- 1 職人型経営者とは?
- 2 会社は経営者の職人的能力とは関係なく成長する
- 3 職人型経営者度チェック
- 4 稲盛和夫氏も最初は職人型経営者だった?
- 5 職人型経営者になってしまう5つの理由
- 6 職人型経営者脱却のための考え方
- 7 職人型経営者脱却のステップ
- 8 経営者人生を楽しむ
- 9 まとめ:起業家の視点を手に入れよう
職人型経営者とは?
職人型経営者とは、「自分の専門的・職人的な能力を武器にして起業し、その能力さえあれば会社を上手く経営していくことが出来ると信じている社長」のことを指します。
学校や前職で培った自分の専門的・職人的な能力を武器にして起業することは悪いことではありませんし、世の中の大半の会社はそのようにして始まっています。
たとえば、京セラ創業者の稲盛和夫氏はもともと技術者でしたし、ホンダ創業者の本田宗一郎氏も根っからの技術者です。また、マイクロソフト創業者のビルゲイツも技術者でした。
ただ、大切なことは、今述べたような経営者は、自分の専門的・職人的な能力を武器に起業したものの、まもなくその能力だけでは会社が上手くいかないことに気が付き、”経営”について学び、経営者として成長していった、ということなのです。
会社経営が失敗する最大の要因
一方の大半の職人型社長は、専門的・職人的な能力があれば会社を上手く経営することが出来る、と頑なに信じ続けているために会社の成長が止まってしまうのです。
中小企業の大半が、本当の経営者ではなく、”職人型経営者”によって経営されているために失敗する、ということに気が付いたマイケルE.ガーバー氏は、1977年に世界中の職人型社長を本物の経営者に変革するためにビジネスコーチング会社を設立し、実際、世界中に7万社のクライアントを抱えるまでに成功しました。
また、1985年には同氏の著書が出版され、その中で、経営者が持つべき3つの人格として「職人」「マネージャー」「起業家」があり、多くの社長が時間のほとんどを「職人」で過ごしているために会社が成長していかない、と紹介されました。この内容が多くの経営者に受け入れられ、同書は世界700万部のベストセラーになり、経営の教科書としていまだに読み継がれています。
本記事では、マイケルE.ガーバー氏から直接指導を受けた内容も含み、どのような考え方をすれば、職人型社長から脱却し、経営者として成長していけるのかを書いてみたいと思います。
会社は経営者の職人的能力とは関係なく成長する
自分のビジネスから離れて、1ヵ月後に戻ってきたら、会社はそれまでと同じように利益を上げていますか?
もしできなければ、あなたはビジネスを所有しているというよりも、あなた自身がビジネスになっています。多くの人は、それは当たり前だろうと思っていますが、本来は異なるのです。
本来、ビジネスは、あなたを鎖でつなぐようなものではなく、あなたの夢のために役立ち、大きな自由を与えるべきものなのです。ビジネスは、適切に設計されていれば、あなたがオフィスにいようといまいと、店舗にいようといまいと、現場にいようといまいと、休暇中であろうとなかろうと、効率的に機能するはずです。
ビジネスは、あなたの存在や個性、スキルや汗に依存するものではありません。あなたがビジネスを動かすべきであり、ビジネスがあなたや家族や人生を動かすべきではないのです。ビジネスの成功は、オーナーに依存するのではなく、仕組みに依存すべきです。
職人型経営者と起業家型経営者の違い
ここで、職人型社長とその反対の起業家型社長の違いを見てみましょう。
- 職人型社長はビジネスの中で働くのに対して、起業家型社長はビジネスの外から働きかける。
- 職人型社長が創る会社は、人に依存しているのに対して、起業家型社長が創る会社は、仕組みに依存している。
- 職人型社長は自分が得意だから、自分でやったほうが稼げるからという理由で起業するのに対して、起業家型社長は社会や人々が抱えている課題を解決しようという理由で起業する。
- 職人型社長は自分がこれまでやってきたことや今日の細々とした仕事に焦点を当てているのに対して、起業家型社長は未来の自社の姿に焦点を当てている。
- 職人型社長が創る会社は自分個人のスキルや人脈、信頼が強みになっているのに対して、起業家型社長が創る会社は自社独自の仕組みが強みになっている。
- 職人型社長が創る会社は拡張不可能なのに対して、起業家型社長が創る会社は5倍の顧客にも対応できる。
- 職人型社長は商品やサービスを売るのに一生懸命なのに対して、起業家型社長は、会社自体を売れるようにする。
成功している経営者は、職人型経営者とは異なる方法で経営する
上記の比較表をご覧いただき、”自分は職人型社長だな”、と感じたとしても安心してください。世の中のほとんどは職人型社長ですし、成長を遂げた企業の社長も、もともとは職人型社長だったのです。
現在、あなたが職人型社長であれば、多くのフラストレーションを感じているかもしれませんが、逆に言えば、あなたの人生とビジネスには大きな可能性があるとも言えます。
どんな可能性かというと、ビジネスをこれまでと180度異なるやり方で運営し、ビジネスと人生をこれまで想像できなかった状態にできる、可能性です。
実際、大きな成功を収めている数少ない起業家、経営者は、大半の人たちと180度異なる方法で会社を運営しているからこそ、成功しているのです。あなたもそのやり方を知れば、同じように成果を出せるはずです。
職人型経営者度チェック
職人型社長の特徴をより詳しく見るために、職人型社長度をチェックする項目を設けましたので、ぜひ自己診断してみてください。
ビジネスの状況に関する質問
以下の質問にNOが多いほど、職人社長度が高いです。
- ビジネスの全体像を把握し、最終的な目標を持っていますか?
- 成長企業の経営者としてのアイデンティティがありますか?
- 年間のビジネスプランを作成していますか?
- 事業の方向性や目的を常に考えていますか?
- 日々のオペレーションではなく、ビジネス全体に焦点を当てていますか?
- 会社を運営するためのシステムやポリシーを作成していますか?
- 主な業務の流れを文書化していますか?
- 個人的な信頼に頼ることなく、新規顧客を集める活動をしていますか?
- 些細なことや緊急性の高いことではなく、重要なことに時間を費やしていますか?
- 最低でも月に一度、主要なマネジャーや主要な社員と一対一のセッションを行っていますか?
- ビジネスの全体像を意図的に設計していますか?
- フラストレーションよりも楽しさや充実感を感じていますか?
あなたの感情に関する質問
以下の質問にYESが多いほど、職人社長度が高いです。
- “なんでこんなことまで自分でやらなきゃいけないんだ?“と思っていませんか?
- “働きすぎの割には、収入が少なすぎるのではないか?と思っていませんか?
- 起業して経営者になることの努力や犠牲以上のリターンを得られていない、と疑問に思うことはありませんか?
- スタッフからの頻繁な質問や中断に直面し、集中力を削がれていると感じていませんか?
- 精神的にも肉体的にも疲弊した状態で帰宅していませんか?
- 忙しいけど、達成感がないと感じていませんか?
- 毎日、同じ問題や課題に直面していませんか?
- 締め切り、危機、会議、社員の問題、未回答のメール、ソーシャルメディア、顧客からの苦情、事務的な雑務で1日が終わることに不安を感じていませんか?
- スマートフォンやタブレット、PCに縛られていると感じていませんか?
- お客様が自分個人に対応を求めてくることにうんざりしていませんか?
- 家族との時間やイベントを犠牲にしていると感じていませんか?
- 自分にとって最も重要なことをするために、もっと自由な時間が欲しいと思っていませんか?
繰り返しますが、あなたが職人型社長だと感じていても安心してください。このような状況には、解決策があります。自分のビジネスに囚われているように感じることがある方、ビジネスの規模が大きくなり複雑化していることに苦労している方であれば、おそらく本記事の内容はお役に立てるはずです。
稲盛和夫氏も最初は職人型経営者だった?
京セラ創業者であり、KDDI設立のきっかけを作り、JALの再建を成功させた稲盛和夫氏。多くの経営者にとって、尊敬する人物と思います。こんなことを言うと反発を食らうかもしれませんが、その稲盛氏も起業当初は実は職人型社長だったと私は感じています。
稲盛氏が事業の目的を考えるに至ったエピソードを見るとそれが分かります。
職人型社長に共通する起業動機
稲盛氏は創業当初、”この会社(京セラ)は稲盛和夫の技術を世に問うための場である”と考えていました。つまり、世のため人のためといった、いわゆる大儀ではなく、自分の技術がいかに優れているかを証明したいと思っていたのだと思います。これはまさに多くの職人型社長と同じ発想の起業動機と言えます。
たとえば、
- 美容室で社員として働いている人が、”自分には技術があるのだから、自分で独立したほうが上手くやれるはず”と思って起業するのと同じですし、
- IT企業でエンジニアとして働いている人が、”この会社では自分の技術が活かせない。独立して自由にやろう”と思って起業するのと同じ
です。
事実、稲盛氏は講話で次のように語られています。
当時の私は、まだ経営のあるべき姿を知らず、
京セラという会社を「自らのファインセラミックスの技術を生かし て製品開発をし、それを世に問う場である」 と位置づけていました。当時は技術力よりも学歴や学閥などが尊ば れ、実力を正しく評価してもらえないような風潮があり、私は最初 に勤めた会社で大きな失望感を味わっていました。そのために、 新しくつくる会社では誰に遠慮することなく、自分のファインセラ ミック技術を世に問うことを目的としていたわけです。 ひとりの技術屋として、ひとりの研究者として、磨きあげた自分の
技術をようやく遺憾なく発揮できる場ができたと、 私はたいへん喜んでいました。 (稲盛経営12ヶ条 第1条「公明正大で大義名分のある高い目的を立てる」より引用)
職人型経営者から本物の経営者になったきっかけ
しかし、創業3年目の頃、稲盛氏をそんな職人型社長から脱却させる事件が起こりました。若い社員たちの反乱です。社員たちは、結束して待遇保
以下、先ほどの講話の続きで、以下のように語られています。
この事件は、まさに私に企業経営の根幹を気付かせてくれ
る契機となりました。それまでの私は、技術者として「 自分の技術を世に問いたい」ということを会社設立の目的としてい ました。また、会社の将来についても「夢中で働けば、なんとか食 べていけるだろう」という程度に安易に考えていました。 (中略)このときに初めて私は、企業
を経営するということの真の目的は、技術者の夢を実現するという ことではなく、ましてや経営者自身が私腹を肥やし、豊かになると いうことでもなく、現在はもちろん将来にわたって従業員やその家 族の生活を守っていくことにあると気が付たのです。 気付いたと同時に、経営とは経営者が持てる全能力を傾け、従業員 が物心両面で幸福になれるよう最善を尽くすことであり、企業は経 営者の私心を離れた大義名分を持たなくてはならないという教訓を 得ることができました。 (稲盛経営12ヶ条 第1条「公明正大で大義名分のある高い目的を立てる」より引用)
職人から起業家的な経営者へと変革するきっかけ
このように、稲盛氏の場合、社内的な反発をきっかけにして経営者としての転換期を迎えました。
実は私の周りの”職人型社長”から脱却した経営者も、何かしらのきっかけがあり、転換期を迎えていることが多いようです。
ここからは少し深い話になるのでわかりにくいかも知れませんが、私の師匠のマイケルE.ガーバー氏は、そのきっかけとなる瞬間を”Awaken(内なる起業家精神の目覚め)”と呼んでいます。人はだれしも、起業家的な精神をうちに秘めており、何かのきっかけでそれが目覚める、ということなのです。
たとえば、マクドナルドを世界に広めたレイクロック氏は、50歳過ぎまでしがない営業マンでした。しかし、マクドナルド兄弟が作ったマクドナルドの店舗に足を踏み入れた瞬間、目覚めが訪れます。他のハンバーガー屋とは一線を画す方法で運営されている店舗に可能性を感じ、マクドナルド兄弟からフランチャイズ権を買い取って、世界中に展開を始めたのです。
▶レイクロックのストーリーについてはこちらに詳細があります。
では、そのような目覚めのきっかけはどのようにして得ればいいのでしょうか?
マイケルE.ガーバー氏は、
起業家になるためのプロセスにコミットして、起業家と同じような訓練を重ねることである。
(「起業家精神に火をつけろ!」より引用)
といっています。するとそのうち、起業家精神があなたを見つけに来る、といっています。
特効薬はないが、起業家のように考え、行動を積み重ねることでそのきっかけがやってくる、ということです。本記事の後半では、起業家のように考えるための概念的な話から具体的な方法まで書いていますので、ぜひ参考にされてください。
職人型経営者になってしまう5つの理由
職人型社長から抜け出す前に、その原因を理解することから始めましょう。職人型社長になってしまう理由は以下の5つです。
1) 技術力、職人的能力に依存している
経営者の中には、元技術者(職人)がオーナーになっているケースが少なくありません。自分では起業家だと思っていても、そのようには行動しない。熟練した技術者であった人は、専門知識があれば成功できるという思考習慣を手放すことができません。また、技術的な仕事を行うというコンフォートゾーンにとらわれています。技術的な専門知識だけでは、ビジネスを運営するには不十分です。ビジネスを成功させるために必要なビジョン、リーダーシップを身につけることが大切です。
2) 忙しさ
多くの社長は、活動と成果を混同しています。賢く働くのではなく、一生懸命働くことが解決策であるという妄想にとらわれています。ビジネスが成長すればするほど、より一生懸命に働くことが当然だと思いこみ、牢獄のようになってしまいます。どんなに時間を費やしても、間違ったやり方では、間違った場所に早く着くだけです。
3) リーダーシップと委任の欠如
多くの社長はリーダーとしての仕事よりも、実行者としての仕事に長けています。”私ほどうまくできる人はいない “と信じているため、委任することも苦手になっています。
4) 仕組みの欠如
大半の社長は会社が仕組みで成り立っていることを知らず、知っていたとしても、仕組みの作り方を学んだことがある人はほとんどいません。それが原因で、ほとんどの社長は、知らず知らずのうちに、自分に依存した会社を作ってしまっているのです。
5)成長に伴う複雑さの増大
顧客数、案件数、社員数が増えれば増えるほど、潜在的な問題が増えていきます。そのような問題にその都度、対処療法的に対応していては、ますます社長は忙しくなります。
繰り返しになりますが、あなたが職人型社長だと感じていても安心してください。このような状況には、解決策があります。
職人型経営者脱却のための考え方
職人型社長から脱却するために大切なことはこれ以上、ギアを上げてアクセルを踏み込むことではなく、考え方を変えることです。以下にその考え方を見ていきましょう。
1. ビジネスに対する関わり方を変える
多くの社長は自分=ビジネスだと考えています。この会社は自分が作った。だから自分そのものだ。しかし、実際には異なるのです。ビジネスとは、あなたとは別の生き物です。確かに、創業し立てのときには自分=ビジネスになっていても仕方がないでしょう。しかし、そのうち、会社が成長し始めると、ビジネスはあなたの手を離れて成長し始めます。
ビジネスはそれ自体が意志を持った生命体
たとえていうならば、会社とはあなたの子供のようなものです。子供は小さい頃は非常に手間がかかります。24時間付きっきりです。しかし、物心が付く年齢になると自我が目覚め、自分自身の意見や考えを持つようになります。さらに成長し、二十歳にもなれば自立し、ほとんど親の手がかからなくなります。
ビジネスも本来、そうあるべきなのです。創業し立ての会社は赤ん坊と同じように24時間面倒を見なくてはいけません。しかし、そのうち、顧客が増え、社員が増えると親である社長がコントロールできないことも増えていきます。
多くの社長は、コントロール出来ないことに居心地の悪さを感じ始め、マイクロマネジメントをして会社の成長を自ら止めてしまったり、自分がコントロールできるサイズにまで戻ろうとします。これは、子供が成長し、親の言うことを素直に聞かなくなったからと言って、子供を部屋に閉じ込め、自分のコントロール下に置こうとするのと同じことなのです。
コントロール出来ない居心地の悪さを耐え抜き、さらに成長していけば、ビジネスは自立します。社長が日々のオペレーションに介入しなくても、顧客に一貫した商品やサービスを提供でき、社長の働く時間とは関係なく利益が上がるようになります。
私の師匠でもあるマイケルE.ガーバー氏は次のように語っています。
ビジネスをあなたの一部としてではなく、あなたから独立したものと考えるべきだ。ビジネスは1つの生き物であり、最終的にビジネスはそれ自体として存続するし、それ自体として命を持ち、それ自体として意志を持ち、それ自体として法を持ち、それ自体として目的を持ち、それ自体として意図を持つ。
それは生きているのだ。それはあなたの創造物だ。ビジネスに持ち込めることのできる最高の知性とは、起業家的な視点であり、創造的アプローチであり、ビジネスを自分からは独立したものとみなす正確な物の見方なのだ。ビジネスが独立したものなら、あなたが明日死んでもビジネスは続いていくだろう。
– マイケルE.ガーバー
2.終わりから考える – 社長は商品ではなく、ビジネスを創る
社長の最終的な仕事は、“あなたの会社をぜひ買いたい”と言われるような魅力的な会社を作ることです。実際にあなたが会社を売るかどうかはどうでも良いのですが、顧客から見ても、社員から見ても、投資家らから見ても魅力的な会社を作ることが大切なのです。
そのためには、ビジネス自体をひとつの商品として考えることが大切です。
あなたは自分の会社の企業価値を把握していますか?企業価値とは、あなたの会社(つまり起業家にとっての商品)の値段です。
うちは上場企業じゃないから企業価値なんて関係ない、と思われるかもしれませんね。
しかし、もしあなたが創業社長であり、株主であれば、自分の会社はいったいいくらで売れるんだろうか?と考えておくことが大切です。
社長が交代してもうまく運営できるか?
買い手の気持ちになればわかることですが、もしあなたの会社があなたに依存していれば、それを買いたいという人はいないでしょう。なぜならば、あなたの会社を買って、社長を誰かに交代させた瞬間、運営が立ちいかなくなってしまうからです。
別の視点で考えてみましょう。もし、あなたのビジネスをフランチャイズ化するとしたら、実現可能でしょうか?つまり、別の人があなたのお店やサービスを運営できるようになるでしょうか。
普通のビジネスは10年以内に9割がた潰れると言われていますが、フランチャイズは、9割がたが生き残るとも言われています。その理由は、どんな場所でも、どんな人でも、すぐに使える仕組みが用意されているからです。もしあなたのビジネスもそのような運営が出来れば、拡張可能なビジネスになります。
3.クラフトマンシップをビジネス全体に活かす
私は非常に成功するビジネスを創るには、3つの精神が必要だと考えています。

1.起業家精神
一つ目は、日本人がもともと持っているアントレプレナーシップ:起業家精神(世界をより良い場所にしていきたいという想い)です。アントレプレナーシップと日本人はあまり結びつかないかもしれませんが、戦後の日本を作った起業家たちの功績を振り返れば、日本人は元々起業家精神に溢れた国民なのではないでしょうか。
2.匠の技
二つ目に、同じく日本人が大切にしているクラフツマンシップ:匠の技(自己成長を続け、商品やサービスの細部への卓越性を追求すること)です。日本には優れた技能や技術、サービスを持った会社や仕事人がたくさんいます。クラフツマンシップによって生まれた商品やサービスは世界中どこでも求められるものになります。
3.仕組み化
アントレプレナーシップとクラフツマンシップの二つだけでも良い会社は出来ます。ただ、せっかく良い商品やサービスを持っていても、それだけでは小さな規模で留まってしまいます。自社が持つ価値をより多くの人に伝えていくために必要なのが3つ目のシステマイゼーション(仕組み化)なのです。
そして、このシステマイゼーション(仕組み化)こそ、多くの日本企業が苦手とする部分だと私たちは考えています。だからこそ、海外発の考え方とメソッドを使い、日本企業の仕組み化をご支援しています。
私たちが日本の会社に仕組み化の重要性をお伝えしている理由は、社長が戦略的な仕事に取り組むため、事業承継に備えるため、生産性を上げるため、などの理由ももちろんあります。しかしそれ以上にお伝えしたい理由は、日本の中小・成長企業が仕組み化を推進することによって、日本人が持つ匠の技(商品やサービス)をより広く世の中に広げていくことができるからなのです。
世の中を良くしていきたいという「想い」、そして顧客の問題を解決するこだわりの「商品やサービス」、さらにそれを広く広めるための経営の「仕組み」。これら3つが相まることで、経営者が本当に望む会社が実現します。
ここでさらに大切なのは、あなたが持っているクラフトマンシップ、細部への追及を商品やサービス単体だけに適用するのではなく、ビジネス全体に適用するということです。
先述のビジネス自体が商品であるという発想に立てば、会社を動かす様々な仕組みにも細部の追及が大切です。世の中の卓越した会社を見れば、彼らがいかに細部にこだわりを持っているかがわかると思います。それは商品やサービスだけではなく、会社の仕組み全てにおいて、クラフトマンシップを発揮し、仕組みを細部まで作り込んでいるからなのです。
4.問題を認める
起業家の仕事は責任を持つことから始まります。
このことに関して、マイケルE.ガーバー氏の言葉を引用させていただきます。
お伝えしたいのは、自分が直面するあらゆる問題の責任を受け入れるということだ。シチリア人の友人が、シチリア語の言い回しを教えてくれた。「魚は頭から悪臭を放つ」。意味がわかるだろうか?
これは、ビジネスで問題にぶつかれば、それは自分が問題を作ったということだ。人間関係の問題にぶつかったなら、それはあなたが人の扱い方をわかっていないからである。経済的な問題なら、お金について何も知らないからである。マーケティングの問題なら、マーケティングを理解していないからである。顧客の問題なら、顧客を理解していないからである。製品の問題なら、製品を理解していないからである。外の世界とは全く無関係なのだ。会社のトップである、あなたに問題があるのだ。
どういう場面でも、これは真実だと私は感じている。今経済はぼろぼろだが、このぼろぼろの経済の中でも、素晴らしい業績を上げているビジネスを見つることが出来る。また、産業もぼろぼろだが、このぼろぼろの産業の中、急成長するビジネスを見つけられる。「カナダでは消費税のせいで、あるいはこれのせいで、あれのせいで、みんな国境を越えてアメリカに買い物に行くので小売りではお金が稼げないのです」と言う小売店がある。
しかし、同じ小売業でも、できないと愚痴をこぼしている小売店のすぐとなりで、急成長する小売店も存在するのだ。このような現象はどう説明すれば良いだろうか?普通ではないくらいの成長をしていた会社が、廃業に追い込まれるということが実際起こっている。そういう会社を見ると疑問に思わないだろうか。一体彼らの何が悪いんだろうと。
ビジネスの失敗は、外部環境とは無関係なのだ。問題は私たちの中にある。そしてこれは最も大事なことだが、私たちが学ばなければならないと思っている、どの技術とも関係がないのだ。それよりも「ビジネスとはどういうものであり、どういうものでないのか。私は誰であり、誰でないのか。ビジネスと私との関係はどうあるべきか。自分が達成したいのは何なのか」という私たちの考え方と深い関係があるのだ。
会社は社長の内面から変化する
社長の中には忙しさやプレッシャーのあまり、精神的な問題に悩まされている人もいます。本来、このような生き方をする必要はありません。世の中のほとんどの人が娯楽に時間を使い、世間の流れに人生を任せ、自己の成長よりも他人の足を引っ張ることにしか興味がない中、自分で起業し(または経営を引き継ぎ)、自立した人生を送り、ビジネスを通じて世の中に貢献しようとする経営者は報われて良いと思います。
しかし、その前に問題があることを認め、その責任を受け入れる必要があります。
考え方、リーダーシップの取り方、戦略を変えなければなりません。社長が学ぶべきことは、「内なる変化」です。考え方や習慣(繰り返される行動)を変えることで、ビジネスと人生が変わります。つまり、外側の現実が変わる前に、内側が変わらなければならないのです。逆に言えば、あなたは自分の力で会社の問題のほとんどすべてを解決することができるということです。
職人型経営者脱却のステップ
ではここから実際に、職人型社長を脱却するためのステップを見ていきましょう。
①Chief “Everything” OfficerからChief Executive Officerへ
あなたはもしかしたら、起業して成功したら、そのうち自由な時間を持てるようになり、人生を謳歌できるだろうと考えていたかもしれません。そうでなくても、いつか社長業の手を緩め、ゆっくりと生活したいと考えているかもしれません。しかし、実際には、週60〜70時間の仕事とストレスが続いています。リラックスできる日を作ることもできていないかもしれません。
ここで考え方を変える必要があります。CEO(Chief “Everything” Officer:すべてをやる人)になろうとするのはやめることです。ビジネスが成長すればするほど、やることは増え、一生懸命に働くことで楽になろうとしますが、実際にはフラストレーションが増え続けています。もちろん、創業して最初の数年間は、長時間労働が必要となるでしょう。しかし、ずっとそのペースを続けることは人として不可能です。つまり、時間の使い方が間違っているのです。
日常的に処理している緊急性の高い、重要性の低い、価値の低いタスクを手放しましょう。よく言われているように、8割の成果は、2割の活動から生まれます。2割の成果しか生まない8割の活動を辞めるか、委譲しましょう。
②戦略的時間を増やし、戦術的時間を減らす
ほとんどの社長は、会社で起こる課題に対して、長期的な解決策を打ち出すのではなく、短期的な解決策で対応してしまいます。正しいことは何かを考える前に、目の前のことを正しくやることにこだわっています。あなたも社長やリーダーとしての仕事ではなく、本来は社員が担うべき仕事に忙殺されていませんか?
役職に限らず、すべての人は、2種類の仕事をしています。

ひとつは、戦略的な仕事です。ビジョンの作成、戦略的計画、優先順位と目標の設定、組織設計、仕組みの開発、利益の改善、チームづくりなどの未来に向けた仕事です。
もうひとつは戦術的な仕事です。営業する、開発する、顧客対応する等、短期的な成果を生み出す仕事です。
戦略的仕事は出すべき結果を定義する仕事であり、戦術的仕事は実際にその結果を出すことです。
どちらも大切な仕事ですが、社長が重点を置くべきは、戦略的仕事です。なぜならば、出すべき結果を正しく決定しなければ、間違った結果が出るからです。社長が行うべき仕事は、何が正しい結果なのかを社内に伝え、社員がその結果を出しやすいような仕組みを創ることです。
戦略とは、戦いを省くことだと言われます。これは競合他社と戦わずに勝つ方法を立案することを意味するわけですが、同じく、社員の余計な戦いを省くことも意味します。戦場において将軍が正しい戦略を立案しなければ、兵士が余計な血を流すのと同様、社長が戦略的仕事を怠れば、社員は余計な仕事を強いられ、時間を浪費し、ストレスが増大することになります。
つまり、もし社員が仕事に忙殺され、ストレスを感じているのであれば、その原因は社長が戦略的仕事をしていないことにあるのです。
戦略的仕事に取り組めない理由
同時に、戦略的な仕事に意識を向けるのは難しいものです。なぜならば、時間制限があるからです。まとめるべき取引がたくさんあり、管理する社員がおり、対応すべき顧客がいて、緊急事態が毎日のように起こっています。こういった状況において、戦略的な仕事を1日1時間とることすらできない社長が多いのです。
もうひとつ、戦略的仕事に取り組めない理由があります。それは、”職人的な仕事への中毒性”です。ビジネスがある程度仕組み化され、多少の自由時間が出来ると、長年染み付いた、職人的な仕事への中毒性に負けてしまい、ついつい慣れ親しんだ目の前の仕事に手を出してしまうのです。”目の前の仕事をこなしていないと、仕事をした気にならない”というわけです。
本来は、自由を求めて仕組み化をしたはずなのに、自由になったことが原因で職人仕事に戻ってしまう、という本末転倒なことが起こります。
そうならないためには、戦略的な仕事に取り組むことが、社長の最も大きな責任だということを理解する必要があるでしょう。
③孤独の時間を持つ
多くの社長が職人型社長から抜け出せない大きな理由のひとつは、ロールモデルの欠如です。あなたの周りの経営者を見渡してみましょう。全体で見れば、職人型社長から抜け出せる人は稀です。みんな同じように忙しく職人的な働き方をしていませんか?
そういった人たちを見れば、そのように働くことが当たり前である、という意識を持ってしまうのです。特に同業界の交流会や勉強会に足しげく通っている人は要注意です。みんな同じような働き方をして、同じようなことに悩んでいませんか?
はっきり言ってしまえば、同業他社の集まりに行くのは、お互い社長業の大変さを共有して傷を舐めあっているだけです。参加するならば、異業種の経営者が集まり交流や勉強会に参加しましょう。他業種の業務プロセス、仕事の基準、顧客サービスなどからヒントを得ることができます。
社長は「起業家の時間」を取ろう
そして、そのような会に参加して情報収集するのも大事ですが、もっと大事なことは、孤独の時間を持つことです。経営者は孤独と言われますが、これは別に悪いことではありません。偉大な作品は孤独の時間に作られると言われています。社長は“会社“という傑作を創らなくてはいけません。そのために、自分で静かに深く考える時間を取ることが大切です。私たちはこの時間を”起業家の時間”と呼んでいます。
マイクロソフト創業者のビルゲイツは年に1週間、完全に業務から離れ、経営に影響を与える重要なテーマについて検討する習慣を持っていました。そのお陰で、マイクロソフトは重要な局面において正しい意思決定をすることが出来たとされています。
ビルゲイツのシンクウィーク
たとえば、インターネット黎明期の頃、マイクロソフトはその波に乗り遅れたと言われていました。ビルゲイツ自身、インターネットの波は感じていたものの、まだその可能性を完全に理解していなかったのです。
そこで、1995年のシンク・ウィークで、ビルゲイツは、インターネットをテーマに選びました。一週間、インターネットがこれからのビジネス、そして人々の生活にどんなインパクトを与えるのか、徹底的に調べたそうです。
シンク・ウィークから帰ってきたビルゲイツは、会社のエグゼクティブ向けに「インターネットの高波」というタイトルの社内メモを発信しました。このメモはIT業界ではかなり有名で、インターネットの将来可能性を示唆したうえで、次に自社が取るべきアクションを示したものとなっていました。
そして、メモが発信されたわずか3か月後には、MSNというインターネット事業がリリースされ、他の事業についてもインターネットへの対応を進めていきました。
結果、当時、急成長していたインターネット系のベンチャー企業を飲み込む形でマイクロソフトのインターネット事業が成長していったのです。1995年当時でもマイクロソフトはかなりの規模の会社でしたが、わずか一週間のシンク・ウィークがきっかけで、完全に会社の方向性を変革させました。
大半の業界では、当時のインターネットの登場ほど重大性のある変化は起こってないと思いますが、それでも孤独の時間を取り、今後の方向性を定めるのはとても有意義かと思います。
- 自分や社員の時間、才能を最も効率的に使うにはどうすればよいか?
- 十分に活用していない資源はないか?
- どうすればアウトプットを最大化し、インプットを最小化できるか?
- どうすれば、もっと短時間の仕事で成果を出すことができるか?
- 目標に向けてもっと良い戦略はないか?
- 会社の中で、どのプロセスや部門がボトルネックになっているか?
- 他の業界で参考にできる会社はどこか?
- 自社の機会に出来るニュースや出来事、トレンドは何か?
④残された時間を知る
たまに講演のご依頼をいただいて、仕組み経営の入門的なお話をさせていただくことがあります。その際、多くの社長の心に一番残るのは、人生計画から逆算してビジネス計画を立てることのようです。
社長向けのセミナーでは人生計画の重要性について聞くことはあまりありません。だいたいは売上アップやマネジメントなど、ビジネスそのもの、仕事そのものに焦点を当てているものがほとんどです。
ただ、ビジネスはやはり、それにかかわる人の人生を豊かにするために創られるものです。これはマイケルE.ガーバー氏の「はじめの一歩を踏み出そう」にも書いてあります。
まだ若い方はともかく、40代~の社長であれば、10年後、20年後の自分の人生を考えた時、いまと同じ仕事やるのは無理だよな、ということに気が付かれると思います。
じゃあどうするか?
さらに具体的に言うと、
- いまの会社をどうするのか(承継か、売却か、廃業か)?
- どのような立場でかかわるのか?
- どんな組織が必要か?
- どんなビジネスモデルが必要か?
ということを考えなくてはなりません。
⑤時給を高める
社長であるあなたの時給はいくらでしょうか?会社を成長させ、自分の収入も増やしたいのであれば、社長は自分の時給よりも低い金額で依頼できる仕事に時間を費やしてはいけません。
まず、今現在のあなたの時給を計算してみましょう。現在の時給の計算は簡単です。
1か月の報酬÷平均的な月稼働時間
です。
たとえば、1か月の報酬が80万円で、月稼働時間が160時間であれば、時給は5,000円になりますね。
となりますと、仕事をする前に、”この仕事は時給5000円以下で誰かに任せることができるか?“と問わなくてはいけません。時給5000円の社長が時給1000円で任せられる仕事をしていては、会社の成長は見込めません。
次に、あなたが理想とする働き方の時給を計算してみましょう。
あなたの理想とする月の報酬はいくらですか?次に、あなたが理想とする人生を送るためには月の稼働時間はどれくらいにする必要がありますか?
たとえば、理想の報酬が200万円だとして、理想の稼働時間が現在の半分の80時間だとしましょう。こうなると、時給は2万5000円になります。
今度は、仕事をする前に、”この仕事は時給2万5000円以下で誰かに任せることができるか?“と問わなくてはいけません。ほとんどの人は、今やっている仕事の大半が2万5000円以下で出来るのではないでしょうか。
さて、単純作業ならば時給の計算は簡単ですが、企画系や職人技系の仕事は相場がないので時給が計算しにくいと思います。
そこで、一般的に言って、2万円以上の価値がある仕事の例を以下に挙げてみます。
仕組みの構築
自分や誰かがやっている仕事を他の人でも同じようにできるようにすること。
職人技が求められる仕事を教えること
ほかの人でも教えられる仕組みを創る仕事はさらに時給が高い。
事業計画の立案
ビジョンに向けた長期的、中期的、短期的計画を立案し、社内で共有すること
マネージャーやリーダークラスへのコーチング/メンタリング
直属の部下の仕事の支援、また、その仕組みを会社全体に共有すること
大きな取引をまとめる
大口顧客や大きな提携話を決めること
重要な採用
リーダークラスの人材を採用すること
⑥最高のものを学ぶ
Garbage In, Garbage Out(ゴミを入れるとゴミが出てくる)とは、「『無意味なデータ』をコンピュータに入力すると『無意味な結果』が返される」という意味の言葉です。これは人の頭にも全く同じことが言えます。起業家として、経営者として成功するには、最高のものを学ばなければなりません。
- 流行りの本ではなく、偉大な本を読みましょう。
- 流行りのビジネスタレントから学ぶのではなく、偉人から学びましょう。
- 流行りの方法論を学ぶのではなく、人生の原理原則を学びましょう。
特に、ビジネスのテクニカルな側面の勉強はなるべく誰かに任せるべきです。
社長になることは、自分自身を発見し、自己を向上させる旅です。社長として成長すれば、ビジネスを成功させるだけではなく、組織内外の人々の生活にプラスの影響を与えることができます。
自分なりのリーダーシップスタイルを探す
リーダーシップは、リーダーシップスタイルとリーダーシップスキルの2つに分けることができます。
リーダーシップスキルとは、どの社長にも求められるビジョンを創ったり、コミュニケーションしたり、物事をやり遂げたりするスキルのことです。一方のリーダーシップスタイルというのは、その人独自のリーダーとしての在り方を指しています。たとえば、スティーブジョブズとビルゲイツは全くスタイルが違いますが、両者とも優れたリーダーであることには違いありません。
社長が学ぶ目的とは、自分なりのスタイルを発見しなおす、ということなのです。誰かの真似をする必要はありません。自分のスタイルを見つけた時、周りの人たちはあなたが裏表のない人物であることを知ります。そこから信頼が生まれるのです。
⑦コマンド&コントロールを無くす
コマンド&コントロール(指示命令型)のリーダーは、人の心や精神、好意を得ることはほとんどありません。リーダーシップとは、影響力であり、人を自分や自分の目的に従わせたいと思わせる能力なのです。あなたの社員はあなたやあなたのビジョンに熱心に、そして精力的に従っていますか?もしそうでなければ、リーダーとしての在り方に改善が必要かもしれません。リーダーは、組織の目的や方向性を明確にするだけでなく、チームが成功するための条件や環境を整えます。
Spotifyという音楽配信の領域で有名なスタートアップ企業があります。この会社はそのサービス自体も有名ですが、企業文化を大切にしている経営手法でも注目を浴びています。そのSpotifyが公開している資料に以下のような図(Shotify社の資料を基に独自作成)があります。

この図では企業文化を縦横軸で4つに分けています。縦軸はアライメント、会社としての統一性、コントロールの度合いです。横軸は社員の自主性です。Spotifyが目指す文化は右上、すなわち、組織としての統一性も高く、社員の自主性も高い文化ということです。おそらく多くの社長が目指したいのも右上なのではないでしょうか。
ちなみに、この図を解説しますと以下の通りです。
左下:自主性とアライメントの両方が低い
社員は烏合の衆になる。
左上:自主性が低くてアライメントが高い
リーダー「川を渡る必要がある。橋を作れ」。コマンド&コントロール。官僚主義的で社員の動機付け低下。
右下:自主性が高くてアライメントが低い
リーダー「誰か橋を作ってくれないかな」。個人のやりたい放題で、やるべきことが為されない。
右上:自主性が高くてアライメントも高い
リーダー「川を渡る必要がある。どうするか考えよう」。Spotify社が目指す企業文化
コマンド&コントロールを止め、日常的な管理を手放すのには大きなハードルがあるでしょう。手綱を手放すのは怖いことです。しかし、すべてをこなすことはできません。マイクロマネージャーになるのはやめましょう。職人型社長を抜け出すには、コントロールをある程度放棄しなければなりません。ビジネスのすべての側面を管理することは、物理的に不可能なので、部下と、計画、仕組みや方針を信頼しなければなりません。
⑧信頼を得る行動
信頼は社長としての基盤です。あなたが信頼されていなければ、あなたのビジョンや戦略も信頼されません。人格や評判を失えば、すべてを失うことになります。信頼を築くために、いくつかのポイントをご紹介します。
- 言ったことを実行する。約束を守る。
- 良い時も悪い時も、倫理、道徳、誠実さを持つこと。
- 模範を示して導く必要があります。
- 人間らしさを隠さないこと。
- 良いニュース、悪いニュース、中立的なニュースをチームと共有する。
- 常に心から話すこと。
- 深い傾聴。
信頼は時間をかけて獲得しなければなりませんが、一瞬で失うこともあり、再構築するのは不可能ではないにしても非常に困難です。信頼できない行動は、優秀な社員を失うことになることになります。良い社員は悪い会社を去るのではなく、悪いリーダーを去るのです。
⑨青写真と方向性を明確にする
起業家型社長には、明確な青写真や方向性が欠かせません。ここでいう青写真とは、先ほど起業家の役割でご紹介した顧客のための夢やビジョンの事だと考えてください。
- フェデラル・エクスプレスの創業者であるフレッド・スミスは、翌日の朝までにアメリカ中に荷物を届けるというビジョンを持っていた。
- ディズニーは、家族を笑顔にしたいと考えていた。
- ドミノは、熱々のおいしいピザを30分以内に届けなければ無料にしたいと考えていた。
- コーラは、世界中のすべての人の手の届くところに、さわやかな飲料を提供したかった。
- マイクロソフトは、職場、家庭、学校のすべての机にコンピュータを置かざるを得ないようなソフトウェアを作りたかった。
社長自身が青写真を本気で信じること
ジョナサン・スウィフト氏は、「ビジョンとは、見えないものを見る技術である」と言いました。起業家の時間で行うべき大事な仕事のひとつは、関わる人たちがワクワクするような青写真、そして、そこに至るための現実的な方向性を作ることです。
大切なのは、社員があなたの目指す青写真と方向性に賛同する前に、あなた自身が、それを本心で信じ、実現することにコミットしているということです。世界的に有名なセールストレーナーであるブライアントレーシー氏は、「セールスとは情熱の移転である」と言っています。つまり、あなたが描く青写真を社員にも賛同してもらいたいと思ったら、あなた自身が本当に情熱的にそれを信じていないといけないということなのです。
青写真を描くには時間の余裕が必要
新しい青写真を作ったり、既存の青写真に磨きをかけるには、時間の余裕が必要です。1時間程度で出来るものではありません。最低でも1ヶ月間は余裕を持ちましょう。また、自分一人で青写真を描くことも難しいものです。写真、顧客、サプライヤー、代理店、アドバイザーなどを巻き込み、意見を聞くことも大切です。具体的には自社の方向性はどうあるべきか、強みや機会についての意見を集めましょう。また、業界の動向や現在の競合他社、新興の競合他社についても調査しましょう。
他人の意見を聞いたからと言って、それに安易に迎合するのもNGです。次には、自分の内なる声や直感に耳を傾けることが大切です。何しろ、最終責任はあなたにあるのです。
日々の雑踏から逃れ、隠れ家を作って籠るのもお勧めです。自宅の一部屋、カフェ、ホテル、図書館、アウトドアでも良いでしょう。2~3日かけて、1年後、3年後、5年後のビジネスの姿を想像してみてください。あなたが本当に作りたいと思っているビジネスを心に描いてください。大胆で、規模の大きな青写真は、たとえ部分的にしか達成できなくても、小さくて弱々しいものを完全に達成するよりも、大きな報酬をもたらします。
- 私たちの企業はなぜ存在するのか?
- もし私たちの事業が停止したら、この世界には何が欠けるのか?
- 私たちの聖戦は何か?何が我々の聖戦になりうるか?
- どうすれば社員の心、精神、魂を惹きつけることができるか?
- どのようにしたら、会社の文化をより良いものに出来るだろうか?
- どうすれば、私たちの業界、コミュニティ、さらには世界を変えることができるだろうか?
- どうすればお客様の生活を向上させることができるのか?
- どうすれば、社員とその家族の生活をより良く、より充実したものにできるか?
- 私のより高次元の使命は何か?
⑩青写真を伝える
将来のビジネスのイメージが沸いたら、それをチームと共有しなければなりません。ここで、先ほど紹介した起業家型社長のストーリーテラーが登場します。
人が変わるのは、思考が変わるときではなく、感情が変わるときです。なので、社員の感情を変えさせるのです。あなたが感じていることを相手に感じてもらいましょう。そして、あなたが望んでいることを彼らが望むようにしましょう。そして、青写真を語るだけではなく、それを達成可能なステップに変換しなければなりません。
未来は過去よりも良くなると信じさせる
「ザ・ドリーム・マネージャー」著者のマシュー・ケリー氏は、“リーダーの仕事とは、未来は過去よりも良くなるとみんなに信じさせることだ“と言っています。そのとおりにやりましょう。
社員は、あなたの心からの想いを知る権利があり、それを切望していると考えましょう。彼らに常に情報を提供し、参加させ、刺激を与え続けましょう。
それが出来れば、全員があなたの理想に向かい、混乱がなくなり、無駄な時間とエネルギーがなくなります。日々の行動や判断の指針が出来ます。無個性な何十ページの計画書よりも、イメージできる青写真の方が、社員にとって理解しやすく、動きやすいのです。
ストーリーを伝えるのに、カリスマ性は要りません。自分に合ったリーダーシップ・スタイルで話せばいいのです。
⑪8:2の法則で時間を50%削減する
Joe Kraus氏は、Google Venturesのパートナーであり、1993年に初期の検索エンジン、Excite.comを共同で創立した人物。彼が「創業者は自分をクビにせよ」という記事で以下のように書いています。
自由時間は計り知れないほどの価値を持つ(同時にその価値は計り知れないほど過小評価されている)。CEOに常に自由時間があり、それを利用して会社の将来を考えられるというのはいくら強調しても足りないほどすばらしいことだ。
ビジネスのすべての側面が頭に入っていて、50%の自由時間があれば―
- 新しいビジネス・チャンスをいち早く認識することができる。
- ビジネスをどのように成長させていくべきか、数年単位で長期的に考えることができる。
- 自分の会社には潜在的にどんな危険があるかを考えることができる。
- 自分のプロダクトではなくビジネスについて考えることができる(プロダクト指向のCEOは往々にしてこの2つを混同する)。
- 適正な人材をそれぞれぞれの職務分野の責任者に配置しているかどうか考えることができる。
そういうわけで私はすべてのファウンダー、CEOに「どうしたら50%の自由時間を作り出せるか?」と自問するよう強く勧める。
(テッククランチより引用)
毎瞬、最高の選択を行う
この記事にあるように、まずは自分の仕事時間を50%削減することを目指しましょう。私たちの経験から言って、これはどんな社長でも実現可能な目標です。常に “自分の時間の最高の使い道は何か?”と問いかけましょう。「どのようにこの仕事をやろうか」ではなく、「何を、なぜやるのか」に焦点を当てましょう。
社長が職人型から抜け出せないのは、そのやり方を知らないからではなく、本人の信念に理由があることが多いです。
たとえば、社長には長時間労働や過酷な日々、「no pain, no gain(痛み無くして得るものなし)」、多くの犠牲が必要だという致命的な神話を信じている人がいます。ビジネスを始めたばかりの頃は必要かもしれませんが、終身刑のような苦しい生活に身を置く必要はありません。考えること、計画することを仕事と考えていない傾向もあります。とにかく忙しさに追われる。とにかくやってみる。このような状況に身を置くことで、偽りの自己満足を得ています。
また、社長の中には、自分がすべての答えを持っていると確信している人がいて、思い込みに挑戦したり、ビジネスを大幅に改善できるような新しいアイデアを考えることを受け付けない人もいます。彼らは自分が確実に知っていることを常に守ろうとします。そのため、この仕事を出来るのは自分しかいない、という深い信念があり、職人型から抜け出すことができません。
⑫説明責任を果たす
社員にあって、社長にないもの、それは説明責任を果たす相手です。つまり、社長には自分がやると言ったことをやったかどうかを報告する相手がいないのです。上場企業の場合、株主がそれにあたりますが、非上場企業では社長に報告する相手はいません。それが原因で、多くの社長は本来自分がやるべき戦略的仕事をおざなりにし、目の前にある取り掛かりやすい職人仕事に時間を費やしているのです。
人は説明責任を果たさない限り、人生やビジネスを向上させるために必要な変化を起こすことはできません。
この記事を読んでも、あなた一人では実践することは難しいかもしれません。誰もあなたの行動を監視していないからです。社長が説明責任を果たすためには、専門のコーチを付けるか、馴れ合いにならない経営者同士のグループが必要です。
一流のアスリートがコーチを付けているように、一流の経営者はコーチを付けています。本当に職人型社長からの脱却を望まれるのであれば、一度、この分野の専門トレーニングを受けた仕組み経営コーチにご相談されてください。
説明責任を果たすために、報告する相手を探すか、コーチを付けましょう。
経営者人生を楽しむ
経営者になって最初の数年が過ぎると、現実が見えてきます。ほとんどの経営者にとって、「自分の自由にやっていく」という当初の喜びは薄れてきます。もしかしたら、あなたもこんな感じかもしれません。
- 自由への切符と思っていたものが、隷属の刑になってしまった。
- 自分の “赤ちゃん “が “手間のかかる子供 “になってしまった。
- かつては新鮮味があり、発見の連続だった冒険が、毎日の作業になってしまった。
- 当初思い描いていた理想の人生とビジネスは、実現不可能な夢物語のように感じるようになった。
繰り返しになりますが、もしこのように感じられてもあきらめる必要はありません。本書に書かれていることを手始めにして、あなたの思考と行動を変革させれば、ビジネスは間違いなく変わり始めます。
さて、この最後の章では、あなたの人生に焦点を当てます。
ビジネスは関わる人を豊かにする乗り物
ビジネスはあなたの人生をより充実させるための乗り物であるべきです。ビジネスは、あなたを縛るものではなく、あなたを自由にするものなのです。
もしかしたら、あなたはビジネスが変われば、自分の人生も変わると思われているかも知れません。ビジネスさえ成功すれば、もっと自分の人生も豊かになるのに、と。しかし、人生を豊かに過ごすためにビジネスが変わるまで待つ必要はありません。いま一生懸命ビジネスに取り組んでいるからと言って、充実したプライベートな生活を放棄する必要はありません。
さらに言えば、ビジネスが変わることで、人生が変わるわけではありません。人生が変わることでビジネスが変わるのです。これは直感的にはわかりにくいと思いますので、もう少し解説します。
あなたのビジネスはあなたの個人的な人生の目的や価値観、さらには感情の影響を受けています。ビジネスはあなたの鏡みたいなものであり、あなたの人格や性格が反映されたものがビジネスなのです。
つまりビジネスを良くしたいと思ったら、あなたの人生をまず良くすることが大切なのです。その結果、ビジネスは良くなり、さらにその影響で人生も良くなります。人生はシステムであり、ビジネスもシステムです。この二つは絶妙に影響しあって動いています。
まずは家庭から
人生の中で重要な要素は数ありますが、その最たるものが、家族や家庭です。マイケルE.ガーバー氏は、「すべての会社は家族経営である」と言っています。その内容を引用してみましょう。
すべての会社は家族経営である。この事実を無視すると悲劇が訪れる。
会社が実際に、家族で経営されているかどうかは関係ない。会社と家族が、実際にどのような関係にあろうとも、会社における意思決定は、家族からの影響を受けるものだ。それを無視することは出来ない。不幸なことに、大半の経営者は、彼らの仕事を家族とは関係ないものと考えている。
夫は妻に言う。
“お前には関係ない。”
と。しかし、それは真実ではないのだ。家族と会社は切っても切り離せないものだ。会社の中で起こることは、家庭の中でも起こる。
・仕事で苛立っていれば、自宅でも苛立っている。
・会社をコントロールできなければ、家庭もコントロールできない。
・会社でお金にトラブルを抱えていれば、家計にもトラブルを抱えている。
・会社でコミュニケーションのトラブルを抱えていれば、家庭でもコミュニケーションにトラブルを抱えている。
・会社でメンバーを信頼していなければ、家族のことも信頼していない。これらのことによって、あなたは信じられないほど大きい代償を支払っているのだ。
人生のビジョンと計画
日常の細々とした仕事から、あなたを解放するためにも、ビジネスと感情的に結びついていてはいけません。ビジネスがあってもなくても、あなたは価値のある人間です。ビジネスはあなたの人生の一面であり、非常に重要な要素ではありますが、それがすべてではありません。それは家族や友人、健康、充実感、人生の喜びよりも重要ではありません。
自分のビジネスを深刻に考えすぎないように。リンクトインを創業したリードホフマン氏は、ビジネスを始めるのはバッターボックスに立つようなものだ、と言っています。もし三振したら、その反省を基に、次の打席を待てばいいのです。
豊かな人生を楽しむには、経済的な目標だけでは不十分です。ビジネスの目標は数が少ないほど集中できますが、人生の目標は複数あったほうがバランスが取れ、それぞれの目標も達成しやすくなります。
人生のビジョンありますか?
ビジネスのビジョンは持っていても、人生のビジョンは持っていない人が多いのではないでしょうか。人生のビジョンやプランがなければ、生活は常に後回しにされ、行き当たりばったりで、いつの間にか人生を楽しめる体力も気力もないくらい歳を取ってしまいます。
解決策は簡単です。人生のビジョンを持ち、計画的に歩むことです。自分が何者で、何を望んでいるのかを知ること。他人の期待に基づいて自分の人生を生きるのを止めること。人生の成功の指標は経済力ではありません。毎日、自分の価値観に基づき、最高の自分になれるように行動したことによる心の安定が充実感をもたらし、その充実感がビジネスにも良い影響を及ぼすのです。
- 私にとって人生で最も大切なものは何だろう?
- 心、腹の底、魂の中で、自分の人生に何を心から望んでいるのか?
- 私が望んでいないものは何か?
- 私の最も深い価値観は何か?
- 残された時間をどのように過ごしたいか?
- ビジネス以外で、どのような活動に参加したいか。
- 充実した人生に欠かせない人間関係とは?
- 自分の人生のどこがバランスを崩しているか?
- 職人型社長か抜け出し、より多くの自由と時間が手に入ったら何をしたいのか?
- どの人間関係を発展させることができていないのか?
- もし半年しか生きられないとしたら、私は何を変えたいか?何に集中するか?
まとめ:起業家の視点を手に入れよう
最後までお付き合いいただきありがとうございました。私たちは、日ごろ、職人型社長を抜け出すために仕組み化のご支援をしていますが、これはスタートするのが早いほど簡単になります。逆に、時間がたてばたつほど、ビジネスは複雑になり、社長の考えも凝り固まり、そこから抜け出すのが難しくなります。
ですから、今こそ、あなたの考えと行動を再構築するベストなタイミングです。繰り返しますが、大切なのは、ビジネスに対する視点を変えることです。それが出来れば、はるかに少ない努力と苦痛で正しい方向に進むことができます。逆に言えば、視点を変えずに取り組めば、やるべきことが増え続けるだけです。
もしあなたが創業者ならば、起業した直後のことを思い出してください。当時の想いや情熱をもう一度、再燃させる時なのです。もしあなたが誰かから社長を継いだのであれば、子供のころの童心を思い出してください。あなたはどんな人生を送りたかったのでしょうか?引き継いだ会社をそのままのやり方で運営していく必要はありません。マイケルE.ガーバー氏がいつも言っているように、ビジネスはいつでも再創造できます。
一人で取り組むよりも、サポートを受けてより早く変化をしていきたい、という方は、最後に仕組み経営の体験ウェブセミナー公開を載せていますので、ぜひご活用ください。
あなたのビジネスと人生を豊かにするはじめの一歩になることを願っています。