石田梅岩とは?石門心学、都鄙問答

石田梅岩とは?石門心学、都鄙問答などについて解説。



清水直樹
石田梅岩は日本人の商売人(経営者)にとっての祖ともいえる存在です。数百年前の江戸時代から商売の道を説いており、現代の企業がその思想にようやく追いつきつつある、という印象を受けるほどです。本記事では、石田梅岩とはどういう人物だったのか、どのような思想を残したのかを見ていきましょう。

石田梅岩とは何をした人か?

石田梅岩は江戸時代の思想家で、石門心学の創始者として知られています。彼の主な活動は倫理学に関する研究と、その理論の普及でした。主な著書には『都鄙問答』『倹約斉家論』があります。

彼は京都の商家で働きながら、人間を真の人間たらしめる「性」を「あるがまま」の姿において把握し、儒教、仏教、老子の教えに触れながら自己を磨きました。そして、「あるべきよう」の行動規範を求めようとする哲学、すなわち石門心学を樹立しました。彼の哲学は、人間価値による差別ではなく、職分や職域の相違に重きを置いていました。

町人の偉大な教師

石田梅岩の講義
石田梅岩の講義の様子。当時から男女の分け隔てなく参加していた様子がうかがえることもポイントである。(石田勘平一代記より)

特に注目すべきは、石田梅岩の哲学が商人たちに大きな影響を与えたことです。彼自身も長年、商家で働いていた経験から、商業の本質と重要性を深く理解していました。その結果、「商業の本質は交換の仲介業であり、その重要性は他の職分に何ら劣るものではない」という立場を確立し、多くの商人から支持を得ました。また、彼の石門心学は、後の実業家たちにも引き継がれ、日本の産業革命の原動力ともされています。

※ちなみに、「松下幸之助が石田梅岩に傾倒した」という話がありますが、これは詳細な調査により否定されています。

見直される石田梅岩の思想

現代では、彼の思想が「日本のCSRの原点」として再評価されています。これは特に1970年代からの環境問題の意識の高まりや、企業の不祥事が続く中で、企業の社会的責任(CSR)という考え方が盛んに議論されるようになったことに関連しています。梅岩の教えは、倫理というよりむしろ「ビジネスの持続的発展」の観点から、本業の中で社会的責任を果たしていくことを説いていました。これは欧米のCSRの考え方とは異なる特徴を持っています。

石門心学の普及

梅岩は自身の教えを普及するために、京都の公共の場で説法を始め、後に私塾を開きました。彼の教えは士農工商の身分にかかわらず、また男女年齢問わず、誰でも受けられるように設計されており、現代における「倹約・正直・勤勉」の価値観の一部を形成しています。

その後、弟子の手島堵庵によって「石門心学」と名付けられ、全国に約180の講舎が開かれました。これらの教えは商人道徳(倹約、正直、勤勉等)として、近代日本の経済人の理論的、精神的な支柱となりました。

現在でも石門心学の教えは、大阪の心学明誠舎などで継続的に研究され、講義が行われています。

梅岩の教えは現代のビジネスにも生きています。例えば、「半兵衛麩」の11代目玉置半兵衛氏は、彼の著書である『あんなぁよおぅききや』を通じて石田梅岩の教えを現代に繋げています。

 

都鄙問答とは何か

『都鄙問答』は、石田梅岩による商人向けの教訓書です。この書では、商人の利益を正当化し、自由主義経済の合理性を説きます。

都鄙問答の特徴

その特徴は以下の通りです。

日常に生きるための道徳(通俗道徳)

つまり、「生きた学問」であり、実践的な知識として日々の生活に役立つという意味です。

自らの心の問題に還元して考える視点

問題を自分自身の内面にあるものとして捉え、それを超えていく強い自分を作り上げることを目指しています。ここでは、正直・勤勉・倹約という通俗道徳を、天地と一体化した心の深み・高みで捉えることによって、強い心、強い主体が生まれると説いています。

社会的視点

道徳的行為や心のあり方の問題を、常に社会全体の文脈の中で、社会的に意味づけています。

人間の道徳的な平等性

身分や職分の違いを超えて、道徳的な平等性を主張する確信があったということです。

商人という存在の正当性

江戸時代は農業を基本にした社会であり、商人は「必要悪」とされていましたが、梅岩は商人の存在と役割を正当化しています。

生まれながらの正直

これは、個人の欲望を離れて、宇宙的真理に基づいて商売をすること、それが商人の道だと考えていたということです。これにより、相手が立ち、それゆえに自分もともに立ち、商売を成り立たせる最大の根拠であるというのです。

これらは石田梅岩の日常の経済活動から生み出された思想であり、経済活動を担う人間の側から、心や道徳の問題に置き換えて、経済を考えようとする発想が示されています。

都鄙問答の例

都鄙問答はその名の通り、梅岩と様々な人物との問答集となっています。たとえば、以下のような問答があります。この問答は、梅岩の名言のひとつである「一滴の油で一升の水を捨てる」が登場した問答でもあります。

(巻之二「或学者、商人の学問をそしるの段」)

曰。然らば商人の心得は如何致いたして善よからんや。

答。まず第一に言われるように、「一事に因(よ)って万事を知る」ことを大切にしましょう。武士として、君のために命を惜しまずに戦う者は称されるべきですが、同様に商人も、自らの道を明確にし、先々を見据えて疎かにせず真実に向き合うことが大切です。こうすることで、十人中八人は顧客の心に合う商人となるでしょう。

商売に情熱を注ぐことは必要ですが、世の中の出来事を案じる必要はありません。そして、まず最初に倹約を守り、収入を節約し、出費を抑え、利益を増やすようにしましょう。

売上が少し減っても、九百目を目指すなら、商品が高値で売れないということで心配する必要はありません。物事がないように心を軽くしましょう。

また、二重の利益を取らず、無理をしないで染物屋の染め間違いに寛容であり、倒れた人に同情し礼金を受け取り、相手の悪口を言わず、計算を極端に外れることなく、浪費をせず、贅沢を止め、道具を好まず、遊興を辞め、普請好きにならず。



こういった節制はあらゆる場面で大切です。これらの慎みを持つことで、一貫目の収入で九百目の利益を得ることができ、家計は安定し、不正な取引をしなくても済むでしょう。

例えば、一升の水に一滴の油が入ると、その一升の水全体が油のように見えます。この水を使うのにも注意が必要です。商売の利益も同じです。百目の不正な金が九百目の金を全て不正なものにしてしまいます。

百目の不正な金をなくし、九百目の金を清廉なものにすることが大切であり、油の一滴で一升の水を捨てるように、子孫の未来を失わないように心掛けるべきです。

二重の利益を追求したり、倒れた人に礼金を払ったりする無理な行為は、士の中にはいません。才知が劣ることもあるかもしれませんが、不正なものを受け取らないことで、士の真の姿を示すことができるでしょう。

ですから、世の中の鏡となるべき者は士です。「子曰、蓋けだし之これ有らん矣か。我未いまだ之を見ず」と言われたように。世界は広いものですが、鼻を塞いで不正なものを受け取る士はいません。もしそのような者がいるとすれば、士のように修養し、誠実に努力し、邪心を捨て、君に忠実な臣となることでしょう。

現代の世にはどうして不忠の士がいるのでしょうか。商人も二重の利益や不正な金を得ることは、先祖に対する不孝不忠と言えるでしょう。心は士に劣るものではありません。

商人の道としても、士農工商の道は同じく天の意志です。「孟子曰、恒産つねのさん無くして恒心つねのこヽろ有る者は、惟ただ士しのみ能よくするを為す」とあります。

かつて鎌倉の最明寺殿は、天下の政治をすべて相模守殿に譲り、諸国を巡り玉を分け与えました。これに対して相模守殿の家人が訴え出た際、相模守殿の家人は無理をして評定の面々の権威に恐れをなして正当な意見を分け与えられませんでしたが、青砥左衛門はこれを明確に分かちました。

このような姿勢を持つ者は士の中にふさわしいです。才知は青砥左衛門に劣る人もいるかもしれません。不正な物を受け取らないことは、青砥よりも劣っていれば士の名に値しないと考えるべきでしょう。

これを見て分かるように、世の人の鏡となるべき者は士です。「子曰、蓋けだし之これ有らん矣か。我未いまだ之を見ず」と言われたように。世界は広いものですが、鼻を塞いで不正なものを受け取る士はいません。もしそのような者がいるとすれば、士のように修養し、誠実に努力し、邪心を捨て、君に忠実な臣となることでしょう。

今の治世にはどうして不忠の士がいるのでしょうか。商人も二重の利益や密々の金を取ることは、先祖に対する不孝不忠と言えるでしょう。心は士に劣るものではありません。

商人の道と言われるかもしれませんが、何ぞ士農工商の道に替ることがあるでしょうか。孟子も「道は一なり」と言っております。士農工商、どの道も天の一つの道です。天に二つの道はありません。

 

倹約斉家論とは何か

倹約斉家論は同じく石田梅岩の書物です。都鄙問答ほどは知られていませんが、現代にも通用する重要な思想が説かれています。中小企業経営者にとって重要な要点を以下にまとめます。

正直の重視

この教えは、「正直」が「倹約」の根底にあるという考え方を強調します。すなわち、我々人間は自然に正直さを持っていますが、欲心や私欲によりそれから逸脱しやすいです。経営者として、私欲を排し、正直さを維持することが求められます。

和合の価値

倹約斉家論は、正直さにより生まれる「和合」を社会秩序を支える重要な価値として強調します。企業経営においても、組織内外のすべての関係者との和合が重要です。これはチーム内の調和やパートナーシップの維持、顧客との信頼関係の構築など、経営の各面に適用されます。

私欲の排除

私欲は倹約斉家論において最大の邪魔とされています。私欲が経営者に影響を及ぼすと、組織の利益や成長よりも自分自身の利益を優先する傾向になるため、経営者は自己の私欲を排除し、組織の利益を最優先することが必要です。

全体の幸福への責任

倹約斉家論は、個々の人が社会全体の幸福に責任を持つという考え方を提唱しています。経営者にとって、これは企業の成功だけでなく、従業員の幸福や社会への貢献にも自身の責任を持つということを意味します。

持続可能な倹約

経営者が「倹約」を実践する際、それが自己の欲を満たすためや単に節約するためだけではなく、組織全体の利益のためになるような持続可能な形であることが求められます。

「天」の尊重

倹約斉家論は、「天」すなわち自然や宇宙の法則を尊重し、その中で生きることの重要性を説いています。これは、ビジネスにおいては、自然環境の保全や社会的な公正を尊重し、持続可能な経営を行うことを意味します。

 

まとめ

以上、石田梅岩の思想について見てきました。私たち仕組み経営は、会社の仕組みづくりをご支援していますが、その際大切なのが、経営者の考え方なのです。経営者が間違った考えに基づいて仕組みを作れば、顧客も社員も離れていきます。まず経営者が正しい考え方を持ち、その考え方が反映された仕組みを作ることで、顧客も社員も、社長も幸せになれる会社が出来ます。そのためにも石田梅岩の思想は学ぶべきものがあります。ぜひご参考にされてください。なお、ご自身の想いをもとに会社を仕組み化していきたい方は、以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。

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