注:2021年8月に「ビジョナリー・カンパニーZERO」というタイトルで日本語版が出版されました。
ジムコリンズが「ビジョナリーカンパニー」の前に書いた本
「Beyond Entrepreneurship」はジムコリンズが「ビジョナリーカンパニー」シリーズの前に出版した書籍。日本では出版されていませんが、海外では隠れたファンがいることで有名な書籍でもあります。先ごろ、フォーブス誌でネットフリックスCEOリード・ヘイスティングスが毎年読み直す1冊の本として紹介されたのがこの「Beyond Entrepreneurship」でした。
ネットフリックスといえば、動画配信の世界的大手。あのアマゾンとも互角に張り合う優良企業です。そのCEOがバイブルとしている本ということで内容が気になりますよね。残念ながら日本語版が出ていないので、本記事で要約と私なりの解説をしたいと思います。
「Beyond Entrepreneurship」の内容を一言で言うと、中小企業がワールドクラスの優良企業になるにはどうすればいいか?を解説したものです。
当たり前ですがネットフリックスも昔は小さな会社だったのです。昔はオンライン配信ではなく、ツタヤのように郵送でDVDをレンタルするというアナログモデルでした。そこからオンライン動画プラットフォームへと進化。いまではオリジナル作品を多数開発していて、単なる動画配信会社ではなくなっています。そのように、普通の中小企業をワールドクラスの優良企業へと変貌させるにはどうしたらよいか?その質問に答えようとしたのがこの本です。
なのでテーマ的にはビジョナリーカンパニーと近いですね。どちらかというと、「Beyond Entrepreneurship」は中小企業の経営者を対象にしている点がビジョナリーカンパニーと異なる点かも知れません。
ちなみに私はこの本を数年前にたまたまゲットしていました。
なぜ私がこの本を持っていたのか?実は数年前に米Infusionsoft社に視察しに行った際、この本もオススメだよ、と言って教えれくれたのがこの本でした。アマゾンで調べたところ、日本語版はなかったのですが、とりあえず英語版をゲットしておいたのです。
とはいえ、特に読む緊急性もなかったので、ホッタラカシでした。。。
フォーブスの記事をたまたま見つけ、「あれ、この本あったな」ということで、本棚から取り出して読み始めた、というわけです。
ジムコリンズがなぜ「Beyond Entrepreneurship(邦題:ビジョナリー・カンパニーZERO)」を書いたのか?
なぜジムコリンズがこの本を書いたのでしょうか?その理由は、本書の前書きに書かれています。ちょっとその前書きを引用させていただきます。
ジム・ジェンテスに初めて会った時、彼は在庫を持って寝ていました。サンノゼの狭い1ベッドルームのアパートから新しい会社を立ち上げた彼は、寝室を完成品の倉庫に変えていました。ガレージには部品や機材がぎっしり詰まっていて、4人の若者が100度の熱気の中で必死に自転車のヘルメットを作っていました。ジェンテスは、このアパートを出て、すぐに自分のビルに入り、会社を成功させる道を歩むことを期待していると話してくれた。
そして彼は、起業家精神や中小企業経営に関する本の山を指差した。”これらの本は、私を起業させるのに役立っています。”しかし、私が本当に知りたいことを教えてくれるわけではありません。
そのとき、この本のアイデアが生まれました。
この本は、既存の企業を永続的な優良企業に変える方法について書かれています。ジム・ジェンテスのように、自分の会社を特別なものにしたい、賞賛と誇りに値する会社にしたいと考えている人のために書きました。私たちは、高いパフォーマンスを維持し、業界を形成する上でリーダーシップを発揮し、ロールモデルとしての地位を確立し、何世代にもわたって偉大な企業であり続けるような、並外れた組織を構築するための支援に焦点を当てています。もしあなたが、偉大な会社にしたいと考えている企業のリーダーであれば、この本はあなたのためのものです。
主に中小企業のリーダーのために書いています。なぜでしょうか?通常、会社がまだ小さくて、リーダーの価値観を体現出来ているうちに偉大さの基盤は築かれているからです。
IBMが偉大なのは、IBMが今日のような一枚岩になるずっと前にトム・ワトソンがやったことがあるからです。NIKEが偉大なのは、NIKEがゴリアテに立ち向かう不器用なダビデだった頃、フィル・ナイトが行ったことがあったからです。3Mが偉大なのは、数十年前にウィリアム・マッキン グナイトが会社を彼の価値観に合わせて修正したからです。L.L.ビーンが偉大なのは、メイン州フリーポートの1つのビルで小さな会社を運営していた時のレオン・ビーンの行動があったからです。パタゴニアが偉大な企業であるのは、企業の形成期にクリスティン・マクディビット(パタゴニアの前CEO)が残した忘れられない足跡があるからです。
もしあなたが中小企業のリーダーならば、偉大さの建築家になるのはあなたです。本書は、そのような建築家になることについて書かれています。
偉大な会社とは何でしょうか?私達は次の4つの規準に合う会社を偉大であると定義します。
- パフォーマンス・・・偉大な会社は、自立するのに十分なキャッシュフローを生んでいます。浮き沈みがあり、悲惨な時期もありますが、偉大な会社は常に回復し、最終的には高いパフォーマンスを取り戻す。
- 影響・・・偉大な会社は業界で重要なリーダーシップの役割を果たしている。それは必ずしも最も大きい会社ではない。
- 評判・・・偉大な会社は外の人々によって賞賛され、尊敬され、頻繁に模範となる。
- 長寿・・・偉大な会社は、何世代もの経営者にわたって偉大さが持続し、創業者の存在を超えて自己再生する存在である。
企業が偉大であるためには、完璧である必要はありません。どんな会社も完璧ではありません。偉大な企業は、偉大なスポーツ選手のように、時につまずき、一時的に評判を落とします。しかし、偉大な会社は回復力があります。
「Beyond Entrepreneurship(邦題:ビジョナリー・カンパニーZERO)」ジムコリンズ著の全体像
では、「Beyond Entrepreneurship」にはどんな内容が書かれているのかを見ていきましょう。本書の全体像と構成は以下の図の通りです。
リーダーシップスタイル
偉大な会社を創るプロセスは社長のリーダーシップからスタートします。一般的には「優れたリーダー=カリスマ的な社長」というイメージがありますね。その典型例はスティーブ・ジョブズやリチャードブランソン、本田宗一郎氏、松下幸之助氏などでしょうか。しかし、本書では効果的なリーダーシップを分解してみると、「リーダーシップ機能」と「リーダーシップスタイル」に分けられるとなっています。
リーダーシップ機能とは全社のビジョンを設定し、そこに向けて組織を動かしていくということです。これはすべての偉大な企業に必要な機能となります。
一方のリーダーシップスタイルというのは、個人個人に特有なものです。わかりやすい例を挙げれば、ビルゲイツ氏はスティーブジョブズ氏と違ってカリスマ性が無いリーダーと言われていますが、マイクロソフトという偉大な会社を創ったリーダーでもあります。要するに、両者はリーダーシップスタイルは違うものの、二人とも会社の中で求められるリーダーシップの機能は果たしていたということです。
7つのリーダーシップスタイル
ジムコリンズはリーダーシップスタイルスタイルについて、以下の7つの要素があると書いています。
- 信頼できること(Authenticity)
- 決断力(Decisiveness)
- 集中力(Focus)
- 触れ合い(Personal Touch)
- ハードスキル/ソフトスキル(Hard/Soft People Skill)
- コミュニケーション(Communication)
- たゆまぬ前進(Ever Foward)
有能なリーダーたちはこれらのスタイルを持ち合わせているとのことです。
ビジョン
一方のリーダーシップ機能の一番大事なことは、Shared Vision(共有ビジョン)を創り出すことだと書いてあります。この辺は同じくジムコリンズ著「ビジョナリーカンパニー」に書いてあることとだいぶ近いかなと思います。
ビジョンの構成要素としては、以下のコリンズ・ポラス・ビジョン・フレームワーク(Collins-Porras Vision Framework)で紹介されています。
コアバリュー&ビリーフ
- 仕事と人生の指針となる哲学やガイド
- 犯してはいけない原則
- リーダーの個人的な価値観と信念の延長線上にあるもの
パーパス
- 組織が存在する根本的な理由
- コアバリューから生まれるもの
- 前に進むのに役立つが、決して到達しない北極星のようなもの
- 会社が100年続くためのガイドになるもの
ミッション
- 大胆で不敵なゴール
- 明確な到達期限。到達したら新しいミッションを創る。
- 4つのタイプ(目標、共通の敵、ロールモデル、内部的変革)
ビジョンについての留意点①未来を生き生きとしたイメージで描くこと
ビジョンを文書化するときには、曖昧でありきたりな言葉ではなく、未来が映像でイメージできるくらい具体的で生き生きとした自分の言葉で書くこと。
ビジョンについての留意点②”We’ve arrived syndrome”に気を付ける
企業が停滞する原因としてあるのが、”We’ve arrived syndrome”というもの。これは上記のミッションとして設定したゴールが達成されてしまうと、会社としての次のゴールが無くなり、停滞してしまうというものです。そうならないためにもリーダーは次のミッションを打ち立てる必要があります。
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なお、こういった理念体系の立て方についてはこちらの記事に詳しく解説していますので合わせてご覧ください。
戦略
偉大な会社を創るための次の要素は戦略です。ジムコリンズによれば、戦略とは”ミッションを達成するためのやり方”とのことです。
効果的な戦略を立てるための原則
- 戦略はビジョンにつながっていなければならない。したがって、自分たちが何をしようとしているのかというビジョンが最初になければ、戦略を立てることもできない。
- 戦略は自社の強みとユニークな能力にレバレッジをかけるものでなくてはならない。
- 戦略は現実的でなくてはならない。内部的な制約と外部要因を考慮に入れること。
- 戦略はそれを実行する人を巻き込んで立てなくてはならない。
戦略を立てるプロセス
- ビジョンを確認すること。
- 内部要因のアセスメント:自社の強み、弱み、リソース、新しいアイデアを調べること。
- 外部要因のアセスメント:競合や市場、トレンドについて調べること。
- 決定を行う:どういう商品を、どのような顧客に売るか、財務の計画、人と組織の体制、インフラについて決める
ジムコリンズによれば、戦略は3年~5年分をつくり、毎年改定することが大切で、戦略を静的なものではなく、動的な物として捉え、変化させていくものであるとのことです。
中小企業が悩む戦略の課題
中小企業が直面する戦略上の課題は次の4つ。戦略を立てるときにはこれらの課題をよく検討することが大切。
1.どれくらい早く成長するか?
急すぎる成長戦略は組織やマネジメントの崩壊をもたらします。これはメディアに出てくるニュースなどを見てもイメージが付きますね。
2.フォーカス VS 多角化
中小企業は限られたリソースを一つの市場や商品にフォーカスしたほうが成果が出やすい。しかし一方、それだけでは成長に限界があることも事実です。そのため、多角化していく必要もあります。そのタイミングを間違わないことが大切です。
3.上場を目指すか、目指さないか
ある程度の規模に成長したら上場する、というのが常識のように思われていますが、実際にはそうではなく、上場することのメリットとデメリットをよく考える必要があります。
4.マーケットリーダーになるか、フォロワーになるか
マーケットリーダーになる戦略は成功すれば大きな実りもあるが、そうなるためには多額の投資が必要なのも事実であり、リスクもあります。リーダーが開拓した市場を刈り取るフォロワーとなる方法もあるので、どちらが良いか検討が必要。
イノベーション
偉大な会社になるには継続的にイノベーションを行うこと(新しいアイデアを実行に移すこと)が必須であり、そのためには以下の6つの要素を考えることが大切です。
様々なアイデアを受容すること
ジムコリンズによれば、イノベーティブな会社というのは、そうでない会社よりも多くのアイデアを持っているわけではないが、アイデアに対して受容的であるという特徴があるとのことです。アイデアは社内から生まれるときもあれば、社外からもたらされることもあります。たとえば、アップル社のマッキントッシュはもともとゼロックスが持っていたアイデアでした。ゼロックスの上層部はそのアイデアに受容的ではありませんでしたが、スティーブジョブズは受容的だったためにイノベーションを起こすことが出来ました。
顧客になってみること
これは顧客視点になる、ということではなく、自分が欲しいもの、必要としているものを創る、という意味合いに近い考え方です。本書内の例ではありませんが、「Basecamp」という人気のプロジェクト管理のソフトウェアは、もともとSI企業が自分たちが内部的に使うために開発したツールを顧客に提供しだしたことが人気になった秘訣だったとされています。
実験と失敗
実験と失敗を繰り返すこと。新しいアイデアは”可能な限り小さいプロジェクトでスタートすることが大切とのことです。また創造力のある人を雇ったり、実験に挑戦した人に報酬を提供することも良いでしょう。
社員をクリエイティブにする
社員のクリエイティブさをトレーニングすることであったり、多様な背景を持った人を採用すること。ただ、ここでは多様さとコアバリューについてしっかり理解することが大切です。これは私たちもたまに質問されることでもあるのですが、コアバリューを決めて、それに合う人を雇う、ということだと多様性が失われてしまい、イノベーションの妨げになるのではないか?という疑問が出てきます。ジムコリンズはこれに対して、社員のスキルや背景には多様性があったほうが良いが、コアバリューの多様性は避けるべきであると書いています。
自立性と分散化
会社が小さいうちは、組織をタイトにしたほうが良いが、100人~200人になったら、組織を自立させるために分散化を考えるタイミングだとのことです。しかし、その場合においても各メンバーが行う仕事はビジョンに向かうようにしておかなくてはいけません。
戦術の卓越さ
偉大な会社を創る最後のステップは戦術の卓越さ。たとえば、ウォールマートはディスカウントストアの先駆者ではありませんでしたが、創業者サム・ウォルトンの実行力が優れていたために、つまり戦術が卓越していたために他の競合を上回って成功しました。
マイルストーンマネジメント
戦術に卓越さをもたらすには、ビジョン、戦略を明確なマイルストーン(期限と責任者)に落とし込むことが欠かせません。
また、社員個人個人のゴール設定については、会社のビジョンとともに、個人のビジョンも考慮に入れて作ることが大切と書いています。会社のビジョンと個人のビジョンをつなぎ合わせて個人の年間ゴールを決め、四半期ゴールを決め、ウィークリーのタスクを決め、今日何やるかを決める、というように大きなものを小さいものへと分解していくことです。
まとめ
ジムコリンズは本書のまとめで、偉大な会社を創るためにはここに書いたような基本的なことを行うことが大切だであると言うと同時に、”リスペクト(尊重)”することが成功の秘訣だと言っています。以下にその言葉を引用したいと思います。
偉大な会社は”リスペクト(尊重)”を基礎に作られている。彼らは顧客を尊重し、自分たちを尊重し、関係性を尊重している。そして重要なことにすべての社員を尊重している。彼らは社員を尊重しているので、彼らを信頼することが出来る。また、だからオープンで正直で居られる。彼らに自由を提供し、決定をしてもらうことが出来る。生来の創造性や知性、能力を信じることが出来る。
(中略)
尊重を基礎に作られた会社は、それ自体が尊重の対象となり、他社にとってのロールモデルとなり、世の中にインパクトを与えることが出来る。商品やサービス、社員を通じてだけではなく、他の会社にとってのガイドになるのである。
以上、ジムコリンズの「Beyond Entrepreneurship(邦題:ビジョナリー・カンパニーZERO)」を要約させていただきました。当然、もっと詳しい内容が書いてある本で私自身も何度も読み会したい本だなと思いました。翻訳されていないのが惜しいです。この記事が少しでも皆さんのお役に立てれば幸いです。