人心掌術(人の心をつかむ方法)

社長の人心掌握術(人の心をつかむ)



清水直樹
社員が思ったように動いてくれない、という悩みを抱えている社長は多いでしょう。その原因は、社員の心をつかんでいないことにあるのかもしれません。そこで本記事では、社長のための人心掌握術を見ていきましょう。

 

人心掌握術の意味と社長に必要な理由

人心掌握術とは、他者の心を自在に掌握し、自らの意図した方向へと導く術を指します。社長にとって、この人心掌握術を身に付けることは極めて重要です。

人心掌握術の本質は、相手の立場に立って理解を深め、対話を通じて相互の思いを共有することにあります。上から目線で一方的な指示を出すのではなく、寄り添いながら絆を築いていくことが肝心なのです。

社長にとって人心掌握術が必要な理由

では、なぜ社長にとって人心掌握術が重要なのでしょうか。

自分の思った方向に会社を動かす

第一に、会社の持続的成長に不可欠な力だからです。経営理念や戦略があれば、形式的には社員に浸透するかもしれません。しかし、心から共感が得られなければ、本気で実行に移されることはありません。人心を掌握できれば、全員が一丸となって邁進できるようになります。

人材の確保につながる

第二に、優秀な人材の確保と定着につながるからです。給与面だけでなく、自分の能力を発揮でき、尊重されるような環境を求める人が多いからです。リーダーとしての人心掌握力があれば、そうした人材を引き付け、長く勤めてもらえるはずです。

危機に対処する

第三に、経営の危機的状況でも組織を維持できるためです。不況や事故などで窮地に立たされても、社員の心が掌握されていれば、一体となって乗り越えられます。しかし心が離れていれば、その時こそ離散が避けられません。

このように、社長が人心を掌握できるかどうかが、会社の命運を左右するほど重要なのです。ですから、社長は言葉と行動を通して、常に人心を掌握し続ける努力を怠ってはなりません。その上で、この力を社会の発展と人々の幸福につなげていく大きな使命があるのです。

本記事では、京セラ創業者稲盛和夫氏の事例を参考に、社長の人心掌握術を見ていきましょう。ちなみに稲盛氏の事例は、1995年、盛和塾大分開塾式での講話を参考にしております。

人心掌握術① 社員と心を通わせる(信頼関係を築く)

社員と経営者の心が通い合っていなければ、会社の目標に向かって全力を尽くすことはできません。どんなに優れた経営方針や戦略を立てても、社員があくまで形式的に業務をこなすだけでは成果は上がりません。特に、二代目、三代目の社長となると、社員が自分より年上ということも珍しくありません。そうなると、社長が何を言っても、”若造が何を言っているんだ”とバカにされてしまい、いくら想いややりたいことがあったとしても実際に組織を動かすことが出来ません。コミュニケーション以前に、まずはその土台となる信頼関係を築く必要があります。

そのため、経営者は日頃から社員と心を通わせる機会を設け、お互いを理解し合う努力が不可欠です。例えばレクリエーション活動に一緒に参加したり、食事を共にする時間を持つことで、お互いの人間性を知ることができます。

稲盛氏は社員と真剣に遊ぶことで心をつかんだ

稲盛和夫氏の場合、創業期には野球などで部下と過ごす機会を多く設けていました。年齢や立場に関係なく、一人も除外することなく全社員を巻き込んでいました。このように一緒に遊び、苦楽を共にすることで、心の通った絆が芽生えていったのです。

さらに、社員一人ひとりの人となりを理解するため、稲盛氏は夜な夜な飲み会に参加し、酔っ払うまで語り合いました。風邪でダウンしながらでも、毎晩のように社員の忘年会に出席するなど、まさに捨て身の姿勢で部下と心を通わせようと努めました。当時は経営者として大変な時期でしたが、それでも社員との絆を大切にし、一緒に苦労を共にする機会を逃さなかったのです。

このように、経営者自らが率先して社員と心を通わせる機会を積極的に設けることが何より大切です。共に遊び、語らい、汗を流すことで、自然とお互いを理解し、信頼関係が芽生えていきます。そうした地道な取り組みの積み重ねが、ひいては会社が一丸となり、目標達成につながっていくのです。

特に会社が小さく、社員の数が少ない頃はなおさらです。経営者自ら現場で働き、一緒に苦労を共にすることで、強い絆が生まれます。年上の社員でさえ、そうした行動に心を打たれ、社長の下につきたいと思うようになるでしょう。

日頃のコミュニケーションを怠らない

しかし、単に遊びに誘うだけでは不十分です。経営者は日頃から飲食を共にしたり、手紙を書いたりと、率直にコミュニケーションを図る努力を怠ってはなりません。お互いの考えや価値観の違いを認め合い、対立点を乗り越えていくプロセスが大切なのです。そうした営みを通して、一人ひとりの人となりに深く触れることができます。

社員と心を通わせるためには、経営者自身が率先してオープンな姿勢を示し、時間を惜しまず対話の機会を設けることが不可欠なのです。そうすれば必ず社員の心に届き、組織の絆は強固なものとなっていくはずです。

人心掌握術②社員に大義名分を示す

社員の心をつかむためには、経営者が会社の目的や使命、経営理念を明確に示すことが重要です。単に利益追求だけが目的であれば、社員のモチベーションを持続させることは難しくなります。利益は経営の手段であって目的ではありません。そこで経営者は、会社の存在意義や社会的使命、貫く価値観などを明らかにし、社員にその大義名分を示す必要があります。それによって社員一人ひとりが誇りを持てるようになり、会社に対する帰属意識が高まるのです。

大義を掲げたことが人心をつかんだ稲盛氏

稲盛和夫氏は、京セラの経営理念の中核に「全社員の物心両面の幸福を追求する」ことを掲げました。つまり単なる利益追求ではなく、社員の幸せを第一に考える経営を貫くことを宣言したのです。稲盛氏は、この理念を常に社員に語りかけ続けました。自らの言葉で繰り返し経営哲学を説き、それを社員自身のものとするよう促しました。カセットテープや著書を活用しながら、自分自身の経験に基づいて熱心に語りかけ続けたのです。そうすることで、社員が「この人の下ならば」と尊敬の念を持つようになり、会社の大義に対する所属意識が芽生えたのです。

このように、経営者自らが大義名分となる目的や理念を明確に示し、それを社員に徹底して伝え続けることが重要なのです。それが社員の心を掌握し、会社の成長に向けて邁進する原動力となるのです。

大儀名分があることで社長は勇気が出る

大義名分があれば、単なる金儲けのためだけに会社を経営しているのではないと社員に伝わります。経営者が利益追求以外の高遠な目標を掲げていることで、社員一人ひとりが誇りを持って働くことができるようになります。自分たちの仕事が単なる労働ではなく、社会に役立つ意義深いものであると自覚できるからです。

また、経営理念には正義性や正当性がなくてはなりません。単に経営者個人の思惑を押し付けるのではなく、社会的に意義のあるものでなければなりません。例えば、江戸時代に石田梅岩が説いた「商人道」は、蔑まれがちだった商人たちに誇りを与え、商売に対する正当な位置づけを示したものでした。このように、仕事への誇りや使命感を社員に示すことが大切なのです。

言行一致が信頼を生む

さらに重要なのは、経営者自らがその理念に基づいて行動し、言行一致していることです。理念だけ掲げて実際の行動が伴わなければ、社員から偽りの理念と見做されてしまいます。率直に意見を述べ合い、互いに理解を深め合う対話を重ねることで、初めて理念の実現に向けた具体的な行動につなげられるのです。

こうした地道な取り組みを継続的に行うことで、理念は徐々に社員の心に浸透していきます。理念を経営の礎に据え、それを共有する社員と共に歩んでいけば、いつかは必ず大きな力となって機能するはずです。経営者には、そうした確固たる使命感と、それを体現する行動力が求められているのです。

人心掌握術③自らが先に変わる

経営者が口先だけで社員に大義や理念を説いても、それだけでは社員の心をつかむことはできません。経営者自らが先に変わり、言行一致した姿勢で実践していくことが何より重要なのです。言葉だけでは社員を納得させることはできず、むしろスケプティカルな社員ほど「経営者は言葉だけ」と疑心暗鬼に陥りかねません。そこで経営者自身が自らの言葉に絶対の自信を持ち、それを実際の行動で体現していくことが不可欠となります。

稲盛和夫氏は、何度も繰り返し社員に語りかけ続けました。ニヒルで疑心暗鬼な社員に対しては、それこそ捨て身の姿勢で語りかけ、虜にしていく努力を重ねました。そうした社員から「社長は利用しようとしている」など、反発の言葉を浴びせられても、一人一人に寄り添い、伝え続けたのです。一方的な押しつけではなく、対話を重ね、相手の考え方に寄り添いながらも自らの主張を折れずに説き続けました。そうした一人一人への地道な対話を継続することで、やがてはニヒリストな社員すらが心服するようになったのです。



このように、経営者自らが言葉を絶対の自信を持って繰り返し発し、行動でも実践し続けることが不可欠です。理念や行動がぶれることなく一貫していれば、いずれは社員の理解と共感を得られるはずです。言葉と行動の一致が、ついには社員の心までをも掌握することにつながるのです。

自分が理念を体現すること

しかし、それには経営者自身が先に変わらなければなりません。社員に向けて理想を説くまえに、自分自身がまずその理想に基づいて行動できるよう、自己変革を果たす必要があります。理想と行動に開きがあると、いくら理念を説いても社員には偽りと映るだけです。言行不一致は最悪の事態といえるでしょう。

経営者が真に変わるには、危機的な出来事に直面するなどの強い衝撃がなければ難しいかもしれません。過酷な体験を通して気付きを得て、新たな価値観を手に入れるのが一般的です。そうでなければ、徹底的な洗脳と自己錬磨に打ち込まざるを得ません。自己満足に陥ることなく、絶えず自問自答を重ね、本当の理想とは何かを探求し続ける姿勢が不可欠なのです。

この地道な努力の先に、確固たる理念と哲学が待っています。そしてその理念を体現する言動こそが、ついには部下の心をも掌握し、組織を一つにまとめ上げる力となるのです。経営者には、そうした強い思いと実行力が求められているのです。

まとめ

経営において、人心を掌握することは最も重要な要素の一つです。社員一人ひとりの心をつかみ、会社の目標に向かって一丸となって邁進することができなければ、本当の意味での成長や発展は望めません。

まとめますと、稲盛和夫氏は、苦しい経験からその重要性を身をもって学び、以下の3ステップで人心掌握に取り組みました。

  1. 社員と心を通わせる・・・スポーツや食事を共にするなど、あらゆる機会を通じて交流を深め、相互理解を図った。
  2. 社員に大義名分を示す・・・単なる利益追求ではなく、会社の目的や存在意義、価値観といった大義を明確に示した。
  3. 自らが先に変わる・・・言葉だけでなく、自らが実践することで言行一致を体現し、社員に徹底して語り掛け続けた。

このように、稲盛氏が人心掌握を成し遂げられたのは、ただ単に方法論を実践しただけでなく、そこに強い熱意と実直な姿勢があったからこそです。経営者自らが強い意志を持ち、捨て身の姿勢で取り組むことが、人心掌握のカギとなるのです。

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