佐藤一斎の重職心得箇条

「重職心得箇条(佐藤一斎)」の現代語訳&口語訳と解説。



清水直樹
江戸時代に活躍した佐藤一斎が遺した「重職心得箇条」について解説します。経営者にとって参考とすべき教訓が多数含まれています。

重職心得箇条とは?

佐藤一斎の重職心得箇条

重職心得箇条は、佐藤一斎がその出身地である岩村藩の為に作った重役の心構えを書き記したものであり、現在の経営者やリーダーにも役立つ普遍的な指導者の心得が書かれています。

重職心得箇条は、佐藤一斎が経験と学識に基づいてまとめた、重要な職務を果たす者が心得ておくべき教えや指針のことです。これは重職を担う者にとって、儒教的な倫理や行動指針を示すものであり、彼自身の経験や知恵を結集したものとされています。

具体的な内容は様々であり、職務の重要性や責任感、適切な振る舞いや判断方法などが含まれています。主に、重職に就く者は、重要な仕事に対して軽率な態度を持たず、自己の行動や発言に威厳と重みを持たせるべきであると述べています。これらの教えは、現代の経営者や指導者においても参考になることが多々ありますため、今回ご紹介させていただきます。

佐藤一斎とは?

佐藤一斎(さとういっさい:元々には”いいっさい”であるが、呼びやすいように”いっさい”とされた)は、江戸時代の儒学者として活躍しました。彼は「言志四録」を書いたことで有名ですが、今回ご紹介する「重職心得箇条(じゅうしょくこころえかじょう)」も経営者やリーダーにとって非常に貴重な文献となっています。

 

第一条:重職大臣の名を正す

原文

重職と申すは、家国の大事を取計べき職にして、此重の字を取失い、軽々しきはあしく候。大事に油断ありては、其職を得ずと申すべく候。先づ挙動言語より重厚にいたし、威厳を養うべし。

重職は君に代わるべき大臣なれば、大臣重うして百事挙ぐるべく、物を鎮定する所ありて、人心をしつむべし、斯の如くにして重職の名に叶うべし。又小事に区々たれば、大事に手抜あるもの、瑣末を省く時は、自然と大事抜目あるべからず。斯の如くして大臣の名に叶うべし。凡そ政治名を正すより始まる。今先づ重職大臣の名を正すを本始となすのみ。

現代語

重役とは、国家の重要な役割を担うべき立場であり、その重要性を忘れて軽々しい態度を取ることは良くありません。しっかりと人々の心や物事を落ち着かせる力がなければ、重役としての名にふさわしくありません。小さなことにこだわりすぎると、重要なことに手を抜いてしまうことがあります。瑣末なことを省けば、自然と重要なことを軽視することはありません。政治的な活動は、まず名を正すことから始まります。まずは「重役とは何か」ということを正しく認識することが必要です。

第一条解説

「名を正す」とは、ものの名と実が一致するようにすることです。この文脈においては、重職が果たすべき役割を明確にし、その役割を正確に果たすことを指します。以下に第一条から導き出されるリーダーの教訓を考えてみましょう。

  • 役割と責任の明確化

経営者は自身の役割と責任を明確に定義し、組織内外に示す必要があります。これによって、経営者自身と関係者が役割や責任について正しく認識し、適切な期待を持つことができます。役割の明確化は、組織内の円滑なコミュニケーションやタスクの効率的な分担を促進します。

  • リーダーシップと振る舞いの重視

経営者はリーダーシップを発揮し、組織の方向性や価値観を明確に示す必要があります。振る舞いや言葉遣いに重みを持ち、威厳を保つことが重要です。経営者の行動は従業員やステークホルダーに影響を与えるため、模範となる行動を示すことが求められます。

  • 優先順位の設定

小さなことにこだわりすぎると、重要な業務に手を抜いてしまうことがあります。重役は優先順位を明確に設定し、リソースや時間を適切に配分する能力が求められます。瑣末なことを省きつつも、重要な業務を遂行することが必要です。

 

第二条:部下の意見の扱い方

原文

大臣の心得は、先づ諸有司の了簡(りょうけん)を尽くさしめて、是れを公平に裁決する所其の職なるべし。もし有司の了簡より一層能(よ)き了簡有りとも、さして害なき事は、有司の議を用いるにしかず。有司を引き立て、気乗り能(よ)き様に駆使する事、要務にて候。又些少の過失に目つきて、人を容れ用いる事ならねば、取るべき人は一人も無き之れ様になるべし。功を以て過を補はしむる事可也。又堅才と云ふ程のものは無くても、其の藩だけの相応のものは有るべし。人々に択(よ)り嫌いなく、愛憎の私心を去って用ゆべし。自分流儀のものを取り計るは、水へ水をさす類にて、塩梅を調和するに非ず。平生嫌ひな人を能(よ)く用いると云ふ事こそ手際なり。此の工夫あるべし。

現代語

重職として心得るべきことは、部下の意見を十分に聞き、それを公平に判断することです。部下を奮い立たせ、意欲を高めるような扱いをしなければなりません。自分自身に優れた考えがあっても、それが些細な違いであるならば部下の意見を取り入れるべきです。わずかなミスによって人を捨てず、普段は嫌っている人材をうまく活用することが上手さの証です。自分と同じやり方の人ばかりを採用するのは、水に水を加えるようなもので、料理にはなりません。

第二条解説

第二条は部下の意見をどう取り扱うかについて書かれています。日々、そのような決裁を行っているリーダーも多いと思いますので、参考になるでしょう。要点としては以下のようになります。

  • 部下の意見を重視する:部下の意見を積極的に聞き、公平に判断することが重要です。組織内のメンバーが持つ知識や経験を活かし、チーム全体の意思決定に反映させることが必要です。また、自身の考えや意見があっても、些細な問題や意思決定においては、部下の意見を尊重し取り入れるべきです。他の視点や専門知識を取り入れることで、より良い結果を生み出すことができます。
  • 部下を奮い立たせる:部下を高めるような扱いをすることが重要です。適切な評価や報酬制度、成長機会の提供などを通じて、部下の意欲を引き出すような環境を整えることが求められます。
  • 多様な人材の活用:普段は嫌っている人材や自分とは異なるやり方を持つ人材をも上手に活用することが求められます。異なる視点やアイデアは新たな可能性を生み出し、組織の創造性やイノベーションを促進することができます。

 

第三条:伝統と変革の舵取り

原文

家々に祖先の法あり、取り失ふべからず。又仕来(きた)り仕癖(しくせ)の習いあり、是れは時に従って変易あるべし。兎角目の付け方間違ふて、家法を古式と心得て除(の)け置き、仕来り仕癖を家法家格などと心得て守株(しゅしゅ)せり。時世に連れて動かすべきを動かさざれば、大勢立たぬものなり。

現代語

各家庭には祖先からの伝統があり、それを失ってはいけません。また、慣習や独自の習慣も存在しますが、時代に合わせて柔軟に変えるべきです。ただし、頑固になって家の伝統や習慣を守り、新しいアイデアや変化を拒むことは大きな進歩を妨げます。時代の変化に合わせて適切に行動しなければ、成功することはできません。

第三条解説

家々とありますが、江戸時代における商家は一つの会社みたいなものなので、現代では、各会社それぞれの伝統と考えていいでしょう。

経営者にとって、伝統と変革の両方が重要です。伝統は会社のルーツや文化を守るために尊重されるべきであり、失われてはなりません。一方で、時代の変化に順応し、柔軟に変わることも必要です。



経営者は、古くから伝わる伝統や慣習を大切にしながらも、常に新しいアイデアや変化を取り入れる柔軟性を持つ必要があります。頑固になりすぎず、時代のトレンドや顧客のニーズに合わせて会社の仕組みを変えることが重要です。

あまりにも急激な変化や全てを捨てることも問題です。伝統や独自の慣習には、会社のアイデンティティや強みがあります。バランスを取りながら、適切なタイミングと方法で変革を進めることが求められます。

第四条:問題解決法

原文

先格古例に二つあり、家法の例格あり、仕癖の例格あり、先づ今此の事を処するに、斯様斯様あるべしと自案を付け、時宜を考へて然る後例格を検し、今日に引き合わすべし。仕癖の例格にても、其の通りにて能(よ)き事は其の通りにし、時宜に叶はざる事は拘泥すべからず。自案と云ふもの無しに、先づ例格より入るは、当今役人の通病(つうへい)なるべし。

現代語

問題を処理する際には、現在の状況を考慮し、まず自分自身で解決策を考え、その後で以前の経験や慣習を参考にするべきです。役人としては、まず自分の考えから始めることが重要であり、先例に頼りすぎることは避けるべきです。

第四条解説

経営者にとって、問題解決能力は極めて重要です。

  • 自らの意見を持つ

経営者(重職)となる人は、自身の考えをもち、知識、経験、洞察力を活かして解決策を考えるべきです。自らの視点や創造性を大切にし、自信を持って行動することが求められます。

  • 先例や経験の参考

過去の経験や慣習は貴重な知識源ですが、それに囚われることなく、あくまで参考として活用すべきです。経営者は先例に頼り過ぎず、状況に応じて適切に経験を活かす視点を持つべきです。

第五条:時機を見極める。

原文

応機と云ふ事あり肝要也。物事何によらず後の機は前に見ゆるもの也。其の機の動き方を察して、是れに従ふべし。物に拘(こだわ)りたる時は、後に及んでとんと行き支(つか)へて難渋あるものなり。

現代語

時機を見極めることは非常に重要です。物事に関係なく、将来の機会は現在の行動に表れます。その機会の動き方を察知し、それに従うことが必要です。物に固執しすぎると、後になって非常に困難な状況に直面することになります。

第五条解説

経営者は市場や業界の変化に対して敏感であり、それに迅速かつ適切に対応する能力が大切です。変化を察知するためには情報収集や市場調査を積極的に行い、競争力を維持するための戦略を立てる必要があります。同時に、期を活かすために、組織慣習にこだわらず、物事を進めることも大切です。

 

第六条:公平性と全体視点

原文

公平を失ふては、善き事も行はれず。凡そ物事の内に入ては、大体の中すみ見へず。姑(しばら)く引き除(の)きて、活眼にて惣体の体面を視て中を取るべし。

現代文

公平を失うと、良いことも行われません。一般的に物事に関与する場合、大まかな全体像を見ずには済みません。少し距離を置いて客観的に物事の全体的な様子を見て、内部を把握する必要があります。

第六条解説

公平を失うと良い結果を生むことができず、物事に関与する際には全体像を見ることが必要です。問題の中に入り込むと客観的な視点が失われるため、一旦外に出て事態を監察し、適切な判断と行動を取る必要があります。重職の行動は人々によく見られており、公平性を欠いた判断や行動は信頼を損ないます。

第七条:心理の理解

原文

衆人の心理を察せよ。無理・押し付けをするな。苛察を威厳と認めたり、好むところに私するのは皆小量の病である。

現代文

他の人々の心情を理解しよう。無理やり押し付けることは避けよう。他人を批判することを高潔な行為とみなしたり、自分の好みに従うことは、みんなちょっとした弱点である。

第七条解説

部下や社員の心情や考え方を察することは重要です。彼らのニーズや意見に耳を傾け、彼らが仕事に取り組む上での困難や課題を理解することが求められます。自身のビジョンや意見を社員に押し付けるのではなく、協力や協議の場を提供し、彼らの意見やアイデアを尊重することが大切です。批判的な意見や個人の好みに固執することを避け、フィードバックや協力関係を築くことに注力しましょう。

第八条:忙しさ

原文



重職たるもの、勤め向き繁多と云ふ口上は恥ずべき事なり。仮令(たとえ)世話敷(せわし)くとも世話敷きと云はぬが能(よ)きなり、随分の手のすき、心に有余あるに非ざれば、大事に心付かぬもの也。重職小事を自らし、諸役に任使する事能(あた)はざる故に、諸役自然ともたれる所ありて、重職多事になる勢いあり。

現代文

重職としての立場にある人は、「忙しい」と口にすべきではありません。時間に余裕があまりなく、心に余裕がないと、重要な事柄に不注意が生じる可能性があります。役員が些細な仕事まで自ら行い、部下に任せることができないため、部下が当然のように依存し、重職が忙しくなるのです。

第八条解説

忙しい、というのは良い意味で使われがちですが、経営陣が”忙しい、忙しい”と口にするのは、無能だと思われかねません。

忙しさをアピールすることは、時間管理や優先順位の設定に課題があることを示唆し、部下やチームの信頼や協力を減少させる可能性があります。心の余裕がないと大事なことに抜かりが生じます。

忙しい人は、部下に仕事を任せることができていないため、部下が依存し、結果的に経営陣が忙しくなります。経営陣の役割は、戦略的な方針立案やビジョンの伝達に集中することです。小さなタスクや日常業務は、部下に委任することで、組織全体の効率と成果を向上させることができます。

第九条:信賞必罰

原文

刑賞与奪の権は、人主のものにして、大臣是れ預かるべきなり。倒(さかし)まに有司に授くべからず。斯くの如き大事に至っては、厳敷(きびし)く透間あるべからず。

現代文

部下に刑罰や報奨、懲戒措置を決定する権限を与えてはなりません。このことは厳格に守り、透明性を保つべきです。

第九条解説

報奨、懲戒など、部下の行動や業績に関わる重要な決定は、経営陣が保持すべきです。経営陣は組織全体の方向性や目標に基づき、公平かつ一貫性のある判断を下す責任があります。部下に権限を与える場合でも、経営陣が最終的な決定権を持つことが重要です。

また、処罰や報奨に関する透明性を保つことが必要です。部下に対する処置が公正であることや報奨の基準が明確であることは、組織の信頼性やモチベーションの向上につながります。情報の公開や明確な基準の設定に努め、経営陣の判断が透明で公平であることを示すことが重要です。

第十条:物事の序列

原文

政事は大小軽重の弁を失ふべからず。緩急先後の序を誤るべからず。徐緩(じょかん)にても失し、火急にても過つ也。着眼を高くし、惣体を見廻し、両三年四五年乃至十年の内何々と、意中に成算を立て、手順を遂(お)いて施行すべし。

現代文

政治的な事柄においては、重要さや緊急度に応じた順序を誤ってはなりません。優先順位を正しく判断し、全体を見渡し、将来の数年から十年にわたる計画を立て、段階的に実施していく必要があります。

第十条解説

経営陣は、組織内の政策や戦略を策定する際に、重要性や優先度を適切に考慮しなければなりません。すべての課題やプロジェクトには異なる重要度があり、それぞれの優先順位を明確にすることが重要です。優先度の高い課題に対しては、リソースや時間を適切に割り当て、重要な成果を追求する必要があります。

数年から十年にわたる計画を立案し、目標を設定することで、組織の持続的な成長や競争力の確保を図ることができます。短期的な目標だけでなく、長期的なビジョンや戦略に基づいた計画を作成し、適切な手順を追って実行していくことが重要です。

また、組織全体を見渡す視点を持つことが重要です。部門や個別の業務だけでなく、組織全体のパフォーマンスや関連性を理解し、組織全体の目標達成に向けて取り組む必要があります。組織内の機能やプロセスの改善、リソースの最適化、シナジーの創出など、組織全体の総合的な視点を持ちながら意思決定を行うことが求められます。

第十一条:心の余裕

原文

胸中を豁大(かつだい)寛広にすべし。僅少の事を大造(=大層)に心得て、狹迫なる振る舞いあるべからず仮令(たとえ)才ありてお其の用を果たさず。人を容るる気象と物を蓄うる器量こそ、誠に大臣の体と云ふべし。

現代文

経営陣は、心に余裕を持ち、広く寛容な態度を持つべきです。些細な問題を過度に重視せず、細々としたことにこだわりすぎることは避けるべきです。包容力こそが経営陣の本質であり、大切な要素です。

第十一条解説

胸中にゆとりを持つことは、日常の業務や問題に対して冷静な判断を下すために重要です。感情的にならず、客観的な視点で事態を把握することができます。また、広い視野を持ち、多様な意見や観点を受け入れることができます。

また、つまらぬ事に時間やエネルギーを浪費することは避けるべきです。重要な課題やビジネス上の目標に集中し、そこに集中的に取り組むことが重要です。細かなことにこだわりすぎると、大局を見失い、組織の成果や目標達成に支障をきたす可能性があります。



経営陣は、包容力を持つことが重要です。組織内での多様な意見や個々の特性を尊重し、柔軟な対応を心掛けることが求められます。包容力があることで、組織内の人々は安心感を持ち、自己表現や成長を促進する環境を作り出すことができます。

第十二条:自己中心的な考え

原文

大臣たるもの胸中に定見ありて、見込みたる事を貫き通すべき元より也。然れども又虚懐公平にして人言を採り、沛然と一時に転化すべき事もあり。此の虚懐転化なきは我意の弊を免れがたし。能々(よくよく)視察あるべし。

現代文

大臣は、自身に定まった信念や意見を持ち、それを貫き通すことが重要です。しかし、同時に他人の意見や批判を素直に受け入れ、適切な場面で柔軟に対応することが必要です。このような姿勢がない場合、自己の固定観念によって問題を解決することができません。

第十二条解説

自身の信念を持ちつつも、他者の意見に対しても開放的であることが重要です。自己中心的な思考を克服し、臨機応変な対応ができることで、より有意義な意思決定や問題解決が可能になります。他者の意見を聞き、素早く対策を転換することが必要です。このような臨機応変な対応ができない場合、自己中心的な思考による弊害を招く可能性があります。

 

第十三条:部下とのバランス

原文

政事に抑揚の勢いを取る事あり。有司上下に釣り合いを持つ事あり。能々(よくよく)弁(わきま)ふべし。此の所手に入て信を以て貫き義を以て裁する時は、成し難き事はなかるべし。

現代文

政治の場では、時には熱意や強い意志を持つことがありますが、同時に部下とのバランスを保つことも重要です。この点を理解しておかなければなりません。現在の情勢や状況を適切に把握し、信念を持ちながらも公平な立場を保ち、正義を基準に判断していくことが求められます。そうすることで、困難な課題でも達成可能なものとなるでしょう。

第十三条解説

情熱や意欲を持ちながらも、部下とのバランスを保つことが重要です。強い指導力と協調性を兼ね備え、信頼関係を築くことが求められます。次に、一度手に入れたビジョンや戦略に対しては信念を持ち、貫くことが重要です。困難に直面しても信じた方針を持続し、長期的な目標に向かって進む強さを持つことが必要です。そして、意思決定や判断を行う際には公正さと正義を基準にすることが重要です。倫理的な価値観や社会的責任を考慮し、持続可能性を重視した行動を取ることが求められます。これらの教訓を実践することで、組織内でのバランスの取り方や信念の貫徹、正義に基づいた意思決定が促進され、組織の目標達成や持続的な成長が実現されるでしょう。

 

第十四条:実成とは何か

原文

政事と云へば、拵へ事繕ひ事をする様にのみなるなり。何事も自然の顕れたる儘(まま)にて参るを実政と云ふべし。役人の仕組む事皆虚政也。老臣など此の風を始むべからず。大抵常事は成るべき丈は簡易にすべし。手数を省く事肝要なり。

現代文

政治とは、細かな取り繕いや仕組みにばかり時間を費やすものではありません。真の政治とは、自然の流れに従いながら進むことを指します。行政官が作り上げる機構や手続きは、すべて形式的なものであり、実質的な政治ではありません。経験豊かな政治家は、このような風潮を起こすことを避けるべきです。

第十四条解説

たとえば、会議や報告書の作成、手続きの煩雑さに埋もれて本質を見失うことがあります。しかし、経営陣が真の実政を実現するためには、形式主義に囚われずに重要なことに集中する必要があります。

実政とは、組織の成果や目標達成に向けた努力や決断を意味します。経営陣が会議や手続きに時間を費やすだけでなく、現実の課題や戦略的な目標に焦点を当てて行動することが求められます。

真の実政を行うためには、自然の流れを見極めることが重要です。例えば、市場の変化や顧客のニーズに敏感に反応し、柔軟に対応する能力が求められます。経営陣は、細かな拵え事や繕い事に時間を費やすだけでなく、現実の課題に果敢に取り組む姿勢を持つべきです。

 

第十五条:文化は経営陣から生まれる

原文

風儀は上より起こるもの也。人を猜疑し蔭事を発(あば)き、たとへば誰に表向き斯様に申せ共、内心は斯様なりなどと、掘り出す習いは甚だあしし。上(かみ)に此の風あらば、下(しも)必ず其の習いとなりて、人心に癖を持つ。上下とも表裏両般の心ありて治めにくし。何分此の六(むつ)かしみを去り、其の事の顕(あらわ)れたるままに公平の計(はから)ひにし、其の風へ挽回したきもの也。

現代文

風習は上から始まるものです。人々がお互いを疑い、裏表のある行動を取ることは好ましくありません。表向きにはあるような態度をとりながら、内心では別の考えを抱くような習慣は非常に問題があります。上位者がこのような風習を持っていると、下の人々も同様の習慣を身につけ、人々の心に不信感や習慣が広まってしまいます。上下双方が表裏の心を持ち、統治することが難しくなります。ですから、このような複雑さから離れ、事実の明らかな状況に基づいて公平な判断を行い、風習を改めるべきです。

第十五条解説

経営陣のリーダーシップと行動が重要な役割を果たします。例えば、ある企業の経営陣が従業員の信頼を得るために透明性と公平性を重視することを決定しました。経営陣は自らが透明かつ公正な意思決定を行い、情報を共有し、社員とのコミュニケーションを活発に行いました。その結果、社員たちも透明性と公平性を重んじる風習を身につけ、組織全体で信頼と協力の雰囲気が醸成されました。

逆に、ある企業では経営陣が不正行為を黙認したり、内部での優遇や不公平な取り扱いを行ったりしました。これが下層の社員に広まり、風習として浸透しました。結果として、不正行為や不信感が組織内に広がり、社員のモチベーションや組織のパフォーマンスが低下しました。

以上の事例からわかるように、経営陣のリーダーシップと行動が組織の風習(文化)に大きな影響を与えます。経営陣は自身が望む価値観や行動を示すことで、組織全体にそれを浸透させることができます。



第十六条:物事の透明性

原文

物事を隠す風儀甚だあしし。機事は密なるべけれども、打ち出して能(よ)き事迄も韜(つつ)み隠す時は却って衆人に探る心を持たせる様になるもの也。

現代文

物事を隠す風習は非常に問題があります。確かに機密情報は適切に管理する必要がありますが、明らかにするべきであることを意図的に隠すと、むしろ人々に疑念を抱かせる結果になります。

第十六条解説

例えば、ある企業の経営陣が製品の品質問題に直面した場合を考えてみましょう。経営陣が情報を隠し、問題を放置した場合、顧客の不満や信頼の低下、さらには法的な問題に発展する可能性があります。

逆に、経営陣が問題を早期に認識し、積極的に情報を開示し、顧客との対話を重視した事例も存在します。例えば、自動車メーカーがリコールを発表する際、経営陣が迅速かつ正直に問題を認め、影響を受ける顧客に対して対応策や補償を提供した場合、信頼を回復し、顧客満足度を向上させることができます。

これらの事例からわかるように、経営陣が情報開示と透明性を重視することは、組織の信頼性と持続可能な成長に不可欠です。経営陣が積極的に情報を開示し、問題に対する責任を果たすことで、社員や顧客は組織の姿勢に共感し、協力意欲を高めることができます。

第十七条:社員の心を新たにする

原文

人君の初政は、年に春のある如きものなり。先づ人心一新して、発揚歓欣の所を持たしむべし。刑賞に至っても明白なるべし。財帑(ざいど)窮迫の処より、徒(いたず)らに剥落厳沍(げんご)の令のみにては、始終行き立たぬ事となるべし。此の手心にて取り扱いあり度(たき)ものなり。

現代文

政治の始まりは、春の訪れのようなものです。まずは人々の心を新たにし、元気で楽しい気持ちを持たせることが重要です。刑罰や報奨も明確であるべきです。財政が苦しいからといって、冷たく命令ばかりするだけでは、結局うまくいかなくなるでしょう。このような心遣いが必要なのです。

第十七条解説

社員の士気とやる気を高めることは、成果を上げるために欠かせない要素です。

  1. 明るく元気な組織風土を醸成しましょう。社員が働きやすく、楽しく感じられる環境を整えることが重要です。コミュニケーションを活発化し、チームワークや協力を促進しましょう。
  2. 公平な報酬制度を導入しましょう。優れた業績を上げた社員には適切な報奨を与え、組織の目標達成に貢献した人々を評価しましょう。
  3. 社員の安心感と成長を重視しましょう。経営の困難に直面しても、社員の福利厚生やキャリア開発に投資することを忘れないでください。彼らが組織に対する忠誠心を持ち続けるためには、経済的な安定だけでなく、成長の機会や満足感を提供することが重要です。

 

まとめ

以上、重職心得箇条を解説してきました。全部で十七条あります。これは佐藤一斎が十七条憲法を参考にして十七条にしたとされています。そのためか、一部重複しているような内容もありますが、経営陣の指針として非常に大切で普遍的な内容が書かれていると思います。重職心得箇条を幹部の育成や重職の仕事内容の定義に活用されてもいいかもしれません。

 

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