経営ビジョンとは?
経営ビジョンとは「自社の将来ありたい姿」のことです。
たとえば・・・
- 世界ナンバーワンの〇〇〇カンパニーになる。
- 〇〇のプラットフォームを作る。
などがビジョンとして掲げられます。
当会の場合は「アントレプレナーシティを作る」ということを経営ビジョンとして掲げています。この経営ビジョンは設立当初のメンバーが策定したものです。
「アントレプレナーシティ」とは、起業家が会社を創り、成長させ、やがて引退し、第2の人生をスタートする……というような、すべての起業家が辿る道を支援するためのプラットフォームのことです。このプラットフォームを作るために必要なパーツを集めることが、私たちが日々行うべきことになるわけです。
このように、経営ビジョンが明確であるほど日々やるべきことが明確になりますし、どこに投資するか?何をやって何をやらないか?が定まります。結果として会社の生産性向上をもたらすのです。
今回は、経営ビジョンの策定について、5つのポイントとプロセスで解説していきます。また、策定した経営ビジョンを全社的に浸透させる方法についてもご説明していきます。
ビジョンと経営理念の違い
- ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる」
- 1 つのことをとことん極めてうまくやるのが一番」
- 遅いより速いほうがいい」
- ウェブ上の民主主義は機能する」
ミッション、バリューとの違い
「ミッション」とは、会社が果たすべき使命や存在意義、存在目的のことを指しています。
そして、「(コア)バリュー」とは、組織の核となる価値観のことを指しています。
仕組み経営では、ビジョン・ミッション・バリューの3つを合わせて「理念体系」と呼んでいます。
ですから、「あなたの会社の理念は何ですか?」と聞かれた時には、この3つを答えるということになります。上記の定義に沿っていただければ、いわゆる理念系の話は全てカバー出来ますのでお勧めです。
なぜ経営ビジョンの策定が必要なのか?
経営ビジョンの重要性
マイクロソフト成功の秘訣は経営ビジョンがあったこと
「マイクロソフトの成功の秘訣を教えてほしいとよくいわれる。社員2人の零細企業から出発して、従業員1万7,000人、年間売り上げ60億ドル以上の会社をどうやって育て上げたのか?その秘密は?もちろん、シンプルな答えなどない。 運も味方してくれたけれど、いちばん 重要だったのは、私たちが持っていた最初の経営ビジョンだったと思う」
「A computer on every desk and in every home. コンピュ-ティング・パワ-が安価になれば、いたるところにコンピュ-タが普及する。それを活用するためのすばらしいソフトが出てくるに違いない。私たちはその可能性を信じ、まだだれも手をつけていない時期に開発しはじめた。最初にこの経営ビジョンがあったおかげで、その後のすべてが多少なりとも楽になった」
IBM成功の秘訣は経営ビジョンがあったこと
「IBM が今のような会社になったのには、3つの特別な理由がある。1つ目は、最初から私たちの会社は最終的にどんな会社になるのか、という明確な青写真を持っていたこと。2つ目は、そんな会社であるならば、どんなふうに行動すべきかを自問自答していたこと。3つ目は、私たちは最初から、既に思い描いた会社になっているかのように振舞っていたことだ」
経営はビジョンから始めよう
さらに、ユニクロの柳井さんが推薦した本として有名になった、プロフェッショナル・マネージャー。
この本には、
本を読むときは初めから終わりへ。
ビジネスの経営はそれと逆だ。終わりから初め て、そこまで到達するために出来る限りのことをするのだ。
-ハロルド・ジェニーン
と書いてあります。
ここに書いてある、「終わり」というのが会社の向かう先、すなわち経営ビジョンです。まず経営ビジョンを描くことから始めよ、というわけです。
私たちの生活は起業家のビジョンによって作られている
もっと時代をさかのぼれば、自動車を大衆品へと変えたヘンリーフォード氏。彼は当初こんなビジョンを持っていました。
大衆のための乗用車をつくる。価格が極めて安く、まともな給料を取っているものなら買えないものはおらず、家族とともに、神が作った広大な土地で楽しむことが出来るようになる。全員が乗用車を買えるようになり、全員が乗用車を持つようになる。道路からは馬車が消え、自動車に乗るのが当然になる。
こう見てみると、私たちの現在の生活というのは、これまでに生きた偉大な起業家のビジョンによって作られているといってもいいのではないでしょうか。
経営ビジョンの策定プロセス
では、実際にどうやって経営ビジョンを策定していくのでしょうか?
まず理解しておきたいのは次の事実です。
経営ビジョン策定のプロセスは内容そのものと同じくらい重要
1.社長の人生計画を立てる
経営ビジョン策定プロセスの第一歩は社長の人生計画を立てることです。「経営ビジョンなのに、どうして人生計画?」と思われるかも知れません。しかし、社長の人生とビジネスは非常に密接に繋がっているのです。
ビジネスには、オーナーであるあなたの個人的な価値観や人格、人生の目的や計画が色濃く反映されています。ビジネスをより良くしたいなら、あなた自身の内面に目を向けることが必要になります。
ですから、まずはあなたが人生で何を成し遂げたいのか?何を目指しているのか?さらに、あなたの人生の目的は何なのか?を可能な限り掘り下げることが大切なのです。これらの質問には解が無く、その答えも時間とともに変わるかもしれません。それでも構わず、自分の人生について考える時間を取りましょう。
2.事業環境の変化を知る
ニトリ会長である似鳥氏は「事業環境の変化を予測し、正しい計画を立てられるかどうかが、会社の運命を決めます」と語っています。
また、先ほどもご紹介したように、ビル・ゲイツ氏が成功できたのは、初期の段階で事業環境の変化を察知し、「これからはソフトウェアがカギを握る」と判断できたからです。
あなたの会社の周りでもいろいろな変化があると思いますが、その変化を正しく把握し、経営ビジョンに結び付けなくてはいけません。
そのために、自社の経営に影響を与えそうな情報を収集しましょう。同業界の情報だけではなく、代替産業や最新技術系の情報も押さえておきましょう。ビル・ゲイツ氏は「シンク・ウィーク」という思考週間を定期的に取っているそうです。シンクウィークで彼がやっているのは、まさに事業環境の変化を把握することです。みなさんも現場の仕事から離れ、考える時間を取りましょう。
3.社員、顧客、取引先が望むことを認識する
より現実的な視点から、あなたの社員や顧客、取引先が望むことを考えてみましょう。実際に社員や顧客に聞いてもいいですし、この段階から社員にも経営ビジョン策定プロセスに関わってもらうことを検討してもいいでしょう。
今の時代、社員はより流動的な働き方ができるようになり、働く時間や場所の自由を求めているかもしれません。また、顧客の嗜好もあなたが創業した当時とは変わってきているかもしれません。
あなたがこれから創る経営ビジョンが、社員や顧客の望むことを反映していれば、「どうやって経営ビジョンを浸透させればいいのか?」ということに悩む必要はなくなります。
4.経営ビジョンのドラフトをA4用紙1枚に文書化する
ここまできたら経営ビジョンのドラフトを文書化してみましょう。ここでは文書化ということが大事になります。なぜなら、どれだけ優れたアイデアも文書化されていなければ存在していないのと同じことだからです。経営ビジョンのドラフトを文書化する際には、ここまで考えたことに加えて、次のようなことを考えてみましょう。
- 究極的には何をする会社?
- 顧客にどんな価値を提供する?
- どんな仕組み?
- どんな対象市場?
- どんな存在?
- どんなビジネスモデル?
- どんな文化?
- どんな競争優位性?
- いつまでにどうなる?
- ビジネスの規模と地域は?
これらのことに思いを馳せながら、自社の経営ビジョンをA4用紙1枚に収まるくらいの量で文書化していきます。文書化のフォーマットは自由ですし、イメージが湧くようなイラストを入れてもいいかもしれません。
5.最終版を完成させる
ドラフトが完成したら、社員などの関係者からフィードバックを得る機会を用意します。アンケートでもいいのですが、ワークショップなどのような感じで、誰もが参加できるような環境づくりをするのがお勧めです。そこからドラフトを最終版へと進化させます。
経営ビジョン策定時に欠かせないポイント
経営ビジョンができたら、以下のポイントを満たしているのかチェックしてみましょう。
崇高な意義があるか
経営ビジョンの策定に当たっては、外部環境の変化や社会動向を正しく捉えつつ未来を予測し、その未来において自社がどういう姿であるべきかを考えます。未来の予測は難しいものですが、自社がどのような未来を創るべきかを考えることを先送りにしてはいけません。
経営ビジョンが人類にとってより良い未来や社会を創ることに繋がっているか、社会課題の解決に繋がっているか、一見すると少々大げさなテーマですが、そこに崇高な意義があれば、人々の共感を生む経営ビジョンとなっていくわけです。
オリジナリティがあるか
オリジナリティのある経営ビジョンは、他の企業との差別化を図るために重要です。市場や業界において、競合する他社とは異なるアプローチや独自のアイデアを持つことで、顧客やパートナーからの注目を集め、競争力を高めることができます。
もちろんこれは会社のブランド価値を向上させることにも貢献します。独自性や創造性を持つ経営ビジョンは、ブランドの認知度やイメージ向上に繋がります。自社ならではの「らしさ」が反映された経営ビジョンになっているかをチェックしていきましょう。
社長の夢が反映されているか
社長の夢は、会社独自のアイデンティティや文化を形成する上で重要な要素となります。先ほどのオリジナリティのある経営ビジョンの話にも繋がりますが、社長の夢が経営ビジョンに反映されることで会社の独自性や魅力が高まり、ブランド価値の向上に寄与するわけです。
プライマリーインフルエンサー(顧客、社員、取引先)のニーズを満たすか?
経営ビジョンは、プライマリーインフルエンサーに提供する価値や利益をイメージさせるものでなくてはいけません。それぞれの要望を正確に把握し、ニーズに応えられる経営ビジョンを策定することで、顧客や社員、取引先との関係性が緊密なものとなり、長期的な事業の発展を実現することができます。
未来が見えるか、実現性があるか
チェックすべきポイントの中でも大事なものが、「未来が目に見える」ということです。経営ビジョンとは目に見えるイメージのことです。単に数字を羅列させただけでは、目標(ターゲット)になってしまいます。あなたの経営ビジョンを見た人が、あなたの会社と取り巻く世界の将来像を目に浮かべられるぐらいのものになることが理想です。
経営ビジョンの例
ここであらためて、国内の大企業2社がどのような経営ビジョンを掲げているのかを見ていきましょう。
良品計画の例
無印良品を運営する株式会社良品計画は、次のような経営ビジョンを策定しています(一部抜粋)。
- 「感じ良い暮らしと社会」へ向けてグローバルに貢献する個店経営の集団として世界水準の高収益企業体を目指します。
- 無印良品は、良心とクリエイティブによって成立しシンプルに美しい暮らしを願うお客様と共にこれからの生活に最良で最強な「くらしの基本と普遍」を共創していきます。
- 地域社会の課題に役立つ周辺事業やサービスを開発し、自ら運営まで行うことで、生活・文化・環境の共存と発展に貢献していきます。地域に関わる方々が、「お互いさま」を合言葉に、小さくても固有の経済活動や豊かな文化を育む「感じ良い社会」が広がる未来を描いています。
無印良品のスタッフのホスピタリティが顧客に与える安心感は、このような経営ビジョンに裏付けられているわけです。また海外でも店舗を展開しており、グローバリズムにも力を入れていることがここからも伝わってきます。
ソフトバンクグループの例
ソフトバンクグループは、創業30年の節目を迎えた2010年の定時株主総会後に「新30年経営ビジョン」を発表しました。これは、次の30年も引き続き情報革命で人々の幸せに貢献し、「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」を目指すという方向性を定めたものです。
ここで孫正義氏は「創業者の私の最も重要な役割は、最低300年続くソフトバンクグループのDNAを設計することです。大きな方向性を定め、その方向性に向かってたゆまぬ努力をすることが一番大切。そういう意味では30年というのは単なる一時期でしかなく、創業からの30年は300年の中での第1チャプター、次の30年というのは第2チャプターにすぎません。30年後、300年後のテクノロジー、人々のライフスタイルはどう変わっているのだろうと考えると、想像すらなかなかできない、分かりにくいものです。しかし、そういう分からないときこそ、なおさら遠くを見るべきであり、そして、遠い将来を予見するためには、過去を見てみるべきであると考えます」と述べています。
2010年時点でサステナビリティを意識した経営理念・経営ビジョンと、それを実現するための戦略やビジネスモデル(価値創造ストーリー)を作り出していたわけです。
策定した経営ビジョンがうまくいかない時
「経営ビジョンはあるけどなんかしっくりこない」「経営ビジョンは創ったけどお飾りになっている」という経営者の声をよく耳にします。なぜそうなってしまうのか?いくつか理由を見てみましょう。
時代の要請がない
まず考えられるのが、経営ビジョンに時代の要請がないということです。会社というのは社会の公器であり、社会の要請があって初めて存在することができます。時流に乗っていないのに、自分のこだわりだけで経営ビジョンを創ると、時代の要請のないものになってしまいます。
経営ビジョン=個人的願望
これは、先ほどの「社長の夢」と混同されがちな間違いです。経営ビジョンが単に社長の個人的な欲望からもたらされたものだと感じてしまうと、誰もそれを実現しようと思いません。例えば「地域ナンバーワンになる」「売上●●円にする」など、使命感が見られない経営ビジョンは響かないものになりがちです。
『WHYからはじめよう』で有名なサイモン・シネック氏の「ほかの人間と競争する時、誰もあなたを助けたいと思わない。ところが自分自身に戦いを挑むと、誰もがあなたを助けたいと思う」という言葉を、経営ビジョンを策定する時にはぜひ参考にしてください。
明確さの欠如
経営ビジョンがあまりにも曖昧だと上手く機能しません。例えば「世界平和に貢献する」「世界中の人々を幸せにする」などの経営ビジョンは曖昧過ぎだと言えます。このような経営ビジョンでは、その会社が将来どういうビジネスになるのかが全く見えてきません。
忘却
経営ビジョンを創ったものの、忘却されてしまうこともあります。経営ビジョンは毎日の仕事の中で生かされなければ意味がありません。経営ビジョン策定のステップも大事ですが、その後にどう活用するかも見据えておくことが大切です。
経営ビジョンの変更はできるのか
苦労して策定した経営ビジョンですから、簡単に変えたくないという気持ちも分かります。しかし、必ずしも経営ビジョンに固執する必要はなく、見直しすることには何の問題もありません。事業の永続的な発展のためには、社会の変化を見据えて経営ビジョンを見直す必要性があるわけです。
例えば、IT業界では経営ビジョンの見直しが多く見られます。これは、IT業界ではデジタル技術の進化に伴う商品やサービスの変化が絶えず目まぐるしく起こるからです。業界の変化に応じて経営ビジョンを再定義する姿勢は、成長を目指す企業には欠かせません。
とはいえ、経営ビジョンを見直す際には、これまでの策定ステップやチェックポイントを踏襲するようにしてください。
経営ビジョン策定後の浸透方法
経営ビジョンを策定したら、今度は経営ビジョンを社内外に浸透させるための活動に取り組みましょう。経営ビジョンが目に入るように可視化、イメージ化するのがベストです。例えば、マイケルE.ガーバー氏の講座を受けて爆発的に成長したInfusionsoft(現:Keap)は、自社の経営ビジョンを「MARS MISSION」として可視化し、常に社員の目に触れるようにしています。
社外に対しても、ウェブサイト、ブログ、動画、SNSなどのツールを積極的に利用して情報発信を行っていきます。経営ビジョンの内容はもちろん、その背景や実現に向けた取り組みなど、多くの情報を発信できる体制を整えていきましょう。
もちろん、社長をはじめとした指導的立場にある社員自らがロールモデルとなって率先垂範することが、経営ビジョン浸透の大きな力になることは言うまでもありません。経営ビジョンを具体的な目標へ落とし込みましょう。これができるかどうかが、優れたリーダーやマネージャーの分かれ目となります。経営ビジョンは基本的に10年後くらいのイメージになりますので、それを年間・月間・週間の目標、さらに部署や個人ごとの目標、というように落とし込んでいきましょう。
経営ビジョンに似た考え方
この記事では、自社の将来像を経営ビジョンとして解説してきましたが、世の中には似たような概念がいくつかあります。最後にいくつかご紹介しておきましょう。
BHAG
影響を受けた経営者が多いことで知られる名著『ビジョナリーカンパニー』の中に、「BHAG(ビーハグ):Big Hairy Audacious Goals」という言葉が出てきます。BHAGは社運を賭けた大胆な目標ですが、これも経営ビジョンと似たようなものです。
秀逸なBHAGの例として、ケネディ大統領の「60年代が終わるまでに月に人間を着陸させ、安全に地球に帰還させる」という声明が紹介されています。このBHAGは、期限も明確ですし、達成したかどうかも明確に判断できる、優れた目標だと言えます。
MTP(Massive Transformative Purpose):野心的な変革目標
これはシンギュラリティユニバーシティの運営メンバーである、サリム・イスマイル氏が提唱している概念です。
MTPとは、組織の大志とも呼べる高い目標のことです。BHAGの概念に近いのですが、特徴としては、MTPが文化的なムーブメントやエコシステムの形成を目指していることです。現代は、プラットフォームやエコシステムを創り、自社の周りに数多くのプレイヤーを生み出す会社が爆発的に成功しています。AmazonやGoogle、FacebookやApple、AirbnbやUberなどはその代表格です。
サリム氏は「MTPがあることで、企業の周囲に自然とコミュニティが形成され、それ自体が活動をはじめ、仲間意識や文化が生まれる」と述べています。
さらに「優れたMTPは絶対的な競争優位につながる」例として、Googleを挙げています。Googleは「世界中の情報を整理する」というMTPを掲げていますが、こうなると同じ分野でグーグルを追いかけようとする会社はなくなります。なぜなら、「私たちも世界中の情報を整理する。ただし、Googleよりももっと優れたやり方で」とはなかなか言えないからです。
まとめ
今回は経営ビジョン策定について解説をしてきました。
「仕組み経営」では、経営ビジョンの策定から、それを実現するための仕組みづくりまでをサポートしております。詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。