数値化とは?具体的な例やコツをご紹介。



清水直樹
デジタル社会やDX化時代に重要な数値化について解説していきます。

数値化とは何か?

数値化とは、抽象的な概念や物事を具体的な数値で表現することです。これにより、主観的な要素を取り除き客観的な情報に変換することが可能となります。また、抽象的な概念を具体的な数値によって表現することによって、他者に情報を伝達しやすくなります。そのため会社経営において数値化を進めていくことが有効とされるのです。

数値化はデジタルテクノロジーの進化とともに発展しており、かつては曖昧な勘と経験に頼るしかなかったことも数値にすることができるようになっています。そのため、仕事の再現可能性や人材育成、売上向上のスピードアップが可能になっています。

数値化のメリット

数値化の重要性は、主観的な評価や感覚に頼らずに客観的なデータを手に入れることができる点にあります。

目標到達への道筋が明確になる

数値化は目標を具体的な数字で表現し、達成までの計画や手順を明確にします。これにより、組織や個人は目標に向かって進む明確な道筋を持ち、計画通りに行動できるようになります。

改善が可能になる

数値化無くして改善なしです。数値化により進捗や成果が数値で可視化されるため、問題点や課題が明確になります。この情報を元に改善策を講じることができ、効果的な施策を実行することができます。

部下へのフィードバックが明確にできる

数値をもとにした評価は客観的かつ具体的であり、部下へのフィードバックが明確にできます。成果や進捗に基づいたフィードバックは、部下が自己成長に繋げる手助けとなります。

相手に明確にコミュニケーションできる

数値は共通の言語であり、相手に対して明確で理解しやすいコミュニケーションを可能にします。数値を通じて情報を伝えることで、意思疎通が円滑に行われます。

日々の活動の目的が明確になり、生産性が上がる

数値化により、日々の活動が具体的な目標に結びついていることが理解されます。これにより、作業の目的が明確になり、従事者はより集中して生産的な作業を行うことができます。

最終的な目標から逆算して数値化しよう。

数値化全体像
数値化全体像

数値化は全社的に取り組むべき課題です。なぜならば、会社が目指す最終的な目標(ビジョン)が明確でなければ、何を数値化すればいいのかわからないからです。現場の管理職の方からよくある質問は、うちの部署では何を数値化したらいいでしょうか?というものです。その答えは会社全体の目標によって決まるのです。数値化は、「全社⇒部門⇒個人」「長期目標⇒中期目標⇒短期目標」というように、逆算して設定しなければ意味がありません。現場で頑張って数値化に取り組んでいるものの、そこで追及している数値や測定している数値が、会社の長期的目標につながらなければ、逆に生産性を下げる要因になります。

1. ビジョンの明確な定義

したがって、最初に行うべきことは、会社の最終的なビジョンを明確に定義することです。これは、企業がどのような状態にありたいのか、目指すべき方向は何かを把握する基本です。例えば、企業が業界リーダーになることを目指しているとしたら、これを具体的な言葉で表現します。

2. ビジョンを戦略的目標に落とし込む

会社のビジョンを実現するために、数年後には何を達成しないといけないのかという中間目標を設定します。仕組み経営ではこれを戦略的目標と呼んでいます。これは、売上目標、利益率、市場シェアなど、その会社ごとに異なります。例えば、5年後に売上を現在の2倍にし、利益率を10%向上させるといった数値目標が考えられます。

3. 部門レベルまで逆算して数値化

次に、全体の戦略的目標を部門別に分解します。各部門がどのように目標数値に、どれだけの貢献をすべきかを考え、部門ごとに具体的な数値目標を設定します。例えば、営業部門Aが売上の何割を担当し、それを具体的な金額で示します。同様に、製造部門が生産性向上によってどれだけの利益をもたらすかなどを定めます。

4.個人レベルに逆算して数値化

さらに部門の目標数値を個人レベルに落とし込みます。各メンバーの業績目標を設定し、その業績が部門目標や全体目標にどれだけ寄与するかを逆算します。これにより、各個人がビジョンの達成に向けて具体的な目標数値を持つことができます。

5.数値チェックのサイクルを決める

数値目標や指標を設定したら、それをチェックするサイクルを決めます。このサイクルは短ければ短いほど改善が早くなり、会社の成長スピードはアップします。しかし、追うべき数値が出てくるタイミングや職場の環境などによってもサイクルは左右されますので、自社に最適な期間を決めましょう。

このように逆算によって数値化をしていくことによって、組織全体がビジョンに向かって一丸となり、各部門や個人が具体的な目標に取り組むことができます。個々の社員も日々の仕事で具体的な数値目標があることで、自分で進捗を追跡し、必要に応じて行動を調整することが出来るのです。これが自律的な組織運営につながります。ちなみにこれは昨今、OKRと呼ばれている手法と同じ流れですが、考えてみれば当然の数値化手法なのです。

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部門ごとの数値化例

数値化の全体像は前述したとおりですが、質問が多い部門ごとの数値化について見てみましょう。各部門ごとに設定される数値目標は、会社のビジョンやその部門の役割や目的に応じて異なりますが、以下に、主要な部門ごとの具体的な数値化例を示します。あくまで例ですので、自社の場合はどうなるかを考えながらご覧ください。

人事部門

  1. 従業員の満足度: 年次調査を通じた従業員の意見を基に満足度を定量的に評価し、数値目標を設定。
  2. 採用効果: 選考プロセスから入社後の成果をモニタリングし、新入社員のパフォーマンスを具体的な数値で測定。

経理部門

  1. 収益性: 売上高、利益率、投資収益率などの指標を通じて企業の収益性を数値化。
  2. コスト削減: 部門内の運営コストや効率を数値で評価し、削減目標を設定。
  3. キャッシュフロー: 予測されるキャッシュフローの改善を数値目標として定め、達成度をモニタリング。

営業部門

  1. 売上目標: 期間ごとの売上目標を数値化し、個々の営業担当者に配分。
  2. 新規顧客獲得数: 毎月の新規顧客の獲得数を数値で評価し、目標を設定。

マーケティング部門

  1. ブランド知名度: 広告効果やキャンペーンの影響を数値で評価し、ブランド知名度の向上を数値目標に。
  2. リード獲得数: イベントやキャンペーンによって獲得できる潜在顧客の数を数値化し、目標を設定。

開発部門

  1. プロジェクト進捗: 開発プロジェクトの進捗状況を数値でモニタリングし、スケジュール遵守を目標に。
  2. 品質評価: プロダクトの品質を具体的な指標で評価し、改善目標を数値で示す。

製造部門

  1. 生産効率: 生産ラインの稼働率やサイクルタイムの改善を数値目標として設定。
  2. 不良品率: 製品の不良率を定量的に評価し、品質向上を目指す数値目標を設ける。

総務部門

  1. オフィス運営コスト: オフィス関連の費用を数値でモニタリングし、節約目標を設定。
  2. 労働安全率: 事故やケガの発生率を数値で追跡し、労働環境の安全性向上を目標に。

業務ごとの数値化例

部門ごとと同様に質問が多いのが、業務ごとの数値化です。営業などであれば数値化はラクですが、間接業務は数値化しにくいから困っている、という話をよく聞きます。以下に例を見てみましょう。

人材育成

  1. 研修受講率: 従業員が実施された研修に参加する割合を数値で評価。
  2. スキル向上度: 研修後のスキル向上の度合いを数値化してモニタリング。

事務業務

  1. 作業効率: 業務プロセスの効率を数値で測定し、改善目標を設定。
  2. 誤り率: 作業におけるエラーやミスの発生率を数値で追跡し、精度向上を目指す。

接客業

  1. 顧客満足度: サービス提供後の顧客の満足度を数値で評価し、向上を目指す。
  2. サービス提供時間: サービス提供にかかる時間を数値で測定し、迅速な対応を目指す。

数値化できないものはどうするか?

企業運営において、いくつかの要素は直接的に数値化が難しいものがあります。これには企業文化、社員モチベーションなどの複雑で主観的な要素が含まれます。しかし、これらの領域も進化した手法や独自の指標を用いて数値化することが可能です。

アンケート方式

企業文化や社員モチベーションは主観的であり、数値化が難しいとされていますが、たとえば定期的な従業員アンケートや調査を実施し、意見や感想を数値的に集計することで、企業文化やモチベーションに関する定量的なデータを得ることができます。従業員が仕事に対してどれだけやりがいを感じているかなどを定量的に評価できます。

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独自の指標の設定

会社のイノベーティブ度合いを測るためにはどうすればいいでしょうか?これは直接数値では測れないと思われるかもしれません。ただ、イノベーティブで有名なスリーエム社では、全売上に占める新製品売上高比率という独自の指標を作り、それによって、自社のイノベーティブ度合いを測定しています(アイリスオーヤマ社も同様の指標を使っています)

また、仕組み経営では、会社がいかに自律的に運営出来ているかを測定するために、”経営自立度”という独自の指標を作っています。

デジタル技術の活用

大和製麺所さんが運営するラーメン大学では、味の数値化に成功しています。 ラーメン大学は7日間でプロの味が作れるという触れ込みで有名なラーメン店開業スクールです。普通、ラーメン屋を開業するには、自らの足で食べ歩き、どこかで何年も修行し、おいしいラーメンの味を創り上げていくわけですが、ラーメン大学ではデジタルクッキングという概念によって、味を数値化。これによって短期間でおいしいラーメンを作れる仕組みを構築しています。

これらの具体例からも分かるように、数値化の難しいものも新しいアプローチや独自の指標を導入することで、数値的な評価が可能になります。

数値化の例:ソフトバンク孫正義氏

ソフトバンクに25歳で入社し、社長室に配属された三木雄信氏は、孫正義氏から学んだ数値化を重視した仕事術をいくつかの書籍で紹介してくれています。その内容の一部を見てみましょう。

  • 数値化仕事術は以下の4つのプロセスに分けられる:①現実の事象を数値で把握する、②分析して問題のありかと原因を探る、③解決策を考えて実行する、④結果を再び数値で把握・分析する。
  • 数値化は手段であり、目標達成のための手段であることを忘れないようにする。数値化が目標となってしまうことを「数値化メタボ」と呼ぶ。
  • 孫正義氏は数字を感覚で捉え、それを「フォース」と呼んでおり、数値化を極めた先に直感力やコミュニケーション能力など測れない最強の境地があるとされている。ビジネスパーソンは身近な物事から数値化を始めてみることが勧められている。
  • 数値化が問題解決につながらない理由として、「分け方が甘い、あるいは不適切」ということが挙げられる。例えば、営業部の売上を単純に全体だけでなく、「新規顧客獲得数」や「業種ごと」に分けることで、具体的な問題点が浮かび上がり、解決策が見つかることがあります。
  • 売上を「継続的な売上」と「一時的な売上」に分け、これらの割合を把握することは、企業の基盤の強化や業績の安定につながります。特に「継続的な売上」の比率を増やすことが重要であると強調されています。
  • 孫社長は会社の文化として「数字で考え、数字で語ること」を求めています。リーダーシップ層から現場まで、数字を意識して仕事を進めることが求められています。
  • データ分析手法(プロセス分析、散布図と単回帰分析、重回帰分析、パレート図分析、T勘定、差異分析、LTV分析)は、複雑な統計学の知識やエクセルの高度なスキルがなくても利用できるものです。これらの手法を活用することで、日常の業務においてもデータ駆動の意思決定が可能です。
  •  ソフトバンクでは、経営陣が見る数字と一般社員が見る数字が基本的に同じであり、全社員が共有しています。このアプローチにより、社員全員が数字を理解し、業務改善に活かすことが求められています。

このような経営哲学やアプローチが、ソフトバンクの急速な成長と業績向上に寄与しているとされています。



数値化のコツ

最後に、数値化の際のコツについて付け加えておきます。

理念から逆算する

先ほど、ビジョンから逆算して数値化すると言いましたが、指標の設定に当たっては、同時に会社の理念も意識することが大事です。理念を掲げている会社は多いですが、その多くがお飾りになってしまっています。そうならないために、理念を数値化するとどうなるのか?という視点での発想も大事です。

例えば、社員を大事にする、という理念があるのであれば、平均給与を数値化することで、給与の公平性や労働環境の向上を確認できます。また、福利厚生制度を数値化し、利用状況や効果を数値で把握することで、効果的な制度の構築や改善が可能です。

「数値化 –  改善 – 標準化 」を回す

仕組み経営では、数値化とセットで「標準化」「改善」をお伝えしています。この三つのサイクルを高速で回ることによって、会社の成長スピードが高まります。上記に述べてきた方法によって、「数値化」を行います。次に、その数値化を改善するための活動に取り組みます。改善出来たら、それを標準化して社内で再現可能にします。

たとえば、営業活動において、成約率という数値を設定したとします。これまでの営業プロセスでは成約率30%です。これを「改善」します。営業の資料等を変えて成約率40%が出せるようになったとします。そうしたら、そのやり方を他の人も再現可能にするために「標準化」するのです。これによって、会社全体のパフォーマンスが上がり、成長につながります。

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業務の標準化サムネイル

見える化=見えてしまう化せよ

数値化したら、その進捗や結果を見える化する必要があります。見える化とは言い換えば、”見えてしまう化”と言えます。ありがちな間違いは、設定した数値や負うべき数値が、コンピュータやソフトウェアの奥深くに入り込んでしまっていて、アクセスするのに面倒な状態になってしまうことです。こうなると多くの場合、その数値は放ったらかしになります。

そうならないように、数値化したら、その数値はイヤでも目に入ってくるような状態にするのが理想です。以下の記事でその辺のことを書いています。

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数値の向上を仕組み化する

仕組み経営では、数値化した指標を継続的に向上させていくために、仕組み化を進めています。なぜならば、数値の改善や向上が個人のスキルに依存していては再現性がなく、持続的な成長につながらないからです。

たとえば、先ほど、事務業務の数値化で挙げた「作業効率」という指標を挙げてみましょう。作業効率は個人の努力、たとえば、パソコンスキルの向上、段取りの良さなどで左右されます。そういったスキルをトレーニングするのも大事かもしれませんが、いずれにしろ、人に左右されます。ある人は効率よくできるかもしれませんが、別の人は出来ないということになります。私たちの目的は会社全体のパフォーマンス向上なわけですから、これでは長期的な解決策になりません。

自社の独占的な仕組みを作る

そこで、作業効率を上げるにはどういう仕組みを作ればいいか?と考えるのです。たとえば、作業の順序を変える、道具やツールを変える、人員配置を変えるなどです。これによって、恒常的に作業効率がアップするようにするのが仕組み化です。

人は大事ですが、人は会社の独占的資産ではありません。いくら優秀な人でもいずれ去ってしまう可能性があるのです。しかし、ひとたび創り上げた仕組みは、自社の独占的資産であり、ずっと社内に残り続け、効果を生み続けます。そのような考えで数値化とその改善に取り組むことで持続成長につながります。

仕組み化の詳しいことについては以下の仕組み化ガイドブックに載せていますので、合わせてご覧ください

>仕組み化ガイドブック:企業は人なりは嘘?

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