クレームをプラスに変える対応マニュアルの作り方



目次

クレーム対応はなぜ必要なのか

企業との取り引きであれ、個人との取り引きであれ、何らかのビジネスを行う限り、クレーム対応は避けて通れない重要な業務です。もちろん、クレーム対応は誰にとっても嫌なものであることは間違いありません。顧客の不満やいら立ちに立ち向うわけですから、精神的にもつらい業務となります。

その反面、クレーム対応を含めたカスタマーサポートは、商品を購入した顧客との重要な接点でもあり、顧客と長期的な関係を築くためにも重要な業務でもあります。クレームに対して迅速で適切な対応に満足した顧客の8割以上がリピーターとなり、さらにクレーム対応に感動した顧客のリピート購入率は9割にも及ぶという調査結果もあります。

つまり、発生したクレームがその企業の未来に何らかの影響を与えるからこそ、クレーム対応が重要視されるわけです。クレームが起きないことを最優先にしても事業の成長は見込めません。クレームが起きることが問題なのではなく、その後の対応によって顧客満足度が大きく変化することに問題があるわけです。

今回は、クレーム対応の重要性やその手順、また担当者が疲弊してしまうリスクを減らしながらクレームに対応するために必要なクレーム対応マニュアルの仕組みづくりとその実例をご紹介していきます。

 

クレームとは

皆さんは「クレーム」という言葉を正しく定義し、「苦情」と分けて扱うことができるでしょうか?本来、英語での「claim」は「正当な権利として要求する損害賠償、支払い要求など」であり、「complain」は「不平、苦情、愚痴」を意味します。

ただし、和製英語としての「クレーム」は拡大解釈される傾向があり、両者の意味を含んでいても必ずしも間違いだとは言い切れないのが現実です。

そういった意味では、「クレーム」を「製品やサービスを利用して、不満を抱いた顧客が販売者や企業に適切な対応を求めること」と解釈することができます。つまり「クレーム」とは顧客が企業に対して改善を求める行為だと言えます。そのため、クレーム対応では、不満を感じている顧客の気持ちをなだめるといった「誠意」に重点を置くのではなく、原因となった問題の「改善」に重点を置く必要があるわけです。

 

クレーム対応の重要性

企業が、カスタマーサービス担当者個人のスキルといった属人的な要素に依存するのではなく、組織として適切なクレーム対応の仕組みをつくる必要がある理由を3つ挙げます。

①クレームの原因を改善する

クレーム対応の現場では、不満をぶつけてくる顧客の気持ちをなだめ、一刻も早く事態を収束させたいということに意識が向いてしまいがちです。しかし、本来のクレーム対応は問題の改善が重要ですから、問題改善へとつなげる仕組みづくりが必要になるわけです。それによって担当者は顧客の不満の原因となっている、製品やサービスの問題点の特定に意識が集中できるようになります。

②二次クレームの発生を防ぐ

顧客が担当者の対応に不満を抱くことで、二次的なクレームに発展するケースもあります。特に最近ではSNSによる「炎上」といったことも視野に入れなければなりません。部署全体でクレーム内容を把握できる仕組みづくりによって、初動対応への不満に対して組織としてフォローが行えるようになります。

③担当者の心理的な疲弊を防ぐ

担当者は顧客の不満に直接対応するわけですから、メンタル面の消耗が懸念されます。事実、産業別労働組合のUAゼンセンの統計では、悪質クレームに遭遇した担当者の半数以上が「強いストレスを感じた」と答えています。担当者を孤立させず、組織的にバックアップできる仕組みづくりが求められるわけです。

 

クレーム対応の目的

クレーム対応の目的と、それに密接に関連する2つの法則についてご紹介します。

①顧客の課題を解決する

クレーム対応において絶対に忘れてはいけないことが、「顧客は課題があって商品やサービスを購入したのに、課題を解決できていない」ということです。顧客の課題を聞き取って、問題解決の手助けをすることが、クレーム対応の第1の目的となります。

【グッドマンの法則】

これは、マーケティング調査・コンサルティング会社TRAP社の創業者であり、経営コンサルタントでもあるジョン・グッドマン氏が、顧客の苦情対応に関する調査を実施した結果、企業の苦情対応がいかに顧客満足度や購買につながるかについて提唱したものです。

この法則によると「不満を感じて店にクレームを入れたが、店側の対応に満足した人」のリピート率は「クレームを出さずに立ち去った人(サイレントクレーマー)」のリピート率よりも圧倒的に高くなっています。この傾向は高額商品において顕著になり、不満に対してクレームを出さなかった人のリピート率が9%だったのに対し、迅速な対応に満足した顧客のリピート率は何と85%にも達しています。

迅速で顧客を満足させるクレーム対応が、優良な顧客を維持することにつながるというわけです。

 

②商品・サービスに対するフィードバックをもらう

先ほども述べたように、クレームが出るのは「顧客の期待が満たされなかったから」です。ですから企業は、クレームが問題やサービスの本質に関わるものかどうかを見極める必要があるわけです。そのため、クレーム対応を通じて問題の箇所を特定し、改善できるスタッフにつなげる仕組みづくりが重要になります。

自社で開発した製品やサービスを提供するビジネスであれば、こうしたフィードバックは顧客に満足してもらえる製品を開発するための命綱とも言えます。特に製品開発のスピードが重要なスタートアップ企業では、顧客からのクレームは、バージョンアップやバグフィックスを行ううえでの大きな指針になります。

【ハインリッヒの法則】

これは、事故を未然に防ぐことが必須と考えられる医療現場や建築現場で重視される法則で、「1件の重大事故の背景には軽微な事故が29件、些細なトラブルや不具合が300件起こっている」という法則です。

このハインリッヒの法則をクレーム対応に当てはめると、クレームは「些細なトラブルや不具合」に該当します。クレームの段階で問題を突き止めて改善に結び付けることで、問題化していない軽微な不具合の改善も実現できます。クレームに適切に対応することで、重大事故につながるリスクを未然に解消できるわけです。

クレームから問題点を分析し、各部署で共有するための仕組みづくりが求められます。

 

クレームの種類

顧客がクレームを入れるチャネルとして、主に①電話②メール③チャット④SNS⑤対面という5つがあります。ここでは、各チャネルごとのクレームの特徴をご紹介します。

 

①電話

電話は緊急性が高いクレームや複雑な要件に利用されることが多い傾向があります。双方向的なコミュニケーションによって話に食い違いがあればすぐに解消できるのですが、顧客が感情的になっていてそれが難しいケースもあります。また、比較的年齢層の高い顧客が好むクレーム手段でもあります。



 

②メール

緊急性よりも正確に問題点を伝えたい、あるいは問題が深刻というケースが多くなる傾向があります。状況を改善させるために役立つ返信をする必要がありますが、十分な情報が得られない場合は追加の情報を依頼することになります。

 

③チャット

手軽に伝えるという特徴から、若者に利用される傾向があります。メッセージが短時間でやりとりされるため、誤解や齟齬が生じないように注意します。また、テキストで伝えられる情報量には限度があるため、別チャネルでのコミュニケーションを提案することが必要になるケースもあります。

 

④SNS

企業に対して直接クレームを申し立てるのではなく、顧客がSNSに投稿することを通じて、問題点や不具合を拡散させるケースがあります。必ずしも問題の解決を求めていないことが最大の特徴で、場合によっては解決しないまま長期化します。不用意な「炎上」を防ぐためにも、日頃からSNS担当者と連携を取り、クレームを発見した際の対応策を用意しておく必要があります。

 

⑤対面

直接対面でクレームを伝えに来る顧客は、不満や怒りなどネガティブな感情を担当者にぶつける傾向があります。顧客が感情的になっていて、クレームの本質が見えにくくなっている場合もあります。不満を抱えている顧客と直接対応しなければならないため、担当者にとっては最も精神的な負担が大きくなります。

 

クレーム対応の手順

ここでは、具体的なクレーム対応の流れとして、実際に顧客と対応する担当者の対応手順をご紹介します。

①謝罪

クレーム対応手順の最初にくるのが謝罪です。企業側に非がないと思われる場合でも、顧客に不満を抱かせたわけですから、謝罪は欠かせません。

ただし、全面的に非を認めるのではなく、あくまでも不満を抱かせたことに対してのお詫びであることが重要となります。全面的な謝罪をしてしまうと、後々不利な立場になる可能性があります。「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」と、相手の感情の部分に焦点を当てた謝罪を伝える工夫が大切です。

 

②傾聴

謝罪に続いて、顧客の話を聞きます。クレームを寄せる人の多くは「話を聞いてほしい」と感じています。課題を聞き取り、適切な対応を見極めるためのヒアリングであると同時に、顧客の気持ちを落ち着かせるためにも話を聞くことが大切です。

話を聞く際は、態度や言葉遣いに気を配ります。うなずきや相づち、アイコンタクトは「きちんと話を聞いている」という姿勢を示し、オウム返しや復唱は「こちらの話を受け止めてくれている」という安心感を与えます。このようなコミュニケーションスキルを養うための、教育の仕組みづくりも必要になります。

 

③共感

原因追及や判断の見極めのためには、冷静に会話をすることが大切です。顧客の気持ちが高ぶっている場合は、クールダウンしてもらう必要があります。

まず、顧客がなぜ怒っているのかを考え、寄り添うことが重要となります。顧客が「この担当者は分かってくれる」と感じれば、徐々に気持ちが落ち着いていきます。ここでも②の傾聴がポイントになります。気持ちに共感するような言葉がけをしていきます。

 

④事実確認

ここまで進んだら、事実を徹底的に確認します。適切な対応方法を判断するためにも、可能な限り細かいことまで聞き出してメモを取ります。顧客情報(氏名や連絡先など)や担当者名、日時、クレーム内容、経緯まで聞き漏らすことのないよう、専用のフォーマットを用意しておきます。

 

⑤提案

事実確認が済んだら解決案を提示します。提案する際は押し付けだと感じられないような注意が必要です。断る選択肢を与えるような言い回しを意識し、提案を断られた場合も代替案を提示します。代替案や補償範囲などは、事前にシナリオとして用意しておきます。

 

⑥謝罪・感謝

顧客に提案が承諾されたら、最後に改めてお詫びをします。締めくくりの謝罪がおろそかになることで、新たなクレームが発生するケースも少なくありません。また、自社の商品やサービスを購入してくれたことに対する感謝の気持ちを忘れずに述べることも大切です。失敗をチャンスに変える大切な時間ですから、気を抜かずに締めくくります。

クレーム対応マニュアルの項目

クレーム対応マニュアルは、企業におけるクレーム対応の標準化や迅速な処理を実現するために非常に重要なものです。クレーム対応マニュアルには、以下の項目を盛り込むのが一般的です。

①クレームの定義

クレーム対応マニュアルの冒頭で、自社におけるクレームの定義を明文化します。クレームへの適切な対応や記録に残すことの必要性など、その目的を記載することが大切になります。

 

②クレーム対応に関する組織のスタンス・価値観

クレームに対する感じ方の違いは、社員個々の個性や価値観から生じます。しかし、クレーム対応をする際に基準となる組織のスタンスや価値観が不明確なままでは、対応のスタンスにばらつきが生まれ、それが二次クレームを引き起こす可能性があります。

ですから、クレーム対応の標準化をするためには、マニュアル内で組織のスタンスや心構えを定めることが大切となります。マニュアルに自社のスタンスを言語化して記載することで、対応が自社の価値観が合っているかどうかの振り返りやブラッシュアップも可能になります。

 

③クレーム受付・処理の体制

店頭、メール、コールセンターなどのチャネルを網羅する形で、クレーム受付・処理の体制を明記します。クレームの多い業種などでは、クレーム受付担当者やクレーム解決責任者を任命することも検討します。

 

④クレーム対応の手順・フロー

クレーム対応の手順書には、いつ、誰に、どのような手順で報告や対応をしていくかを記載します。具体的には①事実の確認②情報共有・全社的な対応③再発防止に向けた取り組みという3ステップがベースになります。

 

⑤クレーム処理報告書の作成方法・提出先

クレーム処理報告書の作成方法やポイントを、分かりやすく記載します。提出先や不明点がある際の相談先、提出期限も記載します。

また、クレーム対応マニュアルの作成を考えるうえで参考になるのが、日本工業規格(JIS)が2000年2月にまとめた「苦情対応マネジメントシステムの指針」です。この指針は、クレーム処理の体制や基準などを考える際にも非常に役立つので、ぜひ参考にしてみてください。

JIS Q10002:2015 (ISO 10002:2014)苦情対応マネジメントシステムの指針

 

クレームマニュアルの作り方

クレーム対応マニュアルを作成する際には、以下のポイントを押さえておきましょう。

 

①平易な言葉を使う

クレーム対応マニュアルは、すべての従業員が内容を理解し、実践ができてこそ効果を発揮します。ですから、ベテラン社員だけではなく、新入社員や派遣社員なども容易に理解できる言葉を使います。



 

②詳細に記載しすぎない

クレーム対応にはスピードが求められます。また、顧客に直接対応している現場では、細かな文章を読み込んでいる余裕がない可能性もあります。クレーム対応の最中でも「自分は何をすべきか?」を把握できるよう、簡潔に見やすく記載することが大切です。

 

③全社員に周知し浸透させる

マニュアルは作って終わりではなく。その存在や内容を全社員に周知・浸透させ、クレーム発生時に使いこなしてもらうことで、初めて意味があるものになります。組織としての心構えや価値観を研修時に解説したり、ロープレ研修を実施することも検討します。

 

④クレーム対応時に見ながら対応できるようにする

実際のクレーム対応の現場で使いやすいマニュアルにするためには、すべてを文章で解説するのではなく、フローチャートやチェックリスト、FAQを活用します。

 

クレームマニュアルの例

クレームマニュアルの例として、4つのケースをご紹介します。もちろんこれら以外にも、ご自身の会社に寄せられるクレームのパターンがあれば、これも含めてマニュアル化できるように用意しておきましょう。

 

①商品発送や到着の遅延

最も多いケースですが、原因が明確で対処しやすいクレームでもあります。

 

事前準備

・遅延が起こりやすい商品や発送方法を把握する。

・遅延が起こる原因と、それぞれのケースに応じた対応策を調査する。

・顧客が納得できる説明シナリオを準備する。

クレーム対応

・遅延をお詫びして到着予定時期を伝える。

・事故や災害による遅延で到着予定が不明の場合は分かり次第連絡し、あらためてお詫びをする。

②商品の欠陥や故障

こちらも多いクレームです。不具合の状態を正確に把握することが重要になります。

事前準備

・商品の欠陥や故障原因の特定方法をマニュアル化する。

・問題点を特定するためのシナリオを作成する。

・修理や返品受付、費用や送料のマニュアルを作成する。

・補償範囲を決定しておく。

クレーム対応

・欠陥や故障のお詫びと共に、相手の被害に共感する姿勢を示す。

・事前に準備したシナリオに沿って対応策を提案する。

③顧客対応が低品質

「自分が顧客として尊重されない」と感じて生まれるクレームです。初期対応を間違えると長期化し、問題が大きくなる可能性があります。問題の根幹にある顧客の不安や不満を取り除くことが重要になります。

事前準備

・受付窓口の混雑時間など、顧客対応で問題になりやすいポイントを抽出する。

・顧客を「〇〇様」と呼ぶことを徹底する。

・事実関係を把握するためのシナリオを作成する。

・顧客を個人として尊重している言葉を織り込む。

・金品補償を求められた場合のために、補償範囲を決定する。

・クレームの長期化・悪質化の判断基準を設け、基準を超えた場合の対応策を決める。



クレーム対応

・お詫びして、事実関係を把握したうえで、従業員教育を徹底することを約束する。

・補償を求められた場合は、事前に決められた範囲で対応する。個人の判断では対応しない。

④商品の機能や利用方法を顧客が誤解

顧客側の誤解が原因のクレームです。顧客は自分の課題を解決してもらいたいのであり、正しい説明を求めてはいません。誤解を解くよりも課題の解決策を探ります。

事前準備

・説明不足や情報不足、取扱説明書で分かりにくい部分を抽出する。

・「知識不足の顧客」役と「カスタマーサポート担当者」役でロールプレイングを行い、顧客目線に立ったシナリオを作成する。

クレーム対応

・知識を提供するのではなく、課題の解決方法を重要視して対応する。

・誤った認識を元にした主張を繰り返す顧客に対しては、一旦相手の話を受け入れてから、問題が起こった原因を説明して対応策を伝える。

 

クレームをプラスに変えるために

今日、顧客からのクレームは社会問題化し「カスタマーハラスメント」という言葉が生まれるほどになっています。

ただし、クレームは商品やサービス改善のきっかけにもなります。適切なクレーム対応の仕組みづくりを行えば、顧客の不満を取り除き、問題を未然に解決することもできます。さらに企業の対応が顧客の感動を生み出せば、その顧客を企業のファンにすることもできるわけです。

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