、彼らが持つ独特の特性は何か?
ということです。
言い換えれば、武術家が知らなくてはいけないこと、ヨガのインストラクターが知らなくてはいけないこと、起業家が知らなくてはいけないこと、それらは何かということです。
真実を言えば、それらは全く共通するものなのです。
彼らはみな同じ環境、状態にあります。それは日常の仕事に対して散漫になっているか、没頭しているか?です。散漫と没頭について考えてみてください。
その二つの言葉の違いを感じ取ってください。その二つの言葉の対立を感じ取ってください。
没頭とは、現在に集中している、ということです。格闘家は現在に集中していなければ、格闘家といえません。
起業家も同様に、現在に集中して、自分がコミットしたビジネスを創ることに没頭していなければいけません。
ヨガのインストラクターは没頭していなければ、現在に集中していなければ、緊張感や焦点や技術、魅力を失います。
ですから、散漫か没頭か、その状態が大切なのです。
意識をその場所、今現在に向けることで、邪魔になるものを消し去ることができます。
そして、没頭でき、物事をあるがままにみて、驚異的なことを成し遂げられます。
私たち人間は、そのために存在しているのです。
私は何年も人々をそういった状態に戻すのを手助けしてきて、とても驚くような結果が出ています。
本来彼らがいるべき場所、本来の彼ら自身に戻すのです。
私の書籍、記事、講演で、その他の創造物で、普通では見通すことの出来ないものを捉えることが出来ました。
それは現在に集中していたからです。
あなたも同じようにすることができます。
私が書いてきたもの、行ってきたことは、すべてそのような方法によるものなのです。
それは革新的で、自己を超越する体験です。
自己を変革させる道のりの中で、周りのもの全てを変革させることが出来ます。
私にとっては、それこそが真の起業家精神です。
周りのものの在り方を一変させるのです。
ありえないように聞こえるかも知れませんが、私はこのようなことを何年も行ってきた経験から、79歳になった今、心の底から確信を持って言えます。
あなたも可能性に対して心を開いた分だけ、偉大なことを成し遂げられます。
禅と経営
以下の文章は、ガーバー氏が執筆した「Zen and Small Business」(禅と経営)というレポートの一文になります。
人によって禅に対する見方や考え方は違うと思いますが、私にとって禅とは、I AM(私は私である)ということです。これがビジネス、または人々に欠けていることなのです。
実際のところ、みんなI AM NOT(私が私でない状態)になっています。なぜなら、みんな注意散漫になっているのです。いまやっていること、やりたいこと、ほしいもの、そういったもので自分自身を失っています。
尊厳と意義ある人生を創るために自己を見つけるのではなく、自分自身を失っているのです。私は、経営にかかわる人たちは、ほかのどんな仕事をしている人よりも、アントレプレナーシップを発揮することが出来ると信じています。
アントレプレナーシップとは、とても深い意義と説得力を持った、それによって、ほかの仕事やキャリアでは出来ないような、人々に深いインパクトを与えることが出来ます。
それは芸術のようなもの、創造物のようなものです。活力があり、生き生きとして、やるべきことに目覚めていて、何かを作るために現在に集中している人たちと会うことは、とても素晴らしいことです。
それが「Zen and Small Business」を書いた理由です。
とてもよい例があります。スティーブジョブズ、そして彼が開発したもの、アップル社の例を挙げましょう。
みんなジョブズと他の人の違いを聞きたがります。彼は偉大な人物でした。彼はこの地球上で最も価値のあるブランド、アップルを創りました。
彼は大学を中退していますし、1年目の授業も終えていません。落第して、精神的な探求のためにインドに行きました。
そこでまた失望し、戻ってきました。そして似合わないエンジニアの仕事に就き、すぐに辞めて、家の父親のガレージにこもりました。
そして当時、他に類の見なかった会社、アップルを創りました。
彼はビジネス、マーケティング、テクノロジーについて詳しかったわけではありません。
みんなそういった知識がビジネスを成功させるために必要だと言っていますが、彼はそんなこと知りませんでした。しかし、彼はアップルを作ったのです。
なぜそんなことが出来たのか?
その理由がいまいったようなことなのです。
いまいる場所、この瞬間に集中すること、そしてそこから生まれてくる本当の情熱を感じることです。
そうすれば世の中のことが見えてきます。何を知らないのかに気がつきます。好奇心を抱き、なぜ自分が生まれてきたのかを探求し始めます。
その発見のプロセスによって、うちなるアントレプレナーシップが目覚めるのです。
スティーブジョブズがガレージの中でやったように、真っ白な紙と初心者の心に戻るのです。
私はすべての人に彼と同じことが出来る力が備わっていると信じています。あなたの知っている人たちが同じような力を持っていると思えば、素晴らしいことではないでしょうか。誰もがそれまで想像もしたことのないようなことを出来るのです。
真っ白な紙と初心者の心で、世の中の人々の琴線に触れるようなものを創造すること、それがどういうことかを理解できるでしょう。
有意注意を経営や日々の仕事に活かすには?
ここまで有意注意の意味をご紹介してきました。次に、有意注意を経営や日々の仕事に活かす方法をご紹介します。
有意注意を「心がけ」で終わらせない
最初に押さえておきたいのは、「もっと集中しろ」「有意注意で取り組め」と言うだけでは、有意注意は身につかないということです。
仕事中に注意が散る原因の多くは、本人の意志の弱さではありません。何のための仕事なのかが書かれていない。数分おきに声をかけられる。同時に抱えている仕事が多すぎる。こうした状態では、誰がやっても注意は散ります。
だから会社としてやるべきなのは、注意を向ける先をはっきりさせ、注意をそらすものを減らすことです。仕事の目的を言葉にする、集中する時間を予定に確保する、といった形にして初めて、有意注意は習慣になります。時間の確保の仕方は経営者の時間の使い方で詳しく解説しています。
ひとつひとつの仕事を目的をもって行う
有意注意の本来の意味として、「自己の特定した事物に向って注意を振り向ける」と冒頭に書きました。ここで大切なのが、「自己の特定した事物」です。これはつまり、何をするにしても、目的を意識することと言えるでしょう。
掃除のやり方も目的次第で変わる
たとえば、お店の掃除をする仕事を考えてみましょう。
目的をもって掃除をしなければ、とにかく右から左へ雑巾を動かすことだけに集中します。拭き残しがあったとしても、雑巾を動かすことが仕事だと思っていますので、放ったらかしです。これが無意注意だと言えるでしょう。
一方、掃除とはお客様が気持ちよく過ごせるように店内を整えることである、という目的を持っていたらどうでしょうか。同じように雑巾を左から右に動かしていたとしても、拭き残しがあれば、もう一度雑巾を動かし、汚れを取ります。汚れがあってはお客様が気持ちよく過ごす、という目的を達成できないからです。もともと掃除の対象に入っていない場所にゴミが置かれていても、それを取り除くでしょう。これも目的に沿った行動だからです。
リーダーは仕事の目的を教えること
このように、掃除の仕方ひとつとっても、目的をもって行うかどうかで大きな違いがあります。ささいなことを徹底するという点では、凡事徹底の考え方とも通じます。掃除をする本人は、その仕事の目的は何なのかを確認して取り組むこと。そして、掃除を指示する側のリーダーは、掃除の目的をきちんと伝えたうえで指示することが大切です。
私たちの「仕組み経営」プログラムでは、各業務について、仕事のやり方の前に追求すべき成果(目的)を明確にするようにしています。目的が書かれていれば、担当者が代わっても、どこに注意を向ければよいかが引き継がれます。
自社の目指すビジョンを明確にイメージする
有意注意のために、仕事の目的を明確にすることが大切と書きましたが、全ての仕事の最終目的は、会社のビジョン達成だと言えます。したがって、会社のビジョンを明確にすることが何より大切です。
自分の価値観を明確にする
有意注意を実践するには、自分の価値観を振り返り、明確にすることも大切です。会社としての価値観はコアバリューとして言葉にしておくと、社員が同じものに注意を向けられるようになります。二人の人が同じものを見ていたとしても、その二人の持っている価値観によって、見えるものや感じること、行動することが異なるからです。
貧困を当たり前と考えなかったユヌス氏
グラミン銀行創設者のモハメドユヌス氏は、バングラデシュで生まれ、学生時代に渡米しました。その後、帰国した彼は、米国と比べて自国がいかに貧困であるかということに衝撃を受けます。そして、貧困を解決するためにマイクロクレジットの仕組みを考え、グラミン銀行を設立したのです。
ここで注目したいのは、彼のほかにもバングラデシュの貧困を目の当たりにしていた人はたくさんいただろうことです。しかしおそらく、バングラデシュから出たことがなければ、貧困なのは通常のことであり、解決できない、と考えていたのでしょう。一方のユヌス氏は米国で生活をしていたので、そこで他の人とは違う価値観が培われました。そこで自国に戻ってきた際、これは本来の姿ではない、と考え、なんとか解決しなくては、と行動したのだと思います。
このように同じ現象を見ていても、それを問題だと思うか、当たり前と思うかが変わってきます。
有意注意で仕事をするには、何が良くて、何が悪いのか、という自分の価値観を大切にして取り組むことが大切だと思います。
初心者の心で取り組む
私の師匠のマイケルE.ガーバー氏は、起業家にとって、一番大切なことは、「初心者の心」で取り組むことだ、と言っています。なぜこの仕事はこのようなやり方でやっているのか?もっとうまいやり方は無いのか?もっと安く行う方法はないのか?もっと簡単に行う方法はないのか?と常に疑問を持ち続けることです。
ガーバー氏は、初心者の心を、「禅マインドビギナーズマインド」という書籍から学んだと言っていました。この本の中では、「初心者の心には多くの可能性があります。しかし専門家といわれる人の心には、それはほとんどありません」と書かれています。
この考えは有意注意で働くために非常に大切です。
毎日同じ仕事を続けていると、悪い意味で専門家になってしまいます。そうなると、ミスや油断が生じるスキが増えるのです。いつもの仕事を新しい目で見直す考え方は、「常に創造的な仕事をする」の意味と実践方法でも紹介しています。
有意注意に関するよくある質問
有意注意の読み方は何ですか?
「ゆういちゅうい」と読みます。「優位注意」と書くのは誤りです。
有意注意と集中力は同じ意味ですか?
近い意味ですが、有意注意は「目的をもって、自分から注意を向ける」ことに重点があります。ただ集中しているだけでなく、何に向けて集中しているのかが自分で分かっている状態です。
「有意注意で判断力を磨く」とはどういう意味ですか?
京セラフィロソフィの項目のひとつです。日頃からささいなことにも気を込めて向き合っていると、問題が起きたときにその核心をすぐにつかめるようになる、という意味です。判断力は特別な場面で急に身につくものではなく、毎日の注意の向け方で決まる、という考え方です。
社員に有意注意を身につけてもらうには、どうすればいいですか?
「集中しなさい」と言うより、仕事ごとに目的を書いて渡すほうが確実です。何のための作業なのかが分かっていれば、どこに注意を向ければよいかも分かります。あわせて、作業中に割り込みが入らない時間をつくると、注意が続きやすくなります。
まとめ
有意注意とは、目的をもって自分から意識を向け、集中することです。中村天風氏が説き、稲盛和夫氏が京セラフィロソフィに取り入れたことで、多くの経営者に知られるようになりました。
大切なのは、有意注意を個人の心がけで終わらせないことです。仕事の目的を言葉にし、集中できる時間をつくる。そうした形を会社として用意すれば、誰でも有意注意で仕事にあたれるようになります。仕組みづくりの全体像は仕組み化とは?ビジネスでの意味と仕組みづくりにまとめています。
詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。


