目標設定とは、会社やチームが「いつまでに、どこまで行くか」を決め、そこへ向かう道筋と測り方まで決めることです。ゴールの数字を決めるだけでは、目標設定は半分しか終わっていません。
目標を立てても未達に終わる会社には、よく似た特徴があります。目標の数字はあるのに、社員の毎日の仕事とつながっていないのです。原因は社員のやる気ではなく、目標と仕事をつなぐ部品が欠けていることにあります。
この記事では、目標設定の意味と、目標の良し悪しを確かめるSMARTの法則を整理します。そのうえで、会社の目標から社員の目標までを5つの手順でつなげる方法と、部門別の例を紹介します。最後に、立てた目標を達成までつなげる運用のしかたを解説します。
1. 目標設定とは?
ゴールと道筋と測り方を決めること
目標設定という言葉は、「売上目標を決める」という意味で使われることが多いでしょう。けれども、数字を決めただけでは社員は動けません。何をすればその数字に近づくのかが分からないからです。
目標設定には、次の3つが含まれます。
- ゴール……いつまでに、どこまで行くか
- 道筋……ゴールに着くために、何に力を入れるか
- 測り方……進み具合を、どの数字で確かめるか
この3つがそろって、はじめて目標は日々の仕事を動かすものになります。
ビジョン・目標・指標の関係
会社の目標を考えるときは、ビジョンとのつながりを押さえておくと迷いません。
ビジョンは、会社が長い時間をかけて目指す姿です。今の時点では夢のように見えても構いません。一方で、目標はビジョンへ向かう途中の到達点です。ビジョンよりも具体的で、実現できる地点を決めます。仕組み経営では、3年後に必ず達成したい目標を「戦略的目標」と呼んでいます。
そして、目標に向かう途中の進み具合を測る数字が「指標」です。いわゆるKPIにあたります。指標の決め方はKPIとは?で詳しく解説しています。
会社の目標と社員の目標
目標には、会社全体の目標と、部門の目標、社員一人ひとりの目標があります。この3つが別々に作られていると、社員が個人の目標を達成しても会社の目標に近づかない、ということが起こります。
目標設定でいちばん大事なのは、会社の目標から社員の目標までが一つの筋でつながっていることです。この記事の手順も、そのつながりを作ることを目的にしています。
2. 目標設定をすると会社の何が変わるか
社員が「何を優先するか」を自分で決められる
目標がはっきりしていない会社では、仕事の優先順位を決めるのは社長です。社員は迷うたびに社長に聞きに来ます。目標と道筋が決まっていれば、社員は「この仕事は目標に近づくか」で自分で判断できます。
改善すべき場所が分かる
目標に向けた進み具合を数字で測っていれば、どこが遅れているかが分かります。遅れている場所が分かれば、そこに手を打てます。目標がないと、何がうまくいっていないのかを勘で探すことになります。
社長が現場を離れても会社が進む
目標が社員の仕事までつながっていると、社長が一つひとつ指示をしなくても、会社は目標に向かって動きます。社長が現場から離れられないのは、社長の性格のせいではありません。会社の向かう先が社長の頭の中にしかない、という構造の問題です。目標設定は、その向かう先を社員と共有するための手段です。
3. 目標が未達に終わる会社の5つの共通点
目標を立てても達成できない会社には、共通する作り方の問題があります。
共通点1. 目標があいまいで、達成したかどうか判定できない
「売上アップ」「顧客満足の向上」のような目標は、どこまで行けば達成なのかが分かりません。期末になっても「頑張った」で終わり、次に何を変えるかも決まりません。
共通点2. 社員の仕事とつながっていない
会社の目標が売上の数字だけだと、営業以外の社員は自分の仕事とのつながりが見えません。総務や製造の社員にとって、会社の目標は「上の人が決めた数字」になってしまいます。
共通点3. 目標だけで、達成のための仕組みが決まっていない
目標を立てたあとに並ぶ施策が、「大口の取引先と契約を取る」「展示会に出る」といった単発の出来事ばかりになっていることがあります。単発の出来事は、うまくいっても一度きりです。目標を達成するには、繰り返し良い結果を生む「仕組み」が要ります。
共通点4. 誰の目標なのかが決まっていない
目標や指標ごとに責任を持つ人が決まっていないと、全員が少しずつ気にかけて、誰も手を打たない状態になります。責任者が何人もいる場合も同じです。
共通点5. 見直す場がない
年初に目標を立てて、次に見るのが期末という会社は少なくありません。途中で確かめる場がなければ、遅れに気づいたときには手遅れです。
どれも、社員の能力や意識の問題ではありません。目標を日々の仕事につなげる部品が、作り方の段階で抜けているのです。次の章からは、その部品を一つずつ組み込んでいきます。
4. SMARTの法則で目標を確かめる
目標がはっきりしているかを確かめるときに、よく使われるのがSMARTの法則です。1981年に米国のコンサルタント、ジョージ・T・ドラン氏が経営の目標の書き方として紹介した考え方で、5つの条件の英語の頭文字をとっています。条件の言い方は解説によって少しずつ違いますが、仕組み経営では次の5つで確かめています。
- 具体的……できるだけ数字で表す
- 測定できる……達成できたかどうかを、本人以外の人が見ても判定できる
- 実現できる……かなわない夢ではない
- 関連している……自社のビジョンや大切にしている価値観と筋が通っている
- 期限がある……いつまでに達成するかがはっきりしている
SMARTの法則で目標を書き直した例
あいまいな目標も、5つの条件に照らすと書き直せます。
- 直す前……売上を伸ばす
- 直したあと……3年後の3月末までに、既存のお客様からの売上を年間2億円にする
- 直す前……お客様の満足度を上げる
- 直したあと……来年の9月末までに、お取引後のアンケートで「また頼みたい」と答える方を9割にする
直したあとの目標なら、期限が来たときに達成したかどうかを誰でも判定できます。
「関連している」を見落とさない
5つのうち、見落とされやすいのが「関連している」です。数字として正しくても、会社が大切にしていることと食い違う目標は、社員の迷いを生みます。たとえば「お客様に誠実に向き合う」と掲げる会社が、売上の数字だけを強く追わせると、社員は値引きや無理な提案をするかどうかで迷います。目標を書いたら、自社のビジョンや価値観と並べて読み、筋が通っているかを確かめてください。
5. 会社の目標から社員の目標まで。目標設定の5ステップ
ここからは、会社の目標を社員一人ひとりの仕事までつなげる手順を紹介します。著書『仕組み化の経営術』と、仕組み経営のカリキュラム「戦略的目標&戦略的指標」の考え方に沿っています。
手順1. 3年後の会社の目標を決める
まず、会社全体の目標を決めます。期間の目安は3年です。1年では今の延長しか描けず、10年では遠すぎて今日の仕事とのつながりが見えにくくなります。
目標にする数字は、売上高や利益額が分かりやすいでしょう。会社によっては、顧客数や地域でのシェアを目標にすることもあります。決めたら、前の章のSMARTの法則で確かめます。
手順2. 目標までの道筋を考え、指標を決める
次に、目標に着くまでに何に力を入れるかを考えます。「社員の育成」「お客様の数」「お客様の満足」「財務の健全さ」のように、力を入れるテーマを挙げ、テーマごとに進み具合を測る数字を決めます。
どの数字を追うかで、会社が取る行動は変わります。同じ「売上を伸ばす」という目標でも、新しいお客様の数を追う会社と、今のお客様の継続率を追う会社では、現場の動きがまったく違います。指標を選ぶことは、作戦を選ぶことでもあるのです。
候補は10個以上挙げて、そこから8つほどに絞るのがおすすめです。お金の数字に偏らないよう、財務・顧客・業務・社員の4つの視点から選びます。
目標を真ん中に置き、周りに道筋のテーマと指標を書き込んでいくと、全体を見渡しやすくなります。マス目を使った書き出し方はマンダラ型チャートによる目標設定方法で紹介しています。
手順3. 指標ごとに責任を持つ役職を決める
指標が決まったら、それぞれに責任を持つ役職を決めます。お客様の数なら営業の責任者、社員の育成なら人事の担当者、という具合です。
ここで大事なのは、一つの指標の責任者は一つの役職にすることです。責任が分かれると、数字が下がったときに誰も手を打たなくなります。
まだ担当する人がいない役職があっても構いません。社長が兼ねている役職は、組織図の上で別の箱として書いておきます。人が増えたときに、どの役職から渡していけばよいかが分かるからです。役職ごとの仕事の決め方は役割分担の決め方で解説しています。
手順4. 部門と社員の目標に分ける
会社の目標と指標をもとに、部門ごとの目標を決めます。たとえば会社の目標が「3年後に売上10億円」なら、営業部門は「取引先300社」、人事部門は「採用30人、離職を3割減らす」のように、自分の部門が受け持つ数字に分けます。
部門の目標は、部門の責任者が案を作り、経営陣と話し合って合意してから正式に決めます。上から割り振るだけでなく、合意の場を設けることで、責任者が自分の目標として受け止められます。
社員一人ひとりの目標も、同じように部門の目標から分けて決めます。その役職の仕事内容を書いた文書(職務記述書)に、担当する指標を上げる役目を書き込んでおくと、社員は自分の仕事が会社の目標につながっていることを理解できます。書き方は職務記述書とは?で紹介しています。
手順5. 指標ごとに「達成する仕組み」を決める
最後に、指標を上げるための仕組みを決めます。ここが、目標を立てて終わる会社と、達成していく会社の分かれ目です。
仕組みとは、繰り返し良い結果を生み出すやり方のことです。単発の出来事とは違います。
- 単発の出来事……○○社との契約を取る
- 仕組み……大口のお客様との契約を、毎年続けて取れる営業の流れを作る
指標ごとに仕組みの候補を挙げ、効きそうなものから手を付けます。全部を一度に作ろうとしなくて大丈夫です。仕組みができたら、その手順を書き出して、誰が担当しても同じ流れで進められるようにします。
目標を立てても、仕事のやり方が変わらなければ結果は変わりません。会社の目標から必要な仕組みを洗い出し、社長がいなくても回る会社をつくる手順を、無料のガイドブックにまとめました。
6. 部門別の目標設定の例
ここでは、会社の目標から部門と社員の目標へ分けていく例を紹介します。数字は説明のための例です。自社の状況に合わせて置き換えてください。
会社全体の目標
- 3年後の3月末までに、売上高10億円・営業利益率10%にする
営業部門
- 部門の目標……3年後の3月末までに、継続して取引のあるお客様を300社にする
- 社員の目標の例……今期の9月末までに、初回の商談から契約に進む割合を3割にする
- 達成する仕組みの例……商談の進め方を手順にまとめ、全員が同じ流れで提案できるようにする
製造・サービス提供の部門
- 部門の目標……来年の3月末までに、やり直しの件数を半分にする
- 社員の目標の例……担当する工程のチェックリストを作り、今期中に全員が使う状態にする
- 達成する仕組みの例……やり直しが出たら原因を記録し、毎月の会議で手順を直す
人事・総務の部門
- 部門の目標……3年後の3月末までに、入社1年以内に辞める人をゼロにする
- 社員の目標の例……今期中に、入社後3か月の教育の予定表を作る
- 達成する仕組みの例……新しく入った社員と上司が、毎月決まった日に面談する
どの例も、部門の目標・社員の目標・達成する仕組みがセットになっています。社員の目標が、部門の目標のどこに効くのかを説明できる形にしておくのがポイントです。
7. 立てた目標を達成までつなげる運用
目標を見る会議のリズムを先に決める
目標は、決めただけでは誰も見なくなります。いつ、どの会議で、何を確かめるかを先に予定に入れておきます。目安は次のとおりです。
- 年に1回……ビジョンや大切にする価値観を見直す
- 四半期に1回……3年後の目標が今も合っているかを見直す
- 月に1回・週に1回……指標の数字を確かめ、遅れている項目の手を決める
会議の終わりには、誰が・何を・いつまでにやるかを決めます。週次と月次の会議の進め方は定例会議のあり方で紹介しています。
社員の目標は面談ですり合わせる
社員一人ひとりの目標は、上司との定期的な面談で進み具合を確かめます。うまくいっていないときは、本人を責めるのではなく、仕事のやり方や仕組みのどこを直すかを一緒に考えます。面談の進め方は1on1ミーティングのやり方と進め方で解説しています。
達成のやり方は、現場と一緒に作る
会社の目標と、何を測るかは社長が責任を持って決めます。一方で、目標を達成するための仕事のやり方は、その仕事をよく知っている社員と一緒に作ります。
外から型を持ち込んだり、上から手順を降ろしたりするやり方は、早く形になります。ただ、自分たちで考えていないやり方は、見張る人がいなくなると元に戻りがちです。上から入れるのではなく、現場が作る。自分たちで作った仕組みなら、目標に届かないときも自分たちで直していけます。
8. 目標設定のよくある質問
目標設定とOKR・MBOはどう違いますか?
OKRとMBOは、目標設定を運用するための方法の名前です。OKRは挑戦的な目標と、達成度を測る主な成果をセットで決める方法です。MBO(目標による管理)は、社員が上司と話し合って自分の目標を決め、達成度を評価に使う方法です。この記事で紹介した目標設定の考え方は、どちらの方法を使う場合にも土台になります。詳しくはOKRとは?とMBOとは?で解説しています。
目標は高いほうがいいですか?
3年後の目標は、「実現できる」範囲で、少し背伸びをする程度が目安です。届かない数字だと、社員は早い段階であきらめてしまいます。一方で、もっと先を見た大胆な目標をビジョンとして掲げることは、会社の向かう方向をそろえるのに役立ちます。
社員の目標を人事評価に使ってもいいですか?
使えますが、注意が要ります。評価や給与に直結させると、達成しやすい低い目標を立てる人が出てきます。まずは「仕事のやり方を良くするための目標」として運用し、評価にどうつなげるかは仕組みが落ち着いてから考えるのがおすすめです。
目標が未達に終わったら、どうすればいいですか?
まず、どの指標が届かなかったのかを確かめます。次に、その指標を上げる仕組みがあったか、仕組みどおりに仕事が進んでいたかを見ます。人を責めるのではなく、仕組みのどこを直すかを決めることが、次の期の達成につながります。目標そのものが合っていなかった場合は、四半期の見直しで変えて構いません。
まとめ
目標設定とは、ゴールを決めるだけでなく、そこへ向かう道筋と測り方まで決めることです。目標がはっきりしているかは、SMARTの法則の5つの条件で確かめられます。
会社の目標を社員の仕事までつなげる手順は、次の5つです。3年後の会社の目標を決める。道筋を考えて指標を決める。指標ごとに責任を持つ役職を決める。部門と社員の目標に分ける。指標ごとに達成する仕組みを決める。
そして、目標が達成されるかどうかを分けるのは、決めたあとの運用です。会議のリズムで数字を確かめ、届かないときは人ではなく仕組みを直す。この流れができていれば、社長が一つひとつ指示をしなくても、会社は目標に向かって進んでいきます。
社員には、目標を「お客様の役に立ち続けるために、自分たちがどこまで来ているかを確かめる目印」として説明できます。社長がいなくても目標に向かって動ける会社は、社長がいつか現場を離れたあとも続いていく会社です。
まず一つ、書き出してみましょう。3年後に会社がどうなっていたいかを、期限と数字で書くところからで十分です。目標から必要な仕組みを洗い出していく全体像は、無料のガイドブックで順を追って紹介しています。


