企業内大学とは?
まず企業内大学とは何かという話なんですけれども、以下が定義です。
企業が社内に設置している研修制度の一種であり、大学のように複数の講座を社員に受講させる形態を取るものを指す
いまいちよく分からないと思うんですけれども、要は会社の中に大学のような部署や機能を持たせましょうというというのが企業内大学です。念のため言っておきますと、企業内大学は公的に認められた大学ではありません。なので一般の人が入れるわけではなく、会社のなかの教育の仕組みであるということになります。
これまでの研修やトレーニング、教育と何が違うのかと思うんですが、このリストを見ていただくと違いがわかります。
参加スタイル
従来型の研修の参加スタイルは受動的です。どういうことかというと、研修や社内の育成は、社長とか人事が「こういう研修をやろう」とか「こういう教育をやろう」ということで、社員に強制的に受けてもらうわけです。社員からすると、受動的な参加ということになります。
一方の企業内大学の考え方というのは能動的。会社はこういう講座とか教育を用意していますよと。もし皆さん興味があれば参加してくださいねというのが企業内大学の考え方です。
これは一般的な大学と同じですね。大学では教授にこの講義を受けなさいとか、この科目を受けなさいと言われるわけではなくて、数ある科目の中から自分で選べるわけですね。それと同じで能動的に自分が選ぶということです。
参加目的
そして参加目的。従来型の研修はスキル習得がメインです。例えばビジネスマナーであるとかITのスキルであるとかソフトウェアの使い方とか英語とか、そういうスキルを身に付けるという事が主な目的であると。
一方の企業内大学は社員のキャリアアップが主眼であるということです。それによって会社としてはもちろん業務の目標を達成していくというところが目標に置かれています。
設計
設計としては従来型の研修というのはどちらかというと戦術的です。たまたまこの研修が良さそうだから受けさせようとか、たまたまこれが必要だったから受けさせようとか、どちらかというと目先の必要性に応じて行うのが従来型の研修とか教育になります。
一方の企業内大学は、もうちょっと長期的な会社の目標とか戦略に合わせて講座を用意していくわけです。そしてそれを社員の人が自発的に受けることで彼自身もキャリアアップになるし、それによって会社の長期的な目標も達成されていくということです。なので企業内大学の設計は戦略的になってくるということです。
講師
従来型研修は主には外部の人が講師をやるわけです。例えばビジネスマナーだったら、どこかのビジネスマナーを教えてくれる研修会社に頼んで、そこの講師を派遣してもらいます。
一方の企業内大学の講師は主に社員になります。一部、外部の講師を使う場合もありますけれども、主には社員がやります。なぜ社員がやるかというのは理由がありますので、後にご紹介しておきます。
なぜ企業内大学が必要なのか?中小・成長企業の課題とは?
企業内大学の具体的な話に入って行く前に、中小・成長企業とかによくある人材育成の課題についてお話をしたいと思います。
人材育成の課題:会社側
業績が落ちてくると育成費用が落ちる
よく言われているのが業績が落ちてくると育成費用が落ちるということですね。
不景気になると一番最初に削られるのが研修費用と言われているわけです。本当は不景気で会社が生き残らないといけないとか、別の方向性を探らないといけない時こそ人材を育てて、その場を乗り切っていかなきゃいけないわけですけれども、人は最大の資産、企業は人だと言いつつ、業績が落ちてくると研修費用を削るという傾向があります。
なぜそうなってしまうのかというと、研修が福利厚生の一環であると考えがちなんですよね。本当は投社員に対する資なんですけど、社員に対する福利厚生だと経営陣が考えているので、その部分は不景気になったら削ってもいいだろうと考えられがちなんです。
さらに言うと、研修というのは会社の業績につながらないと思われているということなんですね。これは会社側に原因があるのか、研修を提供している研修会社に原因があるのか分かりませんけれども、研修はそこまで投資効果がないものであって福利厚生なので、業績が落ちたら削減されるというような傾向が残念ながらあるということですね。
OJTという名の現場放置
ほとんどの中小企業はそこまでのリソースがないので、社員を育てるのはOJTでやっていると思うんですよね。
でもこのOJTのやり方をちゃんと理解してる会社は少なくて、ほとんどの場合はOJTという名を借りてその現場の上司に任せているだけ、という非常に属人的な教育というのが行われているという実態があります。
なので、その環境の中で育つ人は勝手に育つし、育たない人は育たずに辞めていってしまう、という非常に無駄が多い教育になっているわけです。
新卒教育に偏重
新卒を採用している会社であれば、だいたい教育制度はあると思うんですね。ただその新卒研修だけに特化しがちというか、そこしかやっていない会社が多いという事ですね。
今回ご紹介する企業内大学は、元々は次世代の会社のリーダーを育てるために創られたものなんですよね。なので、新卒だけじゃなくて中間管理職とかもっと上のリーダー層向けの教育もやっていくというのが企業内大学の大きな特徴です。
行き当たりばったりの研修
今までの研修というのは戦術的に行われているので、たまたまこういうスキルが必要だからこれをやるとか、たまたまこういうのが流行っているからこれをやるとか、もしくは社長が講師と仲がいいからその講師を呼んでやるとか、そういう研修が多いわけですね。
戦略性が無くて行き当たりばったりの研修になっているということなんですね。
人材育成の課題:社会的要請
技術承継への対応
一方で、社会的要請というのもあって、中小・成長企業も人材育成に力を入れていかないと生き残っていけないっていう実態もあります。
例えば、技能承継への対応です。今、社長も高齢化しているし、ベテランの技術者も高齢化しているので、技術をどうやって若手世代へ承継していくのかということが中小企業の中では課題になっているわけです。
そのために人材育成も真剣に考えていかないといけないという時期にきています。
IT技術への対応
確かアマゾンだったと思うんですけれども、元々倉庫で働いていた人たちをエンジニアにするために、一気に結構なお金を投資して教育をしているという話を聞いたことがあります。
アマゾンみたいな大企業のITだけではなくて、これから中小・成長企業の経営にもIT技術は欠かせないので、そういう技術にキャッチアップしていくためにも、教育をしていかなくてはいけないわけです。
いまだにホームページが非常に古臭い会社も日本はあったりします。それは社内にIT技術を分かっている人がいないということなので、いい技術を持っていてもそれを世に広めるためのウェブサイトすらないというのは非常にもったいない話です。
人材不足による生産性アップの必要性
日本は間違いなく人材不足になっていきますので、小さいチームで大きな成果を出す必要性があるわけですね。そのためには生産性をあげないといけないわけですけれども、そのための働き方であったりとか、業務の流れの改善だったりとか、そこをやれる人材がいません。
企業内大学の一覧
今述べたような課題もあって、人材育成を改めて考え直さなければいけないという状況になっているのかなと思います。そこで今回、企業内大学というコンセプトを覚えておくといいと思います。
まずは企業内大学の一覧を見ていきたいと思います。これはウェブサイトで見ていただくといろいろ出てきます。
- ゼネラル・エレクトリック社「リーダー研修センター」ディズニー大学
- SOMPOケアユニバーシティ
- ハンバーガー大学
- 麓村塾
- トヨタ大学
- IBM 企業内大学
- インテル企業内大学
- ザ・リッツカールトン・ホテル企業内大学
- NTTデータ・ユニバーシティ企業内大学
- エプソン販売企業内大学
- クリナップ企業内大学
- 静岡銀行企業内大学
- ドトールIRP経営学院
- 東日本銀行企業内大学
- ポーラ化粧品企業内大学
- ドリーム・アーツ企業内大学
- モトローラ社「モトローラユニバーシティ」
- アールエスコンポーネンツRSユニバーシティ
- 森永乳業「森永ミルク大学」
- オプト・オプトアカデミー
- ソフトバンクユニバーシティ
- アサヒビール社内大学
- ユニクロ(ファーストリテイリング)「FR大学」
- ユナイテッドアローズ「束矢大學」
- 三菱マテリアル「ものづくり・人づくり大学」
- ワタベウェディング「ワタベユニバーシティ」
- ザッポス・カルチャーユニバーシティ
有名なので言いますと、ハンバーガー大学というのがマクドナルドが創っている企業内大学です。その下の麓村塾というのは星野リゾートさんが運営されている企業内大学みたいなもの。あとザッポス・カルチャーユニバーシティというのはアメリカで靴の通販で有名なザッポスがやっている社内大学ですね。
有名どころの会社はだいたい企業内大学みたいな制度を持っているということなわけですね。
企業内大学のメリット、デメリット
次に、企業内大学のメリットデメリットをご紹介していきます。
企業内大学のメリット
教育の仕組み化
さっき言ったように中小企業の場合には教育が属人化していますね。配属された上司とか先輩の力量に依存しているので、人材教育のリスクが高いです。そうではなくて、ちゃんとした制度を整えることによって教育の仕組み化ができる。誰が入ってきても同じような教育を受けることができるというモデルが作れるということですね。
採用活動時の魅力が増える
採用活動をする時にうちの会社ではこういう企業内大学があってここで教育を受けることができますと訴えられることで魅力が増えるという事ですね。
企業理念の共有
さっき講師は社員がやると申し上げましたけれども、なぜそれがいいかというと、企業理念を共有する場にもなるということなんですね。外部の講師が来ていろいろ教えても、会社の理念が共有されることはないわけです。
一方で社内の先輩社員とかベテラン社員が何か技術を教えるとか仕事のやり方を教えることで、技術の中とか業務の中に自社の理念は体現されていますので、それが自然と新しく入った人たち、この大学の受講生にも共有されていくということですね。企業理念をみんなで共有してく場にもなるという理由で、講師は社員の人がやるということなんですね。
学習する文化の醸成
社内に大学があるというだけでもこの会社は社員のキャリアアップとか育成にお金をかけているな、投資をしているなと思います。そして、企業内大学で自習的に学ぶ人が増えていけば、社内に自然と学ぶのが当たり前という文化ができていきます。
次世代リーダーの育成
中小企業の場合にはさっき言った通り、新入社員には教育をするんだけれども、その上の階層には教育をしていないので、中間管理層とか社長の次のリーダー層が育たなくて社長がなかなか引退できない、社長がなかなか権限移譲できないということがあるわけです。
企業内大学のデメリット
カリキュラム構築のハードル
大学という名がついているとおり、カリキュラムを設計する必要があるんですけれども、それがなかなかこれまで教育的な仕事をしたことない人には難しいということです。
講師のアサイン
研修の講師は、外部から呼べば、来てくれるんですけれども、社内の講師をアサインするとなると、彼らの仕事も調整しないといけないので、それが大変であるというデメリットがあります。
運用の手間
私の周りにも企業内大学を創ろうということで意気込んでいた会社が結構あるんですけど、みんな形骸化してしまっています。なぜかというと、運用が大変なんですね。なので、運用の仕組みを作らないといけません。
企業内大学の事例
次に企業内大学の事例をご紹介していきます。
GEリーダーシップセンター(クロトンビル)
まず、この会社をなくして語れないという事で、GEですね。ジョン・F・ウェルチ エデュケーションビルディングとありますけれども、このGEが企業内大学を初めて創った会社と言われています。
それを創ったのが当時のGEの社長であるジョン・F・ウェルチですね。別名クロトンビルと言われているらしいんですけれども、ここで彼は次世代のリーダーを育てようと施設を創ったんですね。なので企業内大学はそれ以降、次世代のリーダーを作るのが主な目的として創られているということなんですね。
ハンバーガー大学
もう1つ有名なのがマクドナルドのハンバーガー大学。もしかしたら皆さんも聞いたことがあるかもしれません。これは1961年に創られています。実はマクドナルドは1955年が創業なんですよね。そうすると計算してもらえれば分かる通り、創業してからわずか6年目にこの社内大学を創っているんですね。これは結構すごいですね。さっき出てきた企業内大学の一覧ってほとんど大企業だったと思うんですよね。なので中小企業の社長は「うちでは関係ないな」と思ったかも知れません。しかし、実はマクドナルドは創業6年、そんなに大きくない時から社員を育成するということの重要性を理解して、育成の仕組みに取り組んでいたということなんですね。それがあって今のマクドナルドがあるということなんです。
ちなみにマクロナルドの日本の話をしますと、銀座1号店がマクドナルドの日本の進出なんですけれども、その開店の1ヶ月前に自前の教育機関、要はハンバーガー大学の日本版ですね、これを創ったということですね。普通はお店を作ってから人材育成をどうしようかなと考えるんだけど、マクドナルドはそうではなくてそもそも人を育ててからお店を出すっていう順番なんですね。これも結構大事な考え方かなと思いますね。
ザッポス
あとザッポスですね。ラスベガスに本社がある靴の通販会社で非常に有名なところなんですけれども、私も何度か見学に行ったり現地のお話を聞いたりしたことがあります。ザッポスでは、非常に体系的に教育が行われています。
星野リゾート:麓村塾
実は私も1コマだけなんですけど、麓村塾を受けさせてもらったことがあるんですね。本当は社内向けにやっている大学なので外部の人は受けられないんですけれども、たまたまその時は受けられる機会があったので行ってきたら、非常にいい内容でしたね。
その時も社員の人が星野リゾートのサービスとかについて話してくれるので、短時間でしたけれども星野リゾートに対する理解と愛着が深まったんですよね。
企業内大学の作り方
最後に企業内大学の作り方をご紹介していきます。
課題の明確化
まず現在の課題を明確にするということですね。これいつもお伝えしているんですけれども、打ち手ファーストではダメなんですね。この課題があってこの打ち手ということなので。なぜ今皆さんが人材育成に取り組まなければいけないのか、なぜ企業内大学を創ろうと思っているのか?という課題感を明確にしてほしいと思います。
その課題を解決するために企業内大学という仕組みを取り入れていこうということです。
理想像の明確化
次に理想像。5年後10年後ぐらいにこの仕組みができたとして、どういう状態を目指したいのかということです。これによってどういう内容にしていくかというのは大きく変わっていきますので、理想像のイメージも非常に大切になってくるかなと思います。
カリキュラムの設計
そして3番目に階層とカリキュラムを設計するということですね。ここが一番難しいかなと思うんですけれども、大学なので学校をイメージしてもらうと分かりやすいんですよね。学校って1年生、2年生、3年生、4年生とあって、それぞれカリキュラムがありますよね。同じように皆さんの会社にも階層みたいなのがあると思うんですよね。例えば新入社員レベルとか、中間管理職とかリーダークラスとか経営陣とかですね。そういう感じで階層をイメージしてもらって、それぞれの階層にどういうことを伝えていけばいいのかを設計します。これはぜひ時間を取ってやっていただくといいのかなと思います。
学習手法を設計する
次に手法を設計するということですね。学習手法は今はいろんな手段がありますよね。例えば社内のSNSでそういうコーナーを作るとか、もしくはオフラインでやるとか、いろんな方法があると思います。
実施とフィードバック
最後に実施とフィードバック。実際に企業内大学の運営を始めて、本当に成果があったのかどうかを定期的にチェックしていかないといけないということですね。
企業内大学を参考にした人を育てる仕組み
というわけで今日は企業内大学とはという話をさせていただきました。ざっくりした話だったんですけれども、企業内大学の概念を理解していただくだけでも、人材育成に対する見方が変わると思います。
ちなみに私たちがご提供している仕組み経営のプログラムの中では、教育を属人化させず、仕組みで会社を成長させていくお手伝いをしています。ご興味あれば以下からどうぞご覧ください。