割れ窓理論

割れ窓理論とは?意味と職場の具体例、会社での対策5ステップ



清水直樹
今日は、割れ窓理論についてご紹介していきます。よく「小さな乱れを放置すると大きな乱れになる」と説明されますが、本当の要点はそこではありません。会社で何が起きているのかを見ていきましょう。

 

割れ窓理論とは?意味をわかりやすく解説

割れ窓理論とは、建物の割れた窓を1枚放置しておくと、やがて他の窓もすべて割られてしまうという考え方です。もとは犯罪学の理論で、軽微な秩序の乱れを放置すると、それがやがて重大な犯罪を招くと説明します。

ここで大事なのは、割られる理由です。窓が割れているから汚いのではありません。「この場所は誰も気にしていない」という合図が出ているから、次の窓が割られます。つまり割れた窓そのものではなく、それが放置されているという事実が次の行為を呼び込みます。

この考え方は、そのまま会社にも当てはまります。守られていない社内ルールが1つあるとき、問題はそのルールが守られていないことだけではありません。「この会社では、決めたことが守られなくても何も起きない」という合図が、社内に出続けていることのほうが重大です。

読み方と英語表記

読み方は「われまどりろん」です。英語では「Broken Windows Theory」と表記します。日本語ではこの英語をそのままカタカナにした「ブロークンウィンドウ理論」という呼び方もあり、指しているものは同じです。

また、日本語では「窓割れ理論」と表記されることも同じくらい多く、どちらも同じ理論を指します。検索するときにどちらの表記でも同じ内容が出てくるのは、このためです。社内で使うなら「割れ窓理論」に統一しておくと、資料を探すときに混乱しません。

提唱したのは誰か

提唱したのは、政治学者のジェームズ・Q・ウィルソンと、犯罪学者のジョージ・L・ケリングです。2人は1982年、アメリカの雑誌「The Atlantic」に「Broken Windows」という論文を発表しました。

この論文は、ケリングが1970年代にニュージャージー州ニューアークで行われた警察官の徒歩巡回の調査を評価した経験から生まれています。徒歩で巡回する警察官は、犯罪を減らしたというより、住民が感じる「この地域は秩序が保たれている」という感覚を高めていた。そこから、秩序そのものを扱う理論に発展しました。

きっかけになった放置自動車の実験

この理論には、下敷きになった有名な実験があります。1969年、スタンフォード大学の心理学者フィリップ・ジンバルドーが行ったものです。

ジンバルドーは、ナンバープレートを外してボンネットを開けた車を2台用意しました。1台はニューヨーク市の治安の悪い地域に、もう1台はカリフォルニア州パロアルトの裕福な住宅地に放置します。

結果はこうでした。

  • ニューヨークの車……放置から10分ほどで通行人が部品を外し始め、やがて窓が割られ、破壊されていった
  • パロアルトの車……1週間以上たっても手を付けられなかった

ここまでなら「地域の差」という話で終わります。実験が有名になったのは、この続きがあるからです。ジンバルドーはパロアルトの車を自分でハンマーで一撃し、傷をつけました。すると、それまで無傷だった車は、あっという間にニューヨークの車と同じように破壊されたのです。

治安の良い地域でも同じことが起きた。この事実が、「地域が悪いから壊される」のではなく「壊されている状態が次を呼ぶ」という見方につながりました。

割れ窓理論は本当に正しいのか

割れ窓理論を紹介する記事の多くは、次に紹介するニューヨーク市の事例で終わります。ただ、実務で使うなら、その事例がどこまで証拠になっているのかも知っておいたほうが安全です。

ニューヨーク市の事例と、その評価

1990年代のニューヨーク市では、ルドルフ・ジュリアーニ市長のもとでウィリアム・ブラットンが警察本部長に就任し、地下鉄の落書きを徹底的に消去する、無賃乗車を厳しく取り締まるといった政策が進められました。その後、ニューヨーク市の犯罪率は大きく低下しています。

この出来事は、割れ窓理論の成功例として世界中で紹介されました。ただし「落書きを消したから犯罪が減った」と言い切れるかどうかは、いまも議論があります。同じ時期に警察官の増員、経済状況の改善、人口構成の変化など複数の要因が重なっていたためです。

なぜこの点を書いておくかというと、社内で使うときに効いてくるからです。「割れ窓理論でニューヨークの犯罪が激減した」という説明の仕方をすると、それを知っている社員から「あれは他の要因だという説もありますよ」と言われて話が止まります。理論の紹介より、自社で何を直すのかに時間を使うほうが早く進みます。

「別のルールにまで広がる」ことを示した実験

一方で、より条件を絞った実験もあります。オランダのフローニンゲン大学のキース・カイザーらが行い、2008年に科学誌「Science」に「The Spreading of Disorder」という論文として発表されたものです。

研究チームは6つの実地実験を行いました。代表的なものが、自転車置き場を使った実験です。

  • 近くにゴミ箱のない路地に自転車を停めさせ、そのハンドルに広告のチラシを取り付ける
  • 片方の条件では、路地の壁を落書きだらけにしておく(落書き禁止の掲示は出したまま)
  • もう片方の条件では、壁をきれいにしておく

戻ってきた人がチラシをその場に捨てるかどうかを数えたところ、落書きのある路地では、きれいな路地に比べてポイ捨てをする人がおよそ2倍になりました。

ここが割れ窓理論のいちばん重要な点です。落書きを見た人が増やしたのは、落書きではありません。ポイ捨てという、まったく別のルール違反です。研究チームはこれを「cross-norm inhibition effect」と呼びました。日本語にすれば、ひとつの規範が破られているのを見ると、それとは無関係な規範に対する歯止めまで弱くなる、という意味です。

他の実験でも同じ傾向が確認されています。周囲が散らかっている場所では、郵便受けからはみ出した現金入りの封筒が持ち去られる割合が高くなりました。散らかっていることと、他人の金を取ることのあいだに、直接の関係はありません。それでも人の行動は変わります。

職場・会社における割れ窓の具体例

ここまでを会社に置き換えます。割れ窓理論を職場に当てはめるときの要点は、「職場を掃除しましょう」ではありません。ひとつのルールが守られていない状態を放置すると、それとは別のルールまで守られなくなる、というところにあります。

会社の中で「割れた窓」になりやすい7つ

実際に会社を見ていて、割れた窓になりやすいのは次のようなものです。

  • 期限を過ぎた提出物が、何も言われずに済んでいる……次から誰も期限を守らなくなります
  • 会議に遅れてくる人がいて、その人を待って始めている……時間どおりに来た人が損をする形になっています
  • 使ったあと元に戻っていない備品や資料がある
  • 更新されていないまま貼られている掲示物がある……壁の情報は信じなくてよい、という合図になります
  • マニュアルの手順と、実際のやり方が違っている
  • 報告が上がってこないのに、誰も催促していない
  • 決めたはずのルールを、社長自身が守っていない

このうちマニュアルと実際のやり方が食い違っている状態は、特に広がりが早いものです。書いてあることと現場が違うと分かった瞬間、社員は他の文書も同じだろうと考えます。1つの文書の問題ではなく、社内文書全体の信頼が下がります。

最初の窓を割るのは、たいてい経営者か管理職

7つ目に挙げた項目が、実務ではいちばん大きく効きます。


社員に日報の提出を求めているのに社長は出していない。会議は5分前集合と決めたのに役員が遅れてくる。この状態で「ルールを守れ」と言っても、伝わるのは「決めたことは、立場によっては守らなくてよい」という別のメッセージのほうです。

私たちのお客様のなかに、社員と一緒に自分も日報を出している社長がいます。その日に自分が何をして何を考えたのかを、毎日全社員に配信しているのです。これによって社員との信頼関係ができ、お互いに言いたいことが言える組織になっています。

この2つの会社の差は、社長の人柄ではありません。決めたことを自分にも適用しているかどうか、という一点だけです。詳しくはルールを守らない人の特徴と心理|職場で守らせる方法と定着の仕組みでも解説しています。

会社の割れ窓を直す5つのステップ

では、どこから手を付ければよいのか。順番があります。

ステップ1 いま守られていないことを書き出す

最初にやるのは、掃除でも朝礼でもありません。「決まっているのに守られていないこと」を紙に書き出すことです。10分もあれば、たいていの会社で5つや6つは出てきます。

このとき、人の名前は書きません。「◯◯さんが守っていない」と書いた時点で、この作業は犯人探しに変わります。犯人探しが始まると、以降は誰も情報を出さなくなります。書くのは状態だけです。

ステップ2 1つだけ選ぶ

書き出したもの全部を一度に直そうとすると、ほぼ確実に失敗します。選ぶのは1つです。

選ぶ基準は「重要そうなもの」ではありません。全員が毎日目にするものを選びます。割れ窓理論が働くのは、多くの人の目に触れているからです。月に一度しか使わない書類のルールを直しても、合図としては弱いのです。

ステップ3 守れる形に直す

ここを飛ばすと、たいてい元に戻ります。守られていないルールには、守られない理由があるからです。よくあるのは次の3つです。

  • そのルールを知らない人がいる
  • 守ると仕事が終わらない(作業量に対して時間が足りない)
  • そもそも今の仕事のやり方に合っていない

3つとも本人の姿勢の問題ではありません。知らないなら伝え方の問題、時間が足りないなら業務量の問題、合っていないならルールのほうを変える話です。この確認をせずに「徹底しよう」と号令をかけると、守れない人が悪いという空気だけが残ります。

ステップ4 例外なく守る期間をつくる

直したルールは、一定期間、例外なしで運用します。1回でも例外を認めると、その1回が新しい割れ窓になります。

期間の目安は1か月です。1か月続けば、多くの場合それは意識しなくてもできる状態になります。凡事徹底が難しいのは、内容が難しいからではなく、例外を許さない期間をつくれないからです。

ステップ5 守られている状態を見えるようにする

最後に、守られているかどうかが分かる形にします。提出物なら一覧にする、会議の開始時刻なら議事録に書く。数字である必要はありません。誰かが見ているという状態がつくれれば十分です。

やり方は見える化の考え方と同じです。見えるようにする目的は、監視することではありません。守った人が損をしていないことを、本人にも周りにも分かるようにするためです。

割れ窓理論を逆向きに使う

ここまで、乱れが広がる話をしてきました。ただ、この理論が示しているのは「人は周囲の状態に合わせる」という性質であって、悪い方向にだけ働くものではありません。

仕組み化とは、社内に良い習慣をつくることです。良い習慣が入っていれば、社員が特別に頑張らなくても良い成果が出るようになります。歯磨きと同じで、子どもの頃は嫌がっても、続けているうちに意識も苦労もせずにできるようになります。

割れ窓理論を逆向きに使うというのは、この状態を意図してつくることです。守られているルールが1つあると、それも同じように周りへ広がります。時間どおりに始まる会議がある会社では、他の約束も守られやすくなります。

だからこそ、ステップ2で「1つだけ選ぶ」ことに意味があります。最初の1つは、そのルール自体のためだけに直すのではありません。この会社では決めたことが守られる、という合図を出すために直します。ここが伝わると、2つ目からは驚くほど楽になります。

割れ窓理論に関するよくある質問

割れ窓理論は、要するに掃除をすればいいということですか?

掃除は分かりやすい入口ですが、それだけでは足りません。実験が示したのは、乱れが「別の種類のルール違反」を呼ぶということです。職場がきれいでも、決めた期限が守られていない状態が放置されていれば、そこが割れた窓になります。

逆に言えば、掃除だけを頑張っている会社は、いちばん目立つ窓を直しただけということもあります。書き出してみると、たいてい他にも見つかります。

小さなことをいちいち指摘すると、雰囲気が悪くなりませんか?

悪くなるのは、指摘する基準が人によって変わるときです。同じことをしても、ある人は注意され、ある人は見過ごされる。この状態が続くと、社員が見ているのはルールではなく上司の機嫌になります。

先に守るべきことを1つに絞り、全員に同じように適用すれば、指摘は個人への攻撃になりません。むしろ基準が明確なほうが、社員にとっては働きやすくなります。この点は心理的安全性とも矛盾しません。基準が曖昧な職場のほうが、何を言われるか分からないぶん息苦しいのです。

ルールを増やせばいいということですか?

逆です。守られていないルールが多いほど、会社は割れ窓だらけになります。数を増やすより、いま決まっているもののうち守られていないものを減らすほうが先です。

実際、社内ルールを見直すと「これはもう誰も使っていない」というものが必ず出てきます。それは廃止して構いません。使われていないルールが書面に残っていること自体が、割れた窓の1枚です。詳しくは社内ルールとは?一覧・例文とテンプレート、作り方と徹底方法をご覧ください。

ニューヨークの事例は否定されたのですか?

否定されたわけではありません。犯罪が減ったこと自体は事実です。争点になっているのは「そのうちどれだけが割れ窓理論による効果か」という部分です。


会社で使う分には、この論争を気にする必要はありません。2008年の実験のように、条件を絞った場でも乱れが別の乱れを呼ぶことは確認されています。自社で試すのも簡単です。1つ直して、他が変わるかを見ればよいだけです。

何から手を付けるか、迷ったときの決め方はありますか?

判断の一問はこれです。「新しく入った社員が最初の1週間で目にするものは何か」。

新しく入った人は、その会社の基準を周囲の状態から学びます。書かれたルールではなく、実際に守られているかどうかを見ています。最初の1週間で目にする場所に割れた窓があると、その人はそれを標準として覚えます。人を育てる仕組みを考えるうえでも、ここは見落とせません。

パーキンソンの法則やパレートの法則との関係はありますか?

直接の関係はありませんが、共通点はあります。どれも「放っておくとそうなる」という性質を説明した法則だという点です。

パーキンソンの法則は、仕事は与えられた時間をすべて使い切るまで膨張すると説明します。割れ窓理論は、乱れは放置すると広がると説明します。どちらも、意識を高めることではなく、放っておいてもそうならない形をつくることで対処します。

まとめ

割れ窓理論とは、割れた窓を1枚放置すると他の窓も割られていくという考え方です。読み方は「われまどりろん」、英語では「Broken Windows Theory」と表記し、「窓割れ理論」「ブロークンウィンドウ理論」も同じものを指します。1982年にウィルソンとケリングが発表しました。

この理論の要点は「汚いと汚される」ではありません。2008年の実験が示したのは、ひとつのルールが破られているのを見ると、それとは無関係な別のルールまで守られなくなるということでした。

だから会社では、守られていない社内ルールが1つあると、その1つの問題では済みません。放置されているという事実そのものが、次の違反を許可する合図になっています。

そして直すべきは、社員の意識ではありません。放置されている状態のほうです。全員が毎日目にするものを1つだけ選び、守れる形に直し、1か月だけ例外なく運用する。ここまでやると、次の1つは目に見えて楽になります。

なお、仕組み経営では、こうしたルールの設計と運用を含めた会社の仕組み化をご支援しています。詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。


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