キャッシュコンバージョンサイクルの計算式と資金繰り改善方法



清水直樹
ャッシュコンバージョンサイクルは、会社の資金繰りを改善するために知っておきたい指標です。本記事では、その計算式や改善方法などを見てみましょう。

キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)とは?

キャッシュコンバージョンサイクル(以下、CCC)は会社が商品や原材料の仕入れに対して支払いを行い、その後の営業活動により発生した売上代金が回収されるまでにかかる期間を示す指標です。CCCが短いほど資金繰りに余裕があると言えます。

資金繰りの改善

CCCが短いほど、商品やサービスの売上から現金を得るまでの期間が短縮されます。これにより、資金繰りが改善され、急な支出や投資にも迅速に対応できます。

運転資金の低減

CCCが短縮されると、運転資本を最小限に抑え、効率的に資金を活用する手段となります。これにより、余剰資金を投資に回すなど、成長戦略に柔軟に対応できます。

信用と取引条件の向上

CCCが短い会社は支払い能力が高い会社と判断されます。そのため、取引先との信頼関係を構築しやすくなり、仕入先との交渉で有利な取引条件を得られる可能性が高まります。

キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)の計算式

CCCの計算式は以下の通りです。

CCC=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数−仕入債務回転日数

  • 売上債権回転日数: 売上債権が回収されるまでの平均日数を表し、企業が売上から現金化までにかかる期間を示します。
  • 棚卸資産回転日数: 商品や原材料の在庫が仕入れられてから販売されるまでの平均日数で、在庫がどれくらい迅速に回転しているかを示します。
  • 仕入債務回転日数: 仕入債務が支払われるまでの平均日数で、企業が仕入れた商品や原材料に対する支払いのサイクルを示します。

計算式で見ると複雑そうですが、図にしてみるとシンプルで分かりやすくなります。

キャッシュコンバージョンサイクルの計算式

この図をご覧いただければわかるとおり、売上入金日と仕入れの支払い日の差がCCCになります。CCCが短い方がいいと言うのは、一目瞭然と言えるでしょう。

以下、計算式についてより詳しく見てみましょう。

キャッシュコンバージョンサイクルの計算式の構成要素

CCCは主に以下の3つの構成要素から成り立っています。

  1. 売上債権回転日数(Days Sales Outstanding, DSO)
    • 意味: 売上債権が回収されるまでの平均日数を示します。これは企業が商品やサービスを提供してから顧客から代金を受け取るまでの期間です。
    • 影響: DSOが長いほど、企業は売上に対する収益を遅れて受け取り、資金が適切に回収されない可能性があります。
  2. 棚卸資産回転日数(Days Inventory Outstanding, DIO)
    • 意味: 商品や原材料の在庫が仕入れられてから販売されるまでの平均日数を示します。在庫回転の速さを表します。
    • 影響: DIOが長いと、在庫が迅速に回転せずに滞留し、キャッシュが仕入れた商品に拘束される可能性があります。
  3. 仕入債務回転日数(Days Payable Outstanding, DPO)
    • 意味: 仕入れた商品やサービスに対する支払いが完了するまでの平均日数を示します。これは企業が仕入先に支払いをするサイクルです。
    • 影響: DPOが長いほど、企業は支払期限が延び、キャッシュを保持できる可能性があります。

 

キャッシュコンバージョンサイクルを短縮するには?

では、CCCを短縮し、資金繰りを改善するにはどうすればいいでしょうか。以下に可能性のある方法を列挙してみます。

1. 在庫削減のための簡単な方法

  • 的確な商品予測: おおよその需要を把握し、商品を的確に予測することで在庫を最適化します。
  • 必要な分だけの生産: 顧客の注文があった時点で生産・仕入れを行い、余分な在庫を抱えずに済ませましょう。
  • 不要な安全在庫の見直し: 適切なサービスレベルを維持しつつ、過剰な安全在庫を見直して最小限に抑えます。

2. 売掛金回収期間を短縮する手軽な方法

  • 早期支払いの促進: お客様に早期支払いを奨励するディスカウントや特典を提供することで、支払いを早めることができます。
  • オンライン請求と支払い: 請求書をオンラインで送り、お客様にもオンラインで支払いをしてもらうことで、手続きを迅速かつ簡単に進めます。

3. 仕入債務回転期間を最適化する手っ取り早い方法

  • 取引条件の交渉: 仕入れ先との取引条件を柔軟に交渉し、支払いの期限を調整することで、キャッシュフローを改善できます。
  • 生産と調達の効率化: 生産や調達プロセスをシンプルにし、効率を上げることで、支払いサイクルを短縮させます。
  • 電子取引の利用: 請求書や支払い手続きを電子化することで、ヒューマンエラーを減らし、支払いプロセスを迅速に進めます。

これらの手法を組み合わせて使うことで、中小企業の経営者でも理解しやすい資金繰りの改善が可能です。

事例:キャッシュコンバージョンサイクルがマイナスの企業

CCCは通常、プラスになります。つまり、仕入れ代金を支払ってから売上額が入金されます。しかし世の中には、キャッシュコンバージョンサイクルがマイナスというツワモノ企業も存在します。キャッシュコンバージョンサイクルがマイナスということは、売上額が入金されてから仕入れ代金を払っているということになります。この場合、売上代金の中から仕入れ代金を払うということになりますので、資金的には非常に余裕が生まれます。言い方を変えれば、投資をする前に、投資によるリターンを回収してしまっている、ということになります。

どうすればそんなことが可能になるのか。キャッシュコンバージョンサイクルがマイナスの企業の代表例として挙げられるDELLとアップルの事例を見てみましょう。

DELLのCCC事例

デル(DELL)は、CCCをマイナスに達成する独自の手法を導入し、成功を収めました。主なポイントを以下に示します。

1. 直接販売モデルの採用

デルは製品を小売業者を介さずに直接顧客に販売する「直接販売モデル」を採用しました。これにより、在庫や仕入れに関する余分なコストや時間が削減され、CCCの改善に寄与しました。

2. BTO(Build To Order)モデルの導入

デルはBTO(Build To Order)モデルを採用し、注文を受けてから製品を生産する方式を採用しました。これにより在庫を最小限に抑え、需要に合わせた生産が可能となりました。CCCをマイナスにするためには、仕入れから売上債権の回収までの期間を短縮することが重要であり、BTOモデルはその実現に寄与しました。

3. サプライチェーンの効率化

デルはサプライチェーンを効率的に管理し、供給者との連携を強化しました。生産材料や製品が滞留することなく、迅速かつ正確なプロセスが確立され、CCCの改善に寄与しました。

 

アップルのCCC事例

1998年にアップルに入ったティム・クックは、オペレーションの責任者としてサクラメント工場などを閉鎖し、生産を外注に切り替えました。これにより、アップルは無駄な在庫を減らし、在庫回転率を上げ、CCCを改善していきました。以下、公認会計士:川口宏之氏による解説を抜粋してみます。

ティムクックが成し遂げたこと

1993年から1996年までのCCCはプラス116日から50日と変動していましたが、クックの影響で1999年にはマイナス25日に急激に改善しました。2002年にはマイナス40日と進化を続け、アップルはキャッシュを積み上げていくことが可能になりました。2018年度のアップルのCCCはマイナス84日で、これは日本の製造業を参考にすると、パナソニックがプラス約22日、トヨタがプラス約27日と比べても圧倒的な数字です。アップルはジョブズが亡くなった時点で約9兆円のキャッシュを積み上げ、クックがCEOに就任したピーク時には約30兆円ものキャッシュを保有していました。

オペレーションの徹底

アップルは外注先の工場での生産にまで口を出し、技術者を送り込んでコントロールを行っています。アップルのオペレーションは非常に徹底的で、新製品の立ち上げ時期には担当者が工場近くのホテルに滞在し、生産ラインに張り付いて納期通りの出荷を確保しています。



アップルは部品サプライヤーに対しても管理システムを導入し、生産計画について柔軟に対応しています。これによりアップルは、製品の生産から納品までの日程を的確にコントロールし、迅速かつ効率的な運用を実現しています。

アップルのCCCの改善と経営手法の変革は、ティム・クックがオペレーションにおいてどれだけ徹底的かつ効果的な手法を採用したかを示しています。その結果、アップルはキャッシュを効率的に管理し、資金繰りの心配をせずに新製品開発に注力できる体制を築き上げ、世界的な成功を収めています。

まとめ:キャッシュコンバージョンサイクルの改善

以上、キャッシュコンバージョンサイクルについて見てきました。CCCを短くすることによって、資金繰りに困らないない会社を実現することが出来ます。
なお、仕組み経営では、キャッシュコンバージョンサイクルなど適切な指標を設定し、それを追求する仕組みを作ることによって、仕組みで永続する会社作りのご支援をしております。詳しいことは、以下の仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。

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