組織開発とは、社員一人ひとりではなく、人と人の関係や仕事の進め方に働きかけて、組織全体がうまく動くようにしていく取り組みです。英語の頭文字をとって、ODとも呼ばれます。
組織の悩みは、ある社員を入れ替えれば消えるものばかりではありません。人が替わっても同じ問題が起こるなら、原因は人ではなく、人と人をつなぐ部分にあります。組織開発は、そこに手を入れるための考え方です。
この記事では、組織開発の意味と、人材開発や組織づくりとの違いを整理します。そのうえで、中小企業で組織開発を進める6つの手順と、途中でよく起こる壁への対処法を紹介します。
1. 組織開発とは?
組織開発の意味
組織開発は、1950年代ごろのアメリカで広がった考え方だとされています。説明の言葉は本や会社によって少しずつ違いますが、多くに共通しているのは次の3点です。
- 働きかける相手……個人ではなく、人と人の関係やチーム、組織全体
- 進める人……外の専門家に任せきりにせず、組織の中の人が自分たちで進める
- 目指すもの……一度直して終わりではなく、組織が自分で良くなり続ける状態
組織開発の進め方には、社員同士の対話を中心にするやり方と、アンケートなどで今の状態を調べてから手を打つやり方があります。どちらか一つに決める必要はありません。会社の状況に合わせて組み合わせて使います。
人材開発との違い
よく比べられるのが人材開発です。人材開発は、研修や教育で社員一人ひとりの知識や技術を伸ばす取り組みです。これに対して組織開発は、社員と社員の間、部署と部署の間に目を向けます。
たとえば、営業部と製造部がいつも納期でもめている会社を考えてみましょう。両方の部署の社員に研修を受けてもらっても、もめごとは減らないことがほとんどです。原因が、受注の情報をいつ・誰が・どう渡すかが決まっていないことにあるからです。一人ひとりが優秀でも、つなぎ目が決まっていなければ組織はうまく動きません。このつなぎ目を扱うのが組織開発です。
組織づくりとの違い
組織づくりは、部署や役職をどう分けるか、誰が何を担当するかという組織の形を決めることを指して使われることが多い言葉です。組織の形の決め方は組織づくりとは?で解説しています。
組織開発は、決めた形の中で人が実際にどう動いているかに目を向けます。形と動きは切り離せません。役割があいまいなままでは、話し合いの場をいくら設けても同じ衝突が起こります。逆に、形だけ整えても動きが変わらなければ、組織図は絵のままです。中小企業では、形と動きを別々に扱わず、一緒に整えていくのが近道です。
2. 組織開発が必要になる会社のサイン
次のようなことが起こっているなら、個人ではなく組織に手を入れる時期かもしれません。
- 同じ問題が繰り返し起こる……担当者が替わっても、同じミスや同じもめごとが起こる
- 部署の間で対立がある……「あの部署が悪い」という話が多く、間に社長が入らないと決まらない
- 判断が社長に集まる……社員が迷うたびに社長に聞きに来て、社長が現場から離れられない
- 新しいやり方が定着しない……ルールや仕組みを変えても、しばらくすると元のやり方に戻る
- 会議で本音が出ない……会議では誰も反対しないのに、終わったあとに不満が聞こえてくる
どれも、社員のやる気や能力の問題に見えがちです。けれども多くの場合、役割や情報の流れ、決め方といった会社の構造が、その行動を生んでいます。人を責めても変わらないのは、そのためです。
社長が現場から離れられないのも、社長の性格のせいではありません。人が増えるほど、一人に集まる判断は必ずあふれます。判断を分けて持てる形になっていないことが、根っこにある問題です。
3. 組織開発は「関係」と「仕組み」の両方から進める
組織開発というと、対話の場やワークショップを思い浮かべる方が多いかもしれません。社員同士が本音で話せる関係を作ることは、たしかに組織開発の大事な柱です。
ただ、話し合いで関係が良くなっても、仕事のやり方が変わらなければ、日々の忙しさの中でまた元に戻ります。たとえば先ほどの営業部と製造部なら、話し合いで気持ちは通じても、受注の情報の渡し方が決まっていなければ次の繁忙期にまたもめます。
そこで仕組み経営では、組織開発を2つの面から進めます。
- 関係の面……会社が目指す姿や大切にする価値観をそろえ、本音で話し合える場を作る
- 仕組みの面……役割、情報の渡し方、会議、任せ方のルールを決め、誰がやっても同じように回る形にする
話し合いで出てきた答えを仕組みとして形に残す。仕組みを動かしてみて出てきた困りごとを、また話し合いで直す。この往復ができると、組織は社長が一つひとつ手を入れなくても良くなり続けます。
4. 組織開発の進め方6ステップ
ここからは、中小企業で組織開発を進める手順を紹介します。著書『仕組み化の経営術』と、仕組み経営のカリキュラム「仕組み依存文化への変革」の考え方に沿っています。
手順1. 今の組織の状態を確かめる
最初に、組織の中で何が起こっているかを確かめます。社長が感じている問題と、社員が感じている問題は、ずれていることがよくあります。
確かめ方は、大がかりなものでなくて構いません。社員に匿名のアンケートを取る。部署ごとに「仕事で困っていること」を聞く。繰り返し起こっているミスやもめごとを書き出す。これだけでも、手を入れるべき場所が見えてきます。アンケートの質問の作り方は従業員エンゲージメントの調査方法と質問集で紹介しています。
ここで大事なのは、問題を「誰のせいか」ではなく「どこで起こっているか」で書き出すことです。人の名前ではなく、仕事の流れの場所で書くと、手の打ちどころが見えます。
手順2. なぜ変えるのかを伝える
組織を変えるときは、最初に変える目的を社員に伝えます。今のやり方のままで起こっている問題を具体的に示し、変えると誰にどんな良いことがあるかを伝えます。
仕組み経営では、変えたあとの良いことを相手ごとに分けて伝えるようにしています。
- お客様……誰が担当しても、同じように質の良いサービスを受けられる
- 社員……人を責める空気がなくなり、自分で判断できる範囲が広がる
- 管理職……細かいことまで指示しなくてよくなり、部下の成長も早まる
「会社のため」だけでは、社員は自分ごととして受け止められません。自分にとって何が楽になるのかが分かると、変化への不安が和らぎます。
手順3. 社員が知りたいことと一緒に計画を伝える
次に、会社がこれから目指す姿と、変えていく計画を伝えます。このとき、会社が伝えたいことだけを話すと、うまく届きません。
会社が伝えたいのは、理念や目指す姿、新しいルールや組織の形です。一方で、社員が知りたいのは、自分の給与や待遇、仕事の中身、人間関係がどうなるかです。まず社員が知りたいことに答え、そのうえで会社が伝えたいことを話します。
伝え方は、メールで一方的に送るより、全員が集まって質問できる場がおすすめです。全社会議の進め方は全社会議とは?で解説しています。
手順4. 気持ちへの影響が小さいところから変える
計画を伝えたら、早いうちに何かを実際に変えて、良くなったと実感してもらいます。ここで大事なのが変える順番です。
いきなり評価制度や給与のように、社員一人ひとりの暮らしに関わるところから変えると、反発が大きくなります。仕組み経営では、気持ちへの影響が小さいところから順に変えていきます。
- 1番目……書類の書式、提出物、道具やソフトなど、仕事の手続き
- 2番目……目指す姿、会議の進め方、組織図など、会社全体の決まり
- 3番目……役割、部署の異動、社内の主なルールなど、一人ひとりの仕事に関わる決まり
- 4番目……給与や手当、評価制度など、待遇に関わる決まり
最初は、社員の仕事が楽になる変化から始めるのがコツです。二重に入力していた書類をなくす、探すのに時間がかかっていた資料の置き場所を決める、といったことです。小さくても「変えたら楽になった」という手応えが、次の変化への協力を生みます。
手順5. 仕組みは現場と一緒に作る
役割や仕事の手順、情報の渡し方を決めるときは、その仕事をしている社員と一緒に作ります。
外から型を持ち込んだり、社長が一人で決めて上から降ろしたりするやり方は、早く形になります。ただ、自分たちで考えていない仕組みは、見張る人がいなくなると元に戻りがちです。上から入れるのではなく、現場が作る。自分たちの仕事を自分たちで良くするだけなので、反発も起こりにくくなります。
社長が決めるのは、会社の目指す姿と、何を大切にするかという方向です。その方向のもとで、仕事のやり方は現場が作ります。役割の分け方は役割分担の決め方で、具体的な手順を紹介しています。
手順6. 会議で振り返り、直し続ける
仕組みは、作ったときがいちばん未完成です。動かしてみると、面倒なところや合わないところが必ず出てきます。
そこで、振り返る場を先に予定に入れておきます。週や月ごとの会議で、決めたやり方がうまく回っているかを確かめ、直すところを決めます。会議の進め方は定例会議のあり方で、上司と部下が一対一で話す場の作り方は1on1ミーティングのやり方と進め方で解説しています。
うまくいかないことが出てきたら、人を責めるのではなく、仕組みのどこを直すかを話し合います。この習慣が根づくと、組織は自分で良くなり続けるようになります。これが組織開発の目指す状態です。
組織の問題の多くは、役割や仕事の進め方が決まっていないことから起こります。現場と一緒に仕組みを作り、社長が一つひとつ指示しなくても回る会社にしていく手順を、無料のガイドブックにまとめました。
5. 組織開発でよく起こる3つの壁と対処法
組織を変えようとすると、はじめのうちは必ずと言っていいほど抵抗が起こります。変えることで生まれる良いことより、慣れたやり方を手放す不安のほうが大きい時期があるからです。この時期を越えると、社員が自分から動き始めます。よく起こる壁と、その越え方を紹介します。
壁1. 変化に抵抗する社員がいる
よく言われるように、長く勤めている社員ほど変化に抵抗しがちです。抵抗には、反対意見をはっきり言ってくるものと、何も言わないまま周りの空気を重くするものの2種類があります。対応が難しいのは後者です。
抵抗の裏には、たいてい不安があります。慣れたやり方が崩れる不安。新しいやり方についていけない不安。自分だけが知っていた仕事のやり方を公開すると、自分の居場所がなくなるのではという不安。こうした不安は、放っておいても消えません。
抵抗する社員とは、向き合って話すしかありません。何が不安なのかを聞き、手順3で伝えた計画のうち、誤解されているところがないかを確かめます。最初は気が重い話し合いでも、繰り返すうちに慣れていきます。
壁2. 社員が「辞めたい」と言ってきた
目指す姿や大切にする価値観をはっきりさせていくと、会社に合わないと感じる社員が出てくることがあります。
まず確かめたいのは、会社のメッセージが正しく伝わっているかです。誤解から辞めたいと言っているなら、話し合いで解けることがあります。そのうえで気持ちが変わらないなら、無理に引き留めるのは難しいでしょう。
やるべきことは、次に入ってくる人が同じことにならないよう、採用や入社後の受け入れの仕組みを整えることです。
壁3. 新しいやり方が元に戻ってしまった
組織には、慣れたやり方に戻ろうとする力が働きます。新しいやり方が定着しない原因は、たいてい次の3つのどれかです。
- 新しいやり方が面倒……現場を知らない人が決めると、こうなりがちです。仕組みは社員の仕事を楽にしながら、会社の目標につながるものにします。複雑すぎるなら見直します
- 上の人が実践していない……社長や管理職だけが例外になっていると、社員は従いません。決めたことは上の立場の人から実践します
- 新しいやり方でやっても報われない……「このやり方や基準どおりにできる人が評価される」と伝え、実際にそのとおり評価します
6. 社員が自分から動けない6つの原因と手当てする仕組み
組織開発のゴールは、社員が言われなくても自分から動く組織です。ただ、「自分から動いてほしい」と声をかけるだけでは、社員は動けません。動けない原因が、会社の側にあるからです。
原因ごとに、手当てする仕組みを並べると次のようになります。
- 上司が細かく口を出しすぎる……任せる範囲と報告のしかたを決める。任せ方は権限委譲とは?で解説しています
- みんなで目指すものがない……会社の目指す姿と、働くうえで大切にする価値観を言葉にする。作り方はコアバリューとは?で紹介しています
- 自分の役割が分からない……組織図と、役職ごとの仕事の目的や中身を書いた文書を作る
- 決めてよい範囲が分からない……どこまでを本人が決めてよいかを、仕事ごとに決めておく
- 仕事のやり方や知識が足りない……教える内容と順番を決め、誰が教えても同じように身につく形にする
- 伸びたいと思う人が集まらない……会社の価値観に合う人を選ぶ採用の流れを作る
どれも、社員の意識を変えるのではなく、会社の側で用意できるものです。動ける形を先に整えると、社員は自分から動き始めます。
7. 組織開発のよくある質問
組織開発と組織文化はどう違いますか?
組織文化は、その会社で当たり前になっている考え方や行動のしかたのことです。組織開発は、その文化を含めた組織の状態を良くしていく取り組みのことです。組織開発を続けた結果として、文化が変わっていくと考えると分かりやすいでしょう。組織文化については組織文化とは?で詳しく解説しています。
社員が10人ほどの小さな会社でも必要ですか?
必要です。むしろ人数が少ないうちのほうが、全員で話し合いやすく、決めたことも早く広がります。人が増えてから役割や決め方を整えようとすると、慣れたやり方を変える手間が大きくなります。小さいうちは、手順4の「気持ちへの影響が小さいところ」から一つずつ進めれば十分です。
外部の専門家に頼むべきですか?
進め方の順番や手法を学ぶために、外の力を借りるのは良い方法です。ただし、仕組みの中身まで外の人に決めてもらうのはおすすめしません。自分たちの仕事のやり方を知っているのは、その仕事をしている社員だけだからです。順番は外から学び、中身は自分たちで作ると考えると、外の力を上手に使えます。
組織開発の効果はどう測ればいいですか?
手順1で書き出した「繰り返し起こっている問題」が減っているかを見るのが、いちばん分かりやすい測り方です。あわせて、社員アンケートを半年や1年ごとに同じ質問で取り、変化を見ます。社長に上がってくる相談や判断の件数が減っているかも、良い目安になります。
まとめ
組織開発とは、社員一人ひとりではなく、人と人の関係や仕事の進め方に働きかけて、組織全体がうまく動くようにしていく取り組みです。中小企業では、話し合いで関係を整えることと、役割や会議などの仕組みを整えることを一緒に進めるのが近道です。
進め方は次の6つです。今の組織の状態を確かめる。なぜ変えるのかを伝える。社員が知りたいことと一緒に計画を伝える。気持ちへの影響が小さいところから変える。仕組みは現場と一緒に作る。会議で振り返り、直し続ける。
途中で抵抗が起きたり、元に戻ったりするのは、うまくいっていない証拠ではありません。どの会社でも通る道です。人を責めるのではなく、仕組みのどこを直すかを話し合う。この習慣が根づけば、社長が一つひとつ間に入らなくても、組織は良くなり続けます。
社員の方には、組織開発を「人が入れ替わっても、お客様に同じように良いサービスを届け続けるための取り組み」と説明できます。誰か一人に頼らずに回る組織は、社長がいつか現場を離れたあとも続いていく組織です。
まず一つ、書き出してみましょう。社内で繰り返し起こっている問題を、人の名前ではなく、仕事の流れの場所で書くところからで十分です。組織に必要な仕組みを順番に作っていく全体像は、無料のガイドブックで紹介しています。


