人を見る目を養うには?八観六験に習う人物観察の極意

人を見る目を養うには?八観六験に習う人物観察の極意



清水直樹
社長にとって、人を見る目を養うことは非常に大切です。採用、面談、営業など、様々なシーンで相手を見極める必要があるからです。そこで今日は、八観六験で人を見る方法をご紹介していきます。

経営者は人を見る目を養う必要がある

経営者として、あるいは過去に人事担当者として採用面接を行う立場にあった方なら、「この人なら大丈夫」と感じて採用した人材が、実は期待と異なる素質を持っていたという経験があるかもしれません。

採用のみならず、部下やパートナー選びというビジネスシーンはもちろん、プライベートな人間関係においても、「人を見る目」を養っておくことは経営者として不可欠な課題となります。

今回は「八観六験」をキーワードに、「人を見る目」を学んで身につける方法についてご紹介していきます。相手の本質的な人物像を見極め、採用面接でのミスマッチを未然に防ぐテクニックとして役立ててください。

 

他者を評価する前に、自分自身の姿勢をチェックする

一般に、人物を評価する際には、「優劣」「善悪」という2つの軸を用意します。これを縦横の軸に分け、縦軸を「優秀」「平凡」という能力、横軸を「善」「悪」という人間性の4つの要素で見ていきます。

この4つの要素で見ていった際、「優秀かつ善」と分類される人材であれば、絶対に採用すべき理想のタイプとなります。一方、「優秀だが悪」に分類される人材は、能力は高いけれども、将来的に問題を起こす可能性を含んでいるということで、扱いが難しいタイプだと言えます。このようにして、人を見る際の基準を作っていきます。

ただし、すでに皆さんが経験されている通り、人物の優劣や善悪の判断は簡単ではありません。一般的に、言葉が巧みで自信に満ちたタイプを優秀だと判断しがちですが、口数が少なく地味に感じる人材でも、粘り強く鈍感力があるといった優秀さを秘めているかもしれません。

また、学歴・経歴による先入観や、自分と異なるタイプの人物の評価を下げがちになるなど、自分自身の中に知らずしらずのうちに生まれたバイアスによって、優秀な人を見落とすケースも見られます。他人を評価する立場にあるなら、常に自分の内なるバイアスをチェックする必要があることを忘れないようにしましょう。

 

採用=選別ではない

採用という言葉には「人を選ぶ」というニュアンスが含まれることは否定できません。しかし、人を選ぶ目的は、誰かを「選別する」ことではありません。本人もまだ気付いていない可能性や能力を見抜き、その人にふさわしい仕事を任せることができれば、社会にとってもプラスとなるのです。

また、たとえ欠点があったとしても、それを補うアドバイスやマネジメントによって、よりよい将来に導くこともできます。さらに、経営者にとっては、人を選ぶ技術を身につけることによって、自分自身を評価する力も養うことができるようになるわけです。

 

人を見る目を養うために、八観六験を学ぶ

みなさんは、「八観六験(はちかんりくけん」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

これは秦の宰相であり、始皇帝の実父とされる呂不韋(りょふい)が莫大な財産をつぎ込んで作らせた、始皇帝以前の大陸の叡智をまとめた「呂氏春秋(りょししゅんじゅう)」に書かれている、人物を見極めるための方法で、安岡正篤(やすおかまさひろ)氏の著書『経世の書「呂氏春秋」を読む』などによって広く知られることになりました。

呂不韋は漫画キングダムでも強敵として登場します。

安岡正篤氏は易学者、哲学者、思想家であり、政財界のリーダーの啓発・教化に努め、その精神的支柱となる存在でした。特に佐藤栄作氏から中曽根康弘氏に至るまで、歴代首相の指南役を務め、さらには三菱グループ、東京電力、住友グループ、近鉄グループなど多くの財界人からも師と仰がれました。その教えは人物学を中心として、今もなお日本の進むべき方向を示していると評されています。

また、玉音放送の草案作成にも関わったことでも知られ、皇室からも厚い信頼を受けていました。東洋学に裏打ちされた豊富な知識と魅力的な人物像によって、日本のリーダーたちに多大な影響を与えたことから、「昭和最大の黒幕」と呼ばれることもあります。

安岡正篤氏には、先ほどの『経世の書「呂氏春秋」を読む』のほか、『経世瑣言』『新憂樂志』『百朝集』など多くの著書がありますが、その基本は孔子、孟子、老子、荘子ほか東洋先哲の教訓に潜む普遍の真理に基づいた、人の道と指導者のあり方に関するものが多く、その教えは「安岡人間学(人物学)」とも言われています。

 

人を見る八観法とは

それでは、「八観六験」の具体的な内容についてご紹介していきましょう。まず、八種類の人間観察法である「八観法」は以下のようなものになります。

通ずれば其の礼する所を観る

順調に物事が進んでいる時に、金や地位、知識や技術、仕事など、どういうものを尊重するかを観察します。

貴ければ其の進むる所を観る

地位が上がるにつれて、どんな人間を敬うのかを観察します。「類は友を呼ぶ」と言われるように、周りの人物を見ればその人の好みや人格が垣間見えてきます。

富めば其の養ふ所を観る

お金に余裕ができた時に、そのお金を何に使うかによって、人間の本性が現れます。お金の使い方を見ることで、その人の人生観や倫理観まで分かります。豊かになった時に、どんな人間を養うか、どんな物を買うのかを観察します。

聴けば其の行ふ所を観る

知行合一させることはなかなか難しいことです。他人の助言を聞いて、それを実行するかを観察します。

止(いた)れば其の好む所を観る

「止(いた)る」とは「仕事が板についてくる」という意味です。仕事が一人前になった時に、どんなことを好むのかを観察します。

習へば其の言ふ所を観る

話を聞けば、仕事や学問がどの程度身についているかがよく分かります。ある物事に習熟した時、その人がどんな発言をするのかを観察します。

窮すれば其の受けざる所を観る

貧乏して何でも欲しがるようではいけません。生活に困っていても、受けてはいけない援助や利益があります。困窮した境遇に陥った時に、受けるべきではない援助や利益を受けているかを観察します。

賤なれば其の為さざる所を観る

人間は窮すれば「恥も外聞もかまわない」という状態になりやすくなります。しかし、弱い立場に置かれたとしても、利益や出世のためにやってはいけないことがあります。やるべきではないことを控えられるかを観察し、真に志があるかどうかを見極めます。



 

人を見る六験法とは

八観法で観察した、その人の行動から見いだされた人物像をさらに掘り下げる方法として、六験というものがあります。

之を喜ばしてめて以て其の守を験(ため)す

人間は嬉しくなると羽目を外してしまいますが、そんな時でも自分自身の生活やそれを維持

する原理原則を持っているかを調べます。つまり、その人物にだらしない部分があるのかを調べるということです。

之を楽しましめて以て其の癖を試す

「楽しむ」というのは、好むとか喜ぶという本能的な感情に理性や教養が加わったものです。理性や教養の部分にその人の偏りや独自の思想、ものの見方が現れるので、そこを調べるというわけです。

之を怒らしめて以て其の節を試す

人間はどんなに怒っても、締めるところは締め、抑えるところは抑えなければいけません。

怒らせてみて、その締まり方を調べます。

之を懼れしめて以て其の特(独)を試す

人間は恐れると何かに頼りたくなって自立性・自主性を失い、一本立ちができなくなります。その人を恐れさせて、強い自立性・自主性を持っているのかを調べます。

之を哀しましめて以て其の人を験す

ここでいう「哀し」は、慈悲の意味で使われています。人間は悲しい時にその人のすべてが表れます。悲哀の感情にその人の人柄全体を見ることができるといっても過言ではありません。

之を苦しめて以て其の志を験す

人は苦しいことにぶつかると、志が挫折することがあります。その人の志が苦しみに対して堅固かどうかを調べます。苦しみに耐えて理想を追求していける人間なら間違いはありません。

 

このように、八観法は行動を観察することが中心であるのに対して、六験法は喜怒哀楽のほかに、恐怖や苦しみといった状況におかれた時に現れる、その人物の隠すことのできない本質部分を調べるという方法だと言えます。

 

さらに人を見る目を養うなら、六戚・四隠

「呂氏春秋(りょししゅんじゅう)」には、これまで述べた八観法・六験法以外にも、六戚(りくせき)・四隠という方法も書かれています。

六戚(りくせき)とは

自分に近い6つの血族、つまり父母、兄弟、妻子のことです。

六戚との和、あるいは不和といった関係性を通して、その人の人柄が透けて見えてくるわけです。

四隠とは

・どういう友達と付き合っているのか

・どういう古いなじみを持っているのか

・どういう所に住んでいるのか

・どういう門構えの家に住んでいるのか

ということで、これらを調べることでその人の人柄を捉えようとする方法です。

 

八観六験で人を見る目を養い、社長力を上げる

「呂氏春秋(りょししゅんじゅう)」には、「八観六験と六戚四隠を用いれば、人の情偽(まことと、いつわり)・貪美・美悪を全て知ることができる」と書かれています。

八観六験、六戚四隠という観点から相手の人柄を見極めることで、採用活動でのミスマッチを減らすことができるようになり、自社が求める優秀で適切な能力を持った人材を採用することが可能になります。また、社内の人材配置やビジネス・パートナー選びの際にも、相手の真意を見抜くことで円滑なコミュニケーションが可能となり、ひいては事業全体への貢献にもつながります。

さらに、人を見る目を養うことが、ご自身の経営者としてのあり方、リーダーシップの心構え、どのような人間にならなければならないかを見つめ直すことにもつながります。それによって事業の将来像がより明確となり、さらなる事業の発展へと結び付くことも期待できるわけです。

「仕組み経営」は、八観六験の知識を生かした採用活動、人材活用の仕組みづくりをご支援しています。詳しくは以下からガイドブックをダウンロードしてご覧ください。

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