人的ミスの対策

ヒューマンエラーとは?その種類と5つの対策



清水直樹
会社に仕組みを導入しても人的ミス、つまりヒューマンエラーはどうしても発生します。その影響を最小限にする方法を考えてみましょう。

ヒューマンエラーとは?

ヒューマンエラーとは、人間がミスを犯すことを言います。つまり、人間が間違った行動をしてしまったり、して はいけないことをしてしまったりすることです。

ミスを犯す原因は、人間が注意を払えなかったり、思考が鈍かったり、記憶力が低下したりすることにあります。また、作業環境が人間にとって過酷な場合も、ミスを引き起こしやすくなります。

ヒューマンエラーが起これば、製品が不具合を起こしたり、事故や障害が発生したりする恐れがあります。そのため、ミスを未然に防ぐ対策が大切になってきます。

このように、ヒューマンエラーは人間のミスのことを指し、製品の品質低下や事故のリスクにつながるので、そうしたミスを防ぐ対策が重要視されているのです。

ヒューマンエラーの種類

ヒューマンエラーには大別すると以下の二つに分けられます。「ついつい・うっかり型」はさらに3つに分類できます。

ついつい・うっかり型

ついつい・うっかり型のヒューマンエラーは、注意散漫や思慮不足によって発生するエラーです。

記憶エラー

  • 覚えにくい情報:意味のない情報の羅列、情報の過剰な量など
  • 反復や復習の不足による記憶内容の薄れや変化
  • 思い出す手掛かりの不足

認知エラー

  • 情報の質の悪さ:情報の漏れ、不足、誤った情報、あいまいな情報など
  • 伝達方法の悪さ:発信力や受信力の弱さ、伝達途中に邪魔や障害があることなど

判断エラー

  • 状況理解の困難さ:現状把握が難しい、先々の予測が困難など
  • 意思決定の困難さ:判断基準の不備、思い込み、過信、周囲の影響など

あえて型

あえて型のヒューマンエラーは、意図的な行動や決定の欠如によって発生するエラーです。決まり事の理解不足や決まり事の納得不足によって起こります。

ヒューマンエラーが多い人の特徴

以下に、ヒューマンエラーを多く起こしがちな人の特徴をまとめます。

  • 思い込みが強い人
    • 固定観念にとらわれて新しい情報を受け入れられず、誤った思い込みからミスをしやすい。見間違いや聞き間違いなどの錯覚も含まれます。
  • 確認を怠る人
    • 作業の途中や完了時に確認をしないため、確認不足からエラーに気づきにくくなります。不注意による安全確認の不足もここに含まれます。
  • 知識や経験が不足している人
    • 必要な知識や経験が乏しく、適切な判断や行動ができないためミスにつながります。新しい作業に不慣れな場合が典型的です。
  • 連絡不足な人
    • 情報共有を怠り、報連相(ほうれんそう)が疎かになることで、連絡不足からミスを招きます。
  • 慣れた作業に気を抜きがちな人
    • 同じ作業を繰り返すことで気が緩み、注意力が低下してミスをしやすくなります。危険軽視や効率化のための手順省略などもここに含まれます。
  • 疲労やストレスが蓄積している人
    • 慢性的な疲労やストレスは注意力を散漫にし、判断力の低下を引き起こしてヒューマンエラーのリスクを高めます。疲労や単調作業による意識低下が含まれます。
  • 集団の雰囲気に流される人
    • 集団欠陥として、現場全体が安全よりも期限や生産を優先する空気になり、ミスが起きやすくなります。
  • パニックに陥りやすい人
    • 緊急時に冷静さを欠き、適切な対処ができない場合もあります。火災や事故などでパニックに陥ることが典型例です。
  • 加齢による身体能力の低下に気づかない人
    • 中高年になると、加齢による身体能力の低下に気づかずに無理な作業を行い、ミスや事故を引き起こすことがあります。

ヒューマンエラーは人を変えることでは防止出来ない

ヒューマンエラーが発生するたびに、個人の注意力、教育や訓練、動機付け、確認・チェックの重要性が強調されることが多いですが、これらのアプローチは根本的な解決策にはなりません。以下に、ヒューマンエラーが人を変えることで防止できない理由を説明します。

1. 注意力には限界がある

人間の注意力には限界があります。たとえ一時的に注意を最大限に集中させることができても、その状態を長時間維持することは困難です。意識の集中状態は短時間しか続かず、すぐにリラックスしたり、逆に過度に緊張したりするフェーズに移行します。このため、「注意力を高めればエラーは防げる」という考え方には限界があるのです。例えば、意識の変動によるエラー発生率を示す研究では、最も集中している状態であればエラー発生率は極めて低いものの、この状態を保つことは難しいことが示されています。

2. 教育や訓練だけでは不十分

教育や訓練、動機付けによって作業者の能力や意識を高めることは重要ですが、これだけではエラーを完全に防ぐことはできません。いくら知識や技術が豊富であっても、人間の意識は常に変動します。特に、標準手順をよく理解していても、疲労やストレス、時間のプレッシャーなどによってミスが発生することは避けられません。教育や訓練を通じて得た知識があるからといって、その知識が常に適切に適用されるわけではないのです。

3. 確認・チェックの限界

「確認・チェックを徹底すればエラーは防げる」という考えも誤りです。人による確認やチェックは、注意力の限界により完璧ではありません。確認・チェックの多重化は、一見エラー対策として有効に思えますが、実際には他人が確認しているという安心感から逆に効果が低下することもあります。また、長時間にわたる注意の持続が難しいため、重要なエラーを見逃してしまう可能性も高いのです。

4. 人間の特性と作業方法の不適合

人間は柔軟で創造的な反面、時にはエラーを起こしやすい特性を持っています。この基本的な特性を変えることは不可能です。したがって、エラーを防ぐためには、人間の特性に適応した作業方法を構築する必要があります。

そこで、ヒューマンエラーの対策として、エラープループ化という発想が大切になります。

ヒューマンエラー対策はエラープルーフ化

ヒューマンエラー対策のエラープルーフ化

エラープルーフ化とは、ヒューマンエラーに起因する問題を防ぐ目的で、作業を構成する人以外の要素、たとえば部品、設備、文書、手順等の作業方法を改善することです。言い換えれば、仕組みに合わせて人を変えるのではなく、人に合わせて人を変える、ということになります。これによって、人に依存せず、ヒューマンエラーを防止することを目指します。主には5つの対策法があります。

発生防止

そもそもエラーが発生しないようにします。方法としては以下の3つがあります。

排除

エラーが発生する可能性を最初から排除することを指します。つまり、エラーが起こる原因そのものを取り除くことです。作業プロセスやシステムの設計を改善し、エラーが発生しにくい状況を作ることが含まれます。

代替化

エラーしやすい人手に頼る作業を自動化することで、人的ミスを減らすことができます。例えば、自動機械やソフトウェアを導入し、作業の一部または全部を自動化することができます。また、明確なガイドラインや手順を提供することで、作業の正確性と一貫性を確保します。

容易化

作業の標準化や単純化により、変化や違いを最小化します。作業手順やプロセスを統一し、作業者が一貫して作業を行えるようにすることで、混乱やミスを防ぎます。

波及防止

万が一、エラーが起きた時に、その影響を最小限にとどめるための対策です。

異常検出

作業プロセスにおける異常やエラーの検知システムを導入することで、早期に問題を発見し、対処することができます。

影響緩和

作業を冗長化したり、制限や保護を設けることで、エラーの影響を緩和・吸収します。

ヒューマンエラーの対策例

ではエラープルーフ化を活用して、ヒューマンエラーによる問題を無くす例を見てみましょう。

店舗ビジネスにおける次回予約確認の忘れ

たとえば、美容室や接骨院などの店舗ビジネスを考えてみましょう。こういったビジネスでは、お客様の退店時に次回予約をする仕組みを設けているお店があります。そうすることでリピート率を向上させるわけです。一方で、人によってはついついその作業を忘れてしまう人もいます。そこで、次回来院予約の忘れを防ぐためのエラープルーフ化を「排除」「代替化」「容易化」「異常検出」「影響緩和」の観点から考えます。



1. 排除

手動での次回来院予約を不要にします。たとえば 顧客が会計を終えると、次回来院日を自動提案するシステムを導入します。システムが自動的に最適な日程を提案し、顧客に確認するだけで予約が完了するようにします。

2. 代替化

次回来院予約のプロセスを見落とさないようにするための変更をします。たとえば、受付カウンターやスタッフの端末に、会計時に次回来院予約を必ず確認するための専用ボタンを追加します。このボタンを押さないと会計が完了できない仕組みにします。

3. 容易化

次回来院予約を簡単に行えるようにします。会計後に次回来院予約を必ず行うようにリマインダーを設定し、スタッフが予約を簡単に確認しやすいようにします。例えば、顧客の会計が完了した瞬間に画面に次回予約のポップアップが表示されるようにします。

4. 異常検出

次回来院予約が行われていないことに気づくシステムの導入をします。 会計を完了しようとする際に次回来院予約が未設定の場合、システムが警告を表示するようにします。例えば、「次回来院予約が設定されていません。今すぐ予約を行ってください。」というメッセージを表示します。

5. 影響緩和

次回来院予約の忘れによる影響を最小限にします。顧客が退店後、次回来院予約がされていない場合に、自動的に予約確認メールを送信し、オンラインで予約できるリンクを提供します。これにより、顧客が自宅でも予約を完了できるようにします。

これらはあくまで例なので、システム上や顧客体験上難しいこともあると思います。しかし、このような5つの視点で考えることによって、ヒューマンエラーを最小限に出来るはずです。

メルマガ配信時間の間違い

もう一つ例を考えてみましょう。メルマガ配信時に配信時間を間違えてしまうミスを防ぐためのエラープルーフ化を「排除」「代替化」「容易化」「異常検出」「影響緩和」の観点から考えます。

1. 排除

手動での配信時間設定を不要にします。配信時間をデフォルトで標準の時間に設定し、意図的に変更しない限りそのまま配信されるようにします。例えば、デフォルトで平日午前10時に設定するなどです。

2. 代替化

配信時間設定のミスを起こしにくくするための変更をします。排除と似ていますが、メルマガの内容を作成した後、設定されたスケジュールに従って自動的に配信されるシステムを導入します。これにより、手動での時間設定が不要になります。

3. 容易化

配信時間の設定を簡単に行えるようにする。配信時間を選択する際に、カレンダー形式で日付と時間を選ぶインターフェースを導入し、視覚的に確認しやすくします。また、時間帯を選ぶ際に候補を表示するなど、誤入力を減らす仕組みを導入します。

4. 異常検出

配信時間設定に問題があることを検出するシステムに変更します。配信設定を完了する前に、選択した配信時間を再確認するポップアップを表示し、「この時間でよろしいですか?」と確認します。異常な時間(深夜や早朝など)を選んだ場合は警告メッセージを表示します。

5. 影響緩和

配信時間ミスによる影響を最小限にします。誤った時間に配信された場合でも、すぐに正しい時間に再配信できるバックアップシステムを用意します。例えば、配信後すぐに間違いに気づいたら、即座に訂正メールを送る機能を備えます。

会社の仕組みを変え、ヒューマンエラーを無くしましょう

以上、ヒューマンエラーについて見てきました。私たち仕組み経営では、会社の仕組みを変えることでこういったエラーを無くすことを目指して、会社の仕組み化をご支援しています。ヒューマンエラーが起きた時に、それをその人のせいにしていては、人を責める文化が生まれ、会社の雰囲気悪化につながりますし、組織力の向上にもつながりません。そこで本記事でもご紹介したように、仕組みを変えることでエラーを無くすことで、生産性を高めると同時に、社内から人を責める文化を無くすことが出来ます。仕組み化にご興味がある方は、以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードのうえ、詳細をご覧くださいませ。

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