顧客体験(CX)とは?意味と中小企業での高め方7ステップ

顧客体験(CX)とは?意味と中小企業での高め方7ステップ



清水直樹
今日は、中小企業の顧客体験についてご紹介していきます。社長が自分で対応したお客様は喜んでくれる。でも社員が担当すると、対応の仕方が人によって変わってしまう。そんな悩みは少なくありません。顧客体験の意味を整理したうえで、誰が担当してもお客様に同じ体験を届けられる仕組みの作り方を順番にお伝えします。

 

顧客体験とは、お客様が会社を知ってから、買って、使い続けるまでのすべての接点で受け取る体験と、そこで抱く気持ちの積み重ねのことです。英語ではカスタマー・エクスペリエンスと言い、略してCXとも呼ばれます。

顧客体験は、商品やサービスそのものだけで決まるものではありません。ホームページの分かりやすさ、電話に出るまでの時間、担当者の言葉づかい、請求書の届き方。お客様はこうした一つひとつのやり取りから、会社への印象を作っています。

この記事では、顧客体験の意味と顧客満足との違いを整理します。そのうえで、中小企業で顧客体験がばらつく理由と、顧客体験を高める仕組みの作り方を7つの手順で紹介します。

1. 顧客体験とは?

お客様と会社のすべての接点で生まれるもの

顧客体験は、お客様と会社の間で起きるすべてのやり取りを合わせたものです。広告やホームページで会社を知る。問い合わせをする。説明を受けて契約する。商品やサービスを使う。困ったときに相談する。その一つひとつが接点です。

大事なのは、お客様は接点を部署ごとに分けて見てはいないという点です。営業担当がどれだけ丁寧に対応しても、納品の担当者が無愛想なら、お客様にとっては「あの会社は感じが悪かった」という一つの体験になります。

顧客満足・顧客サービスとの違い

顧客体験と似た言葉に、顧客満足と顧客サービスがあります。一般的には次のように使い分けられています。

  • 顧客サービス……問い合わせへの対応やアフターサービスなど、お客様を手助けする個別の活動
  • 顧客満足……商品やサービスを使ったあとに、お客様がどれだけ満足したかという結果
  • 顧客体験……会社を知る前の印象から、購入後の付き合いまでを含めた、すべての接点の流れ全体

顧客サービスや顧客満足は、ある場面やある時点に目を向けた言葉です。顧客体験は、最初から最後までの流れ全体を見る言葉だと考えると分かりやすいでしょう。

顧客体験から生まれる5つの価値

顧客体験という考え方を広めた経営学者のバーンド・H・シュミットは、体験から生まれる価値を次の5つに分けています。

  • 感覚的な価値……見た目、音、香り、手触りなど五感で受け取るもの
  • 情緒的な価値……安心した、うれしかった、大切にされたと感じる気持ち
  • 知的な価値……新しい発見がある、考えるきっかけをもらえる
  • 行動的な価値……暮らし方や働き方が変わる、新しいことを始められる
  • 関係的な価値……同じものを選んだ人たちとのつながりを感じられる

中小企業の場合、とくに差が出やすいのは情緒的な価値です。「この会社に頼んでよかった」と感じてもらえるかどうかは、価格や機能よりも、やり取りのなかで受け取る気持ちに左右されることが多いからです。

2. 顧客体験が大切な3つの理由

お客様は、良い体験をくれる会社を選ぶ

お客様には選ぶ自由があります。似た商品やサービスが並んでいるとき、お客様は自分のお金と時間を、より良い体験をくれる会社に使います。

この比べ方は、買う気がないときにも続いています。たまたま見た広告や、知人から聞いた評判も、印象を少しずつ動かしていきます。顧客体験は、お客様が意識していないところでも積み重なっているのです。

一つの接点のつまずきが、全体の印象を下げる

顧客体験はすべての接点の合計です。ある担当者がお客様に最高の対応をしても、別の部署で平均以下の対応があれば、お客様の印象はそこで下がってしまいます。

だから顧客体験は、優秀な担当者が一人いれば済む話ではありません。会社のすべての接点で、同じ水準の体験を届ける必要があります。

最初の印象が、その後の受け取り方を決める

人は一度「良い会社だ」と感じると、その印象を裏づける情報に目が向きやすくなります。反対に、最初に悪い印象を持つと、その後のやり取りも悪いほうに受け取りがちです。

悪い印象をあとから取り戻すことはできます。ただ、最初から良い印象を作り、それを保ち続けるほうがずっと簡単で、費用もかかりません。

3. 中小企業で顧客体験がばらつく4つの理由

理由1. 届けたい体験が社長の頭の中にある

会社が小さいうちは、社長自身がお客様と直接やり取りしています。どんな気持ちになってほしいかは、社長には分かっています。ところが、それが言葉になっていません。だから社長が対応したときだけ良い体験が届き、社員が担当すると体験がばらつきます。

理由2. 接点ごとに担当が分かれ、流れ全体を見る人がいない

営業は営業、現場は現場、事務は事務。それぞれが自分の担当をこなしていても、お客様から見た流れ全体を誰も見ていない。そうなると、部署と部署の間で連絡が途切れたり、同じことを何度も聞いたりする場面が生まれます。

理由3. お客様の声を集める手順がない

お客様が何に困り、どこで離れていったのかを知る手段がないと、改善の手がかりがつかめません。社長が知るのは、クレームが来たあとか、取引が途切れたあとになります。

理由4. 採用・研修・評価と結びついていない

「お客様を大切に」と朝礼で伝えていても、採用でその考え方を確かめていない。研修で教えていない。評価でも見ていない。これでは、良い体験を届けるかどうかは本人しだいになります。

どれも、社員の意識や能力が低いせいではありません。届けたい体験が言葉になっておらず、それを接点ごとの仕事に落とす手順が会社に用意されていない、という構造の問題です。次の章では、その手順を一つずつ紹介します。

誰が担当しても同じ体験を届けられる会社のつくり方

社長が対応したときと同じ気持ちを、社員が担当してもお客様に届けられる。そのための仕組み化の手順を、無料のガイドブックにまとめました。

4. 顧客体験を高める7つの手順

手順1. お客様に感じてほしいことを言葉にする

最初に、お客様が自社とやり取りするとき、どんな気持ちになってほしいかを決めます。あわせて、お客様に自社のことをどう言ってほしいかも考えます。

この答えを短い文章にまとめたものを、仕組み経営では「ブランドコミットメント」と呼んでいます。多くても3〜4文に収まるのが目安です。たとえば工務店なら「最初の相談から引き渡しまで、何を聞いても嫌な顔をされず、安心して任せられたと感じてもらう」のような形です。

言葉を探すときは、次のような問いが手がかりになります。


  • お客様からよくもらう褒め言葉は何か
  • お客様からよく聞く不満は何か
  • 自社が商品やサービスで最も大切にしていることは何か
  • どんな会社として知られたいか

この文章は、まず社員と共有するためのものです。届けたい気持ちが言葉になっていれば、社員は迷ったときにそこへ立ち返って判断できます。価値観を言葉にする進め方は、コアバリューの作り方でも紹介しています。

手順2. お客様と接する社員を集め、接点を洗い出す

次に、お客様との接点を洗い出します。社長だけで考えず、営業、現場、事務など、お客様と接するすべての役割の社員に加わってもらいます。お客様のことを一番よく知っているのは、毎日接している社員だからです。

大きな紙と付せんを用意し、思いつく接点を書き出していきます。お客様は最初にどこで会社を知るのか。そのあと電話をするのか、来店するのか。一つの付せんに一つの接点を書くと、あとで並べ替えやすくなります。

手順3. 接点を時間の順に並べる

書き出した接点を、お客様が会社と最初に出会うところから順に並べます。ホームページを見てから問い合わせる人もいれば、紹介で直接電話をかけてくる人もいます。すべてのお客様が同じ道筋をたどるとは限りません。

道筋が違っても、目指すことは同じです。どの道筋をたどったお客様にも、毎回、同じ気持ちになってもらうことです。

こうしてお客様との接点を最初から最後まで図にしたものを、カスタマージャーニーマップと呼びます。

手順4. 接点ごとに、お客様の目的と心配事を書く

並べた接点ごとに、お客様がそこで何をしたいのかを書きます。たとえば美容室に予約の電話をかけるお客様なら、目的は「都合の良い時間に、前回と同じスタイリストで予約を取る」かもしれません。

続けて、そのときお客様が心配していることを書きます。

  • 希望の時間が空いていなかったらどうしよう
  • 感じの良い対応をしてくれるだろうか
  • 自分のことを覚えていてくれるだろうか

心配事が分かると、その接点で何をすればお客様が安心するかが見えてきます。この例なら、前回の担当者と施術内容をすぐに確認できる予約台帳があるだけで、心配事の多くは消えます。

手順5. 接点ごとに担当・道具・作業を決める

それぞれの接点について、次の3つをはっきりさせます。

  • 担当……その接点に責任を持つのは、どの役割の人か
  • 道具……そこで使う仕組みや道具は何か(予約台帳、顧客リスト、メールのひな形など)
  • 作業……そこでどんな作業が発生するか

ここまで書くと、担当がいない接点や、部署の間で情報が途切れている接点が見つかります。お客様が同じ説明を何度もさせられているのは、たいていこうした場所です。

手順6. 改善点を探し、新しい流れを作る

今の流れをチーム全員で見直し、手順1で決めた「感じてほしいこと」に届いていない接点を探します。お客様の心配事を解消するには、何を変えればよいかを話し合います。

このとき、お客様の気持ちには浮き沈みがあることも覚えておきましょう。たとえばホテルに泊まるお客様の気持ちは、予約したときに高まり、到着したときに最も高くなります。滞在が長くなると落ち着き、精算のときに最も低くなり、数日たつと薄れていきます。

優れた会社は、この落ち込みを小さくするように体験を作っています。精算のときに小さな心づかいを用意する。滞在のあとにお礼の手紙を届ける。こうした工夫が、お客様にもう一度選んでもらうことにつながります。

改善点が決まったら、新しい流れを図にし直します。直したやり方は手順書やチェックリストに残しておきます。書き方はマニュアルの作り方で紹介しています。

手順7. 採用・研修・日々の仕事で使い続ける

作った流れは、作って終わりにしません。次のような場面で使い続けます。

  • 採用……お客様を大切にする考え方を持つ人を採れるよう、面接で確かめる項目に加える
  • 研修……新しく入った社員に、自分の役割でお客様に何を届けるのかを図で見せる。お客様役と担当者役に分かれて練習するのも効果的です
  • 日々の仕事……他社のサービスを受けたときに、自社と比べて優れている点を探し、次の改善点にする

比べる相手は、同じ業種の会社とは限りません。予約の取りやすさならホテル、説明の分かりやすさなら病院というように、良い体験をくれる会社からは業種を問わず学べます。

5. 自社の顧客体験を点検する質問

手順に入る前に、今の状態を確かめておくと、どこから手をつけるかを決めやすくなります。次の質問に「はい」「いいえ」で答えてみてください。

  • 社員は、お客様にどんな体験を届けるべきかを知っているか
  • お客様に良い体験を届けた社員を、きちんと認める仕組みがあるか
  • お客様は、迷わず簡単に問い合わせができるか
  • お客様の情報を、お客様と接するすべての社員が見られるか
  • お客様が離れていった理由を、会社として把握しているか
  • 不満の声が届いたとき、すぐに答えられる体制があるか
  • ホームページの情報は新しく、スマートフォンでも見やすいか

「いいえ」が多かった項目に関わる接点から、手順2以降を始めるとよいでしょう。

6. 顧客体験のよくある質問

社員が少ない会社でも、顧客体験を設計する必要はありますか?

必要です。社員が少ないうちは社長の目が届くので、問題が見えにくいだけです。人が増えると、社長がすべてのお客様に対応することはできなくなります。人の判断が一か所に集まれば、いずれは必ずあふれます。最初は、お客様に一番感じてほしいことを言葉にし、問い合わせから契約までの接点を並べるところからで十分です。

顧客体験を良くするには、専用のツールを入れるべきですか?

顧客体験を管理するツールは数多くあります。ただ、ツールは手順5で決めた「道具」の一つです。何を届けたいかと、接点ごとの担当が決まっていないうちに入れても、使いこなせないことが多いでしょう。まずは紙と付せんで流れを作り、足りない道具が見えてから検討するのがおすすめです。

顧客体験は、どうやって測ればいいですか?

お客様に直接聞く方法が基本です。取引のあとに簡単なアンケートをとる、主な接点ごとに感想を聞く、といった形です。よく使われる指標には、顧客満足度や、手続きの手間を測る顧客努力指標があります。測り方は顧客努力指標とは?で紹介しています。

クレームが来たときは、顧客体験の考え方でどう対応すればいいですか?

まずはお客様への対応を優先します。そのあとで、どの接点で何が起きたのかを流れの図に戻って確かめます。クレームは、届けたい体験と実際の体験のずれを教えてくれる手がかりです。対応の流れはクレーム対応マニュアルの作り方で紹介しています。

まとめ

顧客体験とは、お客様が会社を知ってから、買って、使い続けるまでのすべての接点で受け取る体験と、そこで抱く気持ちの積み重ねのことです。お客様は接点を部署ごとに分けては見ません。会社全体との一つの体験として受け取ります。

顧客体験がばらつく原因は、社員の意識ではありません。届けたい体験が社長の頭の中にしかなく、それを接点ごとの仕事に落とす手順がないことにあります。


進め方は7つの手順です。感じてほしいことを言葉にし、接点を洗い出して時間の順に並べ、お客様の目的と心配事を書き、担当と道具と作業を決め、改善点を探し、採用や研修で使い続ける。流れと担当が決まっていれば、社長が対応しなくても、お客様に同じ体験を届けられます。

社員には、顧客体験の仕組みを「どの社員が担当しても、お客様に同じ安心を届けるための約束」として説明できます。どこを切っても同じ体験が届く会社は、お客様に何度も選ばれ、長く頼られる会社になります。どこを取っても一貫した会社のつくり方は、金太郎飴とは?でも紹介しています。

まず一つ、書き出してみましょう。お客様に、自社とやり取りしたあとどんな気持ちになってほしいか。それを書き出すところからで十分です。社長がいなくても回る会社をつくる仕組み化の全体像は、無料のガイドブックで順を追って紹介しています。


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