社長の仕事内容とは何か?をステージ毎に解説。



清水直樹
「社長が社長の仕事」をすること。これこそが会社を成長させる唯一の道と言えます。
本記事の信頼性
  • 本記事は、マイケルE.ガーバー著の「はじめの一歩を踏み出そう(原題:E-Myth Revisited)」を基にしています。本書は、「起業家の視点(職人、マネージャー、起業家という3つの人格)」、「事業の仕組み化」、「事業の試作モデル」、「ビジネス開発プロセス」などの新しい概念を提唱し、現在につながる、中小企業経営の新しいスタンダードを創りました。
  • 16カ国語に翻訳され、700万部以上のベストセラーとなっています。また、Inc 500社(急成長企業500社を選出したランキング)のCEOが推薦する書籍として、「7つの習慣」や「ビジョナリーカンパニー」などの名著を抑え、ナンバーワンを獲得しています。
  • 出版後、10年以上経った現在においても、「最も影響力のあるビジネス書25選(米タイム誌)」、「もっとも役に立ったビジネス書ベスト5(米ウォールストリートジャーナル)」に選ばれるなど、経営のバイブルとしてロングセラーとなっています。

あなたは「社長の仕事」をしていない?

自分で創業した社長の場合、創業当時は「社長の仕事って何だろう?」などと考える間もなく、自分で営業し、開発し、顧客サービスをし、と様々な仕事をしていたと思います。やがて、顧客基盤が安定し、社員も増えてくると、そういった実務は社員に任せることが出来るようになります。そうなると社長は自由時間が増えることになるわけですが、はたと気が付きます。あれ、社長としてどんな仕事をすればいいんだっけ?”と。

私たちのお客様(中小企業や成長企業の社長)の中にも、最初は様々な実務で忙しくされていたものの、経営の仕組み化”がある程度出来てくると、目の前の仕事が減りますので、皮肉にも何をしていいのかわからない、という状況になることがあります。

また、先代社長から会社を継いだ方であれば、社長就任当初から、社長としてどんな仕事をすべきか?という課題に突き当たることもあるでしょう。

そこでこの記事では主に中小企業、成長企業向けに、「社長の仕事」とは何か?をご紹介していきます。

中小企業の社長は「社長の仕事」をしていない?

日本を代表する社長の1人である柳井正氏は、次のように語っています。

社長が経営していない人が非常に多い。コーディネートや調整みたいなことは非常にやられているが、世の中がどんどん変わっている中で、会社自体を変えていかないといけない。そう思ったら自分自身がエンジンにならないといけない。あるいはリーダーにならないといけない。それと、会社の方向性、将来こちらの方に向かう、その具体策、今年はこれをやる、今月はこれをやる、今期はこれをする、今日はこういうことをしようという方針が見えていない会社、支持しない会社(が多い)。リーダーが指示しない限りうまくいかない。そういったビジネスリーダーシップが圧倒的に足りないと思う。それが私の率直な感想だ。

これは特に中小企業の社長にとっては耳が痛いのではないでしょうか。中小企業の場合には、人でも足りない、資金も足りない、では社長自ら動くしかない、ということになります。そして会社の方向性や方針を考えたり、打ち出す時間もなかったりします。

社長の仕事内容は成長ステージ毎に異なる

 

社長の仕事は成長ステージ毎に異なる

社長は会社で起こる全てのことに責任を持たないといけないため、営業からお金の算段まで多種多様な業務が必要となります。しかし、会社の成長ステージに合わせて、いまどの仕事に集中すべきか?が異なります。以下では、その成長ステージと社長が集中すべき仕事をご紹介していきます。

社長がコントロールすべき3つの人格

社長の仕事を理解するために、「はじめの一歩を踏み出そう」に登場する「3つの人格」の概念をご紹介します。社長は会社の成長ステージに合わせて、これら3つの人格をコントロールして働くことが大切になります。

起業家の仕事内容

  1. ビジョンの構築:将来のビジネスの方向性や目標を明確にし、それに基づいて戦略を立てる。
  2. 新規事業の開発:市場動向や顧客ニーズを分析し、新しい製品やサービスの開発をリードする。
  3. リーダーシップの提供:従業員やパートナーにビジョンを共有し、チームを鼓舞して目標達成に向けて動機付ける。

マネージャーの仕事内容:

  1. 仕組みの構築:効率的な業務プロセスやシステムを設計し、組織全体の運営を円滑にする。
  2. リソースの最適化:人材や資金、物流などのリソースを最適化し、効率的に活用することで組織の生産性を向上させる。
  3. 問題解決と課題管理:日常業務における課題や障害に対処し、適切な対策を講じて業務の継続性を確保する。

職人の仕事内容:

  1. スキルの活用:専門知識や技術を駆使して、品質の高い製品やサービスを提供する。
  2. 仕事の完了:タスクやプロジェクトを時間通りに完了させ、品質や納期を守る。
  3. 改善と学び:常に自己成長を意識し、技術や業務に関する最新の情報や技術を習得し、仕事の質を向上させる。

以下のように社長の仕事の配分を変えていかなければ、人の問題、品質の問題、承継の問題などが後を絶たなくなります。

幼年期に社長が集中すべき仕事

幼年期における社長は主に職人の人格で働きます。

商売の基本サイクルを回す

商売の基本サイクル

これは、社長自ら基本的な商売のサイクルを回すことから始めることを意味します。つまり、社長が商品やサービスを開発し、それを顧客に提供し、顧客を獲得し、最終的に売上を生み出すプロセスです。以下に、それぞれの仕事内容を詳しく見ていきましょう。

価値提供の仕事

幼年期の社長は、まず自らが提供する商品やサービスの価値を明確にします。これは、市場のニーズや顧客の要望に応じた商品やサービスを開発することを含みます。例えば、自分が営むカフェの場合、美味しいコーヒーやスイーツを提供するためのレシピやメニューを考案します。この段階では、顧客の期待に応えるための製品やサービスの品質と特徴を確立することに重点を置きます。

集客の仕事

次に、彼らは顧客を集めるための努力を始めます。これは、広告、マーケティング、販促活動などを通じて、商品やサービスを知ってもらい、興味を持ってもらうことです。例えば、ソーシャルメディアや地域コミュニティでのイベントを通じて、カフェの存在を広め、興味を引くことができます。

セールスの仕事

最後に、彼らは見込み顧客を実際の顧客に変えるためのセールス活動に取り組みます。これは、顧客との関係を築き、彼らのニーズや要望に合った製品やサービスを提供することを含みます。例えば、カフェの社長は、お客様とのコミュニケーションを通じて、彼らの好みやニーズを理解し、最適なメニューアイテムを提案します。

これらの活動を通じて、幼年期の社長は「商売の基本サイクル」を体験し、成功するための戦略や手法を習得します。そして、この経験を通じて、顧客のニーズや市場の動向に関する洞察力を養い、将来の経営戦略の基盤となる「現場の勘」を身につけます。

後継社長はまず現場で仕事をする

会社を引き継いだ後継社長が商売の基本サイクルを自ら経験していない場合、現場の勘を身につけることや組織内の信頼関係を築くことは、ますます重要になります。以下に、その理由と具体的な方法を詳述します。

現場の勘を身につける必要性

商売の基本サイクルを自ら経験していない後継社長は、現場の実情や仕事の難しさを理解していない可能性があります。そのため、彼らは一般的なビジネス理論や経営戦略だけでなく、実際の業務遂行に関する知識や経験を獲得する必要があります。

現場の勘を身につけることで、商品やサービスの提供方法や顧客とのやり取りに関する洞察力を養うことができます。これは、効果的な経営意思決定を行うために不可欠です。

担当者との協力で知識を身に付ける

後継社長は、経験豊富な担当者や現場のスタッフと積極的に協力することが重要です。彼らは会社の運営に関する貴重な知識や経験を持っているため、その洞察力やアドバイスを活用することで、自らの経験不足を補うことができます。

担当者との協力を通じて、後継社長は組織内の専門知識やノウハウを吸収し、組織の運営に関する理解を深めることができます。

信頼関係の構築

後継社長は、現場のスタッフとの信頼関係を築くことが重要です。彼らは組織の中核を担っており、彼らのサポートや協力なしには成功することは難しいでしょう。

信頼関係を築くためには、従業員の声に耳を傾け、彼らの意見やフィードバックを真剣に受け止めることが不可欠です。また、公正で誠実なリーダーシップを示すことで、従業員が後継社長に対して信頼し、彼らの支持を得ることができます。



後継社長が商売の基本サイクルを理解し、現場の勘を身につけるためには、組織内の人材との密接な協力と信頼関係の構築が欠かせません。

青年期に社長が集中すべき仕事

青年期は、顧客数、社員数増加につれ、混乱が生まれる時期です。最もトラブルが発生しやすい時期とも言えます。

青年期は戦略的な仕事に多くの時間を投資すべし

青年期には理想的には社長はほとんどの時間を戦略的仕事に使うべきです。

冒頭にご紹介した柳井さんの言葉の意味は、社長が戦術的な仕事だけに没頭してしまっているということです。一見、忙しそうに働いているけれど、会社の舵取りをする戦略的な仕事に取り組まなければ、会社の未来はありません。

柳井さんだけではなく、世界一有名なコンサルティング会社、マッキンゼーの元CEO、マーヴィンバウワー氏も次のように語っています。

事業を経営することと業務上の判断を下すことが、まったく別物であることは、誰しも認めるだろう。後者は、上はCEOから下は現場主任までマネージャーなら誰でもする仕事である。だが地位が上がるにつれて、経営の仕組みを整え改善することが、次第に重要な任務となってくる。自分のところに上がってきた問題を処理する、部下を選別する、部下のした仕事を評価あるいは調整する、部下を指導する・・・といった仕事に没頭しているだけでは、責務を完全に果たしたとはいえない。-マーヴィン・バウワー(元マッキンゼー、パートナー)

青年期前期の仕事

青年期前期では、社長はまず商売の基本サイクルを仕組み化し、人に任せることに焦点を当てます。つまり、価値提供、集客、営業などの仕事を他の人でも実行できるように仕組み化していきます。

例えば、青年期前期の社長が飲食店を経営している場合、メニューやサービスの標準化、顧客対応の手順の整備などを行い、従業員に業務を任せる体制を整えます。

青年期後期の仕事

商売の基本サイクルを高速で回す

青年期後期になると、社長は商売の基本サイクルを高速で回すための仕組みづくりに取り組みます。これには、組織、ブランド、財務の3つの側面が含まれます。

  • 組織戦略: 従業員の採用や育成など、組織全体の人材戦略を策定し、チームの能力を最大限に活かすための仕組みを構築します。
  • ブランド戦略: ポジショニングや顧客体験などを最適化し、ブランド価値を高めるための戦略を展開します。
  • 財務戦略: 利益計画や資金繰りなどを最適化し、組織の財務健全性を確保するための戦略を策定します。

社員の仕事をラクにするのが仕事

青年期における重要なポイントは、社員の仕事をラクにする仕組みを作ることです。人依存の会社では、社員を働かせて商売の基本サイクルを回そうとすることがありますが、これは持続的な成長を妨げる可能性があります。

組織力、ブランド力、財務力を高めることで、社員の仕事が効率化され、商売の基本サイクルがスムーズに回るようになります。これによって、会社は成長を加速させることができます。青年期の社長は、取り組みを通じて、組織を成長させ、事業の持続可能な成功に向けて努力します。

成熟期に社長が集中すべき仕事

成熟期の社長の仕事は、現在の事業を改善し、次の世代のリーダーに引き継ぎながら、新しい事業を創造していくことです。具体的な仕事内容と戦略を見ていきましょう。

仕組みの改善と次世代リーダーの育成

成熟期の会社では、様々な仕組みが動いています。社長の役割は、これらの仕組みが会社の目標に向かって効果的に動いているかどうかをチェックし、必要に応じて改善を行います。

同時に、改善活動を会社に残すために、次世代のリーダーを育成します。次世代のリーダーは、会社のビジョンや価値観を共有し、引き継ぐことが期待されます。

新規事業の創造

新規事業を創造するためには、自社の事業ドメインを再定義し、大義ある新規事業を探求する必要があります。新しいアイデアがあっても、リソースを無駄に使わず、事業の方向性を明確に定めることが重要です。

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出口戦略の策定

経営者がいずれ引退することを考え、その準備を進めることが不可欠です。自身の引退時期を決め、それに向けて事前の準備を進めることで、組織の安定性や持続可能な成長を確保することができます。

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会社の成長を継続させる仕組みづくり:

最後にして最も重要な仕事は、経営者が交代した後も、会社が成長し続けられるような仕組みづくりを行うことです。カリスマ経営者は個人に依存する経営が多く、その人が去った後に成長が停滞することがあります。したがって、経営者は自身がいなくなっても成長できる仕組みを構築することが求められます。

例えば、スティーブ・ジョブズや本田宗一郎は、カリスマ的な経営者でしたが、彼らの功績は個人の魅力だけではありませんでした。彼らは在任中に、組織内に成長を継続させるための仕組みを構築しました。これが、彼らがカリスマと称賛される理由です。

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最後に:ダブルビジョンで仕事をしよう

以上、会社の成長ステージに合わせて経営者の仕事をご紹介してきました。大切なことは、どの成長ステージにあろうとも、未来の理想像を見据えながらも、目の前の仕事の細部をおろそかにしないことです。これを“ダブルビジョン”と呼んでいます。社長は常に、ダブルビジョンで働くことが大切です。ぜひ本記事を参考に、ご自身の仕事内容を見直してみてくださいね。

なお、仕組み経営では、社長が社長の仕事を正しく行うためのご支援をしています。詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。

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