メイヨー・クリニックに学ぶサービス業の仕組み。「医学のメッカ」はいかにつくられたか?



清水直樹
先日、とあるきっかけでメイヨー・クリニックを調べる機会がありました。せっかくなので、この記事では、医学のメッカともいわれる総合病院、メイヨー・クリニックのスゴイ仕組みについてご紹介していきます。

メイヨー・クリニック(Mayo Clinic)とは?

医療関係の方ならメイヨー・クリニックの名前は聞いたことがあるでしょう。医療関係ではない私も、名前くらいは知っていました。

1846年、ミネソタ州ロチェスターに創設されたこのクリニックは、100年以上たった今では、世界最高峰の医療機関として世界中に名前が知られています。患者には、米国大統領などVIPが名を連ねており、「医学のメッカ」や「最後の切り札」などともいわれています。つまり、色々な病院や先生を回った患者が、最終的に救いを求めてたどり着くのがこのメイヨー・クリニックだというわけです。

ではどのようにして、このメイヨー・クリニックが生まれたのか?そして、どのように運営されているのか?

ここでは、私たちが「仕組み経営」の中で提唱している「三位一体の仕組み化」というコンセプトに沿ってみていきたいと思います。

三位一体の仕組み化とは?

三位一体の仕組み化とは、「理念体系 × 事業モデル × 組織」という3つのパーツを、一貫性を持って仕組み化していくというコンセプトです。

理念がない会社は、短期的に成長をしたとしても長続きしません。

良い事業モデルがない会社は、「良い会社」で終わってしまい、「強い会社」にはなりません。

組織作りがない会社は、内側から崩壊します。

3つのパーツのそれぞれを仕組みとして強化し、深化していくことで経営者の理想とする会社が出来ていきます。これを”三位一体の仕組み化”と名付けました。

三位一体の仕組み化で目指すのは、ワールドクラスカンパニー®です。ワールドクラスカンパニー®とは、組織の永続性、革新性、拡張可能性を併せ持つ会社のことで、人が活躍できるための高度に仕組み化された会社を指します。

メイヨー・クリニックは、まさにこのワールドクラスカンパニー®と言えます。(正確にはカンパニーではないので、ワールドクラスオーガニゼーションと言ったほうが良いかも知れませんが)

 

メイヨー・クリニックの理念

メイヨー・クリニックの理念が確立されたのは、クリニック創設者ウィリアム・ウォラル・メイヨー、そして、その息子兄弟チャールズ・メイヨー、ウィリアム・メイヨーがクリニックの評判を広げていった1800年代、1900年代初期にまでさかのぼります。

彼らの基本的な考え方は、メイヨー・クリニックのロゴに示されています。

メイヨークリニックの公式HPより https://www.mayoclinic.org/

この3つの盾は、それぞれ彼らの考え方を象徴しており、中央の盾が「患者へのケア」、左右の2つの盾は、「医学研究」と「医学教育」を表しているとされています。

つまり、彼らの中心的な考え方は、患者が一番であり、それを補助するために医学があるという考え方です。

The needs of the patient com first.(患者ニーズが最優先)

The needs of the patient com first.(患者ニーズが最優先)が彼らの中心的な価値観となっています。この文章のポイントは、Patientが単数形であること。患者を一般的な大衆と見るのではなく、「ひとりの人間」として捉えていることが重要な点です。

2つ目の中核的な価値観

上記の中核的な価値観に加え、もうひとつ、

”協力の科学としての医療”

という中核的な価値観があります。詳しくは、後述するチーム医療で触れます。

創設以来、この2つの中核的な価値観がメイヨーの中心になり、かつ、これらの価値観を掲げるだけではなく、組織の隅々で実践することによって、100年経った今でも医療機関の最高峰として存在しています。

 

クリニックの精神

その後、2つの中核的な価値観を、新しく入った医師やスタッフにも伝承していくため、そして、創業者の哲学を残していくため、クリニックの精神と言えるものが文書化され、組織全体の考え方として存在しています。

1.利益ではなく、サービスの理想を追求し続ける。
2.個々の患者のケアと幸福を第一にかつ、真摯に考え続けること。
3.スタッフ全員が他のすべてのメンバーの専門家としての進歩に関心を持ち続けること。
4.社会の移り行くニーズに対応して、変化していく意欲を持つこと。
5.やらなければならないことすべてに対して、卓越した結果を目指す努力を続けること。
6.絶対的な誠実さをもって、すべての業務を行うこと。

 

メイヨー・クリニックの事業モデル

事業モデルとは、どのような市場に、どのような価値を提供するか?ほかとはどんな違いがあるのか?どのように利益を上げるか?などの問いに対する答えです。

メイヨー・クリニックの事業モデル(彼らは非営利なので事業とは言わないと思いますが)には、最低でも二つの特徴があります。

チーム治療

これは先述の協力の科学としての医療という価値観が反映されたもの。言葉の通り、チームで治療を行うということです。専門家が集まるメイヨー・クリニックでは、医師同士の協働が奨励されており、患者は最適な治療を受けることが出来ます。患者は、”一人の医師に診てもらうのではなく、メイヨーという組織全体に診てもらっている”という感覚を得ることが出来、それが結果的にはメイヨーの強力なブランド力に繋がっています。

デスティネーション治療

デスティネーションとは、最終目的地という意味です。さんざん様々な先生や病院を回ってきた患者は、最終目的地としてメイヨー・クリニックに辿り着きます。メイヨーでは、そういった患者に対して、総合的、かつ短期間で診断と治療を提供します。それが出来るのは、チーム治療と、情報システムや設備に多大な投資をしてきた結果です。だからメイヨー・クリニックは、「ここに来ればもう安心」という評判を得ることが出来るというわけです。



 

メイヨー・クリニックの組織

三位一体の仕組み化でいう「組織」とは、効果的な分業のための仕組みづくりや、人が活躍できるための仕組みづくりを指しています。

「理念」が何をやるのか?を示し、「事業モデル」がどの道で行くのか?を示し、「組織」はどの実行するのか?を示しています。

だから、組織の仕組みも、理念や事業モデルと一貫性を持っていなくてはいけません。

メイヨー・クリニックでは、まさにそれが行われています。

給与制度

医師の給与は、固定給となっています。さらに、入社後、5年経ったら、同じ業務を行っている以上、給与も同じ、という方式を取っているそうです。だから、入社5年目の35歳の医師と、入社20年目の55歳の医師の給与が同じ、ということがあるそうです。

通常、アメリカの病院では担当した患者の数で給与が上下するそうですが、メイヨーは固定給にすることで、数よりも一人一人の患者に向き合うことを大事にしているのです。また、固定給なので、医師同士の不健全な競争はなく、協力体制が出来ます。これも先述した中核的な価値観やチーム医療と一貫した仕組みです。

価値観ベースの採用

これは私たちがカルチャーフィット®採用と呼んでいるものですが、メイヨーでは、人を採用する際には、価値観が合うかどうかを一番の基準として考えるということです。この辺は、ザッポスなど、企業文化で有名な会社は必ず大事にしている点です。(ザッポスの仕組みはこちらから:https://www.shikumikeiei.com/zappos-shikumi1/

委員会による意思決定

院内の重要な変更などは、数十ある委員会を通して決定されます。知らされるべき情報を知らされるべき人に届ける、というのも健全な組織を創るのに必須の仕組みと言えます。

人事異動

能力や個性に合わせて頻繁に人事異動が行われます。これはその人の能力を最大限に活かすため、そして、チーム医療をより効果的に行うためというのが目的ですが、結果的にスタッフは、”就職”ではなく、”就社”しているという感覚になり、所属意識を高めることに繋がっているようです。

 

三位一体の仕組み化がいかにして実現されているか?

さて、メイヨー・クリニックの理念、事業モデル、組織についてみてきました。もちろん、彼らがこの言葉を使っているわけではありません。理解しやすいように、私たちのフレームに合わせて解説をさせていただきました。

ただ、ご覧いただいたように、理念、事業モデル、組織が完全に一貫性を持って動いているからこそ、いまのようなブランドや信頼を得られていることがわかると思います。

まず、患者のニーズを最優先するという中核的な価値観があります。その価値観を追求するために、個人ではなく”協力の科学としての医療”という価値観が存在します。

さらにその価値観を具現化したモデルとして、”チーム治療”と”デスティネーション治療”の考え方があります。価値観を体現したこのモデルが、結果として、”他ではなくメイヨーを選ぶ”という優位性に繋がっています。

そしてさらに、その2つのモデルを実際に組織として実現するための仕組みとして、固定給制やカルチャーフィットの採用などが存在します。

理念は創って掲げているけど、いまいち効果がわからない、という社長は多いですが、それはここで見てきたように、事業モデルや組織に理念が組み込まれていないからでしょう。

大事なのは理念、事業モデル、組織、これらの一貫性です。

「他の会社の仕組みの一部をパクってきただけでは、上手くいかない」といつもお伝えしているのはまさにここに理由があります。

手前味噌ですが、私としては、このメイヨー・クリニックを調べたことで、ワールドクラスカンパニー®を創るには、やはりこの三位一体の仕組み化が欠かせないものであると認識することが出来ました。

ぜひ、ご参考にされてください。

 

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