BHAG(ビーハグ)とは?意味と事例、大胆な目標の作り方



清水直樹
BHAGとは、人々の意欲を引き出し、心に訴え、心を動かす社運を賭けた大胆な目標のことです。具体的でワクワクさせられ、焦点が絞られた目標であり、誰にでもすぐに理解でき、くどくど説明する必要がないものです。BHAGは名著「ビジョナリーカンパニー」で紹介されたコンセプトの中で、最も有名なものと言っても良いでしょう。この記事ではBHAGの意味から事例、自己診断のためのチェックリストなどをご紹介していきます。

BHAGの意味とは?

BHAGとは、「Big Hairy Audacious Goals」の略です。「Hairy」は身の毛もよだつ、危険、困難といった意味合いなので、身の毛もよだつほど大胆な目標ということになります。ビジョナリーカンパニーの中では「社運を賭けた大胆な目標」として訳されています。

BHAGの読み方と表記

BHAGは「ビーハグ」と読みます。英語では「Big Hairy Audacious Goals」なので、頭文字をつなげた読み方です。日本語の記事では「ビーハグ」とカタカナで書かれることもあれば、「B-HAG」のようにハイフンを入れて書かれることもあります。どれも同じものを指しています。

提唱したのはジム・コリンズとジェリー・ポラス。1994年の著書『ビジョナリー・カンパニー』のなかで示された考え方です。

BHAGは、ビジョナリーカンパニーの基本理念を維持しながら進歩を促すための仕組みです。

基本理念というのは会社の中の聖域であり、変えてはならないものです。一方で会社は、環境に合わせて進歩しなくてはいけません。基本理念を維持しながら進歩を促すために、BHAGの出番があります。

基本理念については以下の記事をご参照ください。

基本理念とは?(意味から基本方針との違いまで解説)

 

仕組み経営との関連性

仕組み経営を学んでいただいている方のために、仕組み経営のカリキュラムの中で、BHAGに相当するものをご紹介しておきます。それは「ビジョン」です。一般的に使われるビジョンは、曖昧さのある思いや方針のようなものです。一方、仕組み経営におけるビジョンは将来の姿を明確にイメージできるほど文書化したものであり、BHAGの概念に通じるものと思います。

 

BHAGの例

BHAG

では、まずビジョナリーカンパニーの中で紹介されているBHAGの例をご紹介しておきましょう。

ケネディ大統領 1960年代中に人類を月に着陸させる。
ボーイング 707機で民間航空機で大手になる。
フォード 自動車を大衆の手に。
ディズニー ディズニーランドを建設する。
IBM 世界クラスのコンピューターメーカーになる。
シティバンク 偉大な世界的金融機関になる。

その他、書籍には登場しませんが、私が発見したBHAGと思えるものをいくつかご紹介します。

モハマド・ユヌス氏のBHAG

グラミン銀行を創ったユヌス氏は、海外から生まれ故郷のバングラディシュに戻ってきたとき、女性たちの貧困ぶりに衝撃を受けました。そこでマイクロクレジットを使って、彼女たちを貧困から抜け出させる仕組みを創りました。

ユヌス氏のBHAGと言えるのは、「世界から貧困を無くす」というものでしょう。誰もが”そうなればいいよね”というくらいにしか思っていないことを明確に目標として設定したわけです。

 

マイクロソフトのBHAG

私が元いたマイクロソフト社では、「すべての机と、すべての家庭にコンピュータを」という目標を掲げていました。まさにBHAGですね。創業当時は大型コンピューター全盛時代でしたが、いまでは当たり前の状況なので、この目標は達成したと言えるでしょう。

 

KEAPのBHAG

KEAP社は、中小・スモールビジネス向けのCRM/マーケティングオートメーションのツールを提供している会社です。この市場では大手と言えます。実はこのKEAP社、元々は小さなシステム開発会社でした。私の師匠でもあるマイケルE.ガーバー氏の教えを受けてから急成長し、いまに至ります。ガーバー氏から「何のためにこのビジネスをやっているのか」と問い詰められ、ビジョナリーカンパニーで言うところの基本理念やBHAGを設定したのです。

ガーバー氏の紹介で、私たちもKEAP社を訪問し、彼らのビジネスをやり方を教えてもらうことが出来ました。彼らは「マーズミッション」というここで言うBHAGを掲げ、経営をしています。詳しくは以下の創業者インタビューからご覧ください。

出口戦略とは?ビジネスでの意味とイグジットプラン4つの出口

 

BHAGのポイント

では次に、BHAGを設定する際のポイントをご紹介していきます。

BHAGと一般的なビジョン、目標、方針などとの違い

最初にご紹介した通り、BHAGは、「具体的でワクワクさせられ、焦点が絞られた目標」です。この目標ということがポイントです。目標であるということは、それが達成できたかどうか、明確にわかるということを意味します。

たとえばビジョナリーカンパニーに紹介されている、”BHAGとは言えない”例としては、

トータルクオリティ、市場のリーダー、技術主導、グローバル、焦点を絞った成長、多角化(ウェスチングハウスの例)

等があります。私の経験から言っても、社長に”御社のビジョンは?”と聞くと、

  • お客様第一
  • 社会貢献
  • 三方良し

などの言葉が返ってくることがあります。これはこれで社長の想いとして大事かも知れませんが、BHAG(ビジョン)とは言えません。

一方、フォードの”一般大衆でも買える車を創る”というのは達成できたかどうかが明確にわかりますね。


 

BHAGが達成出来たらまた作る

BHAGは目標なので、それを無事達成することが出来たら、次のBHAGを設定することが大切です。これをしないと、組織は目標を失い、情熱を失い、ビジョナリーカンパニーにはなれなくなります。

ちなみに私が元いたマイクロソフト社は、インターネット時代が訪れたとき、他のIT企業に後塵を拝していた時期がありました。これは私が思うに、先ほど述べた、「すべての机と、すべての家庭にコンピュータを」という目標が達成されてしまい、組織としての目標を失ったせいではないかと思います。

これは「時を告げるのではなく、時計をつくる」の概念にもつながりますが、BHAGで大切なことは、BHAGを設定することではなく、BHAGを設定し続ける組織を作ることだと言えるでしょう。ビジョナリーカンパニーに書いてある通り、前進をもたらすのは指導者ではなく目標それ自体なのです。

 

不退転の決意

BHAGは、”社運”を賭けた大胆な目標です。文字通り、社運をかけて不退転の決意で臨めるかどうか?が大切です。より具体的に言えば、”会社の資源を全てつぎ込んでも、必ず完成させる”という不退転の決意です。

たとえばディズニーは、短編アニメしかなかった時代に、長編アニメ「白雪姫」を創るため自社資源のほとんどをつぎ込みました。これは「ディズニーの酔狂」といわれるほどの大胆さでした。(幸い白雪姫は当たったのですが)

 

基本理念を維持しているか?

最後のポイントは、基本理念を維持しているか?です。基本理念とは、ビジョナリーカンパニーに登場する”基本的価値観+目的”を意味するものです。ビジョナリーカンパニーのなかではBHAGが有名なコンセプトですが、実はその前に、基本理念が必須であることが説かれています。

したがってBHAGも、基本理念から外れていないものである必要があります。これはビジョナリーカンパニーの特徴として紹介されている”一貫性”につながっていきます。

なお、基本理念については以下の記事で解説していますので、合わせてご覧ください。

基本理念とは?(意味から基本方針との違いまで解説)

 

BHAGの作り方|4つの手順

ここまでのポイントを踏まえて、実際にBHAGをつくる手順を整理しておきます。

手順1.基本理念を先に確認する

順番として、BHAGより先に基本理念があります。何のためにこの会社があるのかが決まっていない状態で大胆な目標だけを掲げると、社員から見れば「社長が思いついた数字」にしか見えません。ここが決まっていれば、BHAGは理念を実現するための通過点として説明できます。

手順2.達成したかどうかが判定できる形にする

BHAGは志ではなく目標です。「業界のリーダーになる」「顧客に感動を届ける」では、いつ達成したのか誰にも分かりません。期限と、達成の判定ができる条件を入れます。フォードの「一般大衆でも買える車を創る」が分かりやすい例です。

手順3.10年から25年の幅で置く

来期の目標はBHAGではありません。かといって100年先では、いま働いている社員にとって他人事になります。書籍では10年から30年という幅が示されています。中小企業であれば、まず10年を目安にすると考えやすくなります。

手順4.社員が説明できるかを確かめる

できあがったら、社員何人かに「うちの会社が目指しているものは何ですか」と聞いてみてください。自分の言葉で説明できるなら、そのBHAGは機能しています。説明が出てこないなら、言葉が長いか、抽象的すぎるか、そもそも伝える場が無いかのどれかです。

覚えられないBHAGは、掲げていないのと同じです。書籍が「くどくど説明する必要がない」ことを条件に挙げているのは、このためです。

中小企業でもBHAGは設定できるのか

ここまで紹介してきた例は、ケネディ大統領、ボーイング、フォード、ディズニーと、いずれも大きな組織のものです。そのため、中小企業の社長からは「うちには関係のない話ではないか」という声をいただくことがあります。

そうではありません。大事なのは事業の規模でも、その事業が先進的かどうかでもないからです。

ゴミ収集で年商1,000億円を目指す会社

私たちが海外で出会った経営者に、ブランアン氏という方がいます。彼が手掛けているのは、ゴミ収集、壁の塗り替え、引っ越しといった事業です。どれも最先端の技術を使ったものではありません。ごく平凡な事業です。

それでも彼は、年商1,000億円という目標を掲げて走っています。本人はこう語っています。

私は将来何が起こるかを心に描いていました。ひとたび、明確な青写真を描くことが出来たならば、そこにたどり着けるのは明白です。いまは1000ミリオン(1000億円)の売上を達成できることを100%信じています。

注目したいのは「100%信じています」という部分です。この記事の最後に載せているチェックリストにも同じ項目があります。BHAGが機能するかどうかは、目標の派手さではなく、掲げた本人が本気で達成できると思っているかどうかで決まります。

平凡な事業ほど、大胆な目標が効く

ブランアン氏がやったのは、ゴミ収集という価値提供のプロセスを仕組み化して複製可能にし、それを支えるサポートの流れと管理の流れを作ったことです。そうすることでフランチャイズ化が可能になりました。

つまり、平凡な事業であっても、大胆なビジョンとそれを運営する仕組みがあれば、規模は大きくできるということです。逆にいえば、先進的な事業をやっていても、この2つが無ければ大きくはなりません。

中小企業がBHAGを考えるときに見るべきなのは、他社が驚くような目標かどうかではありません。自社の社員が聞いたときに、そこへ向かって進みたいと思えるかどうかです。

BHAGに関するよくある質問

BHAGとビジョンは違うものですか?

ほぼ同じものを指していますが、BHAGのほうが条件が厳しくなっています。ビジョンという言葉は「こうありたい」という願望も含めて広く使われますが、BHAGは達成したかどうかが判定できる目標でなければなりません。この記事で「目標である」ことを繰り返しているのは、そのためです。


BHAGは数字でなければいけませんか?

数字である必要はありません。ケネディ大統領の「1960年代中に人類を月に着陸させる」には売上の数字が入っていませんが、達成したかどうかは誰の目にも明らかです。条件は数字であることではなく、判定できることです。

何年くらいの期間で設定すればいいですか?

書籍では10年から30年という幅が示されています。ただ、中小企業で30年先を描くのは現実的でないことも多いので、まずは10年を目安にしてみてください。達成できたら次を設定します。

社員が冷めた反応をします

目標そのものより、掲げるまでの過程に原因があることが多いものです。社長が一人で決めて発表した目標は、社員にとっては他人の目標です。作る過程に社員が関わっていれば、同じ言葉でも受け取り方が変わります。

達成できそうにない目標を掲げても意味がありますか?

BHAGは「身の毛もよだつほど大胆な」目標なので、設定した時点では達成方法が分かっていないのが普通です。ただし、本人が100%達成できると信じていることが条件になります。自分でも無理だと思っている目標は、BHAGではなく単なる願望です。

BHAGを達成したあとはどうすればいいですか?

次のBHAGを設定します。この記事で触れたマイクロソフトの例のように、目標を達成したまま次を置かないと、組織は進む方向を失います。大事なのはBHAGを設定することではなく、BHAGを設定し続ける組織であることです。

自己診断のためのBHAGチェックリスト

では最後に、自社の目標がBHAGと言えるようなものなのか?チェックリストをご用意しましたので、ぜひご確認ください。

  • その目標は、達成したらどのようになるか、イメージが湧きますか?
  • その目標は説得力があり、理解しやすいですか?
  • その目標は、基本理念と何らかの形で結びついていますか?
  • その目標は、経営幹部だけではなく、組織のすべての人にとって刺激的なものですか?
  • その目標は、冗長で分かりにくく、複雑なものではない、と言えますか?
  • その目標は、簡単に覚えることが出来ますか?
  •  あなたは、その目標を100%達成できると信じていますか?
  • 25年後、その目標をを達成しているかどうか、すぐにわかりますか?

 

大胆な目標と達成のための仕組みをつくりたい方は仕組み経営へ

BHAGはビジョナリーカンパニーで紹介されている考え方の一つです。あわせて針鼠の概念を読むと、どの領域で大胆な目標を掲げるべきかを絞り込めます。

私たち仕組み経営では、BHAGのような大胆なビジョンづくりから、それを実現するための仕組みづくりをご支援しています。

詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。

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