「本人の自己評価と、こちらの評価が食い違って困っている」。評価面談の時期になると、必ずいただくご相談です。
ただ、自己評価が高すぎる人を「思い上がっている」と見てしまうと、打つ手が説教しかなくなります。そして説教では変わりません。実際には、評価のズレはもっと単純な理由から生まれています。
この記事では、自己評価が高い人の特徴と、その裏にある3つの原因を整理します。そのうえで、上司としての対処法と、会社として防ぐ方法をお伝えします。
自己評価が高い人の特徴
面談や日々のやり取りで見えてくる特徴を挙げます。
- 自分の担当範囲だけで成果を語る……前工程や後工程の負担には触れない
- うまくいった案件をよく覚えている……失注や手戻りの記憶が薄い
- 成功は自分の力、失敗は状況のせいにする……本人に悪気はなく、そう見えている
- 指摘を受けると理由の説明を始める……反省の前に事情の説明が出てくる
- 他人の仕事の難しさを低く見積もる……「あれくらいなら自分でもできる」と言う
- 周囲との比較で自分の位置を語る……絶対的な基準ではなく、社内の誰かとの比較で話す
- 評価に納得しないが、何が足りないかは言えない……ここがいちばん重要な特徴です
最後の1つに注目してください。「評価が低すぎる」と言う人に「では何点が妥当ですか、その根拠は」と聞くと、多くの場合は答えられません。これは本人が不誠実だからではありません。そもそも、判断するための基準を渡されていないからです。
なぜ自己評価が高くなるのか|3つの原因
原因を性格に置くと、対策が「本人が気づくのを待つ」だけになります。実際には、次の3つで説明がつきます。
1. 見えている範囲が狭い
自分の担当している仕事しか見えていなければ、その範囲での貢献度は高く見えます。営業が受注を取ってきたとして、その裏で製造がどれだけ無理をしたかは見えません。見えないものは、評価の計算に入りません。
これは能力の問題ではなく、情報の問題です。他部門の状況が共有されていない会社ほど、この現象が強く出ます。
2. 途中でフィードバックを受けていない
年に一度の評価面談でしか評価を伝えていない会社では、本人は一年間ずっと自分の感覚だけで走っています。一年ぶんの認識のズレが、面談の場で一気に表面化するわけです。
そのうえ、日常のやり取りでは注意もしていない。むしろ「助かっているよ」と声をかけている。それで年に一度だけ低い評価を出せば、本人が納得しないのは当然です。
3. 何をもって成果とするかが言葉になっていない
これが最大の原因です。評価基準が書かれていない会社では、評価は「上司の印象」対「本人の印象」のぶつかり合いになります。どちらの印象が正しいかを議論しても、決着はつきません。
基準が無い状態で「君は自己評価が高すぎる」と言うのは、実質的に「私の印象のほうが正しい」と言っているのと同じです。本人が納得しないまま終わります。
逆に、期首に「この状態になっていれば達成」と書いてあれば、面談は印象の議論になりません。達成したかどうかを二人で確認する作業に変わります。人事評価制度を整える意味は、ここにあります。
ダニング=クルーガー効果の正しい理解
この話題では、必ずダニング=クルーガー効果が引き合いに出されます。ただ、日本のビジネス記事で紹介されている内容には、原典に無いものが混ざっています。使う前に整理しておきます。
もとの研究が示したこと
1999年に、ジャスティン・クルーガーとデイヴィッド・ダニングがコーネル大学で行った研究です。論文の題は「Unskilled and Unaware of It」。
示されたのは、成績が下位の層ほど、自分の成績を実際より高く見積もる傾向があるということです。逆に上位の層は、自分の順位を実際より低く見積もる傾向がありました。
「バカの山」「絶望の谷」の曲線は原論文に無い
ここが要注意の点です。自信が急上昇したあと谷に落ちて再び上がっていく、あの有名な曲線は、原論文には出てきません。「バカの山」「絶望の谷」「啓蒙の坂」といった呼び名も、原論文には存在しません。
あの図は後から作られたもので、研究が示した内容よりずっと劇的に描かれています。研修や面談で「あなたはいまバカの山にいます」といった使い方をするのは避けてください。根拠のない図を根拠にして人を評価することになります。
会社で使うなら、ここだけ押さえる
実務で役に立つのは次の一点です。ある領域の力が不足していると、その領域で自分の力を正しく測ることも難しくなる。測る物差しそのものが、その領域の知識だからです。
だから対策は、本人に反省を求めることではありません。物差しを外から渡すことです。基準を書いて渡す。他人の仕事を見る機会をつくる。この2つに尽きます。
上司としての対処法5ステップ
1. 面談の前に、判断材料を数字で用意する
印象で話すと必ず平行線になります。件数、金額、期日を守れた割合、手戻りの回数。何でも構いませんが、二人が同じものを見られる材料を先に用意します。
2. 本人に先に話してもらう
こちらの評価を先に伝えると、本人は反論の準備を始めます。順番を変えて、まず本人の自己評価とその根拠を最後まで聞きます。遮らないでください。
3. ズレている一点に絞る
気になる点を全部並べると、受け取る側は防御に回ります。もっとも大きくズレている項目を1つだけ選び、そこだけを扱います。残りは次回に回して構いません。
4. 評価ではなく、事実で伝える
「協調性が足りない」ではなく、「先月、この案件で製造から3回、確認の依頼が来ていました」と伝えます。評価は反論できますが、事実は反論できません。事実を並べたうえで、どう見えるかを本人に考えてもらいます。
5. 次の期の基準を、その場で書いて渡す
いちばん大事なステップです。面談を「今回はズレていた」で終わらせず、次の期に何がどうなっていれば達成なのかを、その場で一緒に書きます。これをやらない限り、来年も同じ面談を繰り返します。
やってはいけない対応3つ
1. 周囲と比較して伝える
「同期の◯◯さんはもっとできている」という伝え方は、納得ではなく反発を生みます。しかも、比較された相手との関係も悪くなります。比べる相手は他人ではなく、期首に決めた基準です。
2. 本人のいないところで評判を固める
「あの人は自己評価だけ高い」という話が管理職の間で共有されると、本人だけが知らない状態ができます。この状態で低い評価を出せば、本人は不信感しか持ちません。
3. 何も言わずに配置を変える
気まずさを避けて、伝えないまま担当を外す。よくある対応ですが、本人は理由が分からないので学びになりません。組織にとっても、その人が改善する機会を失うだけです。
会社の仕組みで防ぐ3つの方法
1. 評価基準を「行動」ではなく「状態」で書く
「主体的に行動する」のような書き方だと、本人と上司で解釈が割れます。「担当顧客からの問い合わせに、当日中に一次回答を返している」のように、達成したかどうかを二人で確認できる形にします。解釈が割れない基準は、そもそも自己評価がズレようがありません。
2. 評価を伝える機会を、年1回から増やす
年に一度ではズレが大きくなりすぎます。四半期ごと、あるいは月に一度の短い場でも構いません。1on1ミーティングを定期的に置いている会社では、そもそも評価面談が揉めにくくなります。ズレは、小さいうちに直すほうが痛みが少ないためです。
3. 他人の仕事が見える場をつくる
見えている範囲が狭いことが原因の一つでした。であれば、範囲を広げれば緩和します。他部門の報告を聞く場を設ける、繁忙期に応援に入る、といった方法があります。見える化は数字だけの話ではなく、仕事の中身を互いに見えるようにすることも含みます。
自己評価が高いこと自体は悪くない
ここまで対処法を書いてきましたが、前提を一つ添えておきます。自己評価が高いこと自体は、欠点ではありません。
自分の力を高めに見積もれる人は、難しい仕事に手を挙げます。新しい役割を引き受けます。仕事を任せる場面で、最初に候補に挙がるのはこういう人です。
問題は高さそのものではなく、高い自己評価が事実によって修正される機会があるかどうかです。機会があれば、この人たちはいちばん速く伸びます。機会が無ければ、そのまま固まります。
逆に、自己評価が低すぎる人にも同じ問題がある
基準が無い会社では、慎重な人は自分を低く見積もります。そして低い評価を自分でつけたまま、任せてもらえる仕事が増えません。原因は同じで、外に物差しが無いことです。
基準を書いて渡すという対策は、高すぎる人にも低すぎる人にも同時に効きます。ここが、個別の面談テクニックとの違いです。
自己評価に関するよくある質問
面談で本人がまったく納得しません
基準が無い状態で納得を求めているなら、納得しないのが正常です。その場で無理に合意させず、「次の期は基準を先に決めましょう」と切り替えてください。今期ぶんは物別れでも構いません。来期からは同じ議論になりません。
ベテラン社員の自己評価が高すぎます
在籍年数が長いほど、過去の貢献が自己評価に積み上がります。しかも本人にとって、それは事実です。否定せず、「これまでの貢献」と「今期の成果」を分けて話してください。古参社員との面談で揉めるのは、この2つを混ぜて話しているときです。
自己評価が高い人は採用の段階で見抜けますか
難しいと考えてください。面接では誰でも自分を高めに語ります。見抜こうとするより、入社後に基準を渡す仕組みを持つほうが確実です。同じ人が、基準のある会社では正しく自己評価し、基準の無い会社ではズレます。
360度評価を入れれば解決しますか
他人の目が入る点では有効ですが、それだけでは足りません。評価する側にも基準が要るからです。基準を書かないまま360度評価を入れると、印象の投票になります。順番としては、基準を決めるのが先です。
自己評価と上司評価はどれくらいズレるのが普通ですか
多少のズレは正常です。むしろ完全に一致している場合は、本人が上司の顔色を見て記入している可能性があります。問題にすべきなのはズレの大きさではなく、ズレた理由を二人が説明できないことです。
評価制度を作る余裕がありません
制度をまるごと作る必要はありません。まずは1人につき3項目、「今期これができていたら達成」と書くところから始めてください。紙一枚で足ります。等級制度のような形に整えるのは、そのあとで構いません。
まとめ
自己評価が高い人の特徴は、担当範囲だけで成果を語る、指摘に対して事情の説明が出る、といった形で現れます。ただし、そのいちばん重要な特徴は「評価に納得しないが、何が足りないかは言えない」ことです。
これは本人の思い上がりではありません。見えている範囲が狭く、途中でフィードバックを受けておらず、何をもって成果とするかが書かれていない。3つとも会社の側にある問題です。
面談の技術を磨くより、期首に基準を一枚書いて渡すほうが早く解決します。基準があれば、面談は印象のぶつかり合いではなく、達成したかどうかを二人で確認する作業になります。
詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。


