今回のテーマはジョブ理論です。
ジョブ理論とは、2017年にハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授によって発表されて以来、多くの企業のマーケティング・事業開発部門で注目を集める新しいイノベーションセオリーです。
本記事では、ジョブ理論とは何か、またジョブ理論のフレームワークについて、詳しく解説していきます。
どうぞ最後までご覧ください。
ジョブ理論とは
ジョブ理論とは、市場・顧客・ニーズ・競合などを従来と違う角度から見る新しいフレームワークのことです。
従来のイノベーションの限界
イノベーション、つまり新製品やサービスの開発において、市場のニーズを読み取ることが最も重要であることは誰もが知っています。
しかし、多くの企業は市場/顧客ニーズを正確に読み解くことに苦労しています。これは、ニーズを測る普遍的な指標が明確でなかったことが原因です。
ジョブ理論は、このような企業の問題を解決するような、市場ニーズを考察する普遍的な指標・フレームワークを明らかにし、イノベーションの結果をより予測可能にしました。
Job-to-be-done
ジョブ理論の提唱者であるハーバードビジネススクール教授クレイトン・クリステンセンはこう語ります。
「人々はジョブを完了させるためにモノやサービスを買う」
更に最新の本では、
「顧客は製品/サービスを買うのではない、顧客はそれらを人生における進歩のために利用している」。
つまりジョブ理論においては、顧客が達成したいジョブ(ゴール)を指標となり、ジョブを完了させるために有用な製品/サービスを雇う(Hire)ことでニーズを満たすと考えます。
郵便を例に取ってみると、情報を届けるというジョブを達成するには、手紙という媒体と配達員が雇われます。
このように、顧客の達成したいゴールをジョブと考え、ジョブ完了のプロセスを著しく効率化できる製品/サービスを提供することで企業のイノベーションを高度化させることができる、と考えるのがジョブ理論です。
ジョブ理論のフレームワーク
ジョブ理論には6タイプの顧客ニーズをカテゴライズ、定義し、どのような製品/サービスが必要で、それらがどのように使われるべきなのかを調査するための6つのフレームワークがあります。
フレームワーク1.コア機能的のジョブ
コア機能本位的なジョブとは、顧客の人生や生活、仕事において絶対不可欠な役割を担うジョブのことです。
例えば、木を真っ直ぐ切ること、子供に道徳を教えること、医者が患者のバイタルサインを監視することなどはコア機能的ジョブに当たります。
コア機能的ジョブは、顧客ニーズの根本にあたるため、企業が最も優先的に特定すべき領域となります。コア機能的ジョブの周りに付随するニーズが存在し、関連ジョブや社会的ジョブが生まれ、マーケットが拡大します。
つまり、コア機能的ジョブは各マーケットの始祖とも言えますね。
企業は新しいコア機能的ジョブ、つまり新たなマーケットを模索することもできますが、既存で製品/サービスを持っている企業にとっては、既存マーケットや既存顧客の中でコア機能的ジョブを定義し、既存製品/サービスを改良する方がはるかに効率的です。
正しく特定されたコア機能的ジョブは、3つの特徴を持っています。
⑴ジョブは安定し、不変的である。
例えば、音楽業界では人々は音楽を聴くために沢山の製品(レコード、CD、iPodなど)を利用してきましたが、ジョブの本質は常に「音楽を聴くこと」であり、このゴールは不変です。
⑵ジョブは地理的な境界線を持たない。
企業がジョブに対し提供するソリューションは地域によって大きく変わりますが、ジョブ自体は世界共通です。
例えば、外食業界を例に取ると、「美味しい料理を食べる」というジョブに対して、料理の種類は大きく違えど、世界のどこでもレストランが存在しています。
⑶ジョブはソリューション不可知論者である。
顧客はジョブを完了できるならば、ソリューションがハードウェアであろうがソフトウェアであろうが気にしません。
ジョブにとってはソリューションごとの境界線は無く、ジョブ完了にとって最適なソリューションであることが最も重要なのです。
フレームワーク2.理想の結果を予測する
コア機能的なジョブの正しく定義は重要ですが、顧客がジョブ達成の先に求める理想の結果を予測することも非常に大切です。
理想の結果を予測することは、顧客がどのようにソリューションの成功と価値を評価するのかを知ることに繋がります。
顧客がジョブ達成時に期待する結果を正しく把握できた企業は顧客にとってより高価値ソリューションを提供でき、競合の一歩先を進むことができるでしょう。
通常、一つのジョブに対して50〜150の結果が期待され、ジョブの早期達成、効果、予測可能性、無駄がない、ことが求められます。
例えば、「音楽を聴く」というジョブに対しては、
- 目当ての曲にアクセスする時間を短縮する
- 曲の順番を整理できる
- 音割れする可能性を少なくする
などの結果が期待されます。
フレームワーク3.関連ジョブ
コア機能的ジョブには、付随する関連ジョブがあり、これらを特定することでプラットフォームビジネスなど、多くのジョブを一度に解決できるソリューションに繋げることができます。
※参考記事:「プラットフォームビジネスとは?事例やユーザ獲得の必勝理論を徹底解説」
一つのコア機能的ジョブに対して、5〜20の関連ジョブを見つけることはそう珍しくありません。
例えば、マイクロソフトのOfficeは、「オフィスの事務作業」というジョブに対し、表の作成や議事録の作成、プレゼン資料の作成などの関連ジョブを一つのライセンスで完了できるソリューションを提供しています。
フレームワーク4.感情的・社会的ジョブ
感情的ジョブは、コア機能的ジョブを達成するプロセスや達成後に顧客のが感じたい感情に基づき、
一方、社会的ジョブは顧客が他者からどのように見られたいかに関連します。
例えば、子供に人生の教訓を伝えたい親は、子供から感謝されたい(感情的ジョブ)、世間から思いやりのある親であると思われたい(社会的ジョブ)、と考えているかもしれません。
感情的・社会的ジョブは、企業のバリュープロポジションやマーケティング戦略の策定に役立ちます。
フレームワーク5.消費チェーンジョブ
製品にはライフサイクルがあります。
購入・設定・使い方の学習・掃除・メンテナンス・アップグレード・修理・破棄
これらは全て消費チェーンジョブであり、一つでもジョブを簡略化することができれば、マーケットにおいては差別化の大きなポイントとなります。
例えば、ダイソンはゴミを集め、まとめる上でバグのない掃除機を開発し、大ヒットしました。また、シャツメーカーはノンアイロンシャツの開発によって、アイロンという消費チェーンジョブを省略しました。
これらの消費チェーンジョブに着目することで、製品/サービスの向上とより良いバリュープロポジションとマーケティング戦略に繋がります。
フレームワーク6. 金銭的に期待される結果
顧客は商品を買う際に、金銭的指標を使ってどの製品/サービスを購入するか選択をし、選択肢の中から、当然コストメリットの高い方を選びます。
例えば、医療機器購入の病院の責任者は、1人の患者の入院期間を縮める製品を探しているかもしれません。
このように、ジョブ達成の結果が顧客のファイナンスにとってメリットのあるになるよう、顧客がどの指標を重要視しているかを調査するのは非常に大切です。
ジョブ理論の事例
ジョブ理論の事例を2つ下記記事で紹介しています。
ジョブ理論の活用ステップ
ジョブ理論を実践するための具体的な活用ステップを下記記事でまとめています。
ジョブ理論のポイントまとめ
ジョブ理論は次の10つのポイントにまとめられます。
- 人々は製品/サービスをジョブ完了のために買う
- 顧客のジョブを理解することはマーケティングとイノベーションをより効果的・予測可能にする
- 人々の生活に不可欠なコア機能的ジョブはマーケットを生み出す
- ジョブ理論は時間・場所に関わらず不変である
- ジョブ理論はソリューション不可論者である
- 顧客のジョブ達成に対する理想の結果を予測することでイノベーションをより効果的にできる
- コアジョブには5〜20ほどの関連ジョブがある
- ジョブは機能重視だが、感情的・社会的要素を備えている
- 顧客はジョブの完了ステップをより簡略化できる製品/サービスを求める(消費チェーンジョブ)
- 顧客はジョブをより安く完了できる製品/サービスを求める
それでは今回は以上です。