経営者の使命感

経営者が使命感に目覚める瞬間とは?



会社は起業家(経営者)が使命感を持ち始めると急激に成長し出すことがあります。たとえば、松下幸之助氏は、創業してから10年ほど経った頃、ある宗教施設を見学し、そこで生き生きと働く信者たちを見て、松下電器の使命とは何かを考えるきっかけを得ます。そして、それは水道のように製品を生産し、人々を貧困から解放することであると気が付きました。その使命の全社発表をきっかけとして松下電器は大きく飛躍していきました。

今日は私の師匠であるマイケルE.ガーバー氏の創業物語をご紹介します。この物語を通じて、起業家(経営者)が使命感に目覚めるとはどういうことかが語られています。ぜひあなたも、自分の使命とは何かに目覚めるきっかけにしていただければと思います。

マイケルE.ガーバー氏・・・世界700万部のベストセラー「はじめの一歩を踏み出そう」の著者であり、世界No.1の中小企業アドバイザー(米INC誌による)に選ばれた。1978年に世界初の中小企業向けビジネスコーチング会社であるマイケル・トーマス・コーポレーションを設立。以後、世界中に展開させる。当サイト「仕組み経営」のもとになっている思想を提供してくれた人物。詳細はこちら>>

※以下、マイケルE.ガーバー氏自身が語った文章の書き起こしになります。

起業家的な夢を見つけた瞬間

1975年の半ば、私はカリフォルニア州のメンドシノ郡に向かっていました。小さな牧場を始めることを考えていたのです。そこに家を建て、木々や草地、小川に囲まれた場所で、執筆したり夢を追いかけたり、好きなことをして過ごすつもりでした。具体的なアイデアはなく、ただ夢を見ることが楽しかったのです。心はいつもどこかへ飛んでいきました。夢をひたすら追いかけていました。計画も方法も意図も実行もなく、ただ夢を見ていました。前もって決めたこと以外は何もなく、ただ目の前のことに興味を持ち、これからのことにワクワクしていました。

シリコンバレーの経営者、ボブとの出会い

途中、友人で広告代理店を経営しているアーニーを訪ねました。アーニーは私に、彼のクライアントを訪ねる手伝いをしてくれないかと誘ってくれました。彼の広告がなぜ成果につながらないのか、私に診てもらいたいと言うのです。私はビジネスについて何も知らないと話しましたが、アーニーはそれは大丈夫だと言ってくれました。彼は必要なことは私が知っていると言いました。そのクライアントはシリコンバレーにあるIT企業で、CEOはボブでした。

ボブの小さな役員室で、アーニーは私たちを紹介して、こんな風に言いました。

「私は用事があるから、1時間くらいで戻るよ。あなたたち二人、お互いを知り合ってみてね。」

そして、彼は言葉を残さずオフィスを出て行きました。私たちはお互いを見つめ、どちらが最初に話し始めるか考えていました。

ボブは私に、彼の仕事や製品について何か知っているか聞いてきました。私は

「ボブ、全く知りません」と答えました。

ボブは驚いた表情でこちらを見ました。

「それでは、私の製品についてはどうですか?」

「もっと知らないですね。」

その返答に、ボブは本当に不快そうな表情を見せました。

「じゃあ、私の仕事や製品について何も知らないということなら、どうやって私を助けられるの?」

とボブが聞きました。

「私も何もわかりません。でもアーニーが私にできると思っているんです。とにかく1時間はつぶさないといけないですね」

ボブのビジネスがうまく行っていない原因

私にできることは質問することだけだったので、質問をすることにしました。彼の仕事や製品について、うまくいっていることや問題があることを質問しました。この時、私は2つの基本的な仮説を持っていました。

第1に、私はビジネスについて何も知らないこと。

第2に、ボブはビジネスに詳しいこと。なぜなら彼は経営者であり、ハイテクビジネスをやっているからです。

しかし、1時間が経つ頃には、私の仮説は完全に覆されました。

最初に、私はビジネスについて知っていることを発見しました。私は百科事典のセールスの仕事を通じて、売ることが仕組みであることを知っていました。

第2に、驚いたことに、ボブは売ることが仕組みであることを知らなかったし、彼の仕事に仕組みが関わっていることも知りませんでした。

そして、これらの事実がボブが抱えている問題の原因だとわかりました。

起業家精神の目覚め

1時間が終わりに近づくにつれて、私の気持ちは満ちていきました。興奮が高まって、エネルギーが溢れ出すような感覚でした。まるで新しい世界に入ったような感覚でした。そして、その世界から聞こえてきた言葉がありました。



「あなたは見つけました、マイケル。あなたの本当の天職を見つけました! あなたの人生の残りの部分へようこそ」

アーニーが戻ってくるのを待ちきれませんでした。興奮してボブのオフィスの外で待っていました。

私はボブに自分の販売についてのコンサルティングサービスを売り込み、彼の販売システムを構築する手助けをすることになりました。しかし、サービスの価格について合意に至りませんでした。それがどれくらいの価値があるか分からなかったからです。私はアーニーと話し合ってくれとボブに伝えました。彼はアーニーのクライアントだったからです。

クライアントが望んでいるもの

ボブと話した後、私にはすぐに分かりました。アーニーは広告業をしていると思っていたけれど、実際には販売業だったのです。ただし、アーニー自身はそれに気づいていなかったようです。

ボブは広告を望んでいたのではなく、販売を望んでいたのです。そしてアーニーは彼が望んでいるものを与えていなかったのです。

ビジネスチャンスの発見

私の頭の中を思いが駆け巡っていました。

「アーニーはこの販売システムの構築サービスをクライアント全員に提供できる。アーニーの広告会社はその分野でユニークな会社になることができる。それがアーニーの狙いだったのか?」

「でも、待てよ。広告業界の誰もが私が発見したことを知っていたはずだろう。知らないわけがない。それに、ボブは本当に賢い人だ。彼が知らないわけがない」と思いました。

「誰かが私が発見したことを知っているはずだ」と。

そのときちょうどアーニーが車でやってきました。私は発見したビジネスチャンスを彼に語り始めました。

「なんだって?」と彼は言いました。

「サービスを売ったの?どんなサービス?」

「わからないよ、アーニー。でも、私が百科事典を売っていたときに使っていたような販売システムを作ると言ったんだ」

「頭がおかしいのか、マイケル?ボブのビジネスや彼の製品や顧客や、それらをどうやって売るか、何も知らないくせに」

「アーニー」と私は答えました。

「君は私が知るべきことを全部知っていると言った。実際、私は知っているんだ」

論理と夢の戦い

帰りのドライブは忘れられないものでした。アーニーは私が彼と自分をこんなややこしい状況に置いてしまったことに驚愕していました。ボブに約束したことについて何を言えばいいのか、という立場に立たされたのです。

アーニーは私がやったことを問題だと見ていました。一方の私は、これまでにやってきた中で最も非凡なチャンスだと見ていました。

アーニーはこのことを修正すべきものと見ていました。一方、私は自分が持っている全てをかけて追求すべきものと見ていました。

アーニーはこの状況を困難だと見ていました。一方、私はこの状況を可能性に満ちたものと見ていました。

アーニーは真剣に混乱していました。私は真剣に集中していました。

アーニーは論理的な思考を持つ人間で、物事を左脳の視点から捉えていました。一方で私は右脳、つまり夢想家の側から見ていました。アーニーの論理的な思考は手に負えない非合理的な状況に反発していました。しかし私の中の夢想家は、新しく刺激的で計り知れないほど広大な可能性に魅了されていました。

アーニーは私が売ろうとしているサービスの証拠を求めていました。一方、私は、すでにその成功の結果を見通していました。

論理的な自分との闘い

夢想家は論理を無視し、非論理的な世界に生きているのです。確かに夢想家も、論理が必要な時期がありますが、今は違います。「左脳の論理を抑えておけ」と言うのです。

アーニーの広告方法は、サイトにメッセージを掲げて、誰かがたまたま見つけて反応してくれることを期待するものでした。多くの広告主がウェブ上で同じことをしています。しかし、誰もが知らないのは、見込み客と直に会う感情的な訓練が不可欠だということです。たとえ遠く離れた場所であっても、顧客との対面は重要です。



アーニーと車でドライブしているとき、人生を変える現実に気づかされました。しかし同時に、アーニーの疑念もよく理解できました。なぜなら、彼はこの世界をよく知っている人だからです。私はただのアイデアしか持っていませんでした。それも無知なアイデアだったかもしれません。

私はこれまで、夢中になってはじめてはやめてしまう、そんな繰り返しばかりでした。アーニーは私を守ろうとしていたのかもしれません。ボブはすでに成功しているエンジニアでした。私はボブに約束したことを今までにやったことがありませんでした。

心に従う決意

アーニーの言うことは確かに合理的でした。しかし、私の内側には何かが蠢いていました。その熱意と直感が私を引き続き前に進ませるのかもしれないという確信がありました。私はアーニーに感謝しつつも、自分の心に従うことを決意しました。

その後、私はボブに新しい提案を持ちかけました。アーニーの懸念を考慮しつつも、私の直感に従ってシステムを構築することを決めたのです。驚くべきことに、ボブは私のアイデアに賛同し、協力してくれることになりました。そして私たちは新しいプロジェクトに取り組み始めました。

数か月後、私たちの販売システムは大きな成功を収めました。顧客からのフィードバックも素晴らしく、私たちのビジネスは急成長していきました。この成功により、私は自分の直感を信じる重要性を再確認しました。時には合理的な考え方も重要ですが、夢と直感も大切にしなければならないことを学びました。

アーニーとの出会いは私の人生を変えました。彼の警告がなければ、私は自分のアイデアを追求する勇気を持たなかっただろうし、ビジネスも成功していなかったでしょう。そのため、アーニーには感謝の念しかありません。彼は私にとって、理性と情熱のバランスを取る重要な存在だったのです。

知性の情熱と魂の情熱

この経験から学んだことは、時には自分の直感や情熱を信じて進むことが重要だということです。ただし、その際には冷静な判断も必要です。私のように夢中になりすぎて現実を見失うこともあれば、アーニーのようにリスクを最小限に抑える考え方も大切です。どちらもバランスが必要なのです。

今でも、アーニーとのあのドライブでの議論を思い出すと、恥ずかしさで一杯になります。自分がボブやアーニーのビジネスの鍵を握っていると思い込んでいたのではないかと。

その後、ガーバー氏のビジネスは、販売システムではなく、中小企業の会社全体を仕組み化するコーチングビジネスを展開し、世界7万社にサービスを提供するようになりました。

30年後の第二創業

その後、ガーバー氏69歳の時、創業した会社を辞め、経営者の起業家精神(使命感)を目覚めさせるためのプログラム「ドリーミングルーム」を開発。そのための新しい会社を設立し、新たな人生をスタートさせます。以下は、その当時の話です。ちなみに私自身もガーバー氏が開催したドリーミングルームに参加し、そこで初めての面会をすることになり、今に至ります。(現在はドリーミングルームは開催されていません)

30年後の2005年の夏、私は創造の時が来たと感じました。ボブに出会ったときと同じように、新たに見つけた自由な時間を使って何か始めるつもりでした。驚くべきことに、私は今69歳であり、30年前と同じくらいの年齢、興奮、ワクワク感で起業家精神が蘇ってきたのです。

今回異なるのは、自分の中の起業家が眠っていたことに完全に気づいていなかったことでした。なぜなら、30年間、起業について書き、考え、話し、自分自身の会社で起業家として過ごしてきたからです。さらには、世界中でこの分野についてのソートリーダー(影響力のある専門家)と見なされるようにさえなっていたからです。しかし、69歳になって初めてのように起業を体験しているような感覚に陥ったのです。

「どうしてこうなったのだろう?」と私は考えました。

答えがすぐにやってきました。

私は自分のクライアントたちと同じようにマネージャーであり、職人に過ぎなかったのです。そしてドリーミング・ルームが生まれたのです。

マネージャーであり、職人というのは、ガーバー氏が提唱する、経営者は、「起業家」「マネージャー」「職人」という3つの人格を使い分けることが大切という概念に基づくもの。経営者が「マネージャー」「職人」の仕事にだけ没頭していると会社の停滞を招く。詳細はこちら>>

内なる声との闘い

2005年12月、最初のドリーミングルームのときも、同じ恥ずかしさを覚えました。1975年にアーニーの車で約束したことと、実際にできることの間に大きな溝があることに気づいたのと同様でした。

27人の参加者の前で、恥ずかしさの波が押し寄せました。

私自身の内なる声が聞こえました。

この熟練した経営者たちの前で、彼らの人生を変革させるようなことが出来るのだろうか?

  • この新しい道について本当に知っているのか?
  • 何様のつもりなのだ?

と内なる声は問いかけました。

起業家が目覚め始めると、こうした自問自答が常に起こるのです。だから立ち止まって集中し、その経験を繰り返すのです。葛藤を経験し、手放し、ただそれを経験するだけしか出来ません。

経営者が持つべき夢とは

以下、ガーバー氏が提供する経営者の使命感を表した「夢」についての話に移ります。

インパーソナルな夢とは、個人的な欲求や願望を超えた夢のことを指します。それは内なる世界と外界の出来事が一体化し、新しい全体性を見出そうとする夢です。現状を変革し、より良い現実を創造するための可能性が突然現れる瞬間の夢なのです。

このような夢は、単なる個人的な欲求満足を目指すものではありません。貧困からの解放、生活環境の改善、新しいビジネス機会の創出など、社会への貢献と深く結びついています。

起業家にとって大切なのは、自分が創り出すモノ自体ではなく、それが与える影響や変革です。他者の課題解決や人生の変容につながるような、利他的で社会貢献できる営みこそが重要なのです。アントレプレナーシップとは、モノを消費する人のためのものであり、モノを作る人のための営みについてではありません。

経営者が自問しなければならないこと

起業家として、最初に自問しなければならないのは、

「自分が作ろうとしているものが、それを買う人にとってどんな意味があり、なぜそれが重要なのか」

ということです。そして、その重要性はいつまで続くのでしょうか。偉大な企業ほど、長い間愛され続けるものです。



会社を設立する正当な理由はただ一つ、他の誰よりも上手く、人々の欲求に応えるためです。

顧客に聞いても答えはわからない

しかし、ここからが難しい部分です。現代の起業家は、顧客よりも先んじて顧客のニーズを予測しなければなりません。顧客は、起業家が提供するものを欲しがっていることに気づいていないことがよくあります。実際、顧客に「何が欲しいですか?」と聞いても、答えは得られません。

自動車やテレビ、冷蔵庫などが発明される前、誰もがそれらを必要としていたわけではありませんでした。それらの発明があって初めて、人々はその便利さに気づいたのです。起業家の役割は、そうした新しいアイデアを生み出すことにあります。

機能や価格を超えた意義こそが大事

しかし、現代では、単なる選択肢の追加や価格の引き下げ、スピードの向上だけではなく、これまで考えられていなかった”意義”を達成しなければなりません。

だからこそ、私はアーニーに、ビジネスを再構築し新しい方向性を提案しました。それは、広告だけでなく、リードから成約までの全プロセスを見据え、顧客のニーズに合った包括的なソリューションを提供することでした。最初はアーニーも疑問を持ちましたが、具体的なアイデアや戦略を提示すると、彼も徐々に納得し始めました。

その結果、私たちのビジネスは大きく成長しました。広告だけでなく、販売プロセス全体の改善に注力し、顧客の満足度が向上しました。アーニーも、ビジネスが単なる広告作成から顧客の成功への貢献に変わったことを認識し、私たちの新しい方向性に賛同してくれました。

起業家としての真価とは

この経験を通じて、私は起業家としての真価を理解しました。ビジネスの成功は、顧客のニーズに応え、彼らの成功に貢献することにかかっていると学びました。それは利益を追求するだけではなく、社会に貢献することでもあると気づいたのです。

起業家の役割は、商品やサービスの提供だけではなく、持続的な価値を顧客や社会に提供することにあります。利益は結果であり、目的ではありません。

私たちが創造するものが顧客や社会に与える影響を常に考え、最大化する方法を追求することが重要です。

そのためには、自分のビジョンや目標を明確にし、行動することが必要です。アーニーと共に歩んだ道は、ビジネスの成功以上のものでした。それは社会への貢献と顧客の成功を目指す新しい価値を創造する旅だったのです。

顧客のための夢を満たすこと

ドリーミングルームの参加者も同じような経験をしました。彼らに何がしたいかを尋ねると、個人的な夢が返ってきましたが、インパーソナルな夢(利他的な夢)は見られませんでした。しかし、そのうちに彼らの中にも、自分自身を超えた何かを望む声が現れてきました。彼らは現状に飽き飽きしていて、何か新しいものを探していました。彼らは人生を真に理解することを諦めかけていましたが、「私とは何者か」という問いかけを持ち始めていたのです。

そこで私は、立ち止まってインパーソナルな夢(利他的な夢)に集中することを提案しました。自分自身ではなく、顧客を見つめ直すことです。顧客が何を求めているかを理解し、そのニーズを他よりも上手く満たすことです。

起業家としての集中力は外に向けられなければならず、自分のビジネスを作ることが目的ではありません。インパーソナルな夢(利他的な夢)は顧客の中に生きており、自分の中にはありません。それに気づき、驚き、興奮することこそが、真の起業家の行動なのだと私は気づきました。

私たちの仕事は、手何かを必要としているが、それをに手に入れる方法を知らない顧客に焦点を当てることです。そして、それをできる限り長く続けることです。彼らはまだ誰も提供したことのないものを求めているのです。これが起業家の真の使命です。

 

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