大家族主義で経営することのメリット&デメリットとは?



清水直樹
「大家族主義の経営」とは、人の喜びを自分の喜びとして感じ、苦楽を共にし、お互いを尊重し助け合う家族のような信頼関係を基盤に、社員の物心両面の幸せを追求する経営手法です。本記事では京セラ創業者稲盛氏が提唱するこの考え方についてメリットやデメリット、実践方法を見ていきましょう。

大家族主義経営とは?

「大家族主義の経営」とは、人の喜びを自分の喜びとして感じ、苦楽を共にし、お互いを尊重し助け合う家族のような信頼関係を基盤に、社員の物心両面の幸せを追求する経営手法です。京セラ創業者稲盛氏が提唱した考え方として知られていますが、もっと古くには出光興産創業者の出光佐三氏が社是の一つとして大家族主義の経営を掲げています。

企業経営といえば、多くの場合、利益の追求や市場価値の向上が最優先の課題とされます。しかし、京セラ創業者稲盛和夫氏は異なる考えを持っています。彼の見解では、企業経営の最大の目的は「社員の物心両面の幸せ」を追求することなのです。

稲盛氏が提唱するのは「大家族主義経営」で、これは社員同士がお互いの成功を祝い、困難を共有し、共に成長できる環境を創り出すことを意味します。社員たちは家族のように信頼し合い、尊敬し合い、助け合うことが期待されます。

京セラフィロソフィにある大家族主義の経営

以下、京セラフィロソフィから稲盛氏の言葉を引用させていただきます。

「大家族主義で経営する」

私たちは、人の喜びを自分の喜びとして感じ、苦楽を共にできる家族のような信頼関係を大切にしてきました。これが京セラの社員どうしのつながりの原点といえます。

この家族のような関係は、お互いに感謝しあうという気持ち、お互いを思いやるという気持ちとなって、これが信じあえる仲間をつくり、仕事をしていく基盤となりました。家族のような関係ですから、仲間が仕事で困っているときには、理屈抜きで助けあえますし、プライベートなことでも親身になって話しあえます。

人の心をベースとした経営は、とりもなおさず家族のような関係を大切にする経営でもあるのです。

(京セラフィロソフィより)

なぜ大家族主義に至ったか?

また、稲盛氏はなぜ大家族主義に至ったのかを講演で語られていますので、その内容も引用しておきましょう。

当時、どうして経営をしていけばいいのだろうと、私自身たいへん迷っていました。頼るものはない、私が研究した技術も大したことはない。そして会社はお金は、300万円の資本金を出していただいて、1000万円、京都銀行から借りてもらっただけ。何にも頼れるものがありません。ですが、結局は何かにすがらなければならなかった。そのときに、全従業員の心を束にして、その心で結ばれる、心を頼りにしていこうと思ったんです。

ですが、「心」と言ってもまだ不安なものですから、心が一番堅くまとまるのは何なのかと考えて、それは家族だと思ったんです。たとえ利害が若干反しても、助け合っていけるのが親子であり、また兄弟だと思ったんです。それで、株式会社のなかに「大家族主義で経営する」ということを謳ったわけです。

これはもう笑い話みたいなことですけれどもね。株式会社なんてのは家族なんかとは違うわけですから。経営者の場合でも株式会社は有限な責任であって、無限責任があるわけじゃありません。家族というのは、これは無限責任に近いものがあるわけですが、それなのに、たいへん不安で不安でたまらないもんですから、「わが社は大家族主義で経営をするんだ」ということを言ったわけです。

これは、私が本当に経営に対して悩み、弱々しくなり、何かにすがろうとしたことの結果です。しかし、これは非常に良かったと今でも思っています。小さい中小零細であればあるほど、こういう思想で経営されるべきだろうと思います。

出光興産の大家族主義

出光興産創業者の出光佐三氏は大家族主義について、以下のように社是に記述しています。

一、いったん出光商会に入りたる者は、家内に子供が生まれた気持ちで行きたいのであります。店内における総ての事柄は親であり子であり、兄であり弟である、という気持ちで解決して行くのであります。
一、出光商会は首を切らないという事が常識となっておる。首を切られるなど思っている人は一人もないと思います。

また、同社HPによると、日本文化の家族主義について、以下のようにインタビューに答えています。

そうだ。日本の家族主義は、親子兄弟仲良く暮らすという平和な、しあわせな姿として、世界に誇るべきなんだ。家族の中に中心があって、そのもとに、皆が愛情と信頼でつながっている。愛によって育った人は、純情であって人を疑わず信頼するから、一致団結する。

ぼくは日本の家庭のあり方をみて、出光における大家族主義の行き方と比べてみることがあるんだ。
出光の大家族主義は、日本の家庭におけるような信頼と愛情の姿を、会社の中で実現したいということなんだが、会社ではお互いに血のつながりがないので、お互いに他人としての遠慮があって、わがままをつつしんでいるので、うまくいっているんだね。

ところが、家庭は血のつながりという大きな愛情に安心して、お互いにわがままが出るから、表面上は会社のようにうまく行かないように見える場合もあるが、いったん家庭の外から圧迫が加わったりすると、理屈なしにさっと家族全員がまとまるんだね。君たちも経験や実感がありはしないか。

最後は血のつながりで、すべて自然に解決されてしまうんだね。これが家庭生活の根幹をなすものであり、日本民族の基礎をつくっている。

(出典:1966年刊『マルクスが日本に生まれていたら』46~47頁)

 

西精工株式会社の人間尊重型大家族主義経営

「人間尊重型大家族主義経営 ~新しい日本型経営の夜明け~」という本があります。本書は、ソニーにてCDやNEWS、AIBOなどを開発した天外伺朗さん(本名:土井利忠)と、「日本経営品質賞」や「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」、「ホワイト企業大賞」など数々の経営賞を受賞している徳島県の西精工株式会社の西泰宏社長の共著になっています。

西さんは稲盛氏の盛和塾に入会したことがきっかけで、経営理念を刷新し、家族主義を取り入れることになりました。



>>盛和塾とは?

日本型経営の良さとして長らく語られてきた「大家族主義」、本書ではそれを一歩進め、「家父長型大家族主義経営」と「人間尊重型大家族主義経営」の違いを説明し、「人間尊重型大家族主義経営」が近年増えてきていると指摘しています。

前半部分では、天外さんが日本型経営の良さと、「家父長型」と「人間尊重型」の違いを述べています。後半部分では、「人間尊重型大家族主義経営」を目指し、20年間にわたり西精工株式会社で取り組んできた実践の歴史について西さんが書かれています。

 

大家族主義経営のメリット&デメリットとは?

「大家族主義経営」は、多くのメリットを持つ一方で、間違った形で実践しようとすると、一部のデメリットも存在します。以下に見てみましょう。

メリット

まずメリットを見ていきましょう。

組織の一体感

大家族主義経営では、社員全体が一体となって組織の目標に向かって働くことが期待されます。これにより、組織全体の一体感が増し、労働生産性が向上する可能性があります。

社員のモチベーション向上

経営者が社員一人ひとりを家族のように扱い、その成長と幸せを重視することで、社員のモチベーションや満足度が向上します。

コミュニケーションの円滑化

社員間の信頼関係が深まることで、意見交換や情報共有が円滑になり、組織全体の問題解決力や決定力が向上します。

社員の満足度とロイヤリティの向上

社員が経営者から尊重と支援を受けることで、社員の満足度とロイヤリティが高まります。これにより、社員の定着率が向上する可能性があります。

デメリット

大家族主義にあこがれて、安易に実践しようとすると、以下のようなデメリットも発生しがちです。

決定速度の低下

組織全体で意見を尊重し合う大家族主義では、全員の意見を取り入れるために、決定が遅くなる可能性があります。これは特に、素早い対応が必要な状況で問題となることがあります。

個人の自立性の阻害

すべての社員が密接に連携し、サポートし合う環境では、個々の社員の自立性や創造性が阻害される可能性があります。自己主張が抑制され、異質なアイデアや新たな取り組みが評価されにくくなるかもしれません。

組織内のコンフリクト

一部の社員が大家族主義の理念に完全に賛同できない場合、組織内での摩擦やコンフリクトが生じる可能性があります。これは組織の一体性を低下させ、パフォーマンスを阻害する可能性があります。

適切な評価の難しさ

組織全体が一体となって目標に向かう中で、個々の貢献を正確に評価し、適切に報酬を分配するのが難しくなる可能性があります。

なぜ日本では大家族主義が有効なのか?

上記で見たように、大家族主義の経営にはデメリットも発生する可能性があります。しかしそれでも、私個人としては、大家族主義の経営を推奨します。その理由は、そもそも日本という国が大家族主義だからです。日本に存在するあらゆる会社の文化は、日本という国が持つ大家族主義という文化のサブカルチャーになっています。ですから、大家族主義で経営するというのは、日本企業にとってごく自然な姿なのです。

八紘一宇の考え:国民全員が家族

 

大家族主義の経営の発祥は八紘一宇?

「八紘一宇」とは、古代の日本書紀に記されている言葉で、初代神武天皇が即位した際に「掩八紘而爲宇」とおっしゃったことに由来します。八紘一宇とは、「全世界をひとつの家族のように、和やかに暮らしていこうではないか」という意味を持つ言葉です。

「八紘一宇」は、強い者が弱い者を搾取するのではなく、強い者が弱い者を守り、支えるために働くというシステムを世界全体に適用しようという考え方を指します。強い国が弱い国や弱い民族を保護し、支えるようになった時、世界は初めて真の平和に到達するとされています。これは強者が弱者を支えるという一般的な家族の機能を、世界全体に展開するという壮大なビジョンです。

大家族主義が日本企業に有効な理由

日本企業における大家族主義は、まさにこの「八紘一宇」の考え方を反映しています。企業は一つの大きな家族として、全てのメンバーが互いに支え合い、共に成長することを目指しています。企業のリーダー、すなわち「家長」は、部下や従業員を搾取するのではなく、彼らを守り、育て、引き立てる役割を果たします。

また、企業全体としても、自己の利益だけを追求するのではなく、社会全体の利益や持続可能性を重視するという姿勢が見られます。企業は、地域社会や社会全体に対する責任を果たすことで、自身の成長と共に社会全体の発展に寄与します。これはまさに「一番強いものが弱いもののために働く」という「八紘一宇」の理念を具現化したものと言えるでしょう。

このように、「八紘一宇」という哲学は、日本企業における大家族主義の有効性を裏付ける根幹の理念です。

大家族主義の経営を実践するには?

では、大家族主義の経営を実践するにはどうすればいいかを見ていきましょう。

ビジョンと価値観の共有場を設ける

全社員を集め、経営陣が企業のビジョンと大家族主義に基づく価値観を語る場を用意しましょう。大家族主義に則った経営は、強い社会的連帯感と協力を前提としています。これは「一人で行くより皆で行った方が遠くへ行ける」という理念に基づいています。このビジョンと価値観を全員が理解し、共有できるようにしましょう。

オープンなコミュニケーションの場を設ける

社員間のコミュニケーションを円滑にするための環境を整備します。これには、定期的なミーティングの設定、質問や意見を自由に共有できるプラットフォームの提供などが含まれます。良好なコミュニケーションは、社員間の信頼関係を深め、より密接な関係を築くことにつながります。

社員の成長支援プログラムを実施する

研修プログラムや資格取得支援、定期的なパフォーマンスレビューとキャリアカウンセリングを行います。また、経験豊富な社員が新人社員に直接指導を行うメンターシップ制度を導入しても良いでしょう。



福利厚生の強化

ヘルスケアの提供、リフレッシュ休暇制度、子育て支援制度、定年無しの仕事の提供など、具体的な福利厚生プログラムを導入または強化します。これにより、社員が安心して働ける環境を提供します。

働きやすいオフィス環境の整備

快適な休憩スペースの提供、最新のITツールやオフィス家具の導入、運動器具の導入など、オフィス環境改善を行います。

チームビルディング活動の実施

社員旅行、社内スポーツ大会、ボランティア活動など、具体的なチームビルディング活動を企画します。それにより社員同士の絆を深めることができます。

最後に:「大家族主義=甘え」ではない

以上、大家族主義について見てきました。大家族主義というと、社員を甘やかすことにつながるのでは?と思われるかもしれません。しかし、実際にはそうではありません。「甘え」を制する厳しさと真の実力主義を徹底することも必要です。

大家族主義の本質は、「一人一人を尊重し、その能力と可能性を最大限に引き出す」ことにあります。それは「甘やかす」こととは全く異なり、むしろ社員一人ひとりが自己成長に取り組み、全力を尽くすことを期待する経営スタイルです。

たとえば、親であれば、子供のためを思って厳しいことも言うものです。家族主義の経営も同じで、社員のためを思うならば、厳しい対応を取ることも躊躇しないという姿勢が必要になります。

なお、仕組み経営では、大家族主義を実践するための組織価値観の醸成から仕組みづくりまで、一貫してご支援しております。詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。

 

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