利他の心の意味と仕事で実践する方法



清水直樹
利他の心(利他心)は良く知られた言葉であり、経営の指針としている社長も多いでしょう。そこで今日は、利他の心についての解説と経営に取り入れるヒントをご紹介していきます。

利他の心(読み方:りたのこころ)とは?

「利他の心(利他心)」とは、他人のために尽力することを意味します。これは、自分自身の利益よりも他人の望ましい結果を優先するというアプローチを指します。利他心は、リーダーシップにおいて非常に重要な要素であり、他者を尊重し、彼らの成長や発展に貢献することを目指すことが求められます。

利他の心の反対は利己の心

利他の心は利己です。利己は己を利すると書きます。エゴイズムともいいます。何よりもまず、自分の利益を優先させるということです。これは利他の心、つまり、まず他を利することとは反対です。

利他の心を英語で言うと?

利他の心は東洋的な思想ですが、英語にも該当する言葉があります。「Altruism(アルトルイズム)」です。altruistic behavior:利他的行動

altruistic manner:利他的な態度

などのように使われます。

利他の心は誰の言葉か?

利他的な心という概念は、仏教、道教、ヒンズー教など、さまざまな哲学的・精神的伝統に根ざしています。これらの伝統的概念においては、利他心は精神的な解放と悟りへの道と見なされています。
そのため、利他の心という言葉自体は、誰か特定の人が使っているわけではありません。ただ、京セラ創業者の稲盛和夫氏が京セラフィロソフィで利他の心を語りだしてから有名になったとも言えます。
稲盛和夫、利他の心を語る

稲盛和夫氏の京セラフィロソフィーにおける利他の心

以下、稲盛和夫氏が語る利他の心について引用させていただきます。

私たちの心には「自分だけがよければいい」と考える利己の心と、「自分を犠牲にしても他の人を助けよう」とする利他の心があります。利己の心で判断すると、自分のことしか考えていないので、誰の協力も得られません。自分中心ですから視野も狭くなり、間違った判断をしてしまいます。

一方、利他の心で判断すると「人によかれ」という心ですから、まわりの人みんなが協力してくれます。また視野も広くなるので、正しい判断ができるのです。

より良い仕事をしていくためには、自分だけのことを考えて判断するのではなく、まわりの人のことを考え、思いやりに満ちた「利他の心」に立って判断をすべきです。

引用:京セラフィロソフィー

利他の心を経営理念にする

なお、利他心は私たち”仕組み経営”のコアバリュー(核となる価値観)の第一番目の項目として掲げております。
ここでは、利他心を以下のように定義しています。

利他心:人に最大限の慈しみをもって見返りを求めず尽くすこと。

以下にさらに詳しく意味を解説します。

私の師匠のマイケルE.ガーバー氏は、偉大な会社を創るためには、パーソナルドリーム(個人的な欲求)ではなく、インパーソナルドリーム(他の誰かのための夢)に目覚めることが必要だと説いています。日本語でいえば、利己心ではなく、利他心で経営するということです。

利他心には二つの良くある誤解があります。

まず、他の誰かのための夢と言うと、ボランティア精神(自己犠牲)で経営をしなくてはいけないのか?と思われるかもしれませんが、そうではありません。たとえば、高い品質の商品を安い値段で売れば、顧客は喜ぶかもしれませんが、会社の利益率は下がり、社員とその家族に悪影響が出るかもしれません。これは顧客のために社員を犠牲にしていることになります。逆に高い値段であっても、他社よりも品質が良いのであれば、顧客が安物買いの銭失いをしないように、自社の商品を薦めて上げることが善となります。

また、誰かのために役立つことをすれば、それが巡り巡って後から自分の利益になる、と考えるかも知れませんが、それも少し違います。たしかに因果の法則で、他人に手を差し出せば、あとから自分も救われるということもあるかも知れません。ただ、これは利己心のために利他心を装っていることになります。目指すべきは、他の人のために仕事し、彼らの夢を実現することが、自分にとっても夢となる状態です。

何か良いことをしたとしても、その裏で“もっと自分を褒めてほしい”、“もっと自分に感謝してほしい”といったような心があれば、それは自分だけが知っている裏の心(偽の心)となります。自分だけが知っている裏の心をなるべく捨てていかなければ、いずれそれが表に出て、利己心丸出しの人物になってしまいます。

最初は利他心を装った利己心でも良いかも知れませんが、大切なことは、顧客の人生や会社のステージを高めるために、仕事を洗練させることです。それによって、顧客が真の変化を得るのを見たとき、インパーソナルドリームを追求することが自分にとっての夢となるはずです。マイケルE.ガーバー氏は、この状態を発見できた時に起業家精神が目覚める、と表現しています。仏教用語では、これを自利利他円満と言います。自利利他円満とは、利他的行いをすれば自分にも利益が返ってくるということではなく、利他的行い=自分の利益だと考えることなのです。

仕組み経営のコアバリュー全文はこちら:
https://www.shikumikeiei.com/dvv/#core

利他の心が仕事や経営にもたらすメリット

利他の心を持てば、仕事や経営に役立つ、という考え自体が利他の心に反してはいますが、実際、利他の心で仕事に取り組むことによって、以下のような効果があるでしょう。

社員満足度の向上

利他の心にあふれた会社で働いていると感じた社員は、仕事にやりがいを感じ、満足感を得る可能性が高くなります。利他主義の文化は、社員の士気を高め、その結果、社員エンゲージメントとモチベーションを向上させることができます。

より良い(正しい)意思決定

利他の心を持ったリーダーは、他者の幸福や自分の決断が他者に与える影響を考慮する傾向があり、その結果、より良い、より倫理的な意思決定ができるようになる可能性があります。

離職の低下

社員の離職理由の多くは、人間関係にあると言われています。利他の心で運営される組織では、社員がお互いを信頼し、支援する傾向が強く、その結果、仕事上の関係が強化され、より調和のとれた職場環境になります。

業績への影響

利他の心で働く社員は、より意欲的に仕事に取り組み、その結果、生産性が向上し、業績が向上する可能性があります。顧客からすれば、社員が利己心で働いている会社よりも、利他心で働いている会社と付き合いたいと思うのは当然の事でしょう。さらに、利他主義の文化を持つ会社は、社会的責任や倫理観が高いとみなされる可能性が高く、評判が良くなり、業績に良い影響が生まれる可能性があります。

 

利他の心を実践するには?

利他心は、以下のような実践によって培うことができます。



共感の実践

他人の感情や経験を理解し、共感できることは、利他主義の重要な側面です。他人の立場になって考え、相手の視点で物事を見るようにしましょう。

小さな親切

小さな親切の積み重ねが、他人の人生に大きな変化をもたらすことがあります。ドアを開けてあげる、食料品を運ぶのを手伝う、見知らぬ人に微笑みかけるなど、1日に少なくとも1回は親切な行動を心がけましょう。

寄付をする(お布施)

困っている人に自分の時間、お金、資源を寄付する。地元のフードバンクでボランティア活動をしたり、あなたが支援している慈善団体に寄付をするなど、簡単なものでよいのです。ちなみに仏教では、お金を差し出す以外にも出来る布施として、「無財の七施」というものがあります。これらもぜひ実践してみましょう。

  1. 眼施(げんせ):やさしい眼差(まなざ)しで人に接する
  2. 和顔悦色施(わげんえつじきせ):にこやかな顔で接する
  3. 言辞施(ごんじせ):やさしい言葉で接する
  4. 身施(しんせ):自分の身体でできることを奉仕する
  5. 心施(しんせ):他のために心をくばる
  6. 床座施(しょうざせ):席や場所を譲る
  7. 房舎施(ぼうじゃせ):自分の家を提供する

感謝する

いまの自分の人生にある良いものに目を向け、感謝の気持ちを育みましょう。そうすることで、自分が持っているものの価値を理解し、より積極的に他者と共有することができるようになります。

許す

他人に対する怒りや恨みを手放し、許すことを実践しましょう。そうすることで、良好な人間関係を維持し、困っている人をより積極的に助けることができるようになります。

慈愛の心

他人の苦しみを想像し、それを軽減するための手段を講じることによって、思いやりの感覚を養う。ホームレス・シェルターでボランティア活動をしたり、災害救援団体に寄付をしたり、困っている人にただ寄り添うことでもよいでしょう。
このようなことを日常的に行うことで、より利他的になり、周りの世界をより良くすることができます。

 

部下の利他の心を育むには?

社長や組織リーダーであれば、部下に利他の心を育んでほしいと思うかも知れません。以下はそのためのヒントです。

模範を示す

何よりもまず、リーダーが利他の心を実践しなくては始まりません。上記のリストを振り返って、自ら利他の心を実践しましょう。見返りを期待せず、無私の心で行動し、与える方法を部下に示すことです。

地域社会への参加を奨励する

社会奉仕やボランティア活動に参加するよう、部下に勧める、またはみんなで参加するようにしましょう。自分の行動が他者に与える影響を理解し、共感する力を養うことができます。

寛容の文化をつくる

無私の行為を評価し、認めることで、寛大さと優しさの文化を構築します。こうすることで、利他的な行為に誇りを持つようになります。

良好な人間関係の育成

社員同士が良好な関係を築き、公私ともに支え合うことを促します。

内省を習慣化させる

自分自身の価値観や動機を理解するために、自己反省と内省を促しましょう。そうすることで、自分の行動と信念を一致させ、目的意識を持つことができます。

 

日々の仕事で利他の心を活かす

より具体的に、日々の仕事で利他の心を活かすに以下のようなことが挙げられます。

  • 仕事に追われている同僚や、プロジェクトで苦労している同僚を助ける。
  • 他の人が目標を達成できるように、情報、リソース、またはスキルを共有する。
  • チームや組織のために、自ら進んで追加の仕事や責任を引き受ける。
  • 個人的な興味や利益よりも、組織やコミュニティのニーズを優先させる。
  • 同僚を批判したり貶したりするのではなく、建設的なフィードバックやサポートを提供する。
  • たとえ不都合なことがあっても、倫理的かつ公正に行動する。
  • 同僚、取引先、顧客に対して思いやりと共感を示す。
  • 廃棄物を減らし、資源を節約し、職場の持続可能性を促進する。

これらはほんの一例です。ぜひあなたの会社でも利他の心を実践する方法について話し合ってみてください。

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