業務引き継ぎのやり方|引き継ぎ書の項目と進め方5ステップ

業務引き継ぎのやり方|引き継ぎ書の項目と進め方5ステップ



清水直樹
今日は、業務の引き継ぎのやり方についてご紹介していきます。「引き継ぎ期間を取ったのに、後任が結局わからないままだった」という話は、どの会社でも起きています。引き継ぎ書の書式を探す前に、何をどこまで渡せば引き継ぎになるのかから整理していきます。

 

業務の引き継ぎとは、いま自分が担っている仕事を、後任の人が自分だけで回せる状態にして手渡すことです。退職や異動のたびに必ず発生しますが、期限が決まっているうえに、渡す側も受け取る側も本来の仕事を抱えています。

引き継ぎがうまくいかないのは、渡す人の説明が下手だからでも、受け取る人の理解が遅いからでもありません。引き継ぐ中身が、渡す人の頭の中にしかない。これが、いちばん多い原因です。

この記事では、業務の引き継ぎの流れと、引き継ぎ書に書く項目を整理します。そのうえで、引き継ぎが失敗する構造的な原因と、引き継ぎのたびに困らない会社にするための考え方をまとめました。

1. 業務の引き継ぎとは?目的と全体の流れ

引き継ぎの目的は「後任が一人で回せる」こと

引き継ぎのゴールは、引き継ぎ書を作ることでも、説明会を開くことでもありません。前任者がいなくなったあとも、後任が仕事を止めずに回せることがゴールです。

この基準で見ると、引き継ぎで渡すべきものは3つあります。

  • やることの全体像……担当する業務の一覧と、頻度や期限
  • やり方……手順、使うツール、ファイルの置き場所
  • 判断の基準……迷う場面で何を見て決めるか、取引先ごとの注意点

3つ目の判断基準が抜けやすい部分です。手順は書き出せても、「なぜここでこう決めるのか」は本人もふだん意識していないからです。後任が前任者に電話をかけたくなる場面の多くは、この判断の部分です。

引き継ぎの基本の流れ

引き継ぎの流れは、次の5つに分けられます。

  1. 担当業務をすべて洗い出す
  2. 業務ごとに、手順と判断基準を書き出す
  3. 後任に説明し、実際にやってもらう
  4. 取引先や関係者に引き継ぎを伝える
  5. 引き継ぎ後に、困った点を拾って書き足す

多くの会社では、2と3の間に時間を割けないまま、当日を迎えます。次の章から、各工程でやることを順に見ていきます。

2. 引き継ぎを進める5つのステップ

ステップ1. 担当業務をすべて洗い出す

最初に、自分が担当している業務をすべて書き出します。毎日やること、毎週やること、月に一度や年に一度しか発生しないことまで拾います。

見落としやすいのは、月に一度や年に一度の仕事と、頼まれて続けているうちに自分の担当になった仕事です。カレンダーや過去のメール、先月・昨年の業務の記録を見返すと漏れが減ります。ここが抜けると、引き継ぎ後に「そんな仕事があったのか」と発覚します。

書き出した業務には、頻度・期限・関わる相手を添えておきます。これが引き継ぎ書の目次になります。

ステップ2. 手順と判断基準を書き出す

次に、業務ごとにやり方を書きます。ここが引き継ぎの中心です。引き継ぎ書には、次の項目を入れておくと後任が迷いません。

  • 業務の目的……何のためにやる仕事か
  • 手順……始まるきっかけから、終わりの状態まで
  • 頻度と期限……いつ、どのくらいの間隔で発生するか
  • 使うツールとファイルの場所……アカウントの扱いも含めて
  • 関係者と連絡先……社内外の窓口と、それぞれとの付き合い方
  • 判断の基準……迷う場面で何を見て決めるか
  • よくあるミスとトラブルの対処……過去に起きたことと、そのときの対応
  • 進行中の案件の状況……いま止まっている話、約束している期日

手順だけを並べると、「前任者の頭の中を写した一覧」で終わります。迷う場面の判断と、それを裏づける理由まで書いてはじめて、後任が一人で動ける引き継ぎ書になります。

書く時間が取れないときは、画面を見ながら話して録音するだけでも構いません。文字への書き起こしや整理は後任や周囲に頼めます。ただし、書き出す内容を決めるのは、その仕事をいちばんよく知っている前任者です。

ステップ3. 後任に説明し、実際にやってもらう

引き継ぎ書を渡して終わりにせず、後任に実際に手を動かしてもらいます。流れは次のとおりです。

  • 前任者がやって見せる。判断の場面では「いま何を見て決めたか」を口に出す
  • 後任がやる。前任者は横で見て、手順書のとおりにできているかを確かめる
  • できなかったところを振り返り、引き継ぎ書の分かりにくい箇所を直す

後任がつまずいた箇所は、引き継ぎ書の弱いところです。後任の理解が遅いと考えず、書き足すべき箇所が見つかったと考えます。仕事を人に教える進め方は、後進育成とは?意味と進め方5ステップでも整理しています。

ステップ4. 取引先と関係者に引き継ぎを伝える

社内の引き継ぎと並行して、取引先や関係部署にも担当が替わることを伝えます。連絡は、前任者から後任を紹介する形が理想です。

とくに長く付き合いのある相手は、前任者個人との信頼で仕事が成り立っていることがあります。紹介のあいさつに加えて、その相手との過去のやり取りと、気をつけている点を引き継ぎ書に残しておきます。

ステップ5. 引き継ぎ後に、困った点を拾って書き足す

引き継ぎが終わった直後の数週間は、後任が最も困る時期です。この時期に出た質問を、前任者に答えてもらうだけで終わらせないでください。

質問が出たら、その答えを引き継ぎ書に書き足します。質問は、書き漏れの場所を教えてくれる情報です。退職する前任者に連絡が取れなくなる場合は、退職前に質問を受ける期間を決めておきます。

3. 引き継ぎがうまくいかない3つの構造的な原因

ステップどおりに進めても、うまくいかない会社があります。その場合は、引き継ぎのやり方より手前に原因があります。

仕事のやり方が、そもそも言葉になっていない

いちばん大きな原因です。ふだんから仕事のやり方が言葉になっていない会社では、引き継ぎが決まった日に、はじめて書き出すことになります。限られた期間で、何年分もの判断を言葉にするのは無理があります。

仕事が特定の人に集まっている状態は、属人化とは?意味と解消方法で整理しています。言葉になっていない知識を取り出す方法は、暗黙知を形式知に変える方法が参考になります。

引き継ぎの時間が、仕事として確保されていない

退職が決まった人は、残りの出社日で通常業務も片づけなければなりません。引き継ぎは「余裕があるときに」進める扱いになり、余裕のある日は来ないまま最終日を迎えます。

引き継ぎの時間を、業務の一つとして予定に組み込みます。誰が、いつ、何時間使うのかを決めて、通常業務の量を減らす調整まで含めて計画します。


業務の範囲と、任せる権限が決まっていない

後任が「どこまで自分で決めてよいのか」を知らないと、何でも前任者や上司に確認することになります。引き継いだ業務のどこまでが後任の裁量なのか、どの金額や条件を超えたら相談するのかを、引き継ぎのときに決めておきます。

担当の範囲があいまいな会社では、そもそも誰が何をやっているのかが整理されていません。職務の中身を書き出す方法は、職務記述書とは?書き方5ステップとテンプレートにまとめています。

引き継ぎのたびに困らない会社は、仕事のやり方が言葉になっています。

引き継ぎの前に、ふだんの仕事を書き出して、任せられる形にしておく進め方を、無料のガイドブックにまとめました。

4. 引き継ぎのたびに困らない会社にする

ここまでは、引き継ぎが決まってからの動き方でした。ただ、退職や異動のたびに慌てて引き継ぎをする会社は、次の退職でもまた同じ慌て方をします。

ふだんから、仕事のやり方を書いておく

引き継ぎ書を引き継ぎのときに作るのではなく、ふだんの仕事のなかで手順書やマニュアルを育てておきます。一度書いてあれば、引き継ぎは「最新の状態か確認して渡す」作業になります。

マニュアル全体の作り方は、マニュアルの作り方7ステップで解説しています。手順にしづらい仕事を渡すときは、マニュアル化できない仕事の任せ方も役に立ちます。

「書く人」と「更新する場」を決める

手順書は、書いた時点から古くなっていきます。誰が更新するのか、いつ見直すのかを決めておかないと、引き継ぎのときには使えない状態になっています。

仕事をいちばん知っている現場の人が書き、定期的に見直す場を持ちます。社長が上から様式を決めて配るのではなく、現場が自分たちの仕事のやり方を作り、直していく形にすると続きます。

社長の仕事の引き継ぎも、同じ考え方で進める

中小企業では、社長自身が最大の「引き継ぎ待ち」の存在になっていることがあります。社長にしかできない判断が多い会社は、社長が現場から離れられません。

これは社長の能力の問題ではありません。人が増えるほど一人に集まる判断が増え、いつかあふれる構造の問題です。社長の仕事も、書き出して、手順と判断基準を言葉にし、少しずつ渡していけます。社員の方には、誰か一人に頼らずに仕事が続いていくための取り組みだと説明できます。

ベテラン社員のノウハウを残す観点は、ベテラン社員のノウハウを伝承するためのチェックリストにもまとめています。

5. 業務の引き継ぎについてよくある質問

引き継ぎの期間は、どのくらい取ればよいですか?

業務の量と難しさで変わるため、一律の期間はありません。決めるときの目安は、後任が一人で一通り回せるまでです。月次や年次の業務がある場合は、それが一度回るところまで見られると理想的です。難しいときは、残りを書面と質問の窓口で補います。

引き継ぎ書がないまま、前任者が辞めてしまいました。どうすればよいですか?

まず、残っているメールや共有フォルダ、過去の提出物から、業務の流れを逆にたどります。そのうえで、後任が実際にやった手順を、その日のうちに書き残していきます。引き継ぎ書は、後任が自分で作る形でも構いません。取引先との関係で判断が必要な箇所は、周囲の経験者に確認します。

引き継ぎで、前任者が協力的でないときは?

前任者の姿勢を責める前に、引き継ぎの時間が確保されているか、何をどこまで書けばよいかが伝わっているかを確かめます。やることの一覧と期限を示し、通常業務の量を調整するだけで、協力が得られることは多くあります。

引き継ぎ書の様式は、決まったものを使うべきですか?

様式は会社で一つに決めておくと、書く側も受け取る側も迷いません。ただし、様式を埋めること自体が目的にならないようにします。項目に「判断の基準」と「過去のトラブル」を入れておけば、実用的な引き継ぎ書になります。

まとめ

業務の引き継ぎとは、いま自分が担っている仕事を、後任が一人で回せる状態にして手渡すことです。渡すのは、やることの全体像、やり方、そして判断の基準の3つです。

進め方は次の5ステップです。

  • 担当業務をすべて洗い出す
  • 手順と判断基準を書き出す
  • 後任に説明し、実際にやってもらう
  • 取引先と関係者に伝える
  • 引き継ぎ後の質問を拾って書き足す

引き継ぎがうまくいかない原因は、前任者や後任の能力ではありません。仕事のやり方が言葉になっていないこと、引き継ぎの時間が仕事として確保されていないこと、任せる範囲が決まっていないこと。原因は会社の構造の側にあります。

まず一つ、書き出してみましょう。いま自分しかやり方を知らない仕事を一つ選び、迷う場面で何を見て決めているかを、10分だけ話して録音するところからで十分です。仕事を言葉にして、任せられる形にする進め方は、無料のガイドブックにまとめています。


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