弁護士が独立して経営がうまく行く方法

弁護士が独立(経営)しても食えない理由と対処法



清水直樹
私たちが経営のテキストとしている「はじめの一歩を踏み出そう」には、さまざまな業種に広く適用できる普遍的な原理が書かれています。本記事では、それを弁護士業界に応用した例をご紹介します。弁護士向けといっても、その他多くの専門サービスに共通する内容となってます。

※以下、「はじめの一歩を踏み出そう」著者マイケルE.ガーバー氏の音声の一部を抜粋してご紹介します。

弁護士が独立して食えなくなる理由

弁護士は最初は法律の仕事に専念しています。でも、いつかは自分の事務所を持ちたいと思っています。事務所を持てば、自由に働けて、尊敬されて、収入も増えるからです。上司に監督されずに独立できるのが一番の願望なのです。そうすれば、事務所のオーナーになり、収益は全部自分のものになるからです。このように独立したくてたまらない弁護士が多いのです。

弁護士は裁判で実力を発揮してきたので、独立して事務所経営も上手くできると思いがちです。でも、実際のところ、技術者が必ずしも良い経営者になれるとは限りません。配管の職人が上手だからといって、請負業者として会社を経営できるとは限らないのと同じことです。弁護士も独立して初めて、自分には事務所を経営する力が足りないことに気づき、戸惑うことがあるのです。

弁護士に必要な起業家、経営者の視点

弁護士は自分の事務所を持ちたいと思っています。そうすれば自由に働けて、尊敬されて、収入も増えるからです。でも、事務所を経営する方法を学んだことがありません。だから、事務所を持ってみると、思ったことと実際は違うことが多いのです。

弁護士は自分を法律の専門家だと思っているので、法的なサービスを提供する以外のことは大切だと思っていません。でも、法律事務所は実はサービス業なのです。

だから、弁護士は法的サービスを提供する専門家だけでなく、事務所を経営する人、新しいビジネスを始める起業家の役割も果たさなければなりません。法的サービスを提供するだけでなく、経営者の視点を持つ必要があるのです。

弁護士が独立して成功するために必要な戦略的仕事

弁護士の業務は、戦略的な仕事と戦術的な仕事の2種類に大別できます。

戦術的仕事とは?

戦術的な業務とは、ほとんどの弁護士が日々行っている作業のことです。つまり、ファイリング、請求書作成、電話対応、銀行業務、クライアント面談、準備書面作成、訴訟構築などが該当します。「私はとても忙しい」という言葉を、多くの弁護士が口にしています。戦術的業務に時間を取られ、本当に重要な業務に注力できないことが主な理由です。「自分以外にはうまくできない」と弁護士が愚痴をこぼすのは、こうした状況が背景にあります。

しかし、戦略的業務を適切に行えば、戦術的業務は減るはずなのです。

戦略的業務とは?

戦略的業務とは、次のような疑問を自分に投げかけることから始まります。

  • 私たちはどんな事業を営んでいるのか?
  • その目的は?
  • 顧客は誰か?
  • 最終的に事業をどうするか?
  • なぜ私は弁護士なのか?
  • 業務完了後の理想的な姿は?
  • 競合と差別化するにはどうあるべきか?
  • 重要な指標は何か?

これらの戦略的で、根源的な質問を投げかけること自体が、戦略的業務の第一歩になります。

戦術的業務は「どうすればできるか」という答えを求めるものです。一方の戦略的業務は、そもそもの問いかけ自体に重きが置かれます。

戦略的業務こそが事務所経営を成功に導く

戦略的質問を頻繁に投げかける弁護士は、すでに答えを思い描いています。質問と答えは表裏一体の関係にあり、的確な質問をしなければ的確な答えは得られません。戦術的業務は日々の実務なので比較的簡単ですが、戦略的業務はビジネスとしての法律事務所を成功に導くための計画立案です。

クライアント開拓、書面作成、採用/解雇、クライアント面談などは戦術的業務に当たります。一方で、優れた法律事務所を創造するための戦略を立案することが、まさに戦略的業務と呼ばれるものなのです。

仕事に振り回されるのではなく人生をデザインする

戦術的業務に時間を取られていると、常に外部の何かに反応する立場に立たされます。仕事が自分を動かしているのであって、自分が仕事を動かしているわけではありません。従業員やクライアントに振り回されているのであり、逆ではありません。自分の人生が振り回されているのです。

しかし、戦略的業務を行えば行うほど、自らの決断、業務、人生をより意図的に動かせるようになります。「意図」こそが戦略的業務の核心なのです。外部のすべてが、自分のビジョンに奉仕するよう変わっていきます。「やるべきこと」と「したいこと」が一致するようになるのです。つまり、ビジョン、目標、目的、戦略、結果を自ら思い描くことができるようになります。戦略的業務とは、自分の業務や人生をデザインすることなのです。

戦術的業務は、戦略的業務によってデザインされたものを実行に移すための業務です。戦略的業務がなければデザインもなく、ただ忙しいだけになってしまいます。

戦略的業務こそが、弁護士事務所経営のゲームチェンジャー

ここで、「はじめの一歩を踏み出そう」の内容を弁護士事務所の経営に適用して成功したロバート・アームストロング氏の言葉を紹介します。

弁護士を指導する中で、毎日の業務を止めて、今までにない新しい業務に従事するよう説得することが最も難しかった。マイケル・ガーバーが言う『ビジネスに携わるのではなく、ビジネスに取り組む(Working On it, not In it.』ことです。この言葉の意味を、みなさんは本当に理解していないのではないでしょうか。

ビジネスに取り組むとは、戦術的業務に従事するだけでなく、その業務が何のためにあり、完了後に何が生まれるのかという戦略的な考えを持つことなのです。戦術に埋没してはいけません。戦略的業務に取り組まなければなりません。

理論上は分かりやすいかもしれないが、実際に弁護士に戦略的業務に取り組ませ、将来計画のブレインストーミングを提案するのは困難でした。それは銃撃戦の最中に将軍に新兵器を売りつけられているようなものでした。将軍は構っている余裕がなく、『私が忙しいのがわからないのか?』と言うしかありません。

しかし、戦略的業務に取り組めば、ガトリング砲(機関銃)のように、戦局を一変させることが出来ます。弁護士は日常の電話対応やIT業務、事務用品の発注、新しい郵便の確認など、本来の業務以外の雑務に時間を取られています。

この状況を打開するには、全ての業務を見直し、弁護士事務所のオーナーが関与する必要のないものは全て他のスタッフに委譲する必要があります。鍵となるのは、適切に訓練されたスタッフに業務を委譲する仕組みを構築するこです。

私たちは弁護士の負担を減らすために、多くの業務を法律事務職員に任せる仕組みを作りました。多くの人は、コントロールを手放すと顧客サービスが下がると心配していましたが、実際にはサービスが向上し、スタッフの士気も上がりました。

かつては私たちの顧客も、「弁護士しかできない仕事がある」と固定観念がありました。しかし、他の業界を見ると、専門家でなくても質の高いサービスができることが分かります。医師の代わりに看護師が業務をするように。



「なぜ」と問うことが弁護士が独立して成功するスタート地点

仕事の本質を理解すれば、全てが変わります。日常的な業務は「答え」に過ぎず、本当に大切なのは「なぜ」を問うことです。特定の業務がなぜ必要なのかを検証する質問が重要です。

理想的な業務と現在がどれくらいかけ離れているか?

そしてどのような戦略的質問をすべきかを知る唆となるのは、現在の業務が理想とどれだけ違うかを見極めることです。違いが分かれば、問うべき質問と、その答えも見えてくるでしょう。そうすれば新しい可能性が広がります。

あなたの仕事だけでなく、法曹界全体への見方も変わるかもしれません。あなたは、自分の夢や価値観、目的を反映したビジネスの設計者なのです。

マッサージ師、グラフィックデザイナー、医療従事者、会計士、ITエンジニアなど、あなたの職業は何であれ、このことはあなたにも当てはまります。一度理解し受け入れ内面化すれば、あなたの質問は今までよりも大きく広く大胆で勇敢で並外れたものになるでしょう。

なぜこんなに忙しいのか?

これは修辞的な質問(答えのない質問)ではありません。人間の切実な質問なのです。私たちが神に似せて創造されたのなら、私たちは創造するために存在するはずです。私たち一人一人の内なる創造主を発見するために。

私たちは生活のために働き、とても忙しい。やることでいっぱいです。しかし、なぜここにいるのか、なぜそんなに忙しいのかを問うことはありません。

人生の目的こそ大事

忙しいことが人生の目的ではありません。存在する理由を知ることが目的なのです。やらなければならないことが、あなたがここにいる理由ではないのです。自問自答するまでは分かりません。

  • なぜ私はここにいるのか?
  • なぜこのオフィスにいるのか?
  • なぜこの仕事にいるのか?
  • なぜ私はこのキャリアにいるのか?
  • この時間に、この宇宙の、この世界で、なぜ私はここにいるのか?

今年私は74歳になり、この問いはますます切実になってきています。私は何を忘れてしまったのだろうか?私は何のために生まれてきたのだろう?私は何かを見逃していたのだろうか?それとも新しい自分を発見することができたのだろうか?

弁護士が独立すればスタッフへの不満が噴出する

なぜほとんどの弁護士事務所の経営がうまくいかないのか。うまくいかない理由は、弁護士一人ひとり、あなたも私も、絶対にしなければならない本当の問いを、長い間してこなかったからです。

ロースクールを卒業したらすぐに、キャリアを歩み出す。自分の理想の弁護士になる。学生時代には面倒な過程を経験してきた。しかし、法科大学院や医学部、どの学校でも、誰一人「なぜそこにいるのか?」「あなたは何者なのか?」と問われることはなかったでしょう。

彼らはそういった質問をしてあなたを目覚めさせる代わりに、逆にあなたを眠らせようとしてきたはずです。眠っていれば従順で扱いやすいからです。それは正しいことをしているように思えるだけです。忙しく、何かをしている限りは誰も疑問を持ちません。「一体ここで何をしているのか?」「私は一体何者なのか?」といった疑問を持たずにすみます。しかし、それがいかに重要な問いであるか、理解しているでしょうか。

なぜ思った通りにやってくれないのか?

私が会った弁護士はみな、スタッフについて文句を言っていた。遅刻してくる、早く帰る、気が散りやすいなどです。パートナーやアソシエイトについても、作業を任せるのは大変だと嘆いていました。クライアントについても、彼らは現実を無視して自分の欲求に合わせよと要求してくる、と不満をもらしていました。すべての弁護士が人のことで憤っていました。

  • 彼らに正しい方法を教えても、私自身が20回もやり直さなければならないかもしれない。
  • なぜ誰も私の言うことを聞かないのだろう?
  • なぜ誰も私の頼んだことをしてくれないのだろう?

あなたもそう感じたことがあるのではないか?

では、彼らが問題なのか?その答えを見つけるために、最後に事務所に入ったときのことを思い出してほしい。そこにいた人々の表情は忙しなく、消極的で無気力だったのではないか。法律事務所は問題を抱えたクライアントが行き交う場所だ。そこで働く人々が不満を持つのは無理もない。一日中、嫌な人々に囲まれているのだから。

事務所経営がうまくいかない根本的な理由は、弁護士一人ひとりが、自分自身の存在の目的を問うことをしてこなかったことにあります。

弁護士は学生時代から、「なぜここにいるのか?」「自分は何者なのか?」といった本質的な問いを投げかけられることなく過ごしてきました。忙しさの中で、そうした問いを立てずに済んできたのです。

しかし、その結果として、弁護士は自分の仕事を追われる立場になり、スタッフ、同僚、クライアントとの人間関係で問題を抱えるようになりました。他者を自分のコントロールできない存在と見なし、不満や批判の対象にしてしまうのです。

仕組みを作って他者の力を使う

長時間労働を強いられ、本来の法的業務だけでなく、事務作業なども一手に引き受けざるを得なくなります。しかし、一人でできることには限界があります。

成功への鍵は、自身の強みを最大限に活かす業務の仕組み化と、他者の力を適切に活用することにあります。まず自らの専門性と業務プロセスを「録音」し、標準化します。そして、それを他者に再現させる仕組みを構築します。

これにより、弁護士本人が常に現場にいなくても、期待通りの業務が行えるようになります。他者が弁護士の代わりとなり、高品質の法的サービスを提供し続けられるようになるのです。

人が代わっても機能する仕組み

あなたが弁護士でなくとも、何をする人でも、この話は当てはまります。必要な業務に人々を参加させる方法を本当に理解すれば、状況は一変するはずです。他人に仕事を任せ、自分の代わりに仕組みを運用させる方法を学べば、業務は本当に成長し始めるでしょう。そうして初めて、あなた自身が真の自由を手に入れられるのです。

一般的には、弁護士が電話応対やファイリングなどを手伝ってもらう必要に迫られ、人材を探すことになります。しかし、一度業務を委任してしまうと、彼らと接する機会はほとんどなくなってしまいます。心の奥底では、そうした業務は重要ではないと考えているためです。重要なのは、どのようにしてその業務が遂行されるかです。人々を最大の負債ではなく資産とする仕組みが必要なのです。メアリーが退職しても、ジュディがメアリーと同じように業務をこなせる、信頼性の高い仕組みが求められます。

私は夢のようなことを言っているのではありません。70,000人以上のクライアントを指導してきた実績があります。間違いなく、あなたにもできます。あなたが想像することは、何でも実現可能なのです。

まとめ:弁護士が独立開業して成功するために

本記事では、専門サービス業の経営者、特に弁護士事務所の経営者が直面する課題と、それを克服するための考え方をご紹介しました。

  • 弁護士は法的サービスの提供だけでなく、経営者としての視点を持つ必要がある
  • 日々の業務に忙殺されるのではなく、事業の根本的な目的や方向性を問う「戦略的業務」に注力することが成功の鍵
  • 自身の業務プロセスを標準化し、適切に訓練されたスタッフに業務を委譲する仕組み作りが不可欠
  • 単に業務に従事するだけでなく、自らの存在意義を問うことで、本来の目的を見失わない
  • スタッフを単なるコストではなく、資産として活用できる体制を整備する

要するに、経営とは単に現場で働くことではなく、戦略を立て、仕組みを作り、人々を動かすことです。自身の強みを最大限活かし、他者の力を適切に活用する仕組み作りこそが鍵となります。仕組み経営では、このような仕組み作りのノウハウをお伝えしています。さらに学びたい方は、以下から「仕組み化ガイドブック」をダウンロードされてください。



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