第五水準のリーダーシップとは?
第五水準のリーダーシップとは、「ビジョナリーカンパニー2」の中で最初に紹介されている概念であり、普通の会社が偉大な会社(ビジョナリーカンパニー)になるために必須の経営者の在り方と言えます。
前作「ビジョナリーカンパニー」においては、ビジョナリーカンパニーはカリスマ的リーダーによって作られたものではないことが明らかにされました。むしろ、カリスマ性とビジョナリーカンパニーは逆相関の関係にもあります。
詳しくは時を告げるのではなく、時計をつくるの記事をご参照ください。
ではビジョナリーカンパニーを創ったリーダーはどういう人物なのか?その問いに答えるのがこの第五水準のリーダーシップです。
「第5水準」「レベル5」という表記について
「第五水準」「第5水準」「レベル5」は、どれも同じものを指しています。原著の表記が「Level 5 Leadership」で、日本語版でどう訳すかによって書き方が分かれているだけです。
出典は『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(ジム・コリンズ著、山岡洋一訳、日経BP)です。原題は「Good to Great」で、英語版が2001年、日本語版が2002年に出ています。
どの表記が正しいかを議論する必要はありません。ただ、社内で使うときは一つに統一しておくことをおすすめします。会議のなかで「第五水準」と「レベル5」が混ざると、聞いている側は別々の概念について話していると受け取ってしまうからです。
ジム・コリンズとはどんな人物か
ジム・コリンズ氏は、スタンフォード大学経営大学院で研究と教育のキャリアを始めた経営研究者です。同校では1992年に「Distinguished Teaching Award」を受賞しています。1995年にはコロラド州ボルダーに経営研究所を設立し、現在もそこで調査を続けています。
主な著書は次のとおりです。
- 『ビジョナリー・カンパニー』(ジェリー・ポラス氏との共著、1994年)
- 『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(2001年)
- 『ビジョナリー・カンパニーZERO』
コリンズ氏の研究に一貫しているのは、偉大な会社を個人の才能で説明しないという立場です。第五水準のリーダーシップも「優れた人物がいた」という話ではありません。長期にわたって業績を伸ばした会社の経営者を調べた結果、共通して見つかった在り方として提示されています。
同じ書籍からは針鼠(ハリネズミ)の概念も生まれています。
第一水準~第五水準までの説明
「第五水準」というからには、第一~第四もあるわけですが、その段階を示したのが以下の表です。
| 第一水準 | 有能な個人。才能、知識、スキル、勤勉さによって生産的な仕事をする。 |
| 第二水準 | 組織に寄与する個人。組織目標の達成のために自分の能力を発揮し、組織の中で他の人たちとうまく協力する。 |
| 第三水準 | 有能な管理者。人と資源を組織化し、決められた目標を効率的に効果的に追及する。 |
| 第四水準 | 有能な経営者。明確で説得力のあるビジョンへの支持と、ビジョンの実現に向けた努力を生み出し、これまでより高い水準の業績を達成するよう組織に刺激を与える。 |
| 第五水準 | 個人としての謙虚と職業人としての意思の強さという矛盾した性格の組み合わせによって、偉大さを持続できる企業を作り上げる。 |
「ビジョナリーカンパニー2」の中では第一~第四のリーダーシップについては詳しくは説明されていません。イメージでは、第四水準のリーダーがいわゆるカリスマ的なリーダーと言えるでしょうか。
また、大事なこととしては、第五水準の能力を十分に獲得したリーダーは、すべての水準の能力を持っているということです。彼らは引き出しを持っていて、時と場合によって自分の能力を引き出せるわけですね。
第五水準のリーダーシップ=謙虚さ+不屈の精神
第五水準のリーダーを特に特徴付けているのが、謙虚さと不屈の精神です。一見すると相矛盾する二つの素質を兼ね備えているのが特徴です。
ビジョナリーカンパニーが持つ特徴が「ANDの才能」です。これは理念か、利益かどちらか?ではなく、理念も利益も追及する、というように、どちらか(OR)ではなく、両方(AND)追いかけるということです。
リーダーシップについてもそれと同じで、謙虚さと不屈の精神の両方を追求するということですね。
この二つをより詳しく見てみると次のようになります。
| 個人としての謙虚さ | 職業人としての意思の強さ |
| 驚くほど謙虚で、世間の追従を避けようとし、決して自慢しない。 | 素晴らしい実績を生み出し、偉大な企業への飛躍をもたらす。 |
| 野心は自分個人ではなく、企業に向ける。次の世代に一層の成功を収められるように後継者を選ぶ。 | どれほど困難であっても、長期にわたって最高の実績を生み出すために必要なことはすべて行う固い意思を示す。 |
| 鏡ではなく窓を見て、他の人達、外部要因、幸運が会社の成功をもたらした要因だと考える。 | 偉大さが永続する企業を築くために基準を設定し、基準を満たさなければ決して満足しない。 |
| 静かな決意を秘めて行動する。魅力的なカリスマ性によってではなく、主に高い基準によって組織を活気づかせる。 | 結果が悪かった時、窓の外ではなく鏡を見て、責任は自分にあると考える。他人や外部要因や運の悪さのためだとは考えない。 |
どうすれば第五水準のリーダーになれるのか?
では次に、最も気になるであろう話題、どうすれば第五水準のリーダーになれるのか?を扱っていきます。
結論から言えば、ジム・コリンズ氏は、「第五水準のリーダーになるための十段階というようなものが創れればよいが、残念ながらそこまで確かなノウハウを提供できるほどのデータはたまっていない」と言っています。
つまり、第五水準のリーダーになれる確実な方法などはないということです。
一方で、同氏は、このテーマに関していくつかの示唆を提供してくれていますので、ご紹介しておきましょう。
第五水準のリーダーになる芽を持っていない人もいる
世の中には2種類の人間がいて、100万年経っても第五水準のリーダーになれない人もいるとのことです。彼らは私利私欲のために働き、自分の死後も永続するようなものを創ろうという発想がありません。
このような特性を持つ人は出世競争に勝ちやすく、最高位のリーダーにまで登りつけることも多い点も指摘されています。だからこそ、第五水準のリーダーが率いて、ビジョナリーカンパニーになれる会社が少ないのでしょう。
ただし、この指摘はそのまま自分に当てはめないほうがよいと考えています。調査の対象になっているのは大企業の最高経営責任者です。中小企業の社長が「自分には芽がない」と結論づける材料にはなりません。判断に使うなら、性格ではなく、後ほど挙げる三つの場面で自分が実際に何をしているかのほうです。
世界観が変わる体験をしている
本書で紹介されている第五水準のリーダーのうち、何人かは世界観が変わるような体験をしています。たとえば、難病に侵される、戦争での体験、改宗などです。しかし、このような体験をしていない第五水準のリーダーも多く、世界観が変わる体験が必ずしも必要なものとは限りません。
第五水準のリーダーが行っていることを実行することで第五水準のリーダーに近づける
ジム・コリンズ氏は、第五水準のリーダーになるために唯一、確からしい方法として第五水準のリーダーが行っていることを行えば、第五水準のリーダーに近づけるとも書いています。
つまり、ここでご紹介した第五水準のリーダーの特徴は、彼らの”態度”と言えますが、彼らの”行動”を真似することで、”態度”が身についていくというわけです。
これは私たちも多くの経営者の方と接している中で理解できる話です。意識を変えて行動を変えようとするよりも、行動を変えることで意識が変わることのほうが多いのです。私たちの師匠でもあるマイケルE.ガーバー氏も次のようなことを言っています。
事業に真摯に取り組むことこそ、真の自己開発につながる。
謙虚さと不屈の精神を、性格の話で終わらせない
ここまで読んで「自分にはそんな謙虚さはない」と感じた方もいるかもしれません。ただ、先ほどの表をもう一度見てみてください。
そこに並んでいる八つの特徴のうち、性格そのものを指しているものはほとんどありません。「鏡ではなく窓を見る」「結果が悪かった時、窓の外ではなく鏡を見る」「後継者を選ぶ」「基準を設定する」。どれも、ある場面が来たときに何をするかという行動です。
だとすれば、性格を変えようとするよりも、その行動が起きる場面を会社の側に用意するほうが早く進みます。
三つの場面を先に決めておく
- うまくいかなかったときに、最初に何を聞くか。会議では「誰がやったのか」ではなく「どの工程で起きたのか」を先に聞きます。社長が毎回この順番で聞いていれば、それがそのまま会社の基準になります。
- うまくいったときに、誰の名前を残すか。議事録に「○○さんの提案でこう変えた」と一行書きます。手柄を人に渡す行為を、記憶ではなく記録に残す形にするということです。
- 自分がいなくなった後のことを、いつ決めるか。後継者や経営チームの話を、年に一度は議題にします。「まだ早い」と先送りされ続ける議題は、会社の予定表に入っていない議題です。
三つとも、その場の心がけではなく、いつ何をするかという段取りの話です。だから会社の仕組みにできます。
後継者を「選ぶ」から、後継者が「出てくる」へ
第五水準の特徴のなかで、第四水準との違いがもっともはっきり出るのが「次の世代に一層の成功を収められるように後継者を選ぶ」という項目です。
第四水準のカリスマ的なリーダーがいる会社は、その人がいる間は伸びます。問題はその人が抜けたあとです。判断のよりどころがその人の頭の中にしかなければ、後を継いだ人は同じ判断ができません。
ここで一段進めて考えておきたいことがあります。会社が続くかどうかが後継者次第で決まるのなら、その後継者が見つからなかった年に会社は行き詰まります。目指すべきなのは、後継者を選べる状態ではなく、後継者が出てくる状態のほうです。
トヨタ自動車の11代目社長である豊田章男氏は、2022年6月15日の株主総会で次のように語ったとされています。
社長は次世代に向けて、経営の仕組みづくり、人財育成をしてきました。なので、誰が後継者になろうと、おそらくうまく回ると私は信じています。
誰がなっても回る、という言い方に注目してください。特定の一人に賭けていないという意味であり、第五水準のリーダーの「野心を自分個人ではなく企業に向ける」という特徴と、そのままつながっています。
第五水準のリーダーがいるかどうかで会社の将来が決まるのなら、その人が抜けた時点で会社の将来も決まらなくなります。コリンズ氏が第五水準のリーダーの特徴として後継者選びを挙げたのは、おそらくここに関係しています。謙虚さの現れというより、自分の代で終わらせないための行動として読むほうが、実務には近いはずです。
第五水準のリーダーシップについての自己診断
では次に、第五水準のリーダーシップについて自己診断できるチェック項目をご紹介しておきましょう(ジム・コリンズ氏の公式サイトを参考)。
- 我が組織のリーダーは、自分自身ではなく、大義、組織、仕事に対する野心を第一に持っており、その野心を実現するために必要なことは何でもするという鉄の意志を持っています。
- 我が組織のリーダーは、第五水準のリーダーの意思決定、つまり会社の長期的な偉大さのための意思決定を行っています。
- 我が組織のリーダーは、成功した時には外部に要因を見つけ、失敗したときには鏡を見て自分に責任があったと考えています。
- 我が組織のリーダーは、卓越した基準、勤勉さ、犠牲、誠実さをもって社員を鼓舞するのであって、カリスマ性で人を鼓舞するようなことはしません。
- 我が組織のリーダーは、最善の答えを求めて対話し、議論します(頭の良さをアピールしたり、出世のためのポイントを獲得することはしません)。
診断結果は、社長ひとりで出さない
この五項目は「我が組織のリーダーは」という主語で書かれています。社長本人が自分について答えると、どうしても甘く出ます。
おすすめしたいのは、同じ五項目を幹部にも答えてもらうことです。見るのは点数ではありません。社長の答えと幹部の答えがずれた項目のほうです。
たとえば社長は「失敗したときは自分の責任だと考えている」と答えたのに、幹部の答えが違っていたとします。そのとき疑うべきなのは幹部の見る目ではありません。社長がそう考えていることが、言葉や行動として外に出ていないというだけです。ずれた項目が、そのまま手をつける場所になります。
リーダーシップに興味がある方はこちらの記事もご参照ください。
第五水準のリーダーシップに関するよくある質問
第五水準と第四水準は何が違うのですか?
野心の向き先が違います。第四水準は自分個人に、第五水準は会社に向いています。判定の一問にするなら「この人が辞めたあと、会社は伸び続けますか」です。伸び続ける形になっていれば第五水準に近く、その人がいる間だけ伸びていたのなら第四水準です。
謙虚な人は経営者に向かないのではありませんか?
第五水準の謙虚さは、遠慮や気弱さとは違います。表の右側にあるとおり、基準は誰よりも高く、それを満たすまで満足しません。自分を大きく見せないことと、要求の水準を下げることは別の話です。この二つを混同すると、何も決めない社長になってしまいます。
中小企業の社長にも当てはまりますか?
調査の対象は大企業ですが、後継者、基準、責任の所在という三つの論点は会社の規模を問いません。むしろ社長と現場の距離が近い中小企業のほうが、社長の行動はそのまま社員に伝わります。失敗したときに社長が誰を見るのかを、社員は毎回観察しています。
「ビジョン型リーダーシップ」とは違うのですか?
層が違う話です。ビジョン型リーダーシップは「どこへ向かうかを示して人を動かす」というスタイルの分類で、第五水準は「どういう在り方の人物か」という話です。実際、第四水準の説明に「明確で説得力のあるビジョンへの支持」とあるとおり、ビジョンを示すこと自体は第四水準に含まれています。
第五水準のリーダーシップは、後から身につけられますか?
コリンズ氏自身が「確実な方法を提供できるほどのデータはたまっていない」と書いています。一方で、第五水準のリーダーが行っていることを行えば近づけるとも書いています。態度を先に変えようとするのではなく、行動から入るということです。
何から始めればいいですか?
先ほど挙げた三つの場面のうち、一つ目から始めるのが確実です。次の会議で、うまくいかなかった案件について「誰がやったのか」ではなく「どの工程で起きたのか」を最初に聞いてみてください。一度で空気が変わるものではありませんが、続けると社員の側から悪い報告が早く上がるようになります。
まとめ
第五水準のリーダーシップとは、個人としての謙虚さと、職業人としての意志の強さを合わせ持っている在り方のことです。野心は自分ではなく会社に向いています。
この概念がいちばん役に立つのは、自分が第五水準かどうかを判定するときではありません。コリンズ氏が挙げた特徴のほとんどが、性格ではなく特定の場面での行動として書かれている、と気づいたときです。
失敗したときに誰を見るか。成功したときに誰の名前を残すか。自分がいなくなった後のことをいつ決めるか。この三つを会社の段取りとして決めてしまえば、第五水準のリーダーシップは社長個人の資質ではなく、会社に残る仕組みになります。
リーダーとして成長し、偉大な会社を創りたい方は仕組み経営へ
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