夢を描く by 京セラフィロソフィ
経営の神様と言われる稲盛和夫氏は、自身が創った京セラフィロソフィの中で、夢を描くことの大切さを語られています。
現実は厳しく、今日一日を生きることさえたいへんかもしれません。しかし、その中でも未来に向かって夢を描けるかどうかで人生は決まってきます。自分の人生や仕事に対して、自分はこうありたい、こうなりたいという大きな夢や高い目標をもつことが大切です。
京セラをまず西ノ京で一番、その次に京都で一番、それから日本一、世界一の企業にしたいという大きな夢を創業時から描き続け、努力を重ねてきたことによって今日があるのです。
高くすばらしい夢を描き、その夢を一生かかって追い続けるのです。それは生きがいとなり、人生もまた楽しいものになっていくはずです。
-京セラフィロソフィより
このように夢は経営者にとって困難を乗り越える原動力にもなり、社員を惹きつけるものにもなります。
経営者が描く夢には2種類ある
今日は、私の師匠でもあるマイケルE.ガーバー氏の言葉を引用して、経営者が夢を描く方法についてみていきましょう。
※マイケルE.ガーバー氏・・・世界700万部の経営の教科書「はじめの一歩を踏み出そう」の著者
ガーバー氏によれば、夢は、個人的な夢(personal dream)と利他的な夢(impersonal dream)の2つに分けることができます。
個人的な夢(personal dream)とは?
個人的な夢は、個人の欲望や願望に関連しています。これには、完璧な仕事や豪華な所有物、大きな家や高級車、体重の減少や健康的な体型、魅力的で流行の服装、有名になることや多くの人に賞賛されること、愛情深く忠実な関係などが含まれます。
これらの夢は、多くの人が抱える個人的な欲望や憧れを反映しています。しかし、これらの個人的な夢はしばしば行動に移されても、望んだ結果を生み出すことはありません。達成されたとしても、それらは満足感を提供せず、次の夢に取って代わられることがあります。個人的な夢は、何度も繰り返され、果てしない欲望の燃料となる傾向があります。
利他的な夢(impersonal dream)とは?
一方、利他的な夢は「impersonal dream」と呼ばれます。経営者が描くべき夢はこちらの”利他的な夢”になります。
これは個人的な欲望ではなく、創造性の行為や他人に対する影響に関連しています。経営者が持つ夢は、自分自身ではなく、顧客や社会のニーズに焦点を当てています。
経営者は顧客のための夢を描け
経営者は、顧客に対してそれまでに誰も提供したことのないより良い解決策や価値を提供することを目指します。利他的な夢は、普通のものを非凡なものに変えることで意味を持ちます。経営者は、自分の欲望ではなく、顧客の欲求に焦点を当て、その顧客のために意義のある夢を追求します。
利他的な夢は、個人的な夢と比較して持続的な満足感を提供します。経営者が他の人のために夢を追い求めることで、顧客のニーズを満たし、社会に貢献することができます。
利他的な夢を描く方法
先述した通り、経営者が描くべき夢は、利他的な夢です。では、その利他的な夢を描くにはどうすればいいでしょうか。
マイケルE.ガーバー氏の文章を引用してご紹介させていただきます。
大半の人が描く夢はアメリカンドリーム
以下、”私”はマイケルE.ガーバー氏のことです。
私は2005年、これまでに30年かけて創ってきた会社を退き、69歳にして新しいことを始めました。経営者に決定的に欠けていることを見つけ、それを解決するためです。そして、ドリーミングルーム(※起業家向け講座)というものを開発しました。
最初に行ったドリーミングルームで私は、最初にこう言いました。“ビジネスについて知っていることをすべて忘れてください。真実だと思っていることをすべて忘れてください。あなたの会社は古い道を進んでいると思ってください。これから新しい道を創り出すのです。あなたの夢、ビジョン、目的、ミッションを見つけるのです。それはこれまでに無い体験になるでしょう。
こうしてイベントが始まりました。正直に言えば、私が最初に始めたとき、何をすべきかわかっていませんでした。すでにドリーミングルームに参加するために、お金を払ってくれた人たちが目の前にいる、という事実以外は白紙の状態でした。
開始から1時間半経ったとき、私は言いました。
“さて、ノートを開いてください。私は30分後に戻ります。いまのあなた方の夢を書いてください“。
彼らはどうやれば良いんだ?と混乱していましたが、経営にハウツーなどないのです。
30分後、私は帰ってきて、夢が描けた人はいますか?と聞きました。誰も手を挙げませんでしたが、そのうち、ひとりの勇気ある人が手を挙げました。
私は彼を壇上に呼び、隣に座ってもらいました。私は彼のノートを見ました。
そこで私が気づいたのは、彼が書いたのは、彼の夢ではないということでした。そこには典型的で一般的な夢の描写があっただけです。
湖が見える森に、妻と3人の子供、そして赤い車。彼が書いたのは、みんながアメリカンドリームとして認識している典型的な描写でした。
いつも同じです。夢といってみんなが思い描くのは、こうした典型的なアメリカンドリームなのです。
利他的な夢とは、貢献することである
これはバケットリスト(死ぬまでにしたい事)と呼ばれるものですね。彼らのバケットリストは想像力に欠け、とても個人的です。私はこうした個人的な夢と起業家的な夢を区別するため、利他的な夢(インパーソナル・ドリーム)という言葉を創りました。
利他的な夢(インパーソナル・ドリーム)とは、他人についての夢です。個人的な夢(パーソナル・ドリーム)はその人自身だけの夢。利他的な夢(インパーソナル・ドリーム)は、貢献することに焦点を当てています。個人的な夢(パーソナル・ドリーム)は何かを得ることに焦点を当てています。
偉大な経営者は利他的な夢を追求する
私はこれまで、偉大な創造者や起業家たちを見てきて、両者には大きな違いがあり、偉大な人たちは利他的な夢(インパーソナル・ドリーム)を創造することに楽しみを見出していることを知りました。
もっとも大きな問題は、その他大勢の人たちは、それを創造する方法を誰にも教えてもらっていない、ということなのです。
実際のところ、世の中では正反対のことが起こっています。私たちの創造性やインスピレーションは、子供のころに芽を摘まれてしまうのです。クリエイティブな子供は問題を起しがちだと思われてしまいます。問題のある生徒だと思われてしまいます。型にはまらない社員は、問題がある社員だと思われてしまいます。
誰もが平均的であることを望んでしまうのです。“部屋を片付けなさい、黙りなさい、食べるときはしゃべっては駄目”、そういったことになってしまうのです。
だから私が目指しているのは、人々のうちに存在する起業家、発明家、創造者を呼び起こすことです。
これまで、それができなかったために、米国では経済的な悲劇が起こっています。この世界でもっとも起業家的といわれている国でさえ、人々は創造者ではなく、疲労する人になってしまっています。
偉大な起業家の4つの役割
偉大な起業家は4つの役割を担います。
まず、ドリーマーが夢を創ります。夢とは偉大な結果です。次にシンカーがビジョンを創ります。ビジョンは偉大な結果を成し遂げるためにしなければいけないことです。次にストーリーテラーが、目的を創ります。目的はなぜそれらを成し遂げなくてはならないのか?です。そしてリーダーがミッションを創ります。ミッションとはそれらを成し遂げるために必須のシステムです。
私自身、1977年にビジネスをスタートしたとき、いま言ったとおりのことをやりました。そして、いま、そのビジネスが世界中に広がっている状況を見れば、そのときに創ったシステムが正しかったことは証明されています。
多くのビジネスオーナーは、まだ自分が創ったビジネスのすばらしさに気がついていません。彼らがそれに気がつくのは、人々のうちに秘めた能力を開放し、普通の人でもすばらしい結果を残せるシステムを作り、自分のビジネスが世界中に広がっている姿を見たときです。
箱の中から飛び出して夢を描く
全ての人は打ち破らないといけない箱の中に入っています。それによって、考え方に限界が生まれています。私たちは自由になる代わりに、何かの奴隷になってしまっているのです。その何かとは私たちが自ら創り出した物です。
100億円企業のオーナーは、それを失うことを恐れているかも知れません。それを創るのに多大な労力を費やしたからです。そうなると成長することよりも、現状維持に陥りがちになります。つまり、彼は自分を囲んでいる箱から抜け出すのではなく、箱を強化しようとしています。
私たちは限られた時間しか生きることができません。だから、ここでどんな歴史を残したいのかと考えなくてはいけません。大きな会社を創ればオーナーの個人的な貪欲さを満たしてくれるかも知れませんが、それ以上の喜びを満たしてくれることはありません。
私たちは生きる意味を見つけなくてはいけません。これは100億円企業のオーナーでも、これから始める人にも同じことが言えます。
私はそのための方法として先ほどの4つの役割を創りました。すべての人が内なる起業家精神を発見できるように。それが正しいことは既に実証されています。
夢を描く際のルール
私たちはすべてのことに集中はできません。だからひとつに集中しなくてはいけません。“ひとつの夢“というのがルールです。あなたにとって最も大事な夢は何でしょうか?もし、それを実現できたら世界を変えられる可能性がある夢、それがあなたがフォーカスすべき夢です。
それを選ばなくてはいけません。そして、夢を実現するためのシステムを創ります。それがマネージャーの人格の役割です。次に職人の人格がシステムを動かします。
小さい夢しか描けない人へ
この世に飲料水が限られた量しかないとします。しかし、あなたは飲めない水を飲めるようにする方法を見つけた。あなたはその方法を秘密にしておきますか?それともみんなに教えてあげますか?
もちろん、みんなに教えるでしょう。教えてあげたときのみんなの喜びとあなたに対する感謝は、かつてあなたが経験したことのないものになるでしょう。
人々はあなたのところに列を成し、あなた一人では対処できなくなるでしょう。わかりますか?それと同じことです。すべてのビジネスに同じことが言えます。
会社を大きくはしたくない、自分が生活できれば良い、という人は、飲み水を作る方法を見つけて、それを自分で飲んでいるだけです。彼らの人生はそれ以上豊かなものにはならないでしょう。
人々が小さな希望しか持てないのは、それに慣れてしまっているからです。私たちは自分のことを信じることが出来ないのです。しかし、スティーブ・ジョブズは信じていました。彼がウォズニアックと5000ドルで会社を始めたとき、それが世界で最も価値のある会社になると予想した人はいなかったでしょう。いたら狂人扱いされたはずです。
あなたは自分のうちにあるものを信じなくてはいけません。いまの世界にはやるべきことがたくさんあります。一方、それをやる偉大な心を持った人が少ないのです。
“何が起きているんだろう?何が欠けているんだろう?この問題をこの世からなくすための方法を発明できないだろうか?それをどうビジネスに出来るだろうか?”と質問してください。
世の中には、ほかにもたくさんの信じられないことが起きています。それを解決できるかどうかは、あなたにかかっていると思ってください。あなたに責任があると思ってください。
時間がない、余裕がない、どうやればいいかわからない、というのはわかっています。しかし、私も同じでした。最初に始めたとき、どうやればいいのかわかりませんでした。発見と創造を繰り返してきたのです。それがすべての起業家が行ってきたことなのです。
まとめ:夢を描く方法
以上、いかがでしたでしょうか。
日本人にとっては、会社というのは社会の公器である、という概念が広く浸透していると思います。そうであるならば、会社の理念は社長の個人的な夢を実現するためのものではなく、世の中の多くの人が求めている夢を実現するためのものである必要があります。
個人的な夢(パーソナルドリーム)と利他的な夢(インパーソナル・ドリーム)を別の言葉で言いかえれば、
- 個人的な夢・・・野心
- 他の人のための夢・・・志
と表現できます。野心というのは、自分の個人的な欲求を満たすものであり、志というのは、たとえ自分が死しても(自分の代で実現できなかったとしても)実現させると思っているものです。
夢を描くことはプロセス
夢の描き方には、ステップバイステップのプロセスなどは存在しません。この記事でマイケルE.ガーバー氏が語っているとおり、経営者の人生の目的と世の中の解決すべき課題が合わさったところに夢の種が存在します。
夢は、ひとつの研修やセミナーに参加して描けるものではありません。日々の仕事に取組み、顧客の課題を解決してく中で、徐々に明確になっていくものなのです。ぜひ焦らず自分の夢は何なのか?という問いを考え続けていただければと思います。
なお、仕組み経営では、経営者の夢をもとに、会社のビジョンを作り、それを実現するための仕組みづくりまでを一貫してご支援しております。詳しくは以下の仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。