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水五訓(水五則)に学ぶ経営術


清水直樹
水五訓(読み方:みずごくん)、または水五則(読み方:みずごそく)は、軍師黒田官兵衛が出典とされる人生訓です。本記事ではこの人生訓を経営に応用するとどうなるかを見ていきましょう。

水五訓(読み方:みずごくん)、または水五則(読み方:みずごそく)とは?

水五訓

戦国時代の軍師、黒田官兵衛が残したとされる言葉で、現在も多くの企業経営者の座右の銘となっているのが「水五訓」です。ちなみに私の名前は、清水であり、数年前から”水のように生きる”をテーマにしてきました。最初は水がどこにでも入りこむように、どこにでも適用できる人間になろう、と思っていたのですが、水五訓を知ってから、より意味合いを拡張させて捉えるようにしています。

水五訓の原文は以下の通りです。

  1. 自ら活動して他を動かしむるは水なり
  2. 障害にあい激しくその勢力を百倍し得るは水なり
  3. 常に己の進路を求めて止まざるは水なり
  4. 自ら潔うして他の汚れを洗い清濁併せ容るるは水なり
  5. 洋々として大洋を充たし発しては蒸気となり雲となり雨となり雪と変じ霰(あられ)と化し凝(ぎょう)しては玲瓏(れいろう)たる鏡となりたえるも其(その)性を失はざるは水なり

水五訓は大和ハウス創業者が愛した言葉

本記事でご紹介していくように、水五訓は、経営者にとって、非常に役立つ指針となります。大和ハウス創業者石橋信夫氏は、水五訓を好んで引用したと言われています。

同社のみらい価値共創センター「コトクリエ」には、瞑想ルーム「伯楽の間」があり、そこでは水五訓の映像が流れているそうです。ちなみに石橋氏は、水五訓を曹洞宗大本山永平寺の管長からこの言葉を授かっと言われています。

1. 自ら活動して他を動かしむるは水なり

「自ら活動して他を動かしむるは水なり」というのは、現代のビジネスやリーダーシップにおいて、「率先垂範することが大事だよ」と教えてくれる言葉になります。水がどう動くかを考えると分かりやすいでしょう。

水は常に動いています。どんどん自分から動いて、周りのものを引っ張っていく。リーダーシップも同じで、ただ座って指示を出しているだけでは、チームや組織はなかなか前に進みません。

リーダーシップの力は、言葉よりも行動で示されるべきです。経営者が率先して行動し、他のメンバーや従業員に模範を示すことで、彼らも自然と引っ張られます。リーダーが自らの信じる方向に進んでいく姿勢は、組織にとって大きな励みとなるのです。

模範を示すことでメンバーたちに共感を生むこともあります。経営者が自分が望むような努力や犠牲を払い、どんな困難にも屈しない姿勢を示すことで、メンバーたちはその姿に感化され、一丸となって目標に向かって努力するようになります。

自ら活動し、他を動かした掃除の鍵山氏

「自ら活動して他を動かしむるは水なり」について思い出すのは、イエローハット創業者である鍵山秀三郎氏です。

鍵山氏は、掃除道を率先垂範した人物としても知られています。

鍵山氏は、店舗の掃除を率先垂範を行い、イエローハットを繁盛する事業に育て上げました。最初は鍵山氏だけが掃除をしていて、社員は何の関心も示さなかったそうです。しかし、彼が掃除を続けると、徐々に活動に共感するようになります。

掃除という具体的な行動を通じて、鍵山氏は「社長がやっているから、私たちもがんばろう」という共感を生み出していると言えます。この積み重ねが、企業文化や雰囲気の形成に寄与し、イエローハットは成長していきました。

 

2. 障害に逢ひて激して勢力を倍加するは水なり

「障害に逢ひて激しくその勢力を百倍し得るは水なり」という言葉は、「逆境を逆転のチャンスに変える力が大事だよ」という重要なメッセージを伝えています。

水が障害にぶつかっても、その際に逆に力を増していく様子から、逆境を乗り越える力強さが必要であるということです。経営者にとっては、困難な状況は成長の機会であり、逆境をチャンスに変えることが求められています。

逆境を強みに変えた稲盛和夫

京セラの創業当初、稲盛和夫氏は松下電器からの値下げ要求に再三悩まされました。中小企業として、京セラは大手企業である松下電器の下請けとしての地位でスタートしました。この状況下で、毎年のように行われる価格交渉が、稲盛氏にとって大きな試練でした。

松下電器はブラウン管の製造に必要な絶縁材料として、京セラが開発したファインセラミックスを利用していました。初めて製造された製品は「U字ケルシマ」と呼ばれ、これが京セラ創業の端緒でした。当初は技術的な進歩や製品の需要に応じて発注量が増加していき、それに伴い価格交渉の機会も増えていきました。

稲盛氏が訴えるように、松下電器からは毎年のように「値段を安くしてほしい」という要求が寄せられ、その度に交渉が繰り広げられました。ブラウン管の生産が拡大する中で、注文数量の増加を理由に価格の引き下げを求められることが常態化し、その度に価格交渉が行われました。

松下電器からの値下げ要求に再三悩まされたものの、稲盛和夫氏はその厳しい状況を逆手にとりました。この厳しい要求こそが、京セラを鍛え上げ、他社にはない競争力を築く契機となりました。

稲盛氏の功績については以下に詳しく解説しています。

稲盛和夫は何をした人か?功績や経歴をまとめました。

 

3. 常に己の進路を求めて止まざるは水なり

「常に己の進路を求めて止まざるは水なり」という言葉は、「自分で考えた道を進む覚悟が大切である」という教えになります。

水が絶え間なく進んでいくように、私たちも常に自らの進むべき方向を求め、それに向かって前進し続けることが肝要だということです。ただ流れに任せるのではなく、自ら進路を見つけ、積極的に切り拓くことが求められます。

経営者は会社の進路=ビジョンを示せ

経営者にとって、この原則は会社のビジョンを明確にすることにつながります。また、ビジョン=会社の進路であり、ビジョンがなくしては、社員は何をしていいのか途方に暮れてしまいます。



また、何か問題が起きたり、困難に直面した場合、他者に責任を押し付けるのではなく、自分で考え、知恵と努力で新たな進路を見つける覚悟も必要です。

ビジョンの大切さはほとんどのリーダーが認識しているものの、忙しくてビジョンを考える時間がない、と言い訳します。

しかし、ジョン・コッター氏によれば、彼らは、「忙しいからビジョンが描けないのではなく、ビジョンが描けないから忙しい」ということなのです。

忙しくても大きな事業を実現できる人”は、毎日の仕事に追われながらも、大きなビジョンを持っています。だからブレずに毎日、ビジョンに向けた成果を出し続けられるのです。

ビジョンについては、以下に詳しく解説しています。

経営ビジョン策定プロセスを完全解説。

 

4. 自ら潔くして他の汚濁を洗ひ清濁合せ入るる量あるは水なり

「自ら潔くして他の汚濁を洗ひ清濁合せ入るる量あるは水なり」という言葉には、「清廉潔白でありつつも、他者の不純さや混じり合うものを受け入れ、調和を保つことが大切だよ」という教えが込められています。

水は清らかであることが基本であり、経営者や個人としても清廉潔白な態度が求められます。しかし、それだけではなく、「他の汚濁を洗い清め、清濁合わせ入るる量ある」ことが水の特性として挙げられています。

清濁併せ吞む経営者

「自ら潔くして他の汚濁を洗ひ清濁合せ入るる量あるは水なり」という言葉を具現化する事例として、ケーズデンキ創業者の加藤馨氏とその後を受け継いだ加藤修一氏の経営姿勢が挙げられます。

(以下、株式会社流通ビジネス研究所 所長 川添 聡志氏の記事を参考)

ケーズデンキが大きく発展した背景には、「清濁併せ呑む」経営者としての姿勢が影響を与えています。

加藤馨氏は、加藤電機商会時代に有能な社員が中途退職する際、最低限の礼儀として「直近の援助分の埋め合わせとしてこの期間だけはしっかり仕事をするように」と告げ、その後も退職した社員との付き合いを大切にしました。このような姿勢は、一度離れた人間とも誠実な関係を築くことができ、後に組合から脱会する際も無理なく付き合いを続けました。

さらに、加藤馨氏は電機商工組合との関係も大切にし、脱会後も組合への支援を惜しまなかったです。その姿勢は、正しい行動と周囲の人間関係を両立させ、「清濁併せ呑む」ことを象徴しています。このような経営姿勢は、組合や社員など多岐にわたる関係性を築き、加藤馨氏が経営者としての信頼を得られた要因の一つです。

また、加藤修一氏もその後も「清濁併せ呑む」姿勢を継承し、ケーズデンキの成長に寄与しています。彼は量販店を目指す中で、競合他社や組合との関係を大切にし、門戸を広く開いたままでいる姿勢が見受けられます。彼の取材や対話を通じて、他の経営者や関係者とも継続的なコミュニケーションをとり、相手の意見や状況を理解する姿勢が見て取れます。

この「清濁併せ呑む」姿勢は、ケーズデンキの社内外の人間関係を円滑にし、組織全体が健全な状態を保つことに寄与しています。ケーズデンキが社員や取引先を大切にし、社会的に高い評価を受ける背景には、このようなトップの姿勢が深く関与しています。

5.洋々として大洋を充たし発しては蒸気となり雲となり雨となり

続き:雪と変じ霰(あられ)と化し凝(ぎょう)しては玲瓏(れいろう)   たる鏡となり而かも其(その)性を失はざるは水なり。

「洋々として大洋を充たし、発しては蒸気となり雲となり雨となる、その性質は水なり」という言葉は、水の変幻自在な性質を通じて、「柔軟で変化に富んだアプローチが重要だよ」というメッセージを含んでいます。

水が様々な形態に変化しながらも、その本質を失わないという性質を讃えています。経営者においても、環境の変化に対して柔軟であり、変化をチャンスに変える能力が求められています。

大きなビジョンや目標を持ち、それを満たすような取り組みをしつつも、柔軟に行動することが重要です。

文化とブランドを守りながらも時代に対応する任天堂

この項目について私が頭に浮かぶのは、任天堂です。ご存知、任天堂はカードゲームから始まった会社ですが、今では家庭用ゲームメーカーとして成長し続けています。

任天堂は、ゲームメーカーとしての歴史が長く、自らマーケットを創造し、他社とは一線を画す独自性を持ち続けています。例えば、「Wii」や「Nintendo Switch」など、家庭用ゲーム機において画期的なアイデアを打ち出し、新しいゲーム体験を提供してきました。また、「あつまれ どうぶつの森」などのゲームは、特に新型コロナウイルスの影響で自粛や自己隔離が進む中で人気を博し、社会の変化に対応しています。

任天堂の強さは、自社の文化に根ざした「らしさ」を大切にし、社員全体がその精神を追求していることにあります。彼らは時代の流れに柔軟に対応しながらも、「娯楽に徹せよ。独創的であれ。」という言葉が、暗黙の社是として根付いているとされています。この言葉は、企業文化としての信念を示し、任天堂が商品やブランドに対して追求し続ける独創性と独自性の源泉となっています。

また、時代の変化に合わせて新しい「らしさ」を生み出すことも任天堂の特徴です。例えば、「Wii」では母親層を取り込むべく、家族全員で楽しめるコンセプトを打ち出し、「Nintendo Switch」では、手軽に持ち運びできることや様々なプレイスタイルを提案しました。これは、「らしさ×時代の空気」が、強いブランドを作り上げる重要な要素となっています。

つまり、任天堂は水のように柔軟で変化に富んだ企業姿勢を持ちながらも、その原点である「娯楽に徹せよ。独創的であれ。」という姿勢を失わず、時代の要請に巧みに応えています。これはまさに、「自ら潔くして他の汚濁を洗ひ清濁合せ入るる量あるは水なり」という言葉を体現していると言えるでしょう。



如水:水のように経営せよ

以上、「水五訓」は経営者にとっての重要な指針であり、リーダーシップ、柔軟性、協力、持続的な成長などのスキルを育む智慧を備えていることがお分かりいただけたかと思います。

冒頭に申し上げたとおり、私自身、水のように生きることを旨としており、改めてこれらの項目を実践していこうと思っております。

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