*動画でも解説しています。
2024年の企業倒産で目立ったのは、「経営のプロ」であるはずのコンサルタント業の倒産が過去最多を記録したことです。経営コンサルタント業の倒産件数は154件(前年比7.6%増)と、これまで最多だった2023年の143件を上回りました。(ダイヤモンドオンライン参考)
特に印象的なのが、補助金申請のサポートを軸に急成長していたコンサル会社の倒産です。中でも、大阪地裁に破産を申請した北浜グローバル経営株式会社は、負債総額20億5300万円という規模で大きな話題になりました。こうしたケースは単なる一企業の失敗ではなく、コンサル業界全体が抱える根本的な問題を浮き彫りにしていると言えるでしょう。
経営コンサルの倒産理由①経営コンサルは、コンサルティングの職人であって、経営者ではない。
経営コンサルタントの倒産が増えている最大の要因は、「コンサルティングの職人」と「経営者」の違いを理解していないことにあります。多くの経営コンサルタントは、確かにコンサルティングの技術に優れ、経営に関する知識を持っています。しかし、それは必ずしも「経営のプロ」であることを意味しません。
コンサルティング職人とは何か
多くの経営コンサルタントは、特定の分野で専門的な知識とスキルを持っています。財務、マーケティング、組織開発、戦略立案など、それぞれの専門領域において高い分析能力を発揮します。彼らはクライアント企業に対して適切な助言を提供し、経営改善のための具体的な方法論を提示することができます。
しかし、ここに大きな問題があります。コンサルタント自身が「自分の会社を経営する」こととは、まったく異なる能力が求められるという点です。
経営のプロではない理由
コンサルタントは、クライアントに対して経営に関するアドバイスを行いますが、実際に自らが経営者として組織を運営した経験がないケースが多いです。経営の現場では、理論通りに進まない問題が次々と発生し、臨機応変な対応が求められます。しかし、経営経験のないコンサルタントは、こうした現場対応力に乏しく、自社の経営が行き詰まったときに適切な判断を下すことができません。
経営とコンサルティングのスキルは別物
コンサルティングとは、クライアントの問題を分析し、解決策を提示する仕事です。しかし、経営とは、会社全体を継続的に運営し、利益を上げ、組織を成長させることです。この二つの能力は、求められるスキルセットが大きく異なります。

例えば、コンサルタントは財務分析やマーケティング戦略の設計に長けていても、自社の営業活動や資金繰り、人材マネジメントなど、経営に必要な総合的なスキルを持ち合わせていないことが多いのです。クライアント企業のために優れた戦略を立てることができても、自社の経営を成功させることができるとは限らないのです。
職人的な視点にとどまってしまう
多くのコンサルタントは「職人型経営」の典型です。
「職人型経営」とは、経営者やビジネスオーナーが自身の専門的なスキルや技術を主軸にして、事業を成り立たせている経営スタイルを指します。このタイプの経営では、経営者自身がほとんどすべての業務を手がけ、事業の運営において「自分がやらなければならない」と考える傾向があります。
彼らは自身のスキルを売りにして事業を展開しますが、そのスキルに依存したままでは、ビジネスを成長させることができません。会社として持続的に成長するためには、仕組みを構築し、組織としての運営力を高める必要があります。しかし、多くのコンサルタントは、あくまで自分自身の能力に頼ってビジネスを進めようとするため、事業の規模拡大や継続的な運営が難しくなり、最終的に倒産に至るケースが多いのです。
経営コンサルの倒産理由②継続的なサービスを提供できない
多くのコンサルタントは、プロジェクト単位で仕事を請け負う形態を取っています。このビジネスモデルでは、クライアントごとに異なる課題に対応し、短期間で成果を出すことが求められます。確かに、この方法は一度案件を受注すれば短期的に収益を得ることができるメリットがありますが、次の案件を探さなければならないという大きなデメリットもあります。プロジェクトが終了すると収益の流れが途絶え、再度新しい案件を獲得するための営業活動に追われることになります。このような状況が続くと、収益が安定せず、経営そのものが不安定になりがちです。
顧客の課題解決後に訪れる「終わり」
コンサルタント業務の特徴の一つは、顧客の課題が解決されるとその役割が終わりになる点です。クライアントが抱えていた問題が解決すれば、コンサルタントとしての責任も果たしたとされ、次の案件を求めることになります。しかし、こうした「単発型」の業務は、コンサルタント自身にとって持続的な価値を提供し続ける機会を失わせます。顧客との関係は、解決すべき課題がなくなると途切れがちであり、これによりリピート案件や紹介が少なくなる傾向があります。
コンサルタントがこのビジネスモデルを「単発案件依存型」から「継続的な価値提供型」に変えることができなければ、安定的な収益基盤を築くことは非常に難しくなります。継続的な価値提供とは、顧客に対して定期的に新しい価値を提供し続けることであり、単発のプロジェクトに依存することなく、長期的なパートナーシップを築くことが求められます。
経営コンサルの倒産理由③人脈営業の限界
人コンサルタントは、過去のクライアントからの信頼や、業界内での知名度を活かして、新規案件を受注することができます。しかし、これは「紹介」という偶発的な要素に依存しています。それが長期的に持続する保証はありません。特に、景気の変動や業界の動向によって既存のクライアントからの依頼が減少すると、コンサルタントは一気に案件を失うリスクに直面します。
例えば、経済が悪化した場合、企業は経費削減に乗り出すため、コンサルタントに依頼する予算が削られることになります。逆に、新たな市場に挑戦する企業のニーズに対応するために、コンサルタントとしてのスキルをアップデートし続ける必要がありますが、これも人脈だけでは限界があります。最終的に、紹介が途切れた場合、収益が急激に減少し、そのリスクに耐えられなくなってしまうのです。
属人的な営業活動のリスク
さらに問題なのは、人脈営業が「属人的」な営業活動である点です。つまり、営業活動が一人一人のコンサルタントの人間的なつながりや信頼に基づいているため、他の社員やチームメンバーが同じように営業活動を展開することが難しくなります。組織としての仕組み化が進まないため、どんなに優れたコンサルタントであっても、最終的には営業活動が個人に依存しきった状態になり、ビジネスがスケールできないという現実に直面します。
この状況は、最終的には「営業活動が行き詰まる」「案件獲得の手段が限られる」といった問題に繋がり、コンサルタントの経営が不安定になります。安定した案件獲得の仕組みを作らずに、個人のつながりだけに頼ってしまうと、営業活動が一過性のもので終わり、事業の成長が止まってしまいます。これが積み重なることで、最終的に倒産に繋がってしまうのです。
経営コンサルの倒産理由④「自分にしかできない仕事」の罠
多くのコンサルタントは、特定の分野における専門知識やスキルに強い自信を持っています。この自信が、コンサルタント自身を「自分しかできない仕事」に縛りつける原因となるのです。初めは、その仕事を一人でこなすことに満足感を得ているかもしれません。しかし、業務の量が増えると、自分一人では処理しきれないことが明らかになり、その結果、事業のスケールアップができなくなります。
仕事を人に任せられない
特定分野での専門性があるがゆえに「自分にしかできない」と感じる仕事を抱え込んでしまうことがよくあります。この状況に陥ると、コンサルタントは自分一人で仕事をこなすことに専念し、結果的に事業の成長を妨げる要因となります。
「自分にしかできない」と思い込むことで、他のスタッフに仕事を任せることができず、組織としての成長が停滞します。コンサルタントが自分の能力に過剰に依存すると、どんなに優れたスキルを持っていても、一定以上の売上や事業の規模を維持することは非常に難しくなります。
業務の引き継ぎができないリスク
さらに、もしコンサルタント自身が病気や家庭の事情で動けなくなった場合、その影響は即座に事業の収益に跳ね返ります。自分にしかできない業務に依存していると、事業はコンサルタント一人に支えられている状態になります。万が一、何らかの理由でコンサルタントが事業を運営できなくなると、収益が一気に途絶えてしまうという大きなリスクが生じます。このような状況を避けるためには、業務の仕組み化や組織化を進め、仕事を他の人に任せられる体制を整えることが不可欠です。
経営コンサルが生き残るために必要な視点
では、経営コンサルタントが倒産せずに生き残っていくためにはどうすればいいのでしょうか。以下に挙げてみましょう。これらは経営コンサル業だけではなく、ご自身の職人的スキルをもとに起業した人全員に当てはまる要素になります。
経営者視点の獲得
経営コンサルタントが生き残るためには、経営者視点を持つことが不可欠です。経営者視点とは、自らの会社を経営する立場で物事を考え、判断する視点のことです。つまり、自分の専門分野だけではなく、経営者としての立場で意思決定を行い、組織全体を見渡す能力を指します。これには、長期的な視野での戦略策定やリスク管理、資源の最適配分、さらには企業文化の形成に至るまで、さまざまな要素が含まれます。経営者視点を持つことで、目の前の問題だけでなく、その背後に潜むビジネスの構造や環境を理解し、広い視野で問題解決に臨むことができるようになります。
ストック型ビジネスの導入
経営コンサルタントが安定的に事業を継続するためには、ストック型ビジネスの導入が欠かせません。多くのコンサルタントはプロジェクト単位で仕事を請け負うため、案件ごとに収益の変動が激しくなります。これを解決するためには、継続的に収益を生み出す仕組みを作ることが重要です。
例えば、定額制の会員モデルを導入し、クライアントに対して定期的なサポートを提供する方法があります。オンライン教材や動画コンテンツを販売することで、時間をかけずに収益を得ることも可能です。また、コンサルティングの一部を自動化し、仕組みを活用したコンサルティングサービスを提供することで、労働集約型のビジネスモデルから脱却できます。これにより、安定したキャッシュフローを確保し、経営のリスクを低減できます。
人依存の経営からの脱却
経営コンサルタントが成長し続けるためには、属人化を避けることが不可欠です。多くのコンサルタントは、自分自身のスキルや経験に依存して事業を展開していますが、それでは長期的な発展が難しくなります。個人の能力に依存せず、組織化・仕組み化することで、より持続可能なビジネスを構築できます。
具体的には、業務の標準化を進め、誰でも同じ品質のコンサルティングを提供できるようにすることが重要です。マニュアルやトレーニングプログラムを整備し、チームで業務を分担できる体制を作ることで、一人の負担を軽減し、より多くのクライアントに対応できるようになります。また、営業やマーケティングも仕組み化し、安定的に案件を獲得できる体制を構築することが求められます。
経営コンサルタントが真に持続可能なビジネスを築くためには、このような組織的アプローチが欠かせません。