社長不在で成長する会社は出来るのか?


清水直樹

「社長がいなくても回る会社にしたい」

——多くの中小企業経営者が抱くこの願い。

しかし、現実は社長自身が会社の中心となり、自分がいないと業務が止まってしまう状況に悩んでいるのではないでしょうか。

社長がいなくても本当に会社は回る?

実際のところ、日本において社長不在で会社が回るようにするのはかなり困難と言わざるを得ません(理由は後述します)

一方、あなたも『はじめの一歩を踏み出そう』の著者マイケル・E・ガーバー氏が提唱する「自分がいなくてもうまく回る仕組み」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

ここで重要なのは、ガーバー氏の言う「自分」とは、社長やCEOといった「役割」のことではなく、「オーナー(創業者)」を指しているという点です。

つまり、もしあなたがオーナーであるならば、目指すべきは「社長不在」ではなく、「オーナーであるあなたが日常業務から解放されても、会社が成長し続ける状態」なのです。

この記事では、なぜ特に日本で「社長不在」が難しいのかをアメリカとの比較で明らかにし、オーナーである「自分不在」なら実現可能である理由、そしてそのための方法について詳しく解説します。

 「社長不在」と「自分不在」の重要な違い

ガーバー氏の考え方をよりよく理解するために、まずはアメリカの企業がどのように運営されているかを見てみましょう。

 所有と経営の明確な分離

アメリカでは、会社の所有者(オーナー、株主)と経営の執行責任者であるCEO(最高経営責任者、日本の社長に相当)が別人であることが一般的です。オーナーは投資家として経営の成果や企業価値の向上を期待し、日々の経営判断や業務執行はプロフェッショナルなCEOに委ねるという分業体制が確立されています。

これは何も大企業ばかりではなく、中小企業においてもそのような形態が見られます。

私も以前、アメリカの会社といくつか取引をした経験があります。その時に感じたのは、契約交渉の場面などに出てくるのが、会社のオーナー自身ではなく、雇われた社長であることが多い、ということです。

例えば、『ドリームマネジメント』というプログラムを提供している会社がありました。この会社のオーナーは、プログラムの開発者でもある創業者(マシュー・ケリー氏)です。しかし、実際に私との交渉を担当したのは、彼に雇われたダンさんという社長でした。その会社は社員数名の小規模な組織でしたが、それでもこのようにオーナーと経営のトップ(社長)は、別々の人物だったのです。

 CEOは「仕組み」で成果を出すことを期待される

アメリカのCEOはオーナー(株主)に対して明確な成果責任を負っています。そのため、個人の能力や勘に頼る属人的な経営ではなく、CEOが交代しても安定して成果を出し続けられるよう、「仕組み」や「チーム」で経営を行うことが求められます。この「所有と経営の分離」と「成果責任」が、業務の標準化やマニュアル化といった「仕組み化」を促進し、オーナーが不在でも会社が機能し続ける土壌となっているのです。

 日本企業が「社長不在」を実現できない構造的理由

対照的に、日本の中小企業においては「社長がいなければ会社が回らない」状況が生まれる背景には、いくつかの構造的要因があります。

 所有と経営の一致

日本の中小企業では一般的に、会社のオーナー(所有者)と経営者(社長)が同一人物であることが多いです。特に創業者の場合、「オーナー=社長=自分」という構図が成立しています。この状況では、会社のあらゆる意思決定や重要業務が社長個人に集中するため、「自分がいないと会社は機能しない」という状態に陥りやすくなります。

 日本特有の商習慣における「社長」の重要性

日本の商習慣においては、契約書への社長印の押印、重要な商談や交渉における社長の同席、銀行や取引先との関係構築における「社長の個人的信用」など、「社長」という役職そのものが持つ形式的・実質的な役割が非常に大きいです。これらの要素も「社長不在」を困難にしている要因となっています。

 日本企業が目指すべき「自分(オーナー)不在」

日米の比較から見えてくるのは、日本の中小企業が目指すべき方向性です。

改めて述べますと、ガーバー氏の言う「自分がいなくてもうまく回る仕組み」とは、社長という役職を誰かに任せることを意味します。それは「オーナーであるあなた自身が、会社の日常的なオペレーション(現場の仕事)から解放され、本来のオーナーとしての役割(会社の未来を創る、事業をデザインするなど)に集中できる状態」を意味しています。言い換えれば、あなたが現場にいなくても、あなたの理念やビジネスモデルが仕組みによって再現され、会社が持続的に成長していく状態なのです。

社長不在で成長する会社は出来るか?

 日本企業でも「自分不在」は実現可能:役割移行と仕組み化の実践

所有と経営が一致していることが多い日本の中小企業でも、この「オーナー(自分)不在」の状態は十分に実現可能です。そのためには、創業者(オーナー社長)が意識的に「役割の移行」を行う必要があります。

具体的には、社長としての日々の執行業務(アメリカで言えばCEOの仕事)を仕組み化し、信頼できる人材に段階的に引き継いでいくことです。そして、あなた自身は「オーナー」または「会長」として、会社の理念やビジョンを守り育てる、長期的な戦略を描く、仕組み全体をデザインするといった、本来の創業者・オーナーとしての役割に専念することが重要になります。

 「自分不在」の仕組みがもたらすメリット

オーナーが現場の執行業務から離れ、「自分不在」で回る仕組みを構築することには、多くの重要なメリットがあります。

 会社の持続可能性の向上

社長個人の能力や健康状態、個人的事情に依存しない、安定した経営基盤が築けます。これにより、会社の長期的な存続と発展の可能性が高まります。

 社員の成長と組織力の強化

適切な権限委譲が進むことで、社員が主体的に考え行動する文化が醸成され、組織全体の対応力と創造力が向上します。社員一人ひとりが成長し、組織としての力も強くなっていきます。



 オーナー自身の自由と成長の実現

オーナーは日常業務の時間的・精神的制約から解放されることで、より創造的で本質的な仕事(新規事業開発、事業承継の準備、社会貢献活動など)に取り組む余裕が生まれます。自身の能力をより高い次元で発揮できるようになります。

 企業価値の大幅な向上

属人性が排除され、仕組みで回る会社は、M&Aや事業承継の場面においても高く評価されます。将来的な選択肢が広がり、会社の価値そのものが向上します。

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 「自分不在」で回る会社を実現するには?

この「オーナー(自分)不在」の状態を実現するための具体的な方法論が、私たちが考える「経営の仕組み化」です。以下に、そのヒントを紹介します。

社長の仕事を構造化・可視化・委譲する

オーナー社長の頭の中にある暗黙知(経験、勘、判断基準)を、誰もが理解できる形式知(マニュアル、チェックリスト、判断基準書など)に変換します。これにより、社長だけが持っていた知識や判断基準を組織全体で共有し、活用できるようになります。

理念に基づき、社員と共に創る

会社の理念やオーナーの想いを核にして、外部からの借り物ではない、自社独自の再現性のある仕事のやり方を、社員と一緒になって創り上げます。業務の標準化、成果の数値化、そして継続的な改善活動を通じて、仕組みを常に進化させていきます。

人材育成との両輪で進める

仕組みを創るだけでなく、その仕組みを理解し、主体的に運用・改善できる人材を同時に育成します。理念の共有と段階的な権限委譲を通じて、オーナーの右腕となる人材、そして未来のリーダーを計画的に育てていきます。

オーナーと社長の役割分担をする

社長を任命したら、オーナーとの明確な役割分担が必要です。これをしなかったがために混乱に陥る会社は多いです。

この辺の関連情報は以下にまとめています。

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 まとめ:日本企業における「自分不在経営」の実現に向けて

結論として、「社長」という役職が不在の会社を目指すのではなく、「オーナーが社長の役割を他者に任せる」ことが重要です。社長という役職は必要であり、日本の企業文化や商習慣においてこの役割は欠かせません。

「オーナーであるあなた自身」が会社の日々の業務から離れても、あなたの理念や想いを反映した仕組みによって会社が自律的に成長していく状態、すなわち「自分不在で回る会社」は、日本の中小企業でも必ず実現できます。

そのための絶対条件は、オーナーであるあなたが「社長」としての執行責任者の役割を徐々に手放し、仕組みと人材に任せ、自らは「会長」や「オーナー」として会社の未来を創るという本来の役割に徹することです。

その具体的な実現手段が「仕組み経営」です。

仕組み経営が目指す究極のゴールは、特別な才能を持つスーパーマン経営者やスター社員に依存するのではなく、「普通の人が、仕組みを通じて輝き、素晴らしい成果を出せる会社」を実現することです。社員一人ひとりが会社の理念に共感し、納得感を持って仕事に取り組み、挑戦と成長を通じて自己実現できる。そんな「人が生きる土壌」を創り上げることこそが、仕組み経営の目的です。

自分不在で回る会社について、より詳しく知りたい方は以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。

 

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