一般財団法人日本アントレプレナー学会の清水です。
さて、井原西鶴はご存知の通り、江戸時代の俳人・浮世草子作家です。
今回の話は、彼が伊勢参詣に行ったときの話です。
(何年か前に配信した話ですが、示唆深いので改めてご紹介します)
その時、彼が泊まった宿では、一度に2,000人から3,000人もの参詣客に食事を提供していたそうです。
当時、伊勢参宮の楽しみの一つが、伊勢国の山海の珍味だったそうですから、食事処は大忙しだったようですね。
井原西鶴は、
これだけの食事を一度に提供するとは、どんな台所になっているのか?
と気になり、宿の裏手に回りました。
現代のような調理器具がない時代です。彼は、数百人の料理人がいるのだと思ったのです。
しかし、台所にはなんと、20人くらいしかいませんでした。
わずか20人で2,000人から3,000人の食事を提供していたのです。
どうやってそんなことが実現できたのか?
実はその調理方法に秘密がありました。
・飯は、とても大きな釜にまとめて入れて煮立たせる。
・魚はまな板を使わず、出来高制で働く職人がぶつ切りに。
・魚を焼くのは時間がかかるので、大釜にまとめて入れて煮る。その後にコテで撫でて、焦げ目を付けるだけ。
などなど、通常とはまったく異なる仕組みで調理されていたのです。
これには西鶴も驚きました。
昔の料理といえば、丹精こめてひとつひとつ丁寧に作る、というイメージがありますが、実は当時から、大量生産のシステムが存在していたのです。
これは伊勢参りをする大勢の人々をもてなすために、工夫して創り上げた料理法だったそうです。
通常、提供する食事を増やそうと思ったら、料理人を増やすことを考えたり、料理人をもっと急かして、より多く作らせることを考えます。
しかし、それでは人件費がどんどんかさむばかりか、限界があります。
そこで、”20人で2,000人の食事を提供するにはどうすればよいか?”と視点を変えたことで、上記のような仕組みが完成したのです。
先ほどの3点、
・飯は、とても大きな釜にまとめて入れて煮立たせる。
・魚はまな板を使わず、出来高制で働く職人がぶつ切りに。
・魚を焼くのは時間がかかるので、大釜にまとめて入れて煮る。その後にコテで撫でて、焦げ目を付けるだけ。
これらを抽象化してみると、
・道具を変えることで、作業を圧倒的に効率化する。
・手順を変えることで、時間を圧倒的に短縮する。
・成果物(顧客から見て必要十分なモノ)を変えることで、作業をシンプルにする。
ということになります。
現代のチェーン店でも実行されていることですね。
仕組み化の効能はこういった”拡張可能性”をもたらすことにあります。
■仕組みづくりを進めようとするとき、二つの方法があります。
ひとつは、仕事をひとつひとつ良くしていく方法です。
これが改善と呼ばれるもので、先ほどの例でいえば、魚を切ったり、飯を炊いたりするのをより早く、上手く行う方法を追求することを指します。
もうひとつは、改革と呼ばれるもので、プロセスの変更や道具の変更によって、段違いの効果効率を実現させます。この例のように、一気に様相を変えてしまう方法です。
基本的には、改善と改革を両輪で進めていくことが大事であり、改善の連続の先に改革のアイデアが生まれ得ます。
そして、その際に重要なのは、
「20人で2,000人に食事を提供するにはどうすればよいか?」
というような問いかけを自分に対してすることです。
「〇〇するために、どんな仕組みが必要なのか?」
という問いがなければ、どんな仕組みが必要なのか?がわかりません。
そして、〇〇に当てはまるのは、”一見すると不可能なこと”です。
一見して不可能に見えることを実現できる仕組みがあるからこそ、成長し、圧倒的な存在になることが出来ます。
ぜひあなたの会社や業界において、
「〇〇するために、どんな仕組みが必要なのか?」
という問いの〇〇に何を入れたらいいのか?を考えてみてください。