職務記述書とは、一つひとつの職務について、その目的・仕事内容・求められる成果を書き出した文書のことです。英語ではジョブディスクリプションと呼びます。
ジョブ型人事制度の導入に必要な書類として知られていますが、制度を変えない会社でも作る価値があります。誰が何に責任を持っているのかが書かれていない状態では、社長が判断を抱え込み続けることになるためです。
この記事では、書く項目の一覧、書き方の5ステップ、そのまま使えるテンプレートと記入例までをご紹介します。
1. 職務記述書とは?意味と目的
あらためて整理します。職務記述書は「その職務は何のために存在し、何をして、どんな成果を出すのか」を一枚にまとめた文書です。人ではなく職務について書きます。ここが人事評価シートや職務経歴書と決定的に違う点です。
同じ職務を担う人が入れ替わっても、職務記述書はそのまま使えます。逆に言えば、担当者が変わるたびに書き直しが必要な文書は、職務記述書ではなくその人の作業メモになっています。
職務記述書とジョブディスクリプションは同じもの
呼び方が違うだけで、指しているものは同じです。実務では次のように使い分けられています。
- 職務記述書……日本語の呼び方。社内文書や規程で使われる
- ジョブディスクリプション……外資系企業や採用の文脈で使われる
- 職務定義書……同じ意味。会社によってはこの呼び方を採用している
社内で使うなら「職務記述書」を勧めます。カタカナ語は、聞いた人によって思い浮かべるものが変わるためです。呼び方を統一することより、その書類に何が書かれているかのほうが大事です。
職務記述書を作ると何が変わるのか
私たちが支援先で職務記述書を作るとき、目的として伝えているのは次の4つです。
- 各人の役割と責任が明確になる
- 個人の業績が組織の成功にどう貢献するかが分かる
- 自分の職務に対する主体性と責任が生まれる
- 上司と部下のあいだのコミュニケーションが活発になる
3つ目に注目してください。責任範囲を書くと社員が縛られると考える経営者は多いのですが、実際は逆です。どこまでが自分の責任かが分からない状態では、人は動けません。線が引かれてはじめて、その中で判断してよいことが分かります。
なお、職務記述書はジョブ型人事制度の中核をなす書類でもあります。制度全体(等級・評価・報酬)の設計についてはそちらの記事で扱っています。この記事は書類そのものの作り方に絞ります。
職務分掌規程・職務経歴書・労働条件通知書との違い
似た名前の書類がいくつもあるので、整理しておきます。
- 職務分掌規程……部門ごとの担当範囲を定めた社内規程。単位が「部門」で、職務記述書より粒度が粗い
- 職務経歴書……求職者が自分の経歴をまとめる書類。作る人も目的もまったく違う
- 労働条件通知書……賃金や労働時間など、法律で明示が義務づけられた事項を伝える書類
- 職務記述書……個々の職務について、目的・仕事内容・成果基準を書いたもの
ひとつ実務上の注意があります。2024年4月から労働条件明示のルールが改正され、労働契約の締結時などに「就業場所・業務の内容」に加えて「変更の範囲」も書面で明示することが義務づけられました。職務記述書そのものは法律で義務づけられた書類ではありませんが、職務の範囲を整理しておくと、この明示にそのまま使えます。自社が何をどこまで明示すべきかは労働法の判断が絡むので、社労士に確認してください。
2. 職務記述書に書く項目【一覧】
テンプレートを探すと、20項目以上ある雛形が出てきます。しかし最初から全部埋めようとすると、まず完成しません。
最低限これだけは書く6項目
- 職務名……役職名ではなく、その職務の名前
- 職務の目的……この職務は何のために存在するのか。一文で書く
- 仕事内容……主な仕事を「戦略的なもの」と「戦術的なもの」に分けて書く
- 成果の基準……何がどうなっていれば達成なのか
- 判断してよい範囲……自分で決めてよいこと、上長の承認が要ること
- 報告先と連携先……誰に報告し、どの職務と一緒に仕事をするのか
この6つが書けていれば、職務記述書としては十分に機能します。
余裕があれば足す項目
- 必要な知識・スキル・資格
- 職務等級と報酬レンジ
- 雇用形態・勤務地・勤務時間
- この職務からのキャリアの道すじ
これらは制度として運用する段階になってから足せば足ります。先に完璧な雛形を用意するより、6項目で全職務分をそろえるほうが会社は変わります。
3. 職務記述書の書き方5ステップ
ここからが本題です。順番があります。
ステップ1 組織図で職務を洗い出す
いきなり書き始めないでください。先に組織図を作り、自社にどんな職務があるのかを洗い出します。
このとき、いま人がいるかどうかは考えません。会社に必要な機能を先に箱として並べ、あとから人の名前を入れます。人から先に考えると、その人がいるから存在する職務ができあがります。それでは属人化を書類の形で固定するだけです。
小さい会社であれば、多くの箱を社長が兼任している状態になるはずです。それで構いません。兼任が見えることに意味があります。
ステップ2 職務の目的を一文で書く
ここが職務記述書の心臓部です。その職務で望まれる成果を、一文で定義します。私たちはこれを成果定義文と呼んでいます。
大事なのは、これが仕事のリストではないという点です。並べて比べてみてください。
- 受付・良くない例……電話に応える/来訪者に挨拶する/伝言する
- 受付・良い例……自社のブランドに沿うよう、会社にコンタクトしてくる人たちとのやり取りを調整し、利害関係者との関係構築・関係維持をアシストする
- 営業・良くない例……新規開拓をし、商品の提案、契約を行う
- 営業・良い例……営業プロセスに沿って、リードを売上につなげ、長期にわたって質の高い顧客を獲得する
違いは一点です。良い例には「その仕事が何に貢献しているか」が書かれています。良くない例のほうは、書いてあるとおりに動いても、会社にとって良い状態になったのかどうかを判定できません。
成果定義文には、もう一つ効き目があります。その職務が本当に必要かを確認できることです。成果を一文で書けない職務は、存在理由が曖昧なまま残っている可能性があります。
ステップ3 仕事内容を「戦略」と「戦術」に分けて書く
どんな職務にも2種類の仕事があります。計画や企画といった戦略的な仕事と、実際に手を動かす戦術的な仕事です。営業担当者であれば次のようになります。
- 戦略的な仕事……営業活動の改善案の立案/優先顧客の選定と重点的なフォロー/新規取引先の開拓計画の策定
- 戦術的な仕事……顧客訪問による営業活動/受注処理と在庫管理/顧客からの問い合わせ対応とフォロー/販売実績の報告と売上データ入力
原則として、組織図の上のほう(社長に近いほう)へ行くほど、戦略的な仕事の量が増えます。
戦術的な仕事しか書かれていない職務は、その人が改善に関わる余地を持たないということです。言われたとおりに動く役割になり、やり方は永久に変わりません。現場から改善が出てこない会社は、まずここを見てください。原因は社員の意欲ではなく、改善が仕事として書かれていないことのほうです。
ステップ4 判断してよい範囲を決める
仕事内容を書いただけでは、まだ渡したことになりません。「やること」を渡しても「決めること」を渡さなければ、確認と承認が社長のところに残り続けます。
書き方は難しくありません。金額と影響範囲で線を引きます。
- 自分の判断で決めてよいこと(例:10万円までの発注)
- 上長に報告してから進めること
- 上長の承認が必要なこと
線の引き方に正解はありません。大事なのは書いてあることです。書かれていないと、上司は「相談してくるだろう」と思い、部下は「任されている」と思い込み、あとで衝突します。詳しい決め方は仕事の任せ方と権限委譲の記事にまとめてあります。
ステップ5 本人と合意する
最後に、いちばん飛ばされやすい工程です。書き上げた職務記述書を、その職務を担う本人と読み合わせて合意します。
私たちはこの書類を職務契約書(職務同意書)と呼んでいます。会社が一方的に書いて配る書類ではなく、本人と合意するものだからです。
合意していない書類は守られません。人事部が机の上で書いて配布した職務記述書は、たいてい一度読まれて引き出しにしまわれます。読み合わせの場で「この仕事はここに書かれていないが、実際にはやっている」という指摘が出れば、それはむしろ収穫です。実態と書類のずれが、その場で見つかったということだからです。
4. 職務記述書のテンプレートと記入例
ステップ2から4で決めたことを、次の形にまとめます。
そのまま使えるテンプレート
- 職務名:
- 職務の目的(成果定義文):〔誰に〕〔何を〕することで、〔会社の何〕に貢献する
- 戦略的な仕事:(3つ程度)
- 戦術的な仕事:(5つ程度)
- 成果の基準:(数字または、達成したかを言い切れる状態)
- 自分で決めてよい範囲:
- 承認が必要なこと:
- 報告先:/連携先:
A4で1枚に収まる分量にしてください。複数ページになった職務記述書は、まず読み返されません。
記入例① 営業担当
- 職務名:法人営業担当
- 職務の目的:営業プロセスに沿って、リードを売上につなげ、長期にわたって質の高い顧客を獲得する
- 戦略的な仕事:優先顧客の選定と重点フォローの計画/新規取引先の開拓計画の策定/営業活動の改善案の立案
- 戦術的な仕事:顧客訪問/見積作成と受注処理/問い合わせ対応/販売実績の報告
- 成果の基準:担当顧客の年間継続率90%以上/新規商談数 月8件以上
- 自分で決めてよい範囲:既存顧客への10%までの値引き/訪問先と訪問順序
- 承認が必要なこと:10%を超える値引き/新規の取引条件の変更
- 報告先:営業部長 連携先:カスタマーサポート担当、経理担当
記入例② 管理職
管理職の職務記述書は、もっとも重要で、もっとも書けていません。理由ははっきりしています。管理職の役割について世の中に様々な意見があるからです。
部下の話を聞く、問題を解決する、経営陣と現場の橋渡しをする、部下に仕事を委任して成長させる。どれも間違いではありません。しかし社長が考える管理職の役割と、管理職自身が考える役割と、部下が考える役割が食い違えば、その場のご都合主義で仕事をするしかなくなります。
私たちは、管理職の役割を2つに絞って定義しています。
- コントロール……基準どおりに業務が行われるよう仕組みを創り、それを維持すること
- マネジメント……目標を達成するために、いまの仕組みを変えること
コントロールは守りの役割です。人が入れ替わっても同じ成果が出るようにするのが管理職の仕事であって、部下のやる気を引き出すこと自体が仕事ではありません。マネジメントは攻めの役割で、全社目標を自部門に細分化し、経営陣と合意したうえで達成しにいきます。
記入例は次のとおりです。
- 職務名:カスタマーサポート課長
- 職務の目的:担当者が変わっても顧客満足度が下がらない対応の仕組みを維持し、目標達成のために改善し続ける
- 戦略的な仕事:対応品質の基準づくりと見直し/全社目標の部門への細分化と経営陣との合意/人員配置の計画
- 戦術的な仕事:朝会の運営/対応記録の確認/エスカレーション対応
- 成果の基準:顧客満足度95%以上/一次回答までの時間 24時間以内
- 自分で決めてよい範囲:シフトと担当割/対応手順の変更
- 承認が必要なこと:人員の増減/基準そのものの変更
管理職の役割をもう少し掘り下げたい場合は、管理職の役割の記事もあわせてご覧ください。
5. 職務記述書が形骸化する3つの理由
作ったのに使われていない。この相談は非常に多く受けます。原因はほぼ次の3つです。
①人事部や社長が一人で書いた
ステップ5を飛ばした形です。実際にその仕事をしている人が関わっていないので、書かれている内容が現場の実態とずれます。ずれた書類は使われません。
本人に白紙から書かせるのも避けてください。自分の判断を言葉にできる人は多くありません。上司が観察して書き出し、それを本人と読み合わせて直す。この順番が現実的です。
②更新する人と時期が決まっていない
職務記述書は作った瞬間から古くなります。事業が変われば仕事も変わるためです。
更新の担当者と頻度を、書類そのものに書いておいてください。「毎年の事業計画を立てるときに、各部門の管理職が見直す」と一行入れるだけで、寿命がまったく変わります。人事部が全職務分を抱え込む形にすると、必ず追いつかなくなります。
③評価とつながっていない
職務記述書に書いた成果の基準と、人事評価制度の評価項目が別物になっている会社があります。この状態では、社員は評価される項目のほうを見ます。職務記述書は読まれなくなります。
職務記述書の「成果の基準」が、そのまま評価の項目になっている。この状態を目指してください。そうなって初めて、書類が日々の判断に使われるようになります。
6. 職務記述書に関するよくある質問
何人くらいの会社から作るべきですか?
人数の線はありません。目安は「社長が全社員の仕事ぶりを直接見られなくなったとき」で、おおむね20〜30名前後です。ただし人数よりも、社長のところに判断待ちの案件が溜まり始めたかどうかのほうが確かなサインです。
全職務分を一度に作らないといけませんか?
いいえ。管理職から始めてください。管理職の職務が曖昧なままだと、その下の職務を書いても運用する人がいません。管理職ができたら、次に人数の多い職種へ広げる順番が現実的です。
一人が複数の職務を兼務している場合はどうしますか?
職務ごとに1枚ずつ作り、同じ人名を複数の職務に書いてください。兼務を隠すために1枚にまとめると、次にどの職務を誰かに渡すべきかが見えなくなります。兼務が見えている状態は、採用計画をつくる材料になります。
職務を細かく分けすぎるとどうなりますか?
一人の仕事が単調になり、意欲が下がります。職務を設計するときは、次の3点を確認してください。技能多様性(多様なスキルを活かせるか)、タスク完結性(始めから終わりまで関われるか)、タスク重要性(誰にどう役立つかを本人が知れるか)。これはハックマンとオールダムの職務特性理論によるもので、正確にはこの3つに自律性とフィードバックを加えた5つの要素があります。
職務記述書は法律で作成が義務づけられていますか?
義務ではありません。ただし2024年4月から、労働契約の締結時などに就業場所・業務の「変更の範囲」を書面で明示することが義務づけられました。職務記述書を整えておくと、この明示の材料として使えます。個別の判断は労働法が絡むので、社労士に確認してください。
作ると社員が「これは私の仕事ではない」と言い出しませんか?
起こり得ます。防ぐ方法は一つで、職務記述書に「連携先」の欄を必ず入れておくことです。職務と職務のあいだに落ちる仕事を誰が拾うのかを決めていないと、書類が縦割りの言い訳に使われます。書く前にこの欄を用意しておいてください。
まとめ:書類ではなく、判断の基準をつくる
職務記述書は、埋めるべき欄がある書類ではありません。「この職務は何のためにあるのか」を会社として言い切る作業です。
項目を埋めることに集中すると、仕事の一覧表ができあがります。一覧表になった時点で、その職務が何に貢献しているのかが消えます。成果定義文を先に書く。戦略と戦術の両方を書く。判断してよい範囲を書く。そして本人と合意する。この4つを守れば、書類は現場で使われます。
仕組み化の観点では、職務記述書は「人に仕事が付いている状態」から「職務に人が付く状態」へ移すための道具です。社長が現場を離れても会社が回る形をつくりたいとお考えでしたら、ここから始めるのがもっとも近道になります。
詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。


